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アジアインフラ投資銀行(AIIB)創設、問われるブレトンウッズ体制 

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― 目次 ―

はじめに:ブレトンウッズ体制に風穴をあけるAIIB

1.中国主導のAIIB創設、そして「新型国際関係」
(1)AIIBの創設 ― その経緯と問題
(2)習政権の目指す「新型国際関係」とAIIB
2.米国の懸念、と割れるG7
(1)AIIBを巡る米国の懸念、とメデイアの示唆
(2)割れるG7-米国の対英非難、realisticに動く欧州G7
3.AIIB参加の可能性と、日本に求められる思考様式
(1)期待される日本の参加
(2)そしてTPPの実現を

おわりに:スティーブン・ローチの論理

はじめに:ブレトンウッズ体制に風穴をあけるAIIB

4月15日、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB )創設に参加するメンバーが中国財政省から発表されました。 AIIBはアジア地域の開発支援のための国際金融機関とされるもので、その創設メンバーは57カ国(アジア太平洋:21か国、旧ソ連:7か国、中東:9か国、欧州:17か国、米州:1か国、アフリカ:2か国)です。

57カ国というこの数字は中国政府にとっては、当初の予想をはるかに超える、つまりは望外の喜びとする数字だったとも言われています。当初、日米などには「たいした構想ではない」と甘く見ていた節があった由ですが、3月12日になって突然、英国が参加の意向を表明した事でその流れは一変したのです。3月17日には、ドイツ、フランス、イタリアが参加を表明、その他の欧州諸国もこれに続くこととなり、一挙に世界各国が中国に集まる形となったのです。とりわけ、G7つまり主要7か国の内4か国が中国の構想を支持する形となり、欧州先進国の参加を得たことで急速にAIIBは本格的な国際機関としての体裁を整え出したと言うものです。日米が中心となって運営するアジア開発銀行(ADB)は67カ国・地域が加盟していますが、AIIBは参加数においてADBと比べ遜色ない陣容を整える処となったと言うものです。

言うまでもなく現時点ではAIIBの運営に係る詳細は不明であり、また問題も多々とされる処です。然し、仮にAIIBが本格稼働することとなると、その参加国の数、想定される開発案件の数、資金需要の規模、等々からみて、その動きは、米国が主導してきた戦後世界の金融制度、つまりはブレトンウッズ体制(注)に風穴を空ける、いうなればブレトンウッズ体制への挑戦とも映る処です。そして、その事は、パワー・バランスの変化も必至と思料されるのです。

もとより、米国としては、そうしたAIIBの存在は認め難く、従ってAIIBへの参加は見合わせていますが、日本も、その米国に同盟国と言う立場から歩調を合わせ、現時点での参加は見合わせています。尤も、創設メンバーが設立協定を結ぶ6月末までに結論を出すとしてはいます。 因みに米国の同盟国である韓国、オーストラリアは創設メンバーとして参加しており、またG7でも欧州4カ国も参加、日米加は不参加、と一瞬、米国を頂点とした自由主義諸国の仲間割れ云々の様相を呈している処です。 そうしたことから、いま、AIIBの創設、そしてその世界経済に及ぼす影響、とりわけ現行ブレトンウッズ体制の見直し避けがたい、等々、議論は多々広がる処です。

(注)ブレトンウッズ体制
今日に至る戦後世界の金融制度は、国際通貨基金(IMF)と世界銀行(World Bank:WB)の二つを柱とするブレトンウッズ体制として知られる処です。 IMFは、戦後世界経済の安定的成長を図るべく各国の為替相場の安定維持をめざし、為替政策の監視を旨として、現実的には、主に先進国を対象に、金融政策をコーデイネートする国際機関としてあり、世銀(WB)は、当初,先進国の復興と途上国の開発を目的とした国際復興開発銀行(IRDB)として出発したもので、その後‘60年に設立された国際開発協会と合わせて世界銀行となり、今では主として途上国の開発支援を目的として活動する金融機関です。この二つの機関、IMFと世銀は、第2次世界大戦の終結直前の1944年7月、戦後の世界経済の運営について、米国ニューハンプシャー州のブレトンウッズの地で米 国が主導する形で、連合国が取り決めたもので、1946年3月、米ワシントンDCにおいて創設された国際金融機関です。そこで、これらを以って戦後世界経済の体制をブレトンウッズ体制と称されているのです。

そこで、この機会に、中国が主導するAIIBとはどういった金融機関なのか、世界経済に占めるポジション、そして、その背景や狙いは何なのか、米国と他G7諸国の対応の相違、そして日本の対応をどう考えていくべきか、等々、以下考察する事としたいと思います。
1.中国主導のAIIB創設、そして「新型国際関係」

(1) AIIB創設 - その経緯と問題

・AIIB構想と、その背景

2013年10月3日、中国習近平主席は、北京でのAPEC首脳会議開催を直前にして、インドネシアを訪問、同国議会で演説を行っていますがその際、アセアン諸国と海上協力を強化し、「21世紀海上シルクロード」の建設を提唱、同時にアジア地域の経済開発への資金援助機関としてアジアインフラ投資銀行(Asian Infrastructure Bank : AIIB)の構想を打ち出し、斯界の注目を引く処となったのです。そしてそのAIIBが今、動き出そうとしていると言うものです。

実は、同主席は、その直前の9月7日には、カザフスタンを訪問、現地ナザルバエフ大学で演説を行い、ユーラシア各国の経済連携を密にし、新しい経済発展モデルとして共同で進める「シルクロード経済ベルト」建設の構想を打ち出しています。
上述「21世紀海上シルクロード」と合わせて、‘陸と海のシルクロード建設プロジェクト’となるもので、これは、2013年の秋、習近平主席が「一帯一路」と呼ぶ「新シルクロード経済圏」構想とされるものです。そして、言うまでもなくAIIBはその構想の一環と位置付けられるとともに、当該建設プロジェクトへの援助金融機関としてリンクされていく事になるものです。

AIIBは上述事情からは、アジアのインフラ建設やインフラを通じた各国感の物理的な連結性を強化し、経済発展を支援していく事を目的とする開発支援のための国際金融機関とされるものですが、一言でいって中国主導の、或いは、それ以上のインフラ銀行と映る処です。尚、2014年11月、中国政府は自身の為の開発案件に係る資金対応として400億ドルの「シルクロード基金」をも開設しています。つまりマルチ対応のAIIBと中国主導案件対応の基金と併せ、内外対応の両輪が揃うことになったと言うものです。

時に、こうした大構想について、戦後米国が進めたマーシャルプラン、つまり欧州復興援助計画に擬せられ、また戦後の金融秩序となっているブレトンウッズ体制にAIIBの設立を重ね、これがブレトンウッズ体制を揺るがす、との議論を惹起させる処となっています。

・なぜ今、AIIBの創設か

アジアには日米が主導するアジア開発銀行(ADB)があります。では何故今AIIBか、と言うことですが、設立準備委員会(多国間臨時事務局)の委員長、金立群氏(初代総裁就任予定)は、「既存の国際金融機関では、それら主導する欧米諸国の意向が強く反映されて、必要な改革ができないので新たな国際機関を設立することが必要だ」と云うのです。

実の処、中国はADBの出資比率を上げるよう、これまでも訴えてきています。然し、影響力の維持を狙う最大出資国の日本そして米国は、その増資には反対を貫いてきています。
2017年から実施予定の自己資本の改革でも、増資は棚上げになっています。そうした実状へのいら立ちが、新興大国 中国にAIIBの創設を促したとされるのですが、つまりは日米が招いた結果とも言える処です。 とすれば、経済大国としての役割を求める中国、これまでの言うなれば権益に拘る米国、とりわけ米議会の保守的圧力ですが、これに追随して動く日本、この双方の環境変化への認識のズレが気になるというものです。

つまる処、日米が中心に運営してきたアジア開銀(ADB)など、既存の国際機関で発言力の向上が進まないことへの不満が、独自の構想へ動かせたとされるのです。因みに、4月16日、米ワシントンで開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議では、新興国のそうした既存国際機関への不満を背景に進まぬIMF改革への不満が噴出したと報じられています。

ただ、中国としては、それ以上にリアルなストーリーとして、いまや日本をはるかに超す、世界第1位の、およそ3.8兆ドルという外貨準備を有する中国政府には、その資金力を活かし周辺国との連携強化を図り、言うなればAIIBを介し、実利で求心力を高め、中国の経済大国を誇示しつつ、新たな秩序作りを目指す戦略にあるというものです。それは米国主導の多国間の枠組みへの挑戦とも映るところであり、その点で、後述するように、米国は極めて神経質に受け止めていると言うものです。

尤も、アジア開銀(ADB)の中尾総裁は、高まる資金需要に応えるべく、現在の融資枠135億ドルを2017年1月より4割増の180億ドルに拡大する事とし、その為に二つの基金の統合を進めている(Financial Times, 2015/3/9)由ですが、経済成長を続けるアジアでは年間8千億ドル(約97兆円)が必要で、その点ではADBだけでは賄いきれないとして、アジアの膨大なインフラ需要を考えるとAIIBの設立は理解できるとしています。

3月25日、安倍首相との会談を終えての記者会見でも、「協調融資が(AIIBとの)、一つの大きな補完関係になる」(日経2015/3/26)と協調融資の可能性を指摘していたのです。

序でながら、銘記すべきは、2016年のG20首脳会議の主催国は中国となっています。それだけに中国としてはAIIB創設と言う大きな花火を打ち上げたいと言う事でしょうか。

・問題はAIIBの運営(ガバナンス)

さて、今年年内の稼働を目指して参加国の出資金額の取り決め等、実務が進められることになっていますが、現在伝えられているAIIBの経営の枠組みとしては、承知する限りにおいては、資本金は1千億ドルを予定し、その内、750億ドルをアジア域内に、250億ドルを域外に割り振ることで調整中とされています。具体的には、各国の出資比率は原則として経済規模(GDP)に応じて決めることになるとされており、となれば、中国が最大の出資国となる見込みですが、参加国が増えたことで、当初の想定(最大40%)よりは低くなるものと思われます。

本部所在地は北京、初代総裁には前出、中国の元財政次官で現準備委員長、金立群氏が就くこととされています。ただ、理事会の常設予定はなく(この点が、組織運営上のガバナンス問題と、いたく指摘されている処です)、となると中国の影響下にある事務局の権限が大きい国際機関と言うものです。つまりは、AIIBは一言でいって‘中国が仕切るインフラ銀行’というものです。

問題は、この‘中国が仕切る’と言う点です。と言うのも57カ国の参加を擁するもAIIBには常設の理事会は置かない事となっています。であれば、取り上げる案件が中国の政策に合ったものに限られることになるのではないのか、融資審査のあり方はどうなるのか、更には、党の指示に逆らってまでAIIBが独立性を保ち融資先を決められるのかといった、中国政治(党)の特異性が齎すであろう影響を危惧する、言うなればより本質的な問題も指摘される様相にあるのです。

要は、中国が主導権を握れば、意思決定の仕組みや融資基準が不透明になり恣意的な判断が交じる不安がある、つまりは「中国は本当に公正な運営ができるのか」と、言う組織としてのガバナンスが問題と言う事ですが、これらはまさに米国が参加を見合わせる理由とする処です。さて中国は走りながら考えるスタンスに見受けられますが、今後こうした不安をどのように払拭していくか、やはり懸念の残る処です。

(2)習政権の目指す「新型国際関係」とAIIB

先月3月5-15日、北京で開かれた「全人代大会」で注目されたことの一つが、習近平政権が「新型国際関係」という新たな概念を打ち出したことでした。その間の3月8日に行われた記者会見で王毅外相は、その「新型国際関係」について触れ、中国が大国としての責任を果たし、米国一極支配を念頭に「これまでの国際秩序を改善」し、「協力と互恵に基づく新たな関係」を目指すと発言しています。
つまり、「戦後70年で国際的な枠組みも大きな変化が生じている」とし、米国を念頭に「1騎で戦う古い考え方、勝者総取りの古い考え方、は捨て去るべき」であり、「これまでの秩序を刷新・改善するための改革が必要」(2015年3月9日付日経)と主張していたのですが、さて「大国を自認」する姿勢には、なんとも違和感を禁じ得ないと言うものです。

中国は、これまで米中関係について、共に大国として共存できる「新しい形の大国関係」を提唱してきていますが、今回「新型国際関係」という概念を打ち出した背景には、今後、米国と伍していく為には、より多くの国に協力を呼びかける必要が高まったとの判断があったと伝えられています。 因みに、近時、「冷戦の対立は存在しない」、「国際秩序は絶えず変化している」とは習近平氏の語り草とされている由ですが、言うまでもなく既存の国際秩序の中心にある米国を強く意識したものであること、云うまでもない処です。

・ボーアオ・アジアフォーラム

3月28日、中国のリゾート地、ボーアオで開かれた「ボーアオ・アジアフォーラム」(注)での演説の中でも、習近平主席は「新型国際関係」にふれ「中国が経済大国としての責任を果たし、これまでの国際秩序を改善し協力と互恵に基づく新たな関係を目指すもの」(日経3月29日付)と言及しています。要は、経済力をテコに各国との結びつきを強め、アジア外交の主導権を握る構えと、映るというものです。

つまり、前述、「陸と海のシルクロード構想」(一帯一路)を掲げる習近平主席の目指すは、AIIBをその構想の推進役に置き、そして周辺国外交を強化し、「運命共同体」と呼ぶ緩やかな経済圏を形成すること、更には、安全保障面での安定にもつなげる戦略とも思料されるのです。とすれば国際機関とは言えAIIBは、結局は中国自身の政策の為のものでは、との懸念再びですが、この点、前出「シルクロード基金」との連携で解決されていくとされていますが、さて、どのようにマネージされていく事になるのか、疑問は続く処です。

(注) ボーアオ・アジアフォーラム:スイスのダボス会議(世界経済フォーラム)にならい、そのアジア版をめざすもので、中国政府の全面的支援を受け、2001年2月27日に設立。(アジア25か国、オーストラリア、計26か国が参加)2002年4月12~13日、中国海南省のリゾート地、ボーアオで第1回会議が開かれ今日に及んでいる中国主導の国際会議
2.米国の懸念と‘割れるG7’

米政府は、AIIBは米主導のブレトンウッズ体制への挑戦と受け止め、これへの参加を否定、また日本も米同盟を優先させる形で参加を見合わせ、カナダも同様にある処です。一方、欧州メンバーの英・独・仏・伊4カ国は、AIIBに参加、これでG7はまさに仲間割れの体をなす処ですが、この姿は、そのままG7の世界経済における力の低下を映す処とも言うものです。

(1)AIIBを巡る米国の懸念、そしてメデイアの示唆

・米国の指摘する問題 ― AIIBのガバナンス

米国がAIIBに問題ありと批判し、参加を見合わせた理由は先に触れた通り、組織運営に係るガバナンスの問題です。つまり、中国が最大の出資国として、その議決権シェアーを最大としながら、世銀やADBとは異なり、本部に常駐の各国政府代表者(理事)は置くことなく運営すると言う点です。具体的には、常設理事会なしの状況で、アジアの加盟国の間で政治的意図が共有できるのか、インフラ支援の優先度をどう見極めて対応することが出来るのか。また、インフラ事業に於いては環境保全や人的・社会的保全の基準、調達方式等、問題とするのですが、各国の政府代表の常駐無くして合理的な判断がやっていけるものか、と言うものです。つまりガバナンスです。

因みに、ADBの場合、プロジェクトの審査に当っては、アジア域内の8か国と域外の4か国、合計12か国で構成する理事会にて審査が行われ、その際は、環境に配慮したり、恣意的な融資を防いだりすることになっています。こうした仕組みを「国際標準」と主張する米国は、それが整備されない状況にあっては参加は無理とするのです。
AP通信によると、3月30日、ルー米財務長官は、北京で李克強首相と会談した際、「グローバルな経済秩序の中で、中国が果たす役割は重要になってきている」としながらも、「AIIBは運営で高い基準を維持し、既存の国際金融機関と協力すべき」と注文をつけ、併せて現時点ではAIIBへは参加しない旨を伝えています。

・米国が懸念する最大のポイント

とは言え、米国が懸念する最大のポイントは、いかに中国がアミカブルに説明しようが、中国はこのAIIBをテコに人民元を国際化することにある、と見る点です。

SWIFT(Society for World Interbank Financial Telecommunication,:国際銀行間通信協会、1973 設立 本部:ベルギー)によると2014年12月の世界の資金決済に占める人民元建ての比率は2.17%と、日本円の2.69%に迫る第5位に浮上した由です。

今年はIMF特別引き出し権「SDR」の構成見直しが予定されており(5年毎の見直し期)、そこで、中国政府は、これに合わせて人民元の採用を目指すと伝えられていますが、要は米ドル、ユーロ、英ポンド、日本円に次ぐ第5の国際通貨としての地位の確立を狙うと言う事です。そうしたシナリオの下、中国は4兆ドル近い外貨準備を活用しながら人民元決済圏の拡大を目指しているのですが、AIIBは言うまでもなく、その為の有力手段にもなると言うものです。こうした中国の動きの先には、人民元の基軸通貨化が視野に入ってくると言うもので、実はこの点こそが、米国が警戒する最大のポイントと言うものです。

つまり、米国の最大の強みは金融パワーにあり、その源泉は米ドルが基軸通貨であり続ける事にあるとするもので、従って現下のIMF、世銀を核としたグローバル金融秩序は米国の国益そのものと認識される処です。それだけに、そうしたシステムに風穴を空けることにもなるAIIBの創設は米国としては受け入れ難いとうものです。
とは言え、現実にAIIBが動き出すとなると、アジア諸国と中国との関係は急速な変化をきたす処となり、併せて米中関係にも質的な変化が予想されるだけに、これらにどのように対応していくか、米国は大きな課題をかかえる処となったと言うものです。

・Financial Times の米国批判‘米国のAIIBを拒絶する愚’

実はこうした米国の懸念に応える形で、3月25日付Financial Timesは‘ It is folly to rebuff China’s bank ’(AIIBを拒否する愚)と題し、以下の四点を示すのでした。
一つ、米欧そして日本は、グローバルな金融機関に一定の影響力を大事にしているが、その影響力と世界に於けるこれら国々の地位とのギャップは次第に大きくなってきていると。二つ、5年前、IMFで一部の国に過大な影響力が集中するのを改善すべく、出資比率見直しが決まっているが、米議会の批准待ちのままに置かれている。これは責任の放棄だと。三つ、途上国に長期資金が大量に流入する事で世界経済は恩恵を受ける。また資本流入がsudden stopとなっても、IMFよりも大きな保険を提供する機関ができる事も世界経済にとって利益になる、と。
そして更に、後出、英国のAIIB参加決定に対し、米国政府が、その決定は英国の中国への`constant accommodation’ 、変わらぬ‘配慮’と批判した点について、accommodationに変わるものは conflict, ‘対立’だとした上で、中国の経済発展は有益であり、不可避だ。そのため必要なのはintelligent accommodation ‘理性的な配慮’だと、いうのでした。

さて、今の米政府にこうした意味が通じるものか。この9月、習近平主席は国連創設70年の記念行事に出席の為、訪米し、オバマ大統領との首脳会談が予定されています。これがより建設的なものにならん事を期待するばかりです。

(2)割れるG7―米国の対英非難、そしてrealisticに動く欧州G7

・英国のAIIB参加決定を非難する米国

さて、3月12日の英政府の突然の参加表明は、まさに英国ショックと言うものでした。すぐさま米政府は、その決定を過ぎるconstant accommodationと強く非難すると共に、米国のこれまでのAIIB批判を、そのまま英国に向ける処となっているのです。

元々、米国の反発の背景には中国の政策銀行である中国輸出入銀行の融資行動にもあると言うもので、アフリカやアジア地域ではADBが途上国融資などを巡り、中国輸銀に競り負けるケースが後を絶たないこと、更に、AIIBが巨大な中国輸銀と化すことにでもなれば世銀などが戦後積み上げてきた開発金融政策が揺さぶられかねない、と言う懸念があるとされてきています。 そうした状況を承知しているはずの英国が、運営については圧倒的に中国主導になるAIIBに、そして公正な経営統治は望めないのに、何故に中国に協力するのか、と言う苛立ちとされる処です。
そうした米国のイライラにも関わらず、前述の通り、17日にはフランス、ドイツ、イタリアも参加を表明したことで、‘G7は仲間割れ’とメデイアを沸かせたと言うものです。

・結束揺らぐG7

G7、先進7か国 首脳会議とは、冷戦下の1973年のオイルショック、それに続く世界不況への対応を討議するため当時、日米英仏による会議(ライブラリーグループ)がもたれたことに原点を置くもので、1975年には当時のフランス大統領ジスカール・デスタンの声がかりで西ドイツが加わり、初のG5がスタートし、逐次イタリア、カナダが加わってきたことでG7会議が編成され、爾来、このG7がブレトンウッズ体制下の世界経済を主導してきたと言うものです。(注)

(注)1998年ロシアの全面的参加でG8会議となったが、2014年、ウクライナへの軍事介入によって、G8への参加は停止(ハーグ宣言)となり、現在は冷戦下のG7に戻っている。

この主要7カ国(G7)は、民主主義という共通の価値観の下、当局間の極めて緊密な連携と周到な根回しで知られた仲間とされてきましたが、あろうことか突然の英国のAIIBへの参加表明は、米国は言うまでもなく日本もその発表には驚き隠すことはなかったのです。

ただ、英国の事情としては、5月7日に迫る下院の総選挙という内政事情が働いたと言う事、と同時にAIIBへの参加申請の締め切りが3月31日とされた事、こうしたタイミングが重なったことが英国の背中を押したと言うものです。いずれにせよ、英国としては対中関係の強化を打ち出し、アジアでの事業拡大を狙う経済界からの支持につなげたいキャメロン政権の思惑が、中国カードを切らせたと、思料される処です。

一方、フランスにしても、ドイツやイタリアにしても、いずれも「一帯一路」の構想の下、高速鉄道等、インフラ開発が進むことで欧州にとって中国と言う大市場が近くなり、その経済効果を期待しての参加と言うものです。もとより、中国にしても周辺国でのインフラ開発の推進は、自国に抱える過剰設備の吸収先とも考えている処です。

AIIBへの参加を巡りG7の結束が揺らぐ、云々と言った噂が舞う処ですが、要は、欧州側の行動様式と日米のそれとの違いを鮮明としただけのことなのです。つまり、欧州勢は経済大国中国の目指す役割の変化を受け入れ、実利的視点から協力していこうと現実的対応を図ったのに対し、米国側は、現下の世界経済の規範を堅持し、もって米国としての覇権を維持せんとする姿勢との違いを鮮明としたと言うことです。ただ、こうした現実は、中国を巡る‘環境変化’に対する受容力の差として認識されると言うものです。

かつてはG7が世界経済における大きなシェアーを占め、流れを決めてきました。然し、主要な議論の場がG7から今や、G20に移ってきています。とりわけ、開発や環境と言った広いテーマなどはG7だけでは対応できなくなっている現実は、そのままG7の世界に於ける比重の低下を語る処であり、そうした文脈において、いつまでもG7の結束を云々と言って、詮無い事と映るばかりです。

是々非々で事に臨む欧州、議会との関係もありAIIBに否定的なままにある米国、まさに新たな環境での新たな関係、を映す現実というものでしょうか。

3月19日付Financial Times は、Accommodating Beijing may be no bad thing,(北京に合わせていくも悪い事ではないのでは)とする記事で、‘The split over the bank is part of a much broader question of how to deal with a rising China general’ つまり、AIIBの参加をめぐってG7が仲たがいしているが、問題は、台頭する中国とどう付き合うかという、ずっと大きな問題の一部だと、指摘するのです。まさに正論と言う処です。

いずれにせよ、今次、AIIBの創設は、米国が主導してきた戦後のブレトンウッズ体制に風穴を空けることで、米中心の一極構造が転機を迎えたことを、明確に語る処と言え、それは、戦後70年、ブレトンウッズ体制を見直すべき時期にあることを示唆する処です。
3. AIIB参加の可能性と、日本に求められる思考様式

(1)期待される日本の参加

AIIBは57カ国の参加を得て出発することになったわけですが、(当初、米国ではAIIBを潰す動きがあったと噂されていたのですが)、いま、これをより国際機関にしていこうとの流れが生まれてきたやに窺えます。そうした流れを作ったのは、英国であり、欧州G7だったと言えそうです。その限りにおいて、米国ばかりに目を向けていた日本は、その‘競争’に負けたと言う事でしょう。そうした環境の中、麻生財務大臣はプレスとの対話では、案件の審査基準、審査要領等、公正なガバナンスが問題と、紋切り型の応答を繰り返していますが、このままでは日米共々、当該環境変化の波の中に、置き去りとなる事が懸念されると言うものです。 日本政府はAIIB参加については6月末に結論を出すとしていますが、この際はとにかく参加を前提に、改めて環境分析を行った上で、日本としての協力姿勢を示していくべきではと、思料するのです。

具体的には、世界経済を展望し、その下での米中関係の生業・推移を見極め、それを規範として米中に対して、日本はどのような付き合い方をしていくべきか、つまり日本の立ち位置を自覚し、自立的な対応を考えていく、そうした思考様式を整えておくことを旨とすべしと思料するのです。

また、既に指摘されている問題については、先述したように中国の走りながら考える姿勢にある処、内部から、創設メンバーと共に、改善を目指していく事としてはと、思料するのです。因みに3月21日付The Economistは、‘A bridge not far enough’(アジア開発にはAIIBだけでは不十分)と題する巻頭言で、 AIIBの運営問題が云々されているが、内部に入り込み、言うなれば理事となって、内部から改善をめざすべきこと、更に、既存の国際金融機関の改革、改善は必要だが、もはやそれは米国一人で出来るものではない。そうした現状からは、米国はAIIBを受け入れるべきであり、又中国は米国に参加を招聘すべき、と指摘していたのです。

4月14日、日本国際貿易促進協会の訪中団々長として中国を訪れた河野洋平元衆院議長は北京で李首相と会談した際、‘遅れても参加してほしい’、‘ADB の歴史と経験を学びたい’と要請を受けたと伝えられています。 AIIB幹部も日本の参加を待っているのです。

・AIIB参加検討への留意点

そこで、検討に当たっての留意されるべき点について、以下指摘しておきたいと思います。

まず、AIIBの創設は日米が招いた結果であるという現実をよく理解する事と思料します。こ事は同時に、今次、57カ国と言う想定をはるかに超える参加があった事の意味を理解することに通じる処です。と言うのも、欧州勢の参加は先に見たように実利をベースとした対応ですが、多くの新興国、途上国の参加は、これまで先進国主導の開発銀行が彼らのリクエストに応えてくれなかったことの不満が、AIIBに向かったとされるだけに、その現実を理解することはアイジア開発を旨とするAIIBを考えていく上で不可欠のことと思料するからです。

そして、その上で、言うまでもない事ですが、AIIBはアジアの開発のための国際機関であると言うこと、そして日本は、そのアジアの国であり、米国とは立場が違う、と言う点を自覚したうえで、勿論日米同盟の強化は大切ですが、日本としての参加の意義を多元的に確認しつつ、議論されていく事が肝要と思料するのです。

更に留意すべきは、主要国のAIIBへの参加を目の当たりとするとき、その結果としてAIIBの発行する債券は高格付けも得やすくなる事、そして資金調達コストも抑えられていくことともなれば、AIIBの活動の幅が広がっていく事も頷けるところで、とすれば、日米がアジアの開発金融の主導権を保つことが一段と難しくなっていくように映るという事です。つまり、存在感を増す中国に旧来型の日米連携では対応しきれなくなってきた現実を理解し、同時に、変化するアジア経済への対応を深く練り直したうえで、日本として高い次元に立った意思決定に向かうべきと思料するのです。

(2)そして、TPPの実現を

と同時に、経済秩序という点からは、AIIB構想とは対照的に、日米が核となるTPP(環太平洋経済連携協定)があります。 TPPには日米の他、アジア10か国が参画しており、かれらはAIIBの創生メンバーともなっています。TPP交渉は未だ米国内の事情で大幅に遅れていますが、これが実現すれば、新たな経済秩序の土台となることが期待されると言うものです。因みに、TPP効果としての経済規模は28億ドル、その対世界シェアーは38%とも言われています。そして、これがAIIBとの連携が取れることともなればAIIBの規範も必ずやそれに馴染むことになっていく筈です。

尚、AIIBは6月末に設立協議を終え、とにかく中国の影響下で国際機関として出発します。で、それまでにTPPの姿が見えてこなければ、域内の経済秩序作りは中国主導の流れになっていくとみられるのです。その点では、TPPの実現に向けた果敢な行動が求められると言うものです。その点、4月16日、通商交渉を纏める上で必要なTPA(大統領貿易促進権限)法案が米議会上下両院に提出された由で、その進捗が期待される処です。
おわりに スティーブン・ローチの論理

先月、手にした米エコノミスト、スティーブン・ローチの近著「アメリカと中国―もたれ合う大国」(日経出版、2015年2月)、(原題:UNBALANCED, 2014)は、「中国とアメリカ、いや中国対アメリカと言うべきだろうか?その区別は21世紀の最も重要な二国関係の核心を突く事となる」との書き出しで始まるのでした。この極めて簡潔な一文は、米中の微妙なパワー・バランスの変化、そしてそれが示唆する世界の構造変化をも活写するものとして、極めてビビッドに感じさせられるものでした。実は、このフレーズこそが、今回の論考の下敷きとなっているのです。
そして、彼のcontextに於いて、今回のAIIB参加を巡って露となった問題の基本は何だったのか、振り返ってみるとき、アジア外交に関して日本も米国も、時代の変化に対応した新たな戦略が、未だ練りきれていなかったという事と、気づかされた次第です。

一方、かつて日本は自ら先頭に立ち、それをアジアが追随する雁行型発展を目指してきましたが、本論考を進めるなか、それが今、中国が先頭に立ち、そして、アジアがそれに追随する新しい枠組みが形成されつつある現実を、実感させられたと言う次第です。

処で、安倍晋三首相は来週、訪米し、28日の日米首脳会談に加え、29日には米議会での演説が予定されています。1961年の池田勇人首相以来、54年振りとなるものです。戦後70年、世界は今、大きな転機にある処と思料されます。それだけに、安倍首相には、日本が平和国家として世界でどんな役割を果たして行こうとするのか、しっかりと語ってもらいたいと思うのです。そして‘「将来」の話に説得力を持たせるには「過去」の総括も明確に伝えることが大切’(日経4月19日付)と思料するのです。そして、それこそが、AIIB参加への規範となる処と深く思う次第です。

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