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北東アジアから見た米核戦略見直しの意味

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2018.2.9

 

○ 要旨――北朝鮮を核保有国家として承認する布石かも?

アメリカのトランプ政権は新たな核戦略――中長期の新たな核戦略を示した「核態勢の見直し(NPR)」――を発表し、ロシアや中国の脅威に対抗するため、「低出力核」と呼ばれる威力を抑えた核兵器の増強など、抑止力を強化する方針を打ち出した。

新戦略ではまず、ロシア、中国の核戦力の増強や北朝鮮による核開発などで、世界的な脅威が急激に増しているとし、特にロシアについて、限定的な核攻撃も辞さない構えを見せていると指摘している。

「核態勢の見直し」では、こうした脅威に対抗し、攻撃を未然に防ぐには、核による抑止力を強める必要があるとして、核戦力全体の近代化を進めるとともに、「低出力核」と呼ばれる威力を抑えた核弾頭を搭載した、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を導入(筆者注:日本の非核三原則の「核を持ち込ませず」に抵触しない)するとしている。

また、オバマ前政権が退役させた潜水艦や艦艇から発射可能な核巡航ミサイルの再開発にも着手するとしていて、核戦力を強化する方針を打ち出した。

さらに注目されるのは、アメリカによる核兵器使用の可能性については、オバマ前政権が示した「極限の状況下でのみ検討する」とする原則を引き継ぐ一方、通常兵器による攻撃であっても核兵器で報復する――先制核攻撃――余地を残している。

新戦略について、国防総省のスーファー次官補は「今、重要性を増しているのは抑止力と同盟国に対する保障だ」と述べて、抑止力の強化の必要性を強調したほか、この度の「核態勢の見直し」が、同盟国の「核の傘の信頼性」回復・確保を重視していることを明確にした。

このたびの米核戦略見直しを、北東アジアから見れば、中国の核戦力、特に飽和攻撃ができる中距離弾道ミサイル・巡航ミサイルに加え、北朝鮮の核ミサイル保有により、日本や韓国のアメリカの「核の傘」に対する信頼性」に対する疑念――アメリカは中朝による日韓に対する核攻撃に対して、中朝との核戦争をやる覚悟があるのか――を払拭しようとする努力がうかがわれる。

アメリカの対中国戦略にとって、日本と韓国は極めて重要であり、両国を同盟国として繋ぎ止める究極のものは、アメリカの「核の傘」にほかならない。台湾は同盟国ではないが、同様なロジックは、米対関係にも当てはまる。

このように考えれば、このたびのアメリカの核戦略見直しは、「北朝鮮を核保有国家として承認する布石」かもしれない。勿論、トランプ政権は「北朝鮮の核ミサイルを先制攻撃による除去する」という選択肢も依然あるものの。トランプ政権としては、北朝鮮の核ミサイル問題に対する戦略的柔軟性を確保するために、このたびの核戦略の見直しを行ったものと思われる。

 

 

○ アメリカが核戦略の見直しに至った背景

  • ロシアによるINF全廃条約違反疑惑

1987年に調印されたINF条約は、両国が保有する射程500~5500キロ地上発射型弾道・巡航ミサイルの全廃を定めた。だが、米国内ではロシアが条約に違反して中距離ミサイルの開発を進める一方で、米国だけが規約に縛られていると不満が高まっていた。

ロシアのINF違反疑惑が持たれているのは、イスカンデル-K地上発射巡航ミサイルRS-26ルベーシュ弾道ミサイルであると思われる。

米国務省のナウアート報道官は「ロシアによる条約への回帰を促すために経済・軍事的手段を模索する」と述べ、核弾頭を搭載しない地上発射型中距離ミサイルの開発も選択肢に含まれていると表明した。その上で「ロシアが再び条約を順守すれば、開発を中止する用意がある」と強調し、条約回帰に向けて「具体的措置」を講じるよう呼び掛けた。

  • INF全廃条約によるアメリカ「自縄自縛」――米中INFの不均衡

 中国軍の戦略ミサイル軍部隊であるロケット軍(かつての第二砲兵隊)が保有する「東風21型」弾道ミサイル(DF-21、DF-21A、DF-21C)は、対日攻撃用と考えられる。このミサイルにはいくつかのバリエーションがあるが、射程は1800〜2150キロメートルとされており、日本のほぼ全域を攻撃することが可能である。北朝鮮の対日攻撃用弾道ミサイルと違い命中精度は格段に高く、新型東風21型のCEPは50メートル以下といわれており、建造物レベルのピンポイント攻撃は十分可能だ。中国ロケット軍は「東風21型」弾道ミサイルを150基以上は保有していると考えられる。

中国ロケット軍は、それらの弾道ミサイル以外にも、日本全土をピンポイント攻撃可能な「東海10型」長距離巡航ミサイルを多数(500基以上ともいわれている)保有している。

アメリカ軍がしばしば実戦で使用してきたトマホーク長距離巡航ミサイルと同等あるいはそれ以上の性能(射程1500キロ)を保有しているとされている「東海10型」長距離巡航ミサイルのCEPは5〜10メートルと推定されている。そのため、中国軍は「東海10型」を用いて、例えば原発の制御施設、石油精製所のタンク、防衛省本庁舎A棟、首相官邸などをピンポイントで精密攻撃を実施することが可能である。

 中国が、これらの中距離弾道・巡航ミサイルにより、日本を飽和攻撃すれば、日本のみならず、在日米軍基地も防ぐ手立てはない。アメリカは、ロシアと締結されているINF条約により、「自縄自縛状態」にあり、これら中国の中距離弾道・巡航ミサイル攻撃を有効に抑止する手段は十分ではない。矢張り、「目には目、歯には歯」の例えのように、アメリカも中国に対する十分なINFを装備・配備する必要に迫られよう。

  • 北朝鮮の核ミサイル保有

北朝鮮は、昨年11月29日、大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星(ファソン)15」(射程1万3千キロ以上)に試射に成功した。ポンペオCIA長官によれば、北朝鮮が米国への攻撃が可能な核ミサイルを配備するまでの期間は「ほんの数か月」との見方を示した。

一方、中距離弾道ミサイルは、スカッドER(1,000km)、ノドン(1,300km)、テポドン1(1,500km以上)、ムスダン(2,500~4,000km)がある。アメリカや韓国の軍事研究機関の試算によれば、北朝鮮が日本に向けているミサイルの数は、スカッドが800基以上、ノドンが300基で、合計1100基以上もあるという。

アメリカは、自国に到達する北朝鮮のICBMの完成が視野に入るようになってようやく重い腰を上げてこの問題に取り組むようになった。このような取り組みを見るにつけ、日本や韓国は「自国が北朝鮮の核攻撃を受けた時に、アメリカは北朝鮮からのICBM攻撃を覚悟の上で報復してくれるだろうか?」と、疑念を募らせるのは当然だ。

金王朝3代目の金正恩は、軽率にアメリカを軍事的に挑発する傾向がある。従って、北朝鮮のINFを確実に抑止するための措置として、アメリカの十分なINFを装備・配備が求められる。

  • むすび――米核戦略見直しに対する日本の対応

 河野外相は3日、核兵器の役割を拡大させるトランプ米政権の新たな核戦略指針「核体制の見直し」に関し「わが国を含む同盟国に対する拡大抑止へのコミットメントを明確にした。高く評価する」との談話を発表した。日本が、従来通り日米同盟を維持する上で、至極当然のことであろう。アメリカが、「核体制の見直し」をしなかったら、日米同盟の根幹の一つである「アメリカの核の傘」の信頼が低下するのは必至だった。

その場合、日本としては、自ら核武装をする選択肢を真剣に検討せざるを得なかったはずだ。一方、被爆国である日本国国民は、依然被爆のトラウマが消えず、核アレルギーは深刻だ。日本の核武装を巡っては、世論が分裂し、内政が混乱する事態が避けられなかったであろう。

我々は、アメリカの核戦略見直しが示唆するもう一つのシナリオにも配意する必要があろう。そのシナリオとは、「アメリカは、北朝鮮を核保有国家として承認する布石」として、核戦略見直しを行った可能性があることだ。

このシナリオの場合、日本は核武装した北朝鮮と向き合うことになる。アメリカが十分なINFを装備したとしても、日本が「非核三原則」を墨守している限り、北朝鮮を抑止することはできない。最も有効な抑止手段は、アメリカのINFを日本本土に配備することだ。さらには、北大西洋条約機構(NATO)に倣って、ニュークリア・シェアリング(核兵器の共有)による核抑止強化の方法もある。

アメリカの核戦略見直しのなかで、「低出力核」と呼ばれる威力を抑えた核弾頭を搭載した、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を導入する案に言及しているが、これは日本に依然残る核アレルギーに配意したものかも知れない。

一方、韓国の本件問題への対応は未知数だ。日本は、引き続きアメリカの「核の傘」の下に入るものの、韓国はそれでは満足せず、核武装という道を選ぶかもしれない。その場合、日本は、核武装した二つの国――南北朝鮮――と向き合わなければならない

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