米中覇権争いの狭間で日本が生き残るためには
米中はアジア・太平洋地域で激突――日本の国難
前々回と前回、米国と中国のアジア・太平洋戦略について述べた。中国は軍事・経済の両分野で急激に台頭し、その「パワー」を背景に南シナ海・東シナ海における挑発行為をエスカレートさせ、日本やベトナム・フィリピンなどに圧力を加えている。中国の究極の目標は、アメリカに「新しい大国関係」を認めさせ、世界の富が集中するアジアからアメリカを追い出し、西太平洋を含むアジアと西太平洋を中国の影響下に置くという「大平洋二分論」を追及しているものと思われる。
一方の米国は、軍備を縮小し、もはや「世界の警察官」の責任を放棄せざるを得ない立場に追い込まれている。戦線の縮小を余儀なくされた米国は、ヨーロッパ、中東、アジア・太平洋の三戦略正面を天秤にかけ、特に重視する戦略正面としてアジア・太平洋を選んだ。世界の富が集中し、経済発展が著しいアジア・太平洋で中国と覇を競うおうというのがその理由だろう。米軍は、アジア・太平洋重視戦略に基づき急速に台頭する中国軍に対してリバランス―― “巻き返し”――を図ろうとしている。アジア・太平洋地域を巡る米中の覇権争いは、今後一層熾烈なものになると思われる。
米中双方のアジア・太平洋を重視する戦略にとって、日本はいわば“天王山”の価値があり、局外で傍観することは許されない。歴史的に見れば、現下の危機的事態は、蒙古来襲(文永・弘安の役)、日露戦争、大東亜戦争に続く4回目の国難と見るべきだろう。
二段階の日本防衛体制強化論
このような日本の安全保障環境の現状を喩えて言えば「前門の虎、後門の狼」。勿論「虎」は中国のことだが、「狼」は米国のこと。米国は、今は同盟関係にあるが、日本に対して戦後の占領政策を未だ巧妙に継続していることは事実である。しからば、わが国はこの「虎と狼」の牙からどうやって身を守れば良いのだろうか。
安部政権は、日本版NSCの創設や集団的自衛権の行使を容認した憲法解釈の変更等の施策を打ち出し、我が国の防衛体制強化に邁進しており、喜ばしい限りである。今後、更なる防衛力強化のための方向性として、筆者は次のように「二段階の日本防衛体制強化論」を提案したい。
戦後日本の国防は、米国との安全保障体制を基調としてきた。しかし“中国の台頭と米国の凋落”という流れの中で、日本側から見て、日米同盟には二つの問題となるシナリオがある。第一は、米国が日本を守れる軍事力はあるのに、自国の都合で一方的に「日本を見捨てる」場合。第二は、米国が国防予算の大幅削減を余儀なくされ、事実上日本を守る能力がなくなる事態。
第一段階の防衛体制強化は、米国が「日本を見捨てる」というシナリオを念頭に置いたもの。日本は当面、戦後一貫して堅持してきた日米同盟に国防を依拠することを大方針に、日本の役割分担を増やす覚悟が必要である。米国はアジアにおいて引き続き中国に対抗して覇権(既得権益)を維持したいのは山々であろう。日本が「見捨てられない」ためには、米国のアジア・太平洋戦略(対中国戦略)に可能な限り協力して米国の中国に対する覇権を確保・維持できるようにアシストしてやることだろう。第一段階の防衛体制強化の目標は、日米安保条約の“片務性”を解消し、努めて“双務性”に近づけることだ。日本が、“米国のポチ”状態から脱して、対等に物を言えるようにするためには、安保条約第5条の“片務性”の解消が必須である。その意味では、安部政権が集団的自衛権の行使を容認した憲法解釈の変更を行ったのは画期的前進だ。
第二段階の防衛体制強化は、米国が国防予算の大幅削減を余儀なくされ、真に頼りにならない同盟国に転落し、事実上日本を防衛する能力がなくなる事態を念頭に置いたもの。
第二段階の防衛体制強化においては、第一段階の防衛努力を引き続き加速し、最終的には“最小限、自主防衛が可能な国防体制”を構築することを目指す。第二段階の防衛体制強化には、核武装も想定している。“最小限、自主防衛が可能な国防体制”には、日米同盟に代わる中国、ロシア、インドなどの大国との新たな外交関係の構築も含まれる。
日本としては、日米同盟に関する第一・第二シナリオのいずれに対処するためにも、自主防衛力の強化が不可欠である。その気概なくして、この国難の時代に日本が生き残れる体制を確立することはできない。
「狂瀾を既倒に廻らす」というポジティブ・マインドで
日本が自主防衛体制構築を目指すためには、戦後レジームを受け入れ“米国に国防を依存する”という日本世論を「回天」する必要がある。「回天」とは、時勢を一変させること、あるいは衰えた勢いを盛り返すことである。戦略家のルトワックの「逆説的論理」の通り、尖閣諸島に押し寄せる中国の公船が“平成の黒船”の役割に作用し、日本の世論が「回天」することを確信したい。幕末に、ペリーの黒船が“維新の回天”を可能にしたように。
「狂瀾を既倒に廻らす(すっかり悪くなった形勢を、再びもとに回復させる)」という言葉がある。日本人は、有史以来最大の国難に直面しているが、今こそ腹を据えて、中国の脅威に対する国防と戦後70年近くに及ぶ米国従属からの日本独立のチャンスと捉えるしたたかなポジティブ・マインドを持つことが重要だと思う。
(おやばと掲載記事)