Home»連 載»中国ビジネスの行方 香港からの視点»台湾経済の中国依存は続くのか

台湾経済の中国依存は続くのか

0
Shares
Pinterest Google+

受託生産最大手のホンハイ及び傘下のFoxconnについては何度か触れたが、16年の総統選挙に向けて台湾の成功企業に色々問題が生じている。2014年の対中投資額は2011年のピーク時の3/4に減り中国からの製品受託額も増えず、現在の国民党馬英九政権に逆風が吹いている。対中投資ではIT関連の電子部品が11年比53%減、化学材料が20%減、機械設備が41%減と報じられている。
元々中国の安い人件費を梃子にホンハイなどは中国を輸出拠点として大きく伸びたが、中国内の人件費高騰とか中国固有のトラブルもありこのモデルも崩壊しつつある。スマホなどで中国と台湾は補完関係にあったが金属製品、化学品等逆に中国企業と競合する場面が多くなった。一方、台湾企業の工場移転による空洞化で雇用が中国に流れたとする台湾の若者の不満も多い。昨年3月には台湾と中国とのサービス貿易自由化協定に反対する学生が立法院を占拠すると言った動きもあった。但し、台湾から見た海外投資に占める中国の割合は60%、輸出は40%と依然中国依存だ。

#コネ(関係=グアンシー)に振り回される外国企業

中国ビジネスはコネが無ければ何もできないとする動きが多い。勿論中国共産党上層部と結ぶコネがあればうまく行くであろうが、実際にはコネを種にしている中国人も多い。進出に当たっては台湾系或いは香港系企業と組むべしと説く人も多い。ところが台湾系でも香港系でも現地で中国人に騙されて大損したというケースとか、投資した中国企業の財務諸表が粉飾であった等問題も多い。勿論成功しているケースもあるが台湾系、香港系と一緒にやれば安全というのは神話で中国側がむしろコネ社会を逆手に取ってコネが無ければ何もできないとすべてコネで解決できるような印象を外国企業に与えてしまったケースが多い(習政権の汚職退治によって今までのコネが全く役に立たなくなったケースも多い)。実際に1980年代に香港大が中国に於けるコネの活用論文を発表しハーバード大などビジネススクールでもてはやされ、日中に数多くの「友好屋」ができたのが始まりだが、長年の経験により中国ビジネスの実態が分かるにつれ台湾系にも逆風となっている。

#国民党寄りの企業にバッシング

受託生産最大手のホンハイが建設中のIT複合商業施設に対し台北市長がホンハイの落札価格が安すぎると再調査を命じ工事が中断していると伝えられている。ホンハイも主要新聞に批判の広告を出すなど抵抗しているようだ。民衆は若年層の不満、格差拡大などにより市長に好意的と伝えられている。
食品流通大手の頂新国際集団も槍玉に挙がっている。元々は台湾内の食用油メーカーだが、傘下の油製品会社が廃油から食用ラードを製造したと、香港、本土を巻き込んだ騒動に発展した。昨年9月頃香港で中国本土からの動物性食用油の廃油が2014年1~7月に香港に652屯輸入され、このうち再輸出されたものは443屯、残り209屯が香港で使用された可能性があると香港紙がスクープした。廃油は一般にはバイオディーゼル燃料となるが香港のバイオディーゼル製造業者は本土からの廃油は輸入していないという。一方違法業者が廃油を加工し、食用油として販売したのではないかと香港政府に調査を要求し騒ぎとなった。これに基づき政府は台湾企業が生産した問題のラードが使われた可能性のある飲食店のリスト(524ヶ所)を発表した。一方台湾では頂新傘下の油製品会社が違法な原料を使って食用油を製造したことが発覚し頂新も責任を取ることを約束した。頂新は元々台湾の中小規模の製油業者であったが1980年頃から本土に進出、台湾の味全を傘下に入れ(1960年代に日本の協和発酵、味の素等とグルタミン酸製造法で特許争いとなり、台湾の特許法が当時不完全であった為,味全がアジア市場を席巻したこともある、その後頂新も味全から手を引いたとの話もある)即席ラーメンでは康師傅ブランドを中国本土で展開し、目下本土でのshareは50%とも言われている。日本のサンヨー食品、伊藤忠、不二製油なども出資している。更にジュース、飲料水、ファーストフードチェインなどを展開し本土における大成功企業となっている。ところが台湾で康師傅ブランドとして販売されている即席麺が問題のラードを使っていたことが発覚し、上海のメディアも中国本土の製品にも問題ありとする記事を出した。一方頂新は事実と異なる報道があったとして上海のメディアを提訴した(1億元の賠償請求)。これに上海紙側も更に反論すると言った一種の泥仕合となってしまった。この事件の他にラーメン自体の消費の鈍化などもあり頂新の本土での業績は昨年度からむしろ下降気味だ。
余談だが、伊藤忠はアサヒとの共同出資会社を通じて頂新グループへの出資(25.2%)を自社からの直接投資に切り替えると3月3日に発表した。合弁会社株を同合弁会社に売却し頂新株18.5%を受け取る(持ち分法適用関連会社から一般投資への区分変更)これにより再評価益など600億円の利益が出る。但しこれは同社が出資することとなった中信集団(CITIC)と進める現地での協業が頂新グループとの競業避止義務に抵触するので連結対象から外すとしている。
CITICは中国政府も株式を直接保有している金融業界の最大の国営企業ともいえるが、政権の帰趨次第でどちらに転ぶか分からず頂新も台湾情勢によって動きが左右されるので暫く状況を見守りたい。

#東ガン市

改革開放政策で深センが脚光をあびたが、台湾勢は一斉に東ガン(Dongguan)を目指し更に状況によって本土各地に根を張っていった。香港系は深センよりもまず珠江デルタ各地に展開して行った。東ガンの場合、台湾系の小学校に青天白日旗(国民党時代の国旗)が掲げられているとも言われていた。深センも東ガンも貧しい農村であったが、香港に隣接する深センは特区として中央政府の支援もあり外資系企業の誘致により中国内でも有数のリッチな市となった、今や人口も1,500万人とも言われている。深センと競うように東ガンも日本の佐賀県程度の面積で赤土の広がる貧しい農村であったが各地からの出稼ぎ労働者が集まり、人口も850万人程となっている。衣料、日用雑貨、玩具、電子製品、パソコン、更には包装紙などの製紙工業等重工業以外の産業が盛んであったが、近年の人件費高騰などの影響から他地域への移転の波をもろに被っている。日本企業でもシチズンの広州工場閉鎖とかパナソニックが中国での液晶テレビ生産から撤退とか中国からの事業撤退、縮小の動きがあるが、米マイクロソフトが昨年来進めてきた大規模リストラにより中国では東ガンの工場と北京の旧ノキアの工場を閉鎖し約9,000人をリストラし生産機能はベトナムなどに移すとしている。一方、中国内では携帯電話のOEM工場の生産停止や閉鎖が各地で増えている。台湾の勝華科技(ウインテック、巨額の負債を抱え目下会社更生手続き中)は東ガンと蘇州にある工場を閉鎖すると伝えられている。特に東ガンでは1億3,500万元の負債を抱えたまま董事長が行方不明になるとか別の企業の董事長が自殺したとかの報道が絶えない。製靴産業は元々台湾企業が持ち込んだが、Nike, Adidasなどを製造していたメーカーがベトナム、ネシアなどに移転するとなった途端に5000人を超す労働者がストライキを始めた。更に中小メーカーの淘汰が進むものと思われる。
東ガン市は急速に発展したため色々な面で評判になった。同市のNew South China Mallは無人のshopping mallと揶揄されているが、46万平米と米国最大のMall of Americaの2倍の規模で2,350店入居可能だが未だに閑古鳥が鳴き、荒れ放題とのこと。出稼ぎ労働者も多く、それら男性相手の売春女性が増加し、2010年代には性都と呼ばれ風俗産業が市のGDPの一割にもなったという。高級官僚、警察幹部も風俗産業に関与しており、警察も黙認していたようだ。広東省としても黙認できず風俗産業の一斉摘発を行ったが(既に一部復活しているとの情報もある)産業の空洞化もあり、市の経済が広い範囲で打撃を受けている。ここでも台湾系にとって逆風が吹いている。

#模造品企業を味方にして

中国が改革開放政策を謳いだした頃、台湾製家具は欧州市場を席巻していた。3月4日の日経では“模造品企業を味方に”としてコクヨがオフィス家具市場でコクヨのコピー商品を作っていた企業と提携し高品質商品を従来の半値で売り出すことに成功したという記事があった。台湾メーカーには技術指導した後で各種の分野でコピー商品製造などを行うところもあり日本メーカーも泣き寝入りしていた時代もあった。
コクヨのみならず、他にも中国市場で競合関係にあった台湾企業を取り込んで成功している例も多い。台湾の一人あたりのGDPが日本の半分に達しているし法制度の整備も進んでいる。台湾メーカーは一定品質を維持したうえでの低コスト生産が出来るので日本企業にとっても従来は提携メリットがあった。
一般的には台湾のEMS(電子機器の受託製造サービス)企業が本土に止まるべきか、撤退か、の経営判断を迫られて居り、台湾系にとって今や曲がり角にある。北京政府は第2次大戦勝利記念を喧伝しているが、実際には日本軍は国民党蒋介石軍と戦ったし、両者の主張には中国本土の簡体字と台湾・香港などの繁体字くらいの差がある。今後どのように中国本土で展開して行くのか政治問題と絡めて注目が必要だ。

以上

Previous post

成長戦略を活かす「リスク・マネジメントと保険の手配」(その6) 重大事故/事件に学ぼう - 各PL事故の教訓 森島知文

Next post

アジアインフラ投資銀行(AIIB)創設、問われるブレトンウッズ体制