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中国海軍近代化の方針とその現状(前半)

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以下、中国海軍近代化の方針について述べ、中国海軍の近代化の原状について、二回に分けて説明したい。

 海軍近代化の方針
人民解放軍は、米軍を仮想敵として捉え、「『情報化』という条件下における局地戦」、すなわち、「高強度(比較的高いレベルの紛争状態)の、情報を中心に据えた、短期的な地域軍事作戦」を戦って勝利できる軍事能力を目指して、長期・包括的な軍事近代化計画を推進している。中国海軍も、このような人民解放軍全般の方針の下、①強大な海軍の建設、②近海で洋上戦闘を行う総合戦闘力の向上、③核反撃能力の向上、④より遠方の海域において作戦を遂行する能力の構築(空母戦力の構築を含む)、⑤水上艦艇、潜水艦、揚陸艦など海軍全般の能力向上、⑥戦略ミサイル原子力潜水艦(SSBN)の更新――を目標として、海軍建設を進めている。

 中国海軍戦力の近代化の現状
中国海軍の近代化の現状について、今回と次号の二回に分けて説明したい。

海軍の「量」
海軍の「量」としては、主力水上戦闘艦(駆逐艦およびフリゲート)約79隻、潜水艦50隻、水陸両用艦および中型揚陸艦51隻、ならびにミサイル搭載哨戒艇86隻を保有している。因みに海上自衛隊は、護衛艦47隻(そのうちミサイル護衛艦8隻、ヘリコプター搭載護衛艦4隻)、潜水艦16隻、ミサイル高速艇6隻なとなっている。量的に見れば、中国海軍は海上自衛隊を凌ぐ規模になりつつあることが分かる。

海軍の「質」――戦闘艦の戦闘能力のマルチ化の促進
海軍の「質」に関しては、戦力は僅か10年ほどの間に大幅に強化されつつある。1990年代以前の艦隊とは対照的に、海軍の多くの戦闘艦(プラットフォーム)は、高度技術の領空防衛システム、射程185km以上の近代的ASCM(対艦巡航ミサイル)、および魚雷・機雷を装備している。これらの能力は、人民解放軍海軍の艦艇の威力・致死性――とりわけ対水上戦分野における――を向上させるだけでなく、陸上配備型の上空援護(防空の傘)の範囲を越えて艦艇を運用することを可能にしている。1990年代以降、海軍は、単一任務遂行型の艦艇を集めた大型艦隊から、より近代的な複数任務が遂行できる艦艇を装備するスリム化した戦力へと変容しつつある。

遠距離洋上の情報能力の強化
中国は、超水平(OTH(over the horizon))レーダーシステム、無人航空機(UAV)及び偵察衛星などを用いて、西太平洋のはるか沖合に接近した米海軍の空母や護衛艦を捕捉できる長距離監視能力を強化しつつある。こうして得た、米海軍の空母や護衛艦の位置データを第二砲兵の対韓弾道ミサイルや中国海軍艦艇に搭載した巡航ミサイルなどにインプットすれば、長距離精密攻撃が可能になる。
因みに、第二砲兵が開発中の対艦弾道ミサイル(ASBM)DF-21Dの最大射程は3,000キロメートルを目標としている。中国は、対艦弾道ミサイルや長距離巡航ミサイルを活用して接近阻止・領域拒否(A2AD: Anti-Access/Area Denial)戦略を実現しようとしている。この戦略は、台湾有事などに来援する米軍を努めて遠くの防衛線で接近を阻止し、防衛線を突破された場合にも自由な行動を許さない(領域拒否)というもの。これについては、別途説明する予定。

潜水艦戦力の強化
海軍は、弾道ミサイル搭載型原子力潜水艦(SSBN)の新たな級(クラス)を建造している。「晋」級SSBN21(094型)は、射程約7400kmのJL-2潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載する予定。「晋」級SSBNおよびJL-2は、初の信頼性のある洋上配備型核戦力で、米国に対する核抑止力が格段に向上することになる。JL-2計画は、度重なる遅れに直面しているが、2年以内には初期運用能力に到達できる見通し。
また、中国海軍は攻撃型原子力潜水艦(SSN)戦力も拡大している。2隻の第2世代「商」級(093型)SSNはすでに就役しており、今後数年のうちに最大5隻の第3世代SSNが追加される予定。第3世代SSNには、より精度の高い静粛技術を組み込むことになり、魚雷や対艦巡航ミサイルによる敵水上艦艇に対する監視から阻止までの範囲のさまざまな任務を遂行するうえで、海軍の能力を向上させることになる。
潜水艦戦力の中で、現在の主力近代的攻撃型ディーゼル電気推進潜水艦(SS)は、13隻の「宋」級(039型)である。これらの潜水艦は、それぞれYJ-82対艦巡航ミサイルの搭載が可能となっている。「宋」級の後続艦は「元」級(039型の派生型)で、「元」級はすでに4隻が就役中である。「元」級には、空気独立推進システム(空気に依存しない推進方式)も装備されるとみられる。「宋」級・「元」級・「商」級の各級および今後配備される予定の新たな級のSSNは、いずれも、現在開発中のCH-SS-NX-13長距離対艦巡航ミサイルが完成次第搭載予定とみられる。

哨戒艇戦力の強化
海軍は、波浪貫通型双胴船体型の誘導ミサイル哨戒艇である候北(HOUBEI)級(022型)を約60隻配備した。それぞれの船には、最大8基のYJ-83新型中距離対艦ミサイル(射程:150~200km)が搭載できる。これらの船は、人民解放軍海軍の沿岸戦能力を向上させている。

機雷・魚雷戦力の強化
機雷戦(機雷敷設能力)は米海軍の弱点である。また対機雷(掃海/掃討)能力も脆弱である。中国海軍は、米海軍の機雷戦・対機雷能力の弱点を利用して、接近阻止・領域拒否戦略に活用できる魚雷・機雷システムを開発している。中国海軍は10年間以上に亘り多数の高性能な各種機雷システム(係維触発機雷、沈底機雷、係維感応機雷、上昇・ホーミング機雷)を開発し、約7万個保有している。

(おやばと連載記事)

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