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プライマリーバランス黒字化目標の間違いが高校数学で判明

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特許庁の特許情報データベースであるJ-PlatPatには、あらゆる分野の問題と問題解決の知識が蓄えられている。その知識は、財政の分野においても十分に活用できる。

発明は、問題状態と問題の原因における因果関係を把握して、実現したい理想状態の実現の方策を、把握した因果関係に基づいて創造する行為である。

さらに、その方策は、方策を構成する1個以上の操作を、操作や結果における制約条件のもとで最適に組み合わせたものとなる。

例えば、特許第6461779号がある。この特許発明は発電機の保守の分野を実施例として示しており、「電力需給バランスなどの制約条件のもと、利益などを評価関数として最適化計算し、最適な計画を決定する。」というものである。

この特許発明は、その請求項に示されているように発電機の分野に限られたものではない。

この特許発明に示された考え方を、「債務とGDPの間のバランスに関する制約条件のもとで、GDPなどを評価関数として最適化計算し、最適な財政計画を決定する。」という分野に適用できる。

しかし、財政に関する制約条件の分析を間違えてしまい、間違った状態を最適な財政状態であると定義して、間違った操作を適用し続けていては、とんでもなく悪い財政がもたらされてしまう。

財務省は、制約条件である「債務残高対GDP比を安定的に引き下げること」の数学的分析において、途中で近似式を用いたり、(名目金利=名目成長率)という特殊条件においてのみ成立する命題を一般的に成立するものとして取り扱うという間違いをしてしまった。(財政総論等(参考資料)財務省 2022年4月8日および「歴史の転換点における財政運営」 令和4年5月25日 財政制度等審議会本文および資料1を、参照)

その結果、下表の左欄で示すように「債務残高対GDP比の安定的な引き下げのためには、プライマリー・バランス黒字化が必要」を導出してしまった。(下表をマウスでクリックしますと拡大表示されます。

しかし、正しくは、表の右欄に示すように1式に示す条件が成り立つことが、「債務残高対GDP比を安定的に引き下げること」のための必要十分条件である。

PB赤字額 < (名目成長率 - 名目金利)× 前期債務残高 --- 1式

財務省は(名目金利=名目成長率)という特殊条件が成立する時にのみ成り立つ命題である「債務残高対GDP比の増分≈PB赤字対GDP比」を用いて、債務残高対GDP比の増分を負にして、債務残高対GDP比を減らすためにはPB赤字対GDP比を負にする、すなわちPB黒字にするというように考えたと推測できる。

しかし、制約条件である「債務残高対GDP比を安定的に引き下げること」の数学的分析において、近似式を用いずに正確に分析をしていくと、「債務残高対GDP比を安定的に引き下げること」のための必要十分条件として、1式が得られるのである。

1式では、PB赤字額が正(すなわちPB赤字)であっても、その値が

((名目成長率 - 名目金利)× 前期債務残高)よりも小さければ、債務残高対GDP比を安定的に引き下がることを示している。

また、逆にPB黒字(すなわち、PB赤字額が負の値)であっても、その値よりも((名目成長率 - 名目金利)× 前期債務残高)が小さければ、「債務残高対GDP比を安定的に引き下げること」は出来ないのである。

この事情を図示する。(下図をマウスでクリックしますと拡大表示されます。

 

このように、「債務残高対GDP比の安定的な引き下げのためには、プライマリー・バランス黒字化が必要」というPB黒字化目標は数学的に間違っている。

それは、財務省が財政における制約条件式を間違った方法で分析したためである。

財務省による数学的間違いは、失われた25年とも30年ともいわれる日本経済の衰退を招いているのである。

制約条件のもとでの最適化された計画を設定するのであれば、特許第6461779号で示されている発明と同様に、制約条件を正確に記述して使用しなければならない。特殊条件のもとで制約条件を簡単化するのであれば、その特殊条件も制約条件として位置づけて、その特殊条件が常に成立するような制御を実行する事が必須となる。それをしないで、特殊条件が成り立っていない状況にまで、簡単化された制約条件を適用することは、故意に失敗をしようとしているとさえ言える。

名目金利と名目成長率の推移を下図に示す。

下図の出典: 財政と金融の協調緩和長期化のもとでのリスクと意義を考察するNIRAオピニオンNo.41  2019.01.31)

 

政府が債務残高の一部を、債務にもならず金利も発生しない政府貨幣を発行して得られる政府貨幣発行益で支払えば、名目金利を簡単に低下させることもゼロにすることも可能である。なぜならば、名目金利を次の数式によって低下させることができるからである。

低下後の名目金利 = 低下前の名目金利 - (政府貨幣発行益/債務残高)

 

上式の根拠を示す。

政府貨幣発行益が存在しない場合には、次の式が成り立つ。

債務残高 = 前期債務残高 ×(1+低下前の名目金利)+ プライマリーバランス赤字

ここで、政府貨幣発行益を用いて債務残高の一部を支払うならば、次式となる。

債務残高 = 前期債務残高 ×(1+低下前の名目金利)+ プライマリーバランス赤字 - 政府貨幣発行益

これは次のように書き換えることができる。

債務残高 = 前期債務残高 × (1+低下前の名目金利 - 政府貨幣発行益/前期債務残高)+プライマリーバランス赤字額

したがって、次の事が言えるのである。

低下後の名目金利 = 低下前の名目金利 - (政府貨幣発行益/債務残高)

したがって、(名目成長率 > 名目金利)の実現も簡単であるので、債務残高対GDP比の減少をプライマリーバランスを赤字にした状態で実現する事も十分に可能である。

(政府貨幣発行については、下記の参考文献を参照)

● 2022年8月23日追記

財務省に対して行政文書開示請求書を2022年6月12日に発送したところ、接受印を財務省が押印した下図の文書が添付されて、行政文書不開示決定通知書が2022年7月19日に返送された。(下図において、私の住所と連絡先電話番号は下図掲載のために伏字加工した。)

下図は、財務省が「プライマリーバランス黒字化目標は数学的に間違っている」との論考の内容を知っているという証拠になっている。

 

【参考文献】

巨大地震活動期に備えるマクロ政策体系の構築 (報告論文)改訂済み
──「第 3 の財政財源」確立の方法論を中心に──
大阪学院大学名誉教授 丹羽春喜

PB黒字化目標の破棄の主張は多数存在する。

【論考】

● PB黒字化目標の欺瞞 高校数学で暴く財務省PB黒字化目標の欺瞞 日本経済復活の会 渡辺昭博

● 基礎的財政収支ではなく債務のGDP比が新しい政府の目標に(No. 248) 日本経済復活の会 会長 小野盛司

● PB目標は債務対GDP比(名目)を悪化させている 自由民主党政務調査会長 二階俊博

【動画】

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