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文在寅大統領の心の奥底を忖度する

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2018.2.7

 

○ はじめに――文在寅大統領の心の奥底を筆者が忖度

 人の目に映る景色は、その人の「立ち位置」によって変わるものである。そのことは、景色のみならず、国際情勢についても同じことが言えるのではなかろうか。

朝鮮半島情勢は、我々一般の日本人の目に映るものと、5125万の国民を率い、北朝鮮の核ミサイル問題など深刻な課題を抱える韓国の文在寅大統領の目に映るものとは、明らかに異なるはずだ。

本稿では、韓国を取り巻く情勢や外交・安全保障などについて、文在寅大統領の心の奥底を筆者が忖度してみることとする。文在寅大統領の独白という形で。

 

○ 文大統領の独白

  • 勝海舟と西郷隆盛――半島での戦禍は絶対に阻止

日本人は知っての通り、勝海舟と西郷隆盛は、江戸時代末期(幕末)の慶応4年(1868年)、江戸城の新政府への引き渡し交渉を行い、徳川宗家の本拠たる江戸城は無血裏に東征軍に明け渡された。

当時、人口100万人を超える世界最大規模の都市であった江戸とその住民を戦火に巻き込まずにすんだことは、江戸開城の最大の成果であった。勝は後に西郷を「江戸の大恩人」と讃えている。

勝は東征軍との交渉を前に、いざという時の備えのために焦土作戦を準備していたという。もし東征軍側が徳川家の歎願を聞き入れずに攻撃に移った場合や、徳川家臣の我慢の限度を越えた屈辱的な内容の条件しか受け入れない場合には、東征軍の攻撃を受ける前に、江戸城および江戸の町に放火して敵の進軍を防いで焦土と化す作戦である。

私(文在寅大統領、以下同じ)の心境も、勝と西郷に似ている。トランプは、北朝鮮の核ミサイルを除去することをアメリカの最優先事項として、空爆などで先制攻撃しようとしている。

米ジョンズ・ホプキンス大の北朝鮮問題研究グループ「38ノース」は、北朝鮮が複数の核搭載ミサイルで東京と韓国の首都ソウルを攻撃した場合、死者が最大約210万人に達するとの試算を発表したではないか。

先の朝鮮戦争における犠牲者は韓国が242万人(軍人約98.7万人、市民約143万人)、北朝鮮が293万人(軍人約92.6万人、市民約200万人)で、朝鮮人はトータルで535に上る。

核ミサイルを含み、兵器の性能が格段に進歩した今日、南北朝鮮の人民の犠牲者はジョンズ・ホプキンス大の見積もりを大幅に上回るだろう。半島は南も北も完全に焦土と化し、再生するには多くの年月がかかるだろう。自分は、一人の朝鮮人として、何としても朝鮮半島で再び戦禍が起こることは何としても阻止しなければならない、と固く決意しているところだ。願わくは、私は朝鮮民族を守るために、幕末の勝海舟と西郷隆盛にあやかり、ソウルを火の海にしなように、金正恩と阿吽の呼吸で協力したいものだ。

 

  • 対米関係――米国の横暴(北爆)を阻止するために米韓関係を維持することは重要

私の立ち位置からすれば、本来アメリカ・トランプとは距離を置きたいところだ。しかし、そうはいかない。韓国は、当面、アメリカとの同盟関係を切ることはできない。なぜなら、アメリカが韓国の意向を無視して北朝鮮を先制攻撃するからだ。その前例は、1994年6月の北朝鮮をめぐる“核危機”に際し、米軍が計画した対北朝鮮軍事行動に金泳三大統領が「ノー」といって反対したではないか。その時のことを、金泳三大統領は回顧録で次のように書いている。

 

「6月17日未明、電話をしてきたクリントン大統領を厳しく追及した。自分が大統領でいる限り韓半島を戦場にすることは絶対にダメだ。あなた方は飛行機で空襲すれば済むかもしれないが、北は即時、休戦ラインから南の主要都市を一斉に砲撃するだろう。戦争は絶対にダメです。自分は歴史と国民に対し罪を犯すわけにはいかない、と……」

 

金永三大統領の言い分(主張)をクリントン大統領が聞き入れてくれたのは、米韓が同盟関係にあったからだ。もし、米韓関係が冷え切ったものであれば、クリントン大統領は金永三大統領の嘆願を無視して、北朝鮮の核施設などを爆撃したかもしれない。私は、トランプは嫌いだが、彼の暴走を許さないためには隠忍自重しながら韓米同盟を維持・継続しなければならない。このことは、割り切って考えなければならない。

 

  • 北朝鮮の核ミサイル保有は許容できる

  韓国は、北朝鮮が核ミサイルを保有することは許容できる。それは、無いに越したことはないが、北朝鮮が一旦開発したものを米国との交渉で廃棄することは絶対ないだろう。韓国としては、「アメリカが、先制攻撃で北朝鮮の核ミサイルを破壊するのを契機に半島に戦火が広がる」ことよりも、「北朝鮮が核ミサイルを保有することを許容」する方がましだと思う。そうではないか。北朝鮮の核は、アメリカや日本、場合によっては中国に向けられるが、同朋の韓国に向けられるリスクは低いと確信している。

  もちろん、北朝鮮は核ミサイルを保有することによって、韓国を恫喝するかもしれない。

その際、韓国としては「同族を核攻撃するならやってみろ。民族史の一大汚点となるぞ!」と開き直ればよい。

  また、仮定の話だが、もしも南北関係が好転するなら北朝鮮の核ミサイルは南北を問わず、「朝鮮民族の護符」としても、一定の機能があるのではないか。将来、金日成主席が1980年に提唱した高麗民主連邦共和国――一民族・一国家・二制度・二政府の下で連邦制――による統一を果たせば、朝鮮民族国家は核ミサイル保有国家となり、アメリカや中国の核の傘の庇護を受ける必要がなくなる。

  もう一つの選択肢がある。韓国が核武装することだ。実は、秘密裡に着々と進めているところだが。アメリカは、韓国が核武装すると日本、台湾、ベトナムと核武装国家が拡散することを恐れているのだ。米英仏中露などの核独占状態が維持できなくなるのだ。アメリカは、手を変え、品を変え、韓国の核武装を阻止しようと執念深く躍起になっている。北朝鮮を先制攻撃してまで、韓国の核武装を思いとどまらせようとしている。そんなことは、韓国が全く望んでいないのに。

 

  • 韓中同盟という選択肢

 日本と比べれば、韓国は歴史的に見ても、地理的な距離からも中国に近い。韓国は中国に依存するのが自然な気さえする。朴槿恵前大統領も、限りなく中国に傾斜したではないか。韓国にとって、米韓同盟に替えて、安全保障も経済も中国との関係を深める――韓中同盟――という選択肢は、現在も有効である。中国は、アメリカの北朝鮮攻撃にも反対しており、この点は韓国と同じ立場だ。朝鮮民族の悲劇を防ぐ上では頼りになる存在だ。

米国防総省は、1月19日公表した戦略文書「国家防衛戦略」で、中国とロシアとの競争を最優先事項と位置づけ、過去15年間優先してきたテロとの戦いから方針を転換した。韓国としては、朝鮮半島をめぐる米中の対立が厳しくなることを歓迎するところだ。中国がアメリカに妥協せず、今後もさらに強硬な態度で、アメリカの北朝鮮攻撃を阻止してもらいたい。

 

  • 日本は永遠に韓国政権のスタビライザー

 韓国の日本に対する態度・嫌悪の根底には、小中華思想(しょうちゅうかしそう)があると思う。小中華思想とは朝鮮で唱えられた中華思想(華夷思想)の一変種であり中華文明圏の中にあって、漢族とは異なる政治体制と言語を維持した民族と国家の間で広まった思想である。 自らを「中国王朝(大中華)と並び立つもしくはそれに続く文明国で、中華の一役をなすもの(小中華)」と見なそうとする文化的優越主義思想である。

このことを、分かり易く言えば、中国を「大親分」に例えれば、朝鮮は「子分」に当たり、それよりも辺境にある日本は「チンピラ」程度だという考え方だ。この序列は未来永劫変わることはない。

朝鮮民族は、永遠に日本人の上位に位置づけられなければならない。そんな日本が、身の程も弁えず、1910年から45年までの36年間朝鮮を併合し、創氏改名を強要し、娘たちを従軍慰安婦にしたのだ。これは、2000年余にわたり、小中華思想を魂に刻み込んできたわが民族には、永劫忘れてはならない恥辱だ。

このような朝鮮人のメンタリティーから、韓国も北朝鮮も政権が不安定になれば、「日本たたき」というスタビライザーを利用するのは当然だ。

2015年12月28日の日韓外相会談で結ばれた、「いわゆる慰安婦問題の最終かつ不可逆的な解決を示した日本政府と韓国政府による合意」は、こんな朝鮮人のメンタリティーを全く理解していない日本の政治家や外交官の失敗と言わざるを得ない。「韓国側を棚に上げて」、と叱られるかもしれないが。

日本人は、あまりにも潔癖すぎる。水が豊富な国だから、直ぐに「水に流す」ことをよしとするが、朝鮮人はそうはいかない。ソウルの日本大使館前の従軍慰安婦像に拘るが、あんなものは無視すればよいのだ。この私が言うのだから間違いない。あの像は、見方を変えれば「覆らない歴史、朝鮮民族の悪夢を、未来永劫引きずっている同情すべき人々。自分たちの先祖たちが、甲斐性がなかったことを限りなく反省するモニュメント」と、理解すれば、日本人も溜飲を下げることができるのではないか。大統領の私が言うことでもなかろうが。

 

○ むすび

 冒頭、「人の目に映る景色は、その人の「立ち位置」によって変わるものである」――と書いたが、上述のように、文在寅大統領の立場から朝鮮半島を取り巻く情勢を見れば、日本人が見るそれとは、大きく異なることがお分かり頂けたことだろう。

文大統領政権は、自分たちの目に映った情勢(与件)に基づいて、合理的と信ずる政策をひたむきに遂行しているのであろう。

私たちは、情勢を見る際に「諸外国それぞれの立ち位置」から映る景色に思いを致しながら、各国それぞれの情勢判断を観察しなければならないと思う。そうすることにより、一面的ではない、情勢の深読みができるのではないだろうか。

 

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