混迷する世界に克つGlobal企業の論理と、混迷を助長するTrump’s America リスク
はじめに:いま混迷する世界にあって
- Anti-globalization に克つ経営
周知の通り、多くの企業は戦後システムの下、グローバル化を通じて成長してきました。だが、そのシステムは、米国第一主義、反グローバル主義を掲げるトランプ氏の登場で、大きく転換を余儀なくされ、今、まさに混迷の様相にある処です。かかる中、ゴーイング・コンサーンたる企業には、如何に持続的可能性を図っていくか、つまり、この変化を、どのように理解し、それにどう対応していく事がしかるべきか、が問われていく処ですが、それは言い換えれば、‘反グローバル化に克つ’ 経営の如何が問われると云うものです。
その点、Harvard Business Review, July-August 2017、掲載のNew York大学、Stern School of Business 教授、Pankaj Ghemawat 氏の論考「Globalization in the age of Trump」は極めてpracticalな行動原理を示唆するものでした。つまり、ゲマワット氏は、トランプ政権の登場で、米国企業が目指すグローバル化政策は新たな挑戦を受けているが、それでもグローバリゼーションから後退すると云う事が、この不確実な時代環境にあって正しいアプローチなのかと、企業のグローバル化対応について問うものです。そして、グローバル戦略を擁することで、新たな価値創造の機会が生まれ、それが将来への一層の可能性を担保していくことになるとした上で、今、おかれている混沌の状況とは、多国籍企業にとって、その戦略の見直しと、組織構造の再検討、そして社会とのかかわり方について再考を促すもので、とりわけ企業環境としての政府対応、マクロ政策への取り組み等、いわゆる‘対境’への取り組みを確実なものとし、新たなglobalizationの推進を期待するというものです。
その際、筆者の関心を呼んだのは、イメルトGEの経営をモデルとしてリファーしていた事でした。実は、トランプ大統領就任直後に出た、1月28日付The Economistの特集記事、「The Retreat of the Global Company」(グローバル化の旗を降ろす企業)でリファーされていたのもイメルトGEでした。そこでは、「過去30年来の大企業が目指してきた規模の優位さ、等の企業活動の基本は深刻化を極める処となっていること」、そして「規模の優位とか、裁定取引など、もはや意味を持たなくなってしまった」と強調すると共に、保護主義者のトランプ大統領の登場以前から、つまり2016年のポピュリストの台頭以前から、既に多国籍企業はコスト削減や税制等の視点に照らし、現地競合企業との在り方を考えるようになり、トランプ政権が主導する反グローバル化政策には関わらず、本国への回帰は始まっていたと指摘するのでした。つまり、あくまで経済の合理性に照らした動きを映すものと云うのです。そして、そこでは、GEのイメルトCEO(当時)が、グローバル化から現地化(from globalization to localization)へと、これまでの経営の基本軸、`bold pivot’を シフトさせようとしているのも、そうした経営行動の一環と、リフアーするのでした。
序でながらGEイメルト氏について、もう一つ興味深い記事が手元にあります。6月26日付、Financial Times(デイジタル版)が掲載する同紙columnist、Rana Foroohar氏の記事「Jeffrey Immelt–Why US big business listens to Barnie Sanders ―GE’s chief agrees with leftwing populist’s approach to connect with workers 」(J. Immelt ー 大企業経営者がバニー・サンダースの言葉に聞き入る理由)です。このサンダース氏とは、米大統領選の民主党候補としてヒラリー・クリントン氏と争った、自ら民主社会主義者を任じる政治家です。
ですが、共和党員であるGE、イメルト氏は多国籍企業のトップらしからぬ、サンダース氏のスピーチに熱狂する若者と同じように、同氏の主張に一部ながらも賛同すると語ったと云うものでした。周知の通り、サンダース氏は米国の極端な所得格差を糾弾する立場から、「ごく少数の人間があまりに多くのものを手に入れる状況に正義はない。あまりに多くの人間が、ごくわずかのものしか手に入れられない状況に正義はない。」と主張するのですが、こうした考え方に理解を示すイメルト氏が打ち出す経営戦略には、それなりにサンダース色が映るとも評される処、要は、グローバル企業の経営者としての環境変化への認識とそれに応える発想があり、それは同時に企業の対外オペレーションに係るアドバイスともなると指摘するものでした。尚、そうした事情を踏まえ、イメルトGEが進める経営戦略はポピュリスト台頭後のグローバル企業にとって手本ともなるとして、Financial Times紙上では当該記事のタイトルは‘A post-populist playbook for capitalists’ に変更されています。
という次第で、改めて上記ゲマワット論考他をベースにglobal business、つまりグローバル企業の行動の論理を手短に整理、考察することとし、併せて上記文献で共通して引用されていたイメルトGEの経営の実際を、彼がこの2月、株主に送った手紙をベースに検証することとしたいと思います。(→ 第1章)
尚、彼はこの7月31日付で16年間のGE、CEOを引き、8月1日付でジョン・フラナリー氏(M&Aの巧者だそうです)が後任CEOに就いています。その背景にはGEの低迷する株価問題へのアクティビストの批判があったとされていますが、詳しくは本論に委ねる事としたいと思います。
(2)混迷の元凶なすトランプ大統領
さて、前述の通りトランプ大統領を元凶として進む世界の混迷は更に深まる様相にあります。要は、8月12日、バージニア州、シャーロットで起きた白人至上主義者と反対派の対立抗争を巡ってのトランプ大統領の人種差別を容認するかの発言が米国社会の基本的生業を否定する、言うなれば一線を越えた発言として、反トランプ・デモが各地で起こりだしている事です。そして近時、厳しさを増す、北朝鮮やアフガニスタンへの軍事行動威嚇をにおわせるなどで、国内の分断化が云々されだすなど、時にトランプ米国はDangerous nation かと、指摘される状況にある処です。まさにアメリカ・リスクの顕在化です。今後の動きは正直読めませんが、諸般の事情からは、トランプ政権の不確実さは深まる方向にあるものと思料される処です。そこで、上記、グローバル企業論と併せ企業の戦略環境として、その実状を分析しておきたいと思います。
(→ 第2章)
尚、日本の政治も国民の批判を映した安倍改造内閣が発足しましたが、この先行きも不透明なままにあります。この際は、これら事情も併せ、以下目次に即し、論じてみたいと思います。(2017/8/26)
目 次
第1章 混迷する世界の中、問われるGlobal企業の行動の論理 — P.4
- ゲマワット教授の示唆するGlobal Business の行動原理
―Globalization in the age of Trump
- 実証:イメルトGEが映す‘反グローバル化に克つ’ 経営
- ジェフ・イメルト氏のGE経営の実相
(2)A post-populist playbook for capitalists
[資料] Letter to shareowners ‘Leading a digital industrial era’ from Jeffrey R. Immelt , Feb.. 24, 2017 — P.8
第2章 トランプ米国は地政学リスク – – P.10
1.‘危険な国’になってきたトランプ米国
2.トランプ通商政策が齎す地政学リスクの高まり
おわりに:第3次安倍改造内閣
―日本経済と「人づくり革命」 — P.12
(1)「経済最優先」の‘仕事人内閣’に望むこと
(2)看板政策「人づくり革命」に思うこと
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