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南シナ海問題などでChina Bashingは起こるのか

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今回は趣を変えて1980年代の激しかったJapan Bashingと比べChina Bashingが起こるのか、別の形となるのか考えてみたい。既にいろいろ報道されているので詳細は省くが、南シナ海の問題とか鉄鋼の過剰生産をめぐる問題で中国の行動に対する批判がいろいろあるが欧米諸国を含めその対応が注目される。

 

#南シナ海

6月に北京で米中の戦略・経済対話が行われたがケリー米国務長官が南シナ海問題で「一方的な行動でなく法律・交渉・外交を通じて解決すべき」としたが、中国側の楊国務委員は米国の介入を念頭に「当事者間の協議を通じた解決」を強調した。一方、中・ロの軍艦が似たタイミングで尖閣の接続水域を航行するなどまことに危険すぎる挑発を行っている。これに対し中国国防部は「他国がとやかく言う資格はない」などと嘯いている。南シナ海問題でフィリピンは国際裁判所に提訴中であったが7月12日にハーグの仲裁裁判所は中国が南シナ海で主張する権利について国際法上の根拠がないとの判断を下した。提訴したフィリピンの主張をほぼ全面的に認めるものとなった。これ迄は例えば中国の劉駐英大使は英Daily Telegraphに寄稿し「当事国以外が介入して紛争を挑発するのは愚かでフィリピンは交渉による解決に戻るべきだ」などと勝手な理屈をつけていたが国際法によって解決するという法治体制が無視されている点に問題がある。原油/LNGの半分近くが通る南シナ海で中国は軍事拠点を拡大しつつあるが6月のシンガポールでのアジア安全保障会議で中国の孫副参謀長が「南シナ海は昔から中国のもので長い間異議は出されなかった」と歴史まで持ち出し驚くべき発言をしている。(上記裁定では歴史問題は関係なしと退けている)。米国ではオバマ政権が中国は民主的で国際的な責任を果たす国として台頭するであろうという甘い期待を持っていたが今や完全に裏切られている。中国は既に判決には従わないと明確にしているので国際社会がどのように対応するのかが問題となる。7月3日のSouth China Morning Post(以下scmpと略す)は12日の判決前にパラセル諸島で大規模な軍事演習を行い中国の実効支配を示すと報じていた。また、習主席は共産党創立95周年の記念式典で「我々は正当な権益を決して放棄しない」「いかなる国も中国が核心的利益で妥協するなどと期待してはならない」と強気の発言を繰り返している。中国は南シナ海から東シナ海にも軍事行動を起こしているのでこの地域に皆の関心が集まっていたが、更にインド洋、アフリカ、欧州の各港に自国の軍艦が寄港出来るように着々と手を打っている。世界の海上輸送の流れを変え米国の裏庭にまで自国の軍事力を展開しようとしている。パナマ運河が拡張工事によって更に大型船の運行が可能となったが、パナマとともに台湾と友好関係にあるニカラグアにも接近し香港資本を通じ大運河の建設が着手されつつある。このような動きに対し中国外交部はいつもの通り「日本側が南シナ海問題を煽り立て地域の国の対立を引き起こそうとしている」。と日本非難を前面に出している。

 

#中国鉄鋼の過剰生産問題

ルー米財務長官は「中国の鉄鋼やアルミニウムを減産しない限り国際市況は安定しない」というと中国の楼財政部長は「金融危機後に中国が設備投資したことに世界は歓迎した。現在の過剰生産能力は2008年の金融危機後に積み上がった。危機後の09~11年の世界の経済成長への中国の貢献度は50%にも上り当時世界中が中国に感謝した。米タイム誌は世界経済が中国から受けた恩義に報い中国の農民工を表紙に掲げた」などと自分勝手な論議を展開していた。

中国の4月の粗鋼生産量は6,942万トン鋼材輸出量も4月は前年同月比6%増の908万トン、トン当たりの輸出単価は487ドルで前年より20%安い。ここ数か月の輸出量は記録的な伸びで海外へのダンピングを続けている。米鉄鋼協会によると世界の7億トン超の過剰生産能力のうち約4.3億トンは中国によるものだ。一方中国の楼財政相は「計画経済時代の中国と思わないで欲しい。鉄鋼生産量の半分は民間企業で政府は強制できない」と妙な理屈を堂々と発言している。(この議論は実際に中央が経済統制の限界を示しているとも解釈できる)中国から輸入される冷延鋼鈑製品に米国は反ダンピング関税を適用するとなると中国商務部は米鉄鋼業界の保護主義に強い懸念を示しWTOの規制に従うよう促すなど各省庁・外交部など一丸となって正に言いたい放題だ。鉄鋼の過剰生産は中国が次々と開設している先物市場の波乱要因となっている。3月頃から鉄鉱石などの売買高が急増したが実需によるものではない。5月に入ると景気に対する楽観的な見方も後退し価格は急落。市場運営も未熟ではあるが投機の対象を変えながら過熱と暴落を繰り返している。昨年の株式バブルの崩壊後、鉄鉱石の投機が始まり更に不動産投機とか今後も同じような動きを続けてゆくのであろう。問題は先物市場が相場の攪乱要因となっていることにある。更に中国政府は過剰生産設備の廃棄を盛んに宣伝するが実現には程遠い。更に武漢鋼鉄と宝鋼の巨大国営鉄鋼会社の再編などを謳うが両社とも権益の塊のようなもので簡単に運ぶとは思われない。ここでは鉄鋼を取り上げたが、そのほかにも過剰生産設備を抱える業種は幾つもある。更に石炭などは地方政府が中央政府の指導を無視して銀行に救済融資を強制している。

 

#日本でのG7とオバマ広島訪問

8年ぶりの日本でのG7では各国とも中国の南シナ海問題、鉄鋼の過剰生産など共通の認識ができた。オバマ広島訪問は米国内でも好意的に受け止められている。一方中国側はここで徹底的に日本たたきを実行した。G7よりG20/南京といった具合だ。更にオバマ広島訪問にも難癖をつけている。香港紙の引用だがハワイは中国のものという記事があった。1898年米国がハワイを併合したが帝国主義がアジアを食い物にした歴史から説き起こし、ハワイを開拓したのは中国人でもし中国領になれば彼らが大喜びするであろうと結んでいる。おそらくハワイの中国系は当然嫌がるであろうが、何か戦前の日本の軍部が帝国主義に乗り遅れ無理な戦争にと入っていった状況と似ている。それにしても習政権は汚職退治で敵対勢力の駆逐に成功しているように見えるが、外交面での各国の中国離れについては誤算とみるべきかもしれない。中国の主張を完全に否認した判決が出た翌日の香港紙scmpは1面トップで中国にとってはすべての論点で敗れた屈辱的敗北で、天安門事件の1989年以降最大の外交的打撃だとする専門家の意見も紹介している。(勿論中国内の新聞では仲裁は茶番劇、中国は仲裁を拒否するといった政府の発表に即した記事のみだ)習近平は今年に入ってからも自らの権威をさらに高めようとの思惑か色々な講演を行っている。外交面では

  1. 領土・主権の相互尊重
  2. 偉大な中華民族の復興:責任ある大国として振舞う
    地域や、国際社会の平和発展に貢献、協力と他国とのwin-win関係の構築(大風呂敷ともいえる)
  3. 新たな国際秩序の構築;欧米主導の世界の秩序の枠組みを変える。中国自らがルール・メーカーになる。第2次大戦の戦勝国が国際社会をリードする。

以上のようなことを機会あるごとに説いているが、世界第2位の経済大国となったことは事実だがそれにしても最近の中国の自信過剰には各国とも辟易としている。問題の南シナ海とか鉄鋼問題からほど遠いアフリカ諸国に協力を求めるのだろうか(今の国連自体が問題でもあるが中国は第2次大戦の戦勝国が世界をリードすべきとしている)。既に王外務部長(大臣)の数々のヒステリックな発言は顰蹙を買っているが、それを上回るような外務次官の発言(判決を紙屑呼ばわりしたり)は外交官の発言でなく、習政権にいかに忠実に仕えるべきかを暗示している。これからの中国との外交を仕切っている我が国の外務省のChina schoolも苦労するであろう。何れにしても習近平自身が国際法を認めない/南シナ海での設備・軍事基地化の推進・軍の増強を謳っているので、これの軌道修正は簡単ではない。

 

♯Japan Bashing

日本の高度成長とともに1980年代から日本叩きが起こった。日本の対米輸出超過が米製造業を衰退させたという理屈だ。

これの発端は繊維をはじめとして日本製品が米国などで雇用を奪うという図式から始まっている。今となって日本側も反省すべきは通産官僚が主導し、海外からは一切輸入を認めず輸出は当然の権利だと錯覚して官僚が表に立って欧米と戦ったことにある。官僚は繊維製品をはじめ全ての日本製品の輸出振興こそが国益と考え理不尽な議論を堂々と展開して欧米側担当官を怒らせてしまったことにある。notorious MITIという言葉もこの頃にあったが、官僚の場合個々の取引経験もなく、国内で業界の利益代表である国会議員のオーダーに従うのと同じスタイルで海外勢と対峙してしまった。如何にして海外からの日本市場へのapproachを食い止めるかが命題で種々の関税以外の貿易参入障壁もあった。一つには許認可を一部の役所が握っているので日本人にとっても面倒だが当たり前ともいえることが外国勢にとってはただの貿易障害とみられるケースだ。戦後外貨不足で輸出優先であったものが役所などではそのまま一種の権益となってしまった。一方、中国はWTO加盟後、外資歓迎、技術供与歓迎と(但し中国に進出後は現地の曖昧な規制に振り回されるが)欧米企業を受け入れたため、雪崩を打って外国企業が中国に参入した。ここ迄は理解できるが近年の南シナ海問題など当然China bashingが起こってもよいのに起こらない。それより中国・韓国(別の問題だが)よりJapan bashingが盛んだ。韓国はTHAAD配備で中国に反対され、いまだに南シナ海問題で立場を明らかにしていない。

 

#China Bashing

米国のオバマ大統領は当初から中国に寛容であった。外交、安全保障関係の補佐官のSusan Riceなどの助言もあったのだろうが何れ中国は民主化しないまでも中国に開放を促しグローバルな制度を導入。中国が国際社会で責任ある大国として振舞うように誘導する。といった筋書きがあったのであろう。米国内でも中国は特殊だが何れ自分たちと同じ考えとなると信じている人も多い。欧州各国とも距離的に遠いことはあるが巨大な人口から経済的受益を期待し、あまり強い策に出ないほうが良いと考えている人が多いようだ。何れにしても最近のロシアのクリミア併合とか中国の南シナ海での行動など西欧先進国は完全に出し抜かれている。従来、米国が世界の警察として活動していたがその体制が崩れつつあり自らがleadershipを取ろうとする国がないことと米国以外では無理なことも事実だ。何れにしても今回の南シナ海問題は中国内で愛国心を煽り国民の目を海外に向けることが共産党政権の継続の最善策との見方もあるが、習政権は戦争への道を歩み始めたとの見方も強い。全面戦争ではなく地域的武力衝突はやむなしとしているのかもしれない。

中国側の発言・宣伝にどのように対処すべきか先進各国とも対話を進めようにも余りにも通常の外交常識とも異なるので逡巡しているようにも見える。これではbashingどころではない。共産党内部の権力闘争は永遠に続くとしても(今年の北戴河での会議が見ものだが)軍部の完全掌握は難しい。既に年々の軍事費も大幅に増えてはいるが、いつまでも続くとは思えない。既に過剰債務がIMFをはじめ専門家から指摘されているが(その他にも環境問題、不動産バブルなどすべて先送りされている)中国経済の先行きがどうなるか更に注目が必要だ。米国の大統領選挙迄大きな動きはできないとの見方が多いが旧ソ連との冷戦のような経済封鎖による封じ込めも覚悟すべきと思う。

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