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「マハンで読み解く中国の海洋戦略」(その1) 仮説「マハンの門下生国家は激突する」を検証する

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 「両雄並び立たず」

オバマ大統領は、2012年1月5日、アジア太平洋地域での軍事的なプレゼンスを強化する内容の新国防戦略を発表した。
米国はなぜアジア太平洋地域を重視視するのだろうか。それは「中国の台頭」に対抗するためだ。これまでの歴史で、時の覇権国家は台頭する国家(ナンバー2)に狙いを定め、これを打倒しようとするのが常だった。
「資治通鑑」宋紀の中に「両雄並び立たず」という箴言(しんげん)がある。
「英雄二人が共存することは難しく、勢力争いが起こって、どちらかが倒れるものである」という意味だ。
国家にも同じことが言えよう。冷戦下、米ソが覇権争いをしたが、結局ソ連が崩壊してしまった。米中も例に漏れず、アジア太平洋で雌雄を決しなければならない宿命にあるものと考える。

 マハンの門下生国家が激突した事例――日米、米独、米ソの激突

米中が激突する理由として「両雄並び立たず」という箴言を紹介したが、私はもう一つの理由を挙げたい。
それは「マハンの門下生国家は激突する」という仮説だ。
その例証として、マハンの門下生の日米は太平洋戦争で激突した。しからば、日米以外のマハンの他の門下生国家の場合はどうだったのだろうか。
実は、ドイツ帝国のウィルヘルム皇帝は熱烈なマハンの信奉者で、いち早く「海上権力史論」をドイツ語に翻訳し、ドイツ帝国海軍の全艦はもとより、公共図書館、学校、政府機関に配布した。
第一次世界大戦において米独は激突した。
米国は当初、モンロー主義に基づき、第一次世界大戦には関与しない孤立主義を取っていた。しかし1917年の初めにドイツが無制限潜水艦作戦を再開したことやツィンメルマン電報事件が発覚したことで、ドイツに対する世論の怒りが湧き上がり、宣戦布告した。
ツィンメルマン電報事件とは、第一次世界大戦中にドイツ帝国の外務大臣ツィンメルマンがメキシコ政府に急送した電報が発端だった。この電報は、ドイツによる対メキシコ工作の一環で「もしアメリカが参戦するならば、ドイツはメキシコと同盟を結ぶ」という内容だった。
しかし、この工作は英国による「返り討ち」の具にされた。英国はこの極秘電報を傍受・解読し、これをアメリカに密告してアメリカの参戦を促した。
ソ連もマハンの門下生だった。ゴルシコフ海軍司令官はマハンのシー・パワー理論の信奉者であり、強烈な個性を発揮して大海軍の建設を行った。米ソ両国は激突(戦争)こそしなかったものの、冷戦期間を通じて覇権争いを継続した。

 マハンの門下生はなぜ激突するのか

国家の生存・発展を海洋に託す国家―海洋国家―は、必然的にマハンの「シー・パワー理論」に依拠せざるを得ない。
先にも述べたとおり、海洋国家は「生産」「海運」「市場(植民地)」という循環する三要素が発展のカギであり、それを支えるためには「シー・パワー」(商船隊・海軍力・根拠地〔基地〕)が必要となる。
このような理論・仕組みの中に、海洋国家―マハンの門下生―が激突する理由が存在する。
海洋国家同士は、海外市場や資源供給国をめぐって争奪戦をおこなう宿命にある。日米が激突した大東亜戦争の原因の一つは、中国市場なかんずく満州をめぐる日米の争いではないだろうか。
後進帝国主義・日本が海外に目を向けた時には分割競争の余地がある国は中国しか残っていなかった。
日本が生命線としての植民地を求める限り、中国にしがみつく以外に道はなかったのである。
そこで日本は、対中国投資を増大させ、1930年代には欧米列強諸国と投資額で1、2を争うまでになっていた。対中国投資の占める比率も異常に高く、1935年の時点で実に93.3%に達していた。因みに英国は5.9%だった。
米国も、英国に比べれば後進帝国主義だった。
歴史的に見て、日本がロシアの満州進出を阻止する役割を果たした日露戦争までは、米国は日本に対して好意的中立という立場を保持していた。
しかし、日露戦争以降、南満州における日本の権益が確保され、日本の中国進出が軌道に乗るにつれて、米国による対日牽制、日本による対中干渉阻止、更には強い反対となって現れ、終には日米戦争を招くに至ったのである。
この日米対立が最初に表面化するのは、第一次大戦時の日本の山東出兵に際してであり、これを契機として日米関係は次第に敵対憎悪へ重心が傾いていった。
満州事変は、あらゆる意味合いにおいて大東亜戦争への序曲であった。満州は、日米争奪の地であり、満州事変は裏を返せば満州をめぐる日本と米欧帝国主義との対立の所産であった。

 世界の七つの海は連接している

シーパワー国家の戦力の主体は「海軍」である。
世界の七つの海は連接しているので、覇権争いする海軍は何れかの海上を主戦場に選び、交戦することが可能なのである。
陸軍の場合は、国境を隣接するか近傍にある場合は別だが、海軍に比べ地形障害に左右されるなど、交戦が成立するには様々な制約がある。
このように、「マハンの門下生国家は激突する宿命」という仮説は一定の説得力があると考える。
筆者は、マハンの門下生国家である米国と中国がいずれ、アジア太平洋地域で激突するのは避けられないと見ている。

 

(おやばと掲載記事)

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