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『地域包括ケアの課題と未来』編集雑感 (8): 鵜尾雅隆「財政難の中での寄付の役割」に関連して

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鵜尾雅隆氏は日本ファンドレイジング協会の代表理事であり、アメリカの寄付集めのための大学院を卒業された寄付の専門家である。日本にNPOのための寄付市場を整備すべく活動してこられた。日本のNPOは1998年のNPO法成立で大きく動き始めた。

アメリカでは、年間数千億円の予算規模を持つNPOが活躍している。NPOの雇用は、アメリカの総雇用の10%近くに達する。民間による年間寄付総額は30兆円と膨大である。1990年から行われたジョンズ・ホプキンス大学国際比較研究プロジェクトでは、NPOは以下の条件を満たすものと定義された。(1)正式の組織、(2)非政府組織、(3)利益を配分しないこと、(4)自己統治、(5)自発的。日本のNPO法では、不特定多数の利益という言葉で公益性が求められているが、アメリカの定義には公益性が含まれていない。アメリカでは、NPOであることの基本条件は、利益分配しないことである。結果として、経済活動の自由度が高くなり、経営規模が大きくなる。そもそも、それなりの給与が支払われなければ、専門知識を持つ優秀な職員を雇用できず、活動の質を向上させることができない。無償ボランティアでは、大きな責任を負わせることができず、本格的な活動を期待できない。

従来、日本の民間非営利活動は行政の強い影響下に置かれていた。自治会、町内会、PTAなどは、法人格を持たず、行政によって組織され、行政による公共サービスの下請けとして位置付けられた。公益法人、社会福祉法人、学校法人などは、税制上の優遇措置を受けてきたが、国・地方自治体による許認可・監督を受け、活動が厳しく制限されてきた。

1970年代後半より、日本でも、ナショナル・トラスト、町並み保存、国際協力などの分野で民間非営利組織が誕生し、社会のさまざまな問題に対応するための活動を開始し、自律的に公共サービスを提供し始めた。しかし、法人格がないこと、資金が少ないことから、欧米のみならず、アフリカや南アメリカのNPOにすら大きく後れを取っていた。阪神淡路大震災後、非営利組織の活動が注目され、NPO法の審議が本格化したが、立場によってNPOに対する基本的な考え方に違いがあった。以下、小島廣光氏の「NPO法成立過程における参加者の行動」の内容を中心に、NPO法成立過程での争点をたどる。

政党はどうだったか。議論が始まった当時、政権与党は自社さ3党だった。

自民党は、ボランティアや市民活動を行政の監視下に置き、高齢化社会にともなう福祉サービスを民間に廉価で担わせようとした。このため、新しい法人の性格付けに「ボランティア」や「公共性」を求めた。廉価性によって対象団体を定義しようとした。また設立の認可と取り消しに関しても、行政庁のコントロールを大きくしようとした。自民党は、市民活動やボランティア活動を、政府の活動を補完するものと考えていたので、規制と保護が前面に出てきた。当初、税制優遇措置を強く推したのは自民党だった。国や地方公共団体の市民活動法人への助成義務を、法案に盛り込んだのも、自民党だった。

社民党は「小さな政府と大きな地方自治体」という考えの下、市民活動団体が都道府県などと関係を強めていくことに積極的だった。地方分権において、地方自治体のサービスを補完するものとして市民活動をとらえていた。ただし、自民党と違い、行政を批判する方法で補完していくことも認めていた。

さきがけは、市民活動団体のサービスは公共的ではあるが、政府とは違うものとしてとらえており、どのような行政でも、市民活動法人には基本的に関与すべきではなく、行政庁の関与の範囲を可能な限り小さくすべきだと考えていた。自立の基盤として法人制度を創設することにこだわり、税制優遇措置を切り離して議論しようとしていた。新しい法人の方向づけから、「ボランティア」や「公共性」・「廉価性」を除こうとした。

大蔵省(当時)は、国税庁を通してすべての国税を独占的に集め、予算計画にもとづき独占的に配分する方式が崩れることを恐れていた。

市民団体の代表として議論に関わった松原明氏は、議論を以下のように要約した。「問われていたのは、公共サービスのあり方とその中での市民活動団体の位置だったのである。公共サービスは今までと同じように政府主体のもとで一元化され、政府が責任をもって管理していくべきなのか。それとも多元化させていくべきなのか。多元化するとすれば、どういう仕方でするのか。中央政府と地方政府という2元化でいくのか、それとも政府と民間非営利セクターという2元化でいくのか。そのような21世紀の日本の社会づくりの本質に関わる問題が争点だったのである。」(小島廣光「NPO法立法過程における参加者の行動」)

当時、政治が流動的であり、政治家の離合集散が目まぐるしかったことがたまたま幸いした。修正法案が、「議員立法の神髄を極めた」(自民党狩野安議員)と自賛される議論の末、1998年3月、参議院において、ほぼ全会一致で可決された。ほとんどの政党が賛成討論を行った。

「今までの税の流れ、大蔵なりが一括集中して税を集め、それを権力によってまた配分していく、そういう中央集権的な流れそのものを変えていく」「税の優遇が行われた場合は、大蔵に一括集中していた税の使い道を、市民がみずからの意思によって適当と判断するNPO、みずから良いと判断するNPOに寄附をすることによって税の使途を変えていく。そして、福祉であるとか海外協力であるとかさまざまなことを国家なり行政に頼るのではなくて、みずから担っていくという自律した多様な価値観に基づく分権型の社会に道を開くことにつながるのではないか。」

「私どもが目的としたのは、社会経済セクターとしての本来のNPO活動の保障であり、これにより雇用を創出し、公共サービスにおける民間人と公務員との競争をおこすことであります。」

1998年当時、立法府では、NPOは公務員と競争すべきものと理解されていた。しかし、民間公益活動に対する行政の嫌がらせは、今なお続いている。

「安房10万人計画」の一環として、子育てOURSという複合組織による子育て支援が準備されていた。2015年、中心となるべき大規模なこども園の建設が始まったが、大震災とオリンピックの影響で建築費が高騰していた。補助金は建築費の高騰を考慮していなかった。これを寄付で補おうと考えた。ふるさと納税を通して寄付を集めようとしたところ、補助金が鴨川市を通じて支払われるので、それに重ねて補助金(ふるさと納税を通すと補助金と見なされる)は出せないといわれた。そこで、中央共同募金会を通じて、建築費の不足を寄付として集めようとした。中央共同募金会は協力的だったが、突然、財務省から横やりが入った。資金を持っている社会福祉法人には、受配者指定寄付を認めないという。手持ちの資金を吐き出し、赤字になる見込みがないと、受配者指定寄付を受けられないことにしたという。手持ちの資金を持たせないということになると、日常の業務が立ち行かないし、新たな事業もできない。財務省は、社会福祉法人の内部留保を問題視してきたが、実際には通常の民間会社の方が桁違いに多くの内部留保を持っている。財務省はNPO法成立当時の立法府の意図に反し、寄付集めを妨害した。これでは公共サービスは向上しない。

(Socinnov掲載記事)

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