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香港はどこへ行く(2)__中国ビジネスに見る香港機能

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前回は香港にとっての逆風について書いたが、今回は進化する香港機能について考えてみたい。

今世紀に入ってから中国のWTO加盟、香港とのCEPA締結によって中国の外資受け入れが大きく変わった。WTO加盟前の中国は外資企業のサービス業参入が制限され、また外貨管理規制も厳しく商流が制限される場合が多く、香港はこれらを補完する機能を果たしていた。2004年以降中国で外資による販売会社が設立できるようになった。そこで香港に販売会社を設立し香港内での売り渡しを行う形態をとる外資系会社もあった。但し、中国内での卸売り、小売り流通に参画できないのは現在まで変わらない。香港で中国系香港企業に販売することで若干中国本土に近い商流が組み立てられる程度の選択でしかなかった。

 

#加工貿易

一方、広東省は加工貿易の発祥地であるがWTO加盟前は殆どが来料加工であった。加工貿易は来料加工(加工賃ベース)、進料加工(売買契約ベース)に分かれるが来料加工は原材料の提供、製品の引き取りを無償で行い加工賃だけを外国から中国の加工企業に払う形態のため中国の外貨管理規制の影響は小さく中国内での資金調達は不要というメリットがある。また、来料加工であれば香港に調達・販売・資金調達機能を集約できるため香港の位置付けは重要であった。ちなみに広東省での来料加工は全てが香港からの加工委託形式をとっていた。

 

#WTO加盟、CEPA発効以降の状況。

中国は2001年WTO加盟の際にサービス業に対する段階的な規制緩和を公約、その後、外資に対し販売会社の設立が可能となり、貿易権も開放された。中国内に100%出資の販売会社ができるようになり貿易もできるようになった。このため華南地区での販売機能が香港から広州、深センに移り香港の地位の相対的低下が懸念された。

2004年にCEPAが発効し香港企業のサービス業に対する規制緩和が認められ、香港法人を対中投資拠点とする傾向が強まった。

広東省ではCEPAによる優遇が期待できる物流業などは沿海部を含め香港からの出資となるケースが出てきた。

CEPAの狙いは「香港企業の対中出資にかかわる優遇条件の付与」「香港産品の中国輸出時の関税免除」などだが日本企業にとっては対中投資の優遇条件付与が大きい。日本企業の香港現法であっても香港で3年間同一事業を行っている。従業員の過半数が香港永久居民証を持っているなどの条件を満たせば香港企業として認定される。

その後優遇条件付与対象の追加などの修正が行われ、すでにメリットのない業種も多い。中国側も外資規制緩和を小出しに続けているためCEPAの優遇が消滅する事となる。流通に関しては卸売りについてのメリットはなく、小売りについては大規模な総合小売り形態で出資比率規制の緩和が受けられる。

 

#CEPAのメリットがある分野

少し細かくなるが会計、学術研究、実験開発、航空運輸、図書館、博物館など文化分野、音楽・映像、証券・先物(独資で証券会社の設立可能)、銀行(設立要件の緩和)、海運(国際船舶管理、倉庫、港湾積み卸しなどの業務が独資形態で可能)、コンピューター関連、建築及び関連エンジニアリング、医療、社会サービス、会議・展示、文化、娯楽、特許代理、流通(特定小売業の出資比率制限の緩和)、技術検査・分析、貨物検査、教育、人材提供・斡旋、電信、環境、印刷、公共事業、個人商店、鉄道運輸、翻訳・通訳、保険、不動産などだが元々中国ではなかった分野なので実施の際は中国機関との詳細な詰めが必要だ。一方、加工貿易においては北京政府の方針は広東省型来料加工の段階的禁止方針が決定された(既存の来料加工工場は独資企業に転換または撤退)が深センでは営業許可証期限内であれば継続を容認。東ガンでは従来同様営業許可の更新を黙認している。来料加工(加工賃ベースの保税加工)では部材調達、製品販売、資金調達などの機能が香港に残るが進料加工の場合は中国の加工企業に大部分の機能が移管されるので、差額決済方式(製品代金と原材料代金の差額のみを香港から中国に送金)を採用して資金調達機能を香港に残している企業が多い。

 

#ASEAN向け取引の拡大

元々香港は外貨管理が自由であったのでinvoice-switch取引とも言えるオフショアー取引の拠点として活用されていた。ところが現在北京政府は外貨流失を防ぐべく外貨管理規制をしている、更に中国・ASEANの間のFTAにより商流は大きく伸びておりこれらの外部要因の影響も有り香港のoff-shore取引拠点としての重要性は増している。(2016年 中国・ASEANの商流4518億ドル、日本・ASEAN 1,878億ドル)特に中国生産拠点からASEAN生産拠点に対する部材の供給が伸びているが、何れは中国から生産拠点ごとの移動が行われるであろう。中国・ASEANのFTAは多くの香港企業が活用しておりFTAのメリットを享受している。適用条件は貨物が直送されることが原則だがtransitでも経由地で販売・消費されないこと、経由地で積み替えに付随する処理以外が行われていないことなどを条件に直送と同じ扱いとなる。(香港の法人税は16.5%で日本の実効税率約31%に比し大幅に安い、香港法人がtax-haven税制の対象でなければこの軽課税を享受できるのでアジアビジネスの統括拠点を香港に設定する日本企業も多い)

 

#中国越境E-Commerce(EC)市場の拡大

中国でinternetを使って海外の商品を直接購入する越境電子商取引の拡大が注目されている。いろいろな伸び率の見方があるが中国側としては消費をGDP成長率の主要な要素として取り上げるべく画策しておりGDP統計の不明確なことは別として今後も越境ECが拡大することは事実とみられる。中国人消費者が越境ECを利用するのは商品の品質が保証されている、商品価格が安い、国内で入手できない、ブランドが消費者の好みと一致する、品ぞろえが豊富、海外で買った商品を再度買いたい。などだが日本でも爆買いで有名になったが、中国内ではこの種商品がニセものであったり、消費市場が全く育っていなかったことに起因している。市場規模は一説では今年前年対比50%以上伸びているといわれている。(伸びに関してはいろいろな説があるが、紙おむつとか一部化粧品については50%以上が正しいがその他については未だ推測の域を出ない)日本だけでなく世界中から商品を集めているが日本の後を僅差で米国が追い、韓国、ドイツ、豪州などが続いている。商品としてはおむつなど日用品や化粧品が中心であったが最近はアパレルや健康食品なども伸びている。越境EC小売輸入商品リストが2016年以降二回にわたり公布され、詳細は省くが食品、衣服、家電、化粧品、紙おむつ、玩具など、1142品目、さらに生鮮品、穀物・乳製品・食用油、・砂糖・健康食品など151品目が対象となっている。元来越境ECは外国製品を電子ショッピングモールを介して中国内に販売する形式だが保税区域内で冷凍倉庫が完備されていないとか中国側のインフラが整備されていないので香港の機能の活用がこの面でも大きい。以上香港の絶えず進化する機能について説明したが、今後はASEAN向け取引の拡大とか越境ECに対する香港機能の活用など新分野が次々出現するのは香港の特色だ。(ASEAN向け 取引の拡大は望ましいが筆者はアジアに安定なしと考えているので注意は必要だ。メディア・アジア駐在員などはアジアの将来性を強調するが、アジア各国が安定し先進国並みとなるには未だ100年はかかるであろう。同じ事は越境ECにも言える。初めて中国を見た人はその人数に圧倒される。彼らが全て中間層ではなく、親族に共産党と関わりのある人などが中間層の一部を占めている。彼らは地方政府の機関・国営企業などに職を持ち一人っ子政策で家族以外に扶養の義務も無く、ある程度可処分所得のある連中だ。目下政府は官制消費動向を盛んに発表するが、各地方政府はここぞとばかり過大な数字を発表する。このため数字がかなり水増しされていることも認識する必要がある。) 一方日本国内でも来年の経済成長率は投資拡大を背景に本年を上回る可能性があり、日本企業の対中ビジネスは引き続き好調を維持するであろうと中国政府が喜びそうな論文を発表している人もいる。

現在の中国は国内政治の安定のため香港の政治的自由は認めず抑圧する方向に行っている。このため、中国側に香港が金の卵を生み出すと言った知恵は無いが、経済的依存度だけで香港が中国化したと見るのは一面的だ。中国企業が香港の商習慣に合わせていると言う側面も見る必要がある。香港は法治都市として機能する限り国家統制になれた中国企業も香港の商習慣からいろいろ学んでゆくと思う。北京政府が上海の金融規制の緩和を進めれば香港の金融都市としての魅力は少なくなるとの見方もあるが、香港人は商人で強かだ。香港は金融都市の前は海運(物流)都市でもあった。金融都市でなくなっても次の産業を作り出してゆくであろう。奥深さと懐の深さが香港人の特色だが何れにしても香港は商人の街であり続けるであろう。

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