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Inclusive Capitalism(包摂的な資本主義)

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この夏、アメリカと中国で行われた二つの国際会議は、いずれも現代モダンの資本主義がもたらす問題への政策対応について議論するものでしたが、今次のそれは、構造的低迷を映す経済環境下、資本主義の新たな姿、つまりポスト・モダンの資本主義の生業を模索する姿と映るものでした。

近時、先進諸国の多くは低成長を余儀なくされ、その下で進む所得格差拡大など、共通した問題を抱え、内向き志向を強めてきています。英国のEU離脱選択しかり、11月の大統領選を控えた米国では米国第一と、自国主義に向かいだすなどで指導力を発揮できる状況にはなく、自由貿易などグローバル化に反発が強まる状況にあります。いまや資本主義が土台としてきた「自由な市場」の基本概念を否定する思想が世界中で広がりだしています。‘資本主義の没落’?と云う処でしょうか。

Financial Times紙のコラムニストとして著名なMarin Wolfも、同紙(9月7日)で `The tide of globalization is turning’ と題し、世界経済の今を、以下に質すのです。

― Yet it has now stalled, as have the policies driving it. It might reverse. Yet even a stalling would slow economic progress and reduce opportunities for the world’s poor. Pushing globalization forward requires different domestic and external policies from those of the past. Globalization’s future depends on better management. Will that happen? Alas, I am not optimistic.

(グローバル化は今、その推進政策と共に立ち往生にある。それだけで経済発展は遅れ、世界の貧困層にとって豊かになる機会が減少することになる。グローバル化を推進するためにはこれまでとは違った対内的、対外的政策を打ち出すことが必要だ。そしてグローバル化の将来はまさに、それに負う。さて、それは実現するものか。自分は残念ながらそれには楽観的にはなれない。)

そうした環境の中、行われた二つの国際会議とは、一つは8月末、米国ワイオミング州で行われたジャクソン・ホール会議。もう一つは9月はじめ、中国・杭州で行われたG20サミット会議でした。

まず、前者のジャクソン・ホール会議は30余年も続く金融政策を巡る国際会議ですが、今年の会議は、伝統的な金融政策に対する考え方や政策対応では、律しえなくなってきている現実を映し出すものだったと、伝えられています。つまり、経済の勢いが構造的に弱まっている今日のような状況にあっては金融政策が効果を発揮しにくい、その点、政府は金融政策依存に陥らず、潜在的な成長力を引き上げる方策に全力を挙げるべしと。言い換えれば金融政策もより包摂的な形での運営が求められるようになったという事です。

後者、G20サミット会議は、周知の通りリーマン後の世界経済の運営について、先進国と新興国、全20か国のトップが集まり協議する場とされるものです。これまで参加国が多く、先進国と新興国の利害が対立し、議論が纏まらないことが多かったと言われていたG20でしたが、世界経済の下振れ懸念が強まるなか、今回の共同声明では「強固で持続可能な均衡ある包摂的な成長を」目指すと、「包摂的な成長 (Inclusive Growth) 」という考え方を初めて打ち出しました。先進国と新興国の間に協調の機運が芽生えたということでしょうか。世界経済(GDP)に占めるG20の比重は9割。その意義、大というものです。

これらは現下で表れている資本主義の不都合な状況を正しつつ、世界的な経済活動の相互依存関係を深め、各国経済が統合しあっていく新たな資本主義を模索する、言い換えればポスト・モダンの資本主義への道を探る姿と映る処です。勿論、未だイメージの段階にある処でしょうが、その道は一つひとつ具体的事例を以ってパズルを埋めるが如くに進んでいく事になるものかと思料するのです。そこで本稿では、上述、米ジャクソン・ホール会議そして、今回のG20サミットが明示した「Inclusive な経済」にフォーカスし、係るコンテクストに照らし、日本経済が抱える課題対応の可能性について考察します。(2016年9月26日)

 

目  次  

1.ジャクソン・ホール会議と、日本の金融政策  -P.2

(1)米ジャクソン・ホール会議の示唆

(2)日本の金融政策、その総括的検証と課題

2.Inclusive Capitalism(包摂的な資本主義)          -P.6

(1)the Conference on Inclusive Capitalism

(2)G20サミットも、いま`Inclusive な経済’

(3)メイ英首相の政治姿勢とinclusive capitalism

3.Inclusive capitalismと日本経済                     ―P.10

(1)働く力の再興

(2)労働改革は日本流inclusive capitalism

おわりにかえて ― 原子炉「もんじゅ」と、小泉純一郎元首相  ―P.12

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