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習近平の野望

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これまで、アメリカの戦略家マハン提督のシーパワーに着目した海軍戦略について説明し、引き続き、実は中国がマハンの海軍戦略の忠実な門徒として海軍を設計・拡張していることを説明してきた。しからば、習近平・中国共産党指導部は、このように重視して育成する中国海軍を用いてどのような野望(目的・目標)を達成しようというのだろうか。

 中国の外交方針の変遷
中国に改革開放を導入し今日の経済発展をもたらした鄧小平は、外交方針の一つとして「韜光養晦(とうこうようかい)」をその遺訓とした。「韜光養晦」とは、低姿勢を装って中国の軍事力や領土的野心を隠して、周囲を油断させて、力を蓄えていくという外交姿勢のことだ。日本にもこれと似たような意味で「能ある鷹は爪隠す」という諺がある。
江沢民の時代(1993 – 03年)までは、中国は「韜光養晦」路線を堅持しているように見えた。しかし、胡錦濤政権(2003 – 13年)になると「韜光養晦」路線は徐々に後退し「積極」路線に踏み込見始めた感があった。胡錦濤の後を襲った習近平は、前政権よりも更に覇権主義的な姿勢で挑発的路線を歩み始めたようだ。

 習近平の野望とは
2014年7月の「第6回米中戦略・経済対話」で、習近平は米国代表団を前に演説し「天高く自由に鳥が飛び、広がる海を魚がはねる。私は『広い太平洋には中米両大国を受け入れる十分な空間がある』と感じる」と述べ海洋進出への強い意志をのぞかせた。鳥は中国軍機で、魚は中国潜水艦のことを示唆しているようだ。
習近平は2013年6月に実施された米中首脳会談においても、中国がアメリカと並び立つ大国の地位につくという意味の「新しい大国関係」を主張している。これも、前述の演説の趣旨と軌を一にするものである。
更に溯れば、2007年頃、人民解放軍の幹部が訪中した太平洋軍司令官キーティング米海軍大将に「将来、中国と米国がハワイで太平洋を2分して管理しよう」と太平洋二分論を持ちかけ話題になった。米中間の戦力格差が歴然としていた当時は、話があまりにも突飛なので「ジョーク」と受け止める向きがほとんどで、さして将来を危惧する声は出なかった。しかし今回の習演説に鑑みれば、この人民開放分幹部の太平洋二分論発言は本気だったのだ。

 アジアの主導権奪回を狙う習近平――中国の対アジア外交・軍事戦略
アメリカに「新しい大国関係」を認めさせ、太平洋を東西に二分して管理するための中国の戦略(アプローチ)はどのようなものだろうか。2014年5月に上海で実施されたアジア相互協力信頼醸成措置会議(中国、ロシア、イラン、パキスタンなどの大陸国家)において主催国中国の習近平は演説で中国の対アジア戦略について「アジアの安全保障はアジアの手で」、「第三国想定の軍事同盟強化に反対」、「アジアに新安保協力の枠組みを構築」などを挙げた。
まず「アジアの安全保障はアジアの手で」という中国の意図は、アジア以外の国、つまり具体的には、アメリカが、アジアの安全保障に関与すべきでないというアメリカ排除のねらいがこめられている。つまり、アジアへの回帰をめざすアメリカを牽制し、アメリカの影響力をアジアから除こうという意味であることは明白だ。
また、「第三国を想定した軍事同盟の強化に反対」ということは、中国の軍備増強や海洋進出に対抗(口実と)して日米が同盟関係を強化することを牽制するという意味だ。これを南シナ海正面で見れば、中国と対立するフィリピンやベトナムがアメリカと軍事面での協力を深める動きを阻止しようという狙いがあろう。
さらに、「アジアに新安保協力の枠組みを構築」とは、アジアに新しい安全保障の枠組みを作るということで、これは、アメリカをアジアから排除した上で、中国が主導する安全保障の枠組みを、今回の信頼醸成措置会議を母体に、構築しようという意欲が伺える。

 中国の経済・金融面における対アメリカ戦略
国力の二大要素は、軍事力と経済力だろう。中国は経済戦略においてもアメリカに挑戦しようとしている。第一に、貿易や投資に伴う資金決済で人民元を使用する動きが世界的に広まっている。中国と他の国との資金決済額に占める人民元のシェアは2014年5月時点で12パーセントに上昇した。第二に、中国はBRICS5カ国共同で「新開発銀行」を設立を目指し、米欧主導の通貨体制(ブレトンウッズ体制)に対抗し、途上国への影響力拡大を狙っている。第三には、中国主導の「アジアインフラ投資銀行」を創設を目指し、日米主導のアジア開発銀行に対抗しようとしている。

 万物は流転する(ヘラクレイトス)
習近平の太平洋二分論は、大航海時代の1494年にスペインとポルトガルの間で結ばれたトルデシリャス条約を想起させる。「新世界」への冒険的航海の覇者となったポルトガルとスペインは「新世界」争奪で「手打」をし、西アフリカ沖海上の子午線(西経46度37分)の東側の新領土がポルトガルに、西側がスペインに属することとした。
その後、様々な国家が覇権争いをし、幾度も戦争が行われた。そして今日、覇を争うのが米中両国だ。15世紀末、世界の覇権を争ったポルトがルとスペインの今の姿を思えば、米中両国が今後辿る道は大変興味深い。50年後、100年後、両国は大国の地位を維持しているだろうか。

(おやばと掲載記事を転載)

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