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情報メモ1 米中経済戦争

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米中は目下本格的な経済戦争を展開中。戦争とは、複数の集団の間での物理的暴力の行使を伴う紛争であるが、米中は主として「経済的な様々な手段を用いて」戦争をしている。

冷戦時代、米ソは経済のリンケージが少なかったが、今日米中の経済は深く結びついている。特に中国の経済発展は、巨大な米国市場に依存している。このことは、中国の「弱点」である。もしも、中国がかつてのソ連のようにブロック経済圏をもって、アメリカに依存する必要がなければ「弱点」にはならないのだが。

 

国のパワーの源泉は「経済、すなわちお金」である。中国の台頭も鄧小平が改革開放政策で経済発展をさせたからだ。ソ連の崩壊は、軍拡を支える経済力がなかったためといえる。中国は将来、米国に勝パワーを獲得するためには、経済的にアメリカをしのぐことが不可欠。中国は米国に負けない経済力――ひいてはトータルとしてのパワー(経済・軍事力)――を獲得するために「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」という経済戦略を採用している。この戦略は、2049年の中華人民共和国建国100周年までに「世界の製造大国」としての地位を築くことを目標に掲げている。有体に言えば、「アメリカを打ち負かし、世界一の経済大国にひいては軍事大国を目指す」戦略に他ならない。

 

米国は、中国の狙いを理解し、アメリカの基本戦略――ユーラシア大陸にアメリカに対抗できる国を出現させない――に基づき、すでに「中国の台頭を抑える」ための戦略を発動しているのだと思う。米国が採用している対中国戦略は「間接アプローチ戦略(英: Indirect approach strategy)」であろう。間接アプローチ戦略とは敵の強い正面を攻撃するのではなく、敵の弱点――アキレス腱――を間接的に衝いて、相手を無力化・減衰させる戦略をいう。間接的な手段として同盟国への支援や、シーパワーを駆使した経済封鎖・通商破壊などの間接的な手段を用いて弱体化させ、政治目的を達成しようとする戦略である。軍事戦略レベルにおいては、単に敵の戦力を撃滅するのではなく、後方連絡線や指揮系統の破壊によって敵を無力化する戦略を指す。第一次世界大戦後、英国の戦略家のリデル・ハートによって提唱された。

 

アメリカは、経済的優位性――中国経済はアメリカの巨大なマーケットに依存――を切り札として、「経済戦争」を仕掛け、中国の今後の経済発展を抑制しようと考えているのだろう。アメリカの対中経済戦争の眼目が「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」――中国の経済戦略の中核――の妨害なのだろう。留意すべきは、「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」がリストアップするハイテク技術こそが、今後軍事面においても米中の死命を決するウエポンの開発・出現に繋がるのだ。対中国強硬論者のピーター・ナヴァロ通商製造業政策局は、「中国は人工知能(AI)や自動運転などの未来の産業の支配をもくろんでいる。」と警鐘を鳴らしている。まさに、米中の経済戦争は軍事戦争と表裏一体なのだ。平和ボケの日本はこのようなリアリティを深く認識すべきなのだ。

 

3~4日にかけて、トランプ大統領の経済参謀のムニューシン財務長官、ロス商務長官、ライトハイザー通商代表が訪中し、米中戦争――口撃――が繰り広げられる。中国もしたたかだ。簡単にはアメリカの言いなりになることはない。

 

中国の王毅国務委員(副首相級)兼外相が2~3日に北朝鮮を訪問した。これは、 3~4日にかけての米中経済戦争における、中国流の「対米間接アプローチ戦略」に他ならないのではないか。

すなわち、北朝鮮の核廃棄問題は、米中経済戦争と緊密にリンクしているのだ。

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佐藤雅俊 株式会社ラック サイバー・グリッド・ジャパン ナショナル・セキュリティ研究所長、元自衛隊指揮通信システム隊サイバー防衛隊長(初代)

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