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因果ネットワークの検出と活用

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概要

因果ネットワークは、その因果関係に従った動作をする既存物を制御するための知識になる。また、因果ネットワークは新たに価値ある物を創造するという発明創造の基盤にもなる。さらには、発明を特許出願した場合には発明を記述した請求項の特許性の審査をする審査官の技術常識にもなる。したがって、因果ネットワークの検出と記述は大変に重要である。

因果ネットワーク(Causal Networks)は、諸事象間の因果関係を有向グラフとして表すことによってその全体像を可視化する手法である。[1][2][3][4][5]

因果ネットワークは、システムの最適化制御のためにも、経済成長を実現するための財政政策を決めることにも使える。

1. 因果ネットワークの検出

(1)因果をもたらすエネルギー(情報、物質、力)の流れの経路をたどる

因果関係の検出における最も確実な方法は、原因事象Xの発生した空間領域Axから結果事象Yの発生した空間領域Ayに向かって流れたエネルギー(情報、物質、力)の経路をたどることである。
エネルギー(情報、物質、力)の流れはその経路上で、作用を及ぼし状態変化をもたらし、さらにその状態変化が次の作用をもたらすという現象を発生させながら、流れを分岐したり合流させながら進んでいく。微小なエネルギーが担う情報という形をとる場合もあるし、物質の運動という形で大きなエネルギーが伝わることもあるし、空間に発生する場として伝わることもある。
(物質の流れの経路をたどる具体例)
具体例としては、mRNAワクチン接種と死亡との因果関係の立証のための因果ネットワークの検出がある。
mRNAワクチンの接種によって体内で生産されるスパイクタンパク質が、死亡原因の心筋炎の病変領域に多数存在している事を免疫染色で立証する事と、その患者のヘルパーT細胞がキラーT細胞よりも多い事の両方を病理解剖で立証することで、mRNAワクチン接種による自己免疫疾患による心筋炎での死亡であることを立証できる可能性が高いとのことである。
【短縮版】鹿先生「病理解剖で内臓に免疫染色を掛ければ、スパイクタンパクの陽性反応で、死因がmRNAワクチンであることが判明するところまでもう来ている。」@kinoshitayakuhi

エネルギーの経路をたどらずに、空間領域Axでの事象を記述した時系列データX(t)と、空間領域Ayでの事象を記述した時系列データY(t)の間の波形の関係だけから因果関係を検出しようとすると、どうしても誤検出が発生する。2つの事象の共通の原因事象があるが、2つの事象の間には因果関係が無い場合も因果関係ありと検出するという場合が、その誤検出の1つである。

(2) 原因候補の変数の操作による作用を発生させて結果候補の変数の挙動を分析する

原因変数Xと結果変数Yの間の因果関係の存在を十分に主張(疎明)できるためには、次の全条件(1~3)が満足されることが必要と考える。疎明された因果関係を否定するためには、否定側が因果関係の不存在または別の因果関係の存在の疎明することが必要だと考える。
1. たくさんのサンプル(Xi,Yi) i=1,—,Nにおいて、XとYの間に高い相関係数が存在している。
2. Xの変化ΔXを所定のタイミングに発生させるという操作をして、Yの変化ΔYが、Xの変化ΔXの発生時刻から所定の時間遅れTの後に発生するというXの値の区間[Xmin,Xmax]が存在している。
3. 前記2項におけるΔXとΔYにおいて、(ΔY/ΔX)の値がほぼ一定値KになるというXの値の区間[Xmin,Xmax]が存在している。
特に、ΔXの発生を自由意志で実現するか、または他の影響を受けずにランダムに実現する操作主体によって実現した場合、ΔYとΔXの共通原因は存在しなくなるので、ΔXの発生時刻から所定の時間遅れTの後にΔYが発生するとともに、(ΔY/ΔX) = Kが成立するならば、XとYの間に線形な因果関係が存在している事は確実である。

(追記)
極端な例を言えば、Xiを時系列として実現する場合、その時系列の中に識別性の高いパターンとして、何らかの音楽メロディーを入れておく。すなわち、メロディーの時系列をViとする。

Xi=Viというようにしていたら、Yiの中にメロディーViが検出されたならば、Xが原因変数でYが結果変数であることは完全に証明されたと言える。

識別性の高いパターンPを原因変数Xに重畳させておき、結果変数YからそのパターンPが検出されたならば、Xが原因でYが結果であるという因果関係が検出されるのである。

これと同じ考え方で、色素で識別力を付けた水を使って雨漏りの発生までの経路と発生原因箇所の特定をする事例がある。

下記動画の出典: https://www.youtube.com/watch?v=gjj_LksMhtk

学問的に言うなら、変数Xから変数Yに対して、情報が流れているならば、Xが原因でYが結果であるということである。移動エントロピーによって因果関係の存在と因果の方向の判別をするという事にもつながる。その応用が、次の特許発明の請求項8と請求項11である。[4]
http://www.patentisland.com/JPB_0006398894.pdf

(3)ランダム化比較試験(RCT)による因果関係検出

RCTにおいては、薬品や治療方法の作用機序の仮説も知識もない状態で、ある1つの作用項目に注目して、その作用項目を増やした場合と増やさない場合の有効性の度合いを測定する。ただし、その作用項目以外の作用項目や患者の状態はできるだけ、まんべんなくばらつくようにする。
それに対して、薬の作用機序(どのような因果関係で薬が薬効を発揮するかの仕組み)を医師が知っていれば、薬効を発揮する場合には患者のどのような生体指標がどのような順番でどのような変化をするか、薬効を発揮していない場合には、生体指標がどのように推移するのかを医師は基準として知っている。医師は自分が担当した患者の年齢や性別や基礎疾患の有無などに応じて、その基準を適切に修正して患者の生体指標の推移を診断する基準にするはずである。
そのような方法が採用できる医師の場合には、自分が担当している患者に薬が効いているかどうかを判断するのに、その患者と同じような年齢、性別や基礎疾患があるような他の患者の存在は必要ない。
RCTでは、薬の作用機序(どのような因果関係で薬が薬効を発揮するかの仕組み)を知らない状態で、その薬が効いたかどうかを判断するためには、薬を飲んだ方と飲まなかった方、それも、年齢、性別や基礎疾患などができるだけ同じような二つのグループで比べなければいけませんと、なる。
この状況は、全微分と偏微分の関係式にその本質が示されている。
下図が全微分dzの式で、偏微分係数である∂z⁄∂xと∂z⁄∂yなどを用いて記述されている。∂z⁄∂xは、生体指標zが処方xの変化によってどのように変化するかという因果関係知識である。∂z⁄∂yは、生体指標zが処方yの変化によってどのように変化するかという因果関係知識である。ここで、生体指標zはxとyと患者の特性aの関数fであり、z=f(x,y,a)とも記述できる。すなわち、医師は、処方xやyをどのように変化させれば生体指標zはどのように変化するかということを示す関数であるf(x,y,a)を知っている。その結果、処方xの変化量をdxとして、処方yの変化量をdyとしたところ、患者の生体指標zがdz変化したというのを観察出来たら、思ったように薬が効いたと判るわけである。
それに対して、処方xやyをどのように変化させれば生体指標zはどのように変化するかということを示す関数であるf(x,y,a)を知らないままに、処方xの有効性を解明しようとすると、(y,a)の組み合わせが様々な状態において、∂z⁄∂xの値を実験で求めることが必要となる。そのためには、(y,a)の組み合わせが様々な状態で、xを増やす群と減らす群または、xを増やす群と変化させない群というように、xについて変化させたときのzの値の変化を求める必要があるわけである。これは、「薬の効果を確かめる場合、薬を飲んだ方と飲まなかった方、それも、年齢、性別や基礎疾患などができるだけ同じような二つのグループで比べなければいけません。」に該当する。
すなわち、医師は薬効発揮のメカニズムの知識または仮説をもとに処方して、その知識または仮説に基づいて判断しているのに対して、薬効発揮のメカニズムを知らないままで薬効を判断する方法を当てはめて医師の判断を批判することは、批判する側が間違っている場合もあるという事である。当然、医師の知識または仮説が間違っている場合もあるが、ランダム化比較試験だけが常に正しいとは言えないと考える。
さらに言えば、ランダム化比較試験による薬効判別も、医師が自分の患者を臨床現場で処方しながら薬効発揮の処方を確立していく過程も、上記の例で言えばf(x,y,a)の知識の形成の方法である。
そうであれば、ランダム化比較試験だけが唯一の正しい方法とするのではなく、ランダム化比較試験で得た知見も、医師が臨床現場で得た知見も簡便に統合して、精度の高いf(x,y,a)の知識を早期に構築して医療現場に使えるシステムを人工知能などのIoT技術を用いて実現すべきだと考える。
写真の説明はありません。

2. 因果ネットワークの活用

(1) 因果ネットワークの発明創造への活用

価値は、価値を与える対象の状態又は価値を与える対象に属するものの状態が、何らかの観点で良い状態であることである。
したがって、価値は「Aの状態がEである」という基本的な表現形式で記述される。省略形としては、「AがEである」とか 「E」というものがある。顧客に価値をもたらす場合は、顧客価値という。
そして、顧客価値の具体例としては、「顧客の保有する自動車の燃費が良い状態」とか「顧客が保有する自動車の燃費に満足している状態」が ある。また、「顧客の健康状態が良い」、「顧客が見たいテレビ番組を即座に見れている状態」というものもある。

機能は、何らかの作用を行なう能力である。そして、機能の表現形式としては「作用対象に対する動作」又は「作用対象に対して実現する状態変化」 又は「対象への作用をもたらすエネルギー,物質,情報,力の出力と、そのような出力の形成に用いる入力ならびに入力を出力に変換する動作」 となる。
具体的には、「Aに対してFする」又は「Aの状態をEにする」又は「入力Xに対する変換Tを行ない出力Yを形成し、出力Yを対象Aに与える」という 表現形式となる。ここで、出力Yを対象Aに与えることで、対象Aに対して作用Fをもたらし、対象Aの状態をEにするという関係がある。 機能は通常は「動詞」を用いて表現される。具体的には「部屋を加熱する」という記述では、対象Aは「部屋」であり、作用Fは「加熱」という関係に なる。加熱手段には、燃焼によって発生する熱を用いる方法もあれば、摩擦熱を用いる方法もあるし、太陽光を用いる方法もある。 しかし、機能は、その実現手段を問わないので、機能実現手段の内部構造を記述しない。
ここで、機能を「対象への作用をもたらすエネルギー,物質,情報,力の出力と、そのような出力の形成に用いる入力ならびに入力を出力に変換する動作」 という形式で表現する事が大変に重要である。なぜならば、この表現形式は「作用の原因」と「作用の原因の発生源」と「作用の対象」を記述している からである。そして、この表現形式によって複雑な機能構造を一貫して記述でき、結局は複雑な機能構造は作用の原因となる「エネルギー,物質,情報, 力」の流れのパターン(因果ネットワーク)を形成する仕組みにすぎず、本質は「エネルギー,物質,情報,力の流れのパターン」(因果ネットワーク)であることを示すことができるからである。

技術は、機能の実現手段となる。実現手段であるから、既存の機能やデバイスや方法を組合わせで表現する。できるだけ既存機能の組合せで表現する事で 汎用性のある技術表現となる。このように技術を表現する方法の中でも、作用をもたらすエネルギー,物質,情報,力の流れに着目する事で、 技術がいかにして機能を実現し、その機能がいかにして顧客価値となる状態をもたらすかが明確にわかってくる。

請求項は新たな機能構造であり、その新たな機能構造によって価値が発生することの因果ネットワークを認識できるように記述されねばならない。 したがって、請求項の記述は既存機能の組合せで表現されねばならないし、その組合せの記述は価値ある状態を形成する作用をもたらす「エネルギー,物質,情報,力の流れのパターン」 が明確に認識できるようになっていなければならない。 もしも請求項の記述に用いる要素機能の中に、既存機能ではないものが入っていると、請求項の記述は未知の内容を含むことになり、内容が確定できず、 請求項で表現される新たな機能構造によって価値が発生することの因果ネットワークを認識できないからである。このような記述がなされていない特許出願を「発明が特定できていない」として、審査官は拒絶する。

(2) 因果ネットワークの財政政策への活用

経済に関する因果ネットワークを用いることは、経済を制御するための財政政策を立案したり決定するためには大変に重要である。

例えば、GDP成長という目標を実現するための財政政策の立案の場面を考える。

GDPの定義式は次のようになる。

GDP=消費+投資+政府支出+(輸出-輸入)

この定義式はGDP成長についての因果関係も示しており、政府支出という変数とGDPという変数の間には、政府支出からGDPに向かうプラス符号の矢印が存在するという因果ネットワークを形成する。この因果ネットワークを全微分と偏微分の関係としても記述できる。

すなわち、GDPをzとし、政府支出をxとして、消費や投資などのx以外の他の項目を変数yとしたならば、下図のような数式が成立する。

この右辺第1項は政府支出xの増加がGDPであるzの増加をもたらすことを示す偏微分係数である。右辺第2項は、政府支出以外の項目yを通じてxの増加がGDPであるzに与える影響を示している。

これは、政府支出という変数から他の変数である消費、投資などの変数を通じて間接的にGDPに対してマイナス符号の矢印となる結合が無い限り、政府支出の増加はGDP増加をもたらすことになる。確かに、下図は財政支出の伸び率と名目GDP伸び率の間には強い正の相関係数が存在する事を示している。これは、政府支出という変数から他の変数である消費、投資などの変数を通じて間接的にGDPに対してマイナス符号となる結合がほとんど存在していない事の証拠にもなっている。マイナス符号となる結合が存在していれば、こんなに強い正の相関係数は発生するはずもないからである。

GDP定義式は、経済学の常識なので、下図を見るだけで政府支出を増やすことがGDP成長をもたらす因果ネットワークが存在する事は一目瞭然であり、下記動画での議論の当事者の池戸万作氏には、このような因果ネットワークが大前提として認識されていたものと思われる。

下図の出典: https://twitter.com/sima9ra/status/659028361314877440

しかし、GDP定義式をもとにした因果ネットワークが頭の中にない場合、上図を見ても「財政支出(政府支出)伸び率と名目GDP伸び率の間の相関関係」としか認識できないという状態になる。そして、「因果関係と相関関係は異なる」としか言えないという経済学者の成田氏のような状況にもなると考える。

因果ネットワークの認識がいかに重要であるかを示す議論であった。

下記動画の出典: https://www.youtube.com/watch?v=P8vfZIhexuo

(3) 因果関係の誤認識により行われている壊滅的な財政政策の事例

財務省は「債務残高対GDP比とプライマリーバランスとの間の因果関係」を、数式の処理ミスによって誤認識してしまい、日本経済を衰退させ続ける財政政策を行ない続けている。

財務省が主張している間違った因果関係: 債務残高対GDP比の安定的な引き下げのためには、プライマリーバランス黒字化が必要である。

正しい因果関係: 債務残高対GDP比の安定的な引き下げのための必要十分条件は、「PB赤字額 < (名目成長率 - 名目金利)× 前期債務残高」である。

詳細は下記リンク先を参照。

プライマリーバランス黒字化目標の間違いが高校数学で判明 – 戦略検討フォーラム (j-strategy.com)

参考文献

1. Webマイニングを用いた因果ネットワークの自動構築手法の開発 https://www.jstage.jst.go.jp/article/sociotechnica/4/0/4_0_66/_pdf

2. 要因検索による因果関係ネットワークの構築と因果知識の獲得

https://db-event.jpn.org/deim2010/proceedings/files/B9-1.pdf

3. 因果ネットワーク生成システム

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6354192/816DCD57690A84E879816FFA078EB96A0D064FE66ADD116BB761276E317E811B/15/ja

4. データフロー制御装置およびデータフロー制御方法 請求項8と11

http://www.patentisland.com/JPB_0006398894.pdf

5. 経済現象における因果の考え方と検証可能性

http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/hermes/ir/re/22477/keizaikenkyu03802153.pdf

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