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オバマの対中国戦略

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前回「習近平の野望」と題し、中国のアメリカに対する挑戦の目的・目標について書いた。中国は、アメリカに対し「新しい大国関係」を認めさせ、世界の富が集中するアジアからアメリカを追い出し、西太平洋を含むアジアを中国の影響下に置くという「大平洋二分論」を追及しているものと思われる。これに対して、米国のオバマ政権はどのように対応しようとしているのだろうか。

 米国の凋落――国防予算の削減
米国の軍事・経済両面における凋落が顕著になりつつある。イラク・アフガン戦争における経費の蕩尽がその大きな原因ではないだろうか。米国の著名なジョセフ・スティグリッツ氏は、「最近のアメリカの軍事介入の失敗による経済コストは、4兆ドル(400兆円)を超えている」と試算している。
米国経済は低成長コースに入るとともに、約7,800万人のベビーブーマー世代が引退し始めたことなどにより財政構造の継続的な悪化が進行し、2012年9月には米国債総発行額が16兆ドル(160兆円)となり、法定上限額(14兆2900億ドル)を突破した。債務不履行回避のために米議会は2011年8月に政府の歳出削減を内容を含んだ債務上限引き上げ法案を可決した。これにより、以後年毎に、具体的な歳出削減案の合意に至らなかった場合は、2013年から9年間かけて歳出を累計1.2兆ドル(120兆円)分強制削減されることになった。注目すべきは、削減額の約半分(10年間で5000億ドル(50兆円))は国防費となる。

 米国防費削減のインパクト
2014年2月、ヘーゲル国防長官は予算削減の“自主的措置”として、陸軍兵力を現在の約52万人から44万─45万人規模に削減する方針を発表した。とはいえ、国防費削減が米国の安全保障にどの位のダメージを与えるかについての具体的議論は収斂していない。いずれにせよ、年度毎の米国予算決定過程で「債務削減合意ができなければ、国防費は強制削減する」という方針――米軍にとっての最大の“脅威”――は続いている。従って、少なくとも今後10年間、米軍が軍拡に向かう可能性は殆どなく、むしろ“ジリ貧”を迫られる状況だ。

 米国は世界の警察官の役割返上
このような流れの中で、2013年9月オバマ大統領はシリア問題に関するテレビ演説で、「米国は世界の警察官ではない」と述べ、米国の歴代政権が担ってきた世界の安全保障に責任を負う役割は担わないとの考えを明確にした。
「栄光ある強い米国」の面影は、いまやない。シリアのアサド政権が自国の反政府勢力に対して化学兵器を使用したのに対し、米国は軍事介入しなかった。引き続き生起したウクライナ危機は、シリアへの軍事介入を見送ったオバマ米政権の「弱腰外交」のせいであり、ロシアにその足元を見られたためだという批判もある。昨今、中国が東シナ海や南シナ海で挑発行為を繰り返す一因も詰まる所は「米軍の落ち目ぶり」に起因するものと思う。

 米国のアジア回帰
軍備を縮小し、もはや「世界の警察官」の責任を放棄せざるを得ない立場に追い込まれた米国は、ヨーロッパ、中東、アジアの三戦略正面のうち、重視正面を限定して選択せざるを得なくなった。オバマ政権は、これら三戦略正面を天秤にかけ、特に重視する戦略正面としてアジア・太平洋を選んだ。世界の富が集中し、経済発展が著しいアジアで中国と覇を競うのがその理由だろう。米軍は、アジア・太平洋重視戦略に基づき、米海軍を大西洋から西太平洋にシフトして、「アジア・太平洋覇権=利権」を守ろうとしている。

 リバランス――中国に対する“巻き返し”
急速に台頭する中国軍に対して米軍がアジア・太平洋地域で“巻き返し”を図る施策をリバランスと呼んでいる。リバランスのためには、①日本・韓国・オーストラリアなどの同盟国との関係の再強化、②現在太平洋と大西洋にほぼ5対5の割合で展開する米海軍艦船の割合を2020年までに6対4に変更し、太平洋に展開する空母について6隻体制を維持、③オーストラリアの北部ダーウィンへの海兵隊のローテーション配備、④タイとの合同軍事演習「コブラゴールド」の充実化、⑤フィリピン軍の能力構築支援と米軍のコミットメントの強化、⑥シンガポールへの沿海域戦闘艦 (littoral combat ship)の配備、⑦ベトナムとの安全保障協力の強化などがある。

 日本に対する期待
米国がアジアの同盟国中最も期待を寄せる国は日本であろう。戦後日本は、米国が下賜した“平和憲法”を盾に、自らの防衛努力を回避してきた。然るに、尖閣諸島に中国公船が挑発する事態などを受け、安部総理が日本版 NSCの設置や集団的自衛権行使を容認する憲法解釈変更の閣議決定など、着実に防衛面の自助努力を行っている。米国としても、大いに歓迎するところで、ヘーゲル国防長官も「強く支持する」と言明している。
日米防衛協力の当面の課題はガイドラインの年内の再改定である。従来は否定されてきた日本の「集団的自衛権行使」が可能となったことを踏まえ、より広範・柔軟な日米防衛協力が出来るようになる。これが、対中抑止力につながるのは論を待たない。

(おやばと掲載記事)

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