右脳インタビュー 岩村充(1) 早稲田大学大学院教授 元日本銀行企画局兼信用機構局参事
片岡: 今月のインタビューは岩村充さんです。今回は2日にわたってお話をお伺いしたいと思います。本日(9月6日)は日銀の金融政策について、次回(9月23日)は日銀の「総括的な検証」について、お伺いします。
岩村: 日本の金融には、今、大きな「異常」が生じています。日銀のバランスシートを見ると、銀行券の発行残高(2016年5月末時点)は急速に増加を続け100兆円近くに達し、日本人一人当たりにすると80万円近くにもなっています。これは銀行券が「決済手段」だけではなく、「安全かつ金利ゼロが保証されている金融資産」として、どこかで大量に保蔵されているということも示しています。更に日銀は国債の発行総額の約4割を保有していて、銀行券発行高と準備預金残高の合計であるマネタリーベースも400兆円に迫り、名目GDPの約500兆円の8割近くにもなっています。2013年4月、黒田東彦日銀総裁は「異次元緩和」と銘打ち、「2年後までに消費者物価上昇率を2%にまで高めることを目標として、マネタリーベースを2倍にし、日銀保有国債の平均残存期間も2倍以上にする」という大規模な量的緩和政策を開始しましたが、その効果は一時的なものにとどまり、2014年10月には国債の買い入れ速度を年額50兆円から80兆円に引き上げ、2016年1月、準備預金にマイナス金利を導入しました。しかし、そうして追い求め続けてきたはずの消費者物価上昇率は目標に遠く及びません。不思議なことに、異常なまでに拡張されてきたマネー供給が、その所期の成果をあげられないまま続き、日銀は自ら掲げた目標を実現できていないにもかかわらず、日銀に対して政策目標や手段のあり方を根本から見直すよう求める声も大きくならないのは、更に異常な状態にあることを示します。日銀どころか日本全体が「量的緩和依存症」に陥り、いつまでも続けられないことは分かっているのに、止めたときのショックが怖くて、その「出口」にかかる議論もできなくなっています。
尤も、金融政策は現在の問題と将来の問題をやり取りする手段にすぎません。日本は構造的に人口ピラミッドが悪く、米国は良い。こうしたことは政策当局者たちがデフレから抜け出せると思っている度合いにも影響しているはずです。「出口」に関する議論そのものを拒否しているかのような日本銀行と2015年末でゼロ金利解除に踏み切った米国連邦準備制度との違いはこの辺にもありそうです・・・・