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“平昌五輪作戦”――金正恩と実妹・与正の内話

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2018.1.17

はじめに

南北高官級会議が今月9日、約2年1か月振りに南北軍事境界線がある板門店の韓国側施設「平和の家」で開催され、北朝鮮がその場で平昌冬季オリンピック大会(2月9日から25日)の参加を合意・発表した。

引き続き、15日の南北実務者会談では、北朝鮮の「三池淵管弦楽団」が、競技会場がある江陵(カンヌン)市と首都ソウルで公演することで合意した。

更に、今日17日午前10時から、平昌五輪参加問題全般について話し合う南北実務者協議が、板門店の韓国側の施設「平和の家」で開かれる。

今回(情報メモ28)は、北朝鮮主導で進められる南北会談を主題として、金正恩とその妹である与正(キム・ヨジョン、30歳)の仮想内話(内輪話)を通じて、「北朝鮮が五輪に賭ける思いや、五輪終了後の対米戦略」などについて考えてみたい。

金与正は、北朝鮮の政治家で、朝鮮労働党政治局員候補、同党中央委員会委員、同党中央委員会宣伝扇動部副部長である。北朝鮮は、平昌五輪に①政府高官級の代表団、②北朝鮮オリンピック委員会の代表団、③選手団、④応援団、⑤芸術団、⑥観戦団、⑦テコンドー団、それに⑧記者団を派遣する予定といわれるが、平昌五輪の場をフルに活用して宣伝・扇動作戦の指揮を執るのは、金正恩が最も信頼し、金与正中央委員会宣伝扇動部副部長であろう。金与正は、健康問題が取りざたされる金正恩の後継者と見る向きも多い。

 

○ 金正恩と実妹・与正の内話

 以下、金正恩の発言を「正」、実妹金与正の応答を「与」と表記する。

  • 平昌五輪は戦争だ――“平昌五輪大作戦”

「与」:ヒョンニム(お兄様)、韓国・文在寅は、こちらの思惑通りに、我々の五輪参加をまるで拝むばかりに、歓迎していますね。ヒョンニムが完全に主導権を取りました。

「正」:文在寅は平昌五輪の成功が最大目標だからね。俺にとっては、それが、付け入る隙・弱点だ。戦いは相手の弱みに付け込むのが常道だ。ヨジョン、既に始まっているが、我々が今からやろうとしているのは平昌五輪の舞台を最大限に活用した“戦争”なのだよ。弾を撃たない戦争、すなわち我々お得意のプロパガンダ戦争なのだよ。俺は、この作戦を“平昌五輪大作戦”と命名するぞ。ヨジョンよ、その栄えある最高司令官がお前なのだ。期待しているよ。

「与」:ヒョンニム、わかっているわよ。私にお任せあれ。ヒョンニムに確認するわ。戦争の目的は、明確だわね。また、戦争を仕掛ける相手は、アメリカ、南朝鮮、日本、中国、そして全世界よね。南朝鮮の政府・人民にジーンと涙が出るような「同族」であることを演出し、わが方に取り込むわけね。その一方で、アメリカ・トランプを憎む反米感情を高めること。そうなれば、米韓を離間でき、北朝鮮に対する軍事圧力や制裁を緩和できるわね。戦う手段――戦力――はどうなの。

「正」:お前は、愛い奴だ。分かっているくせに。戦争の手段はソフトパワーだよ。ソフトパワーの最たるものが三池淵管弦楽団と応援団の美女軍団などだよ。

「与」:三池淵管弦楽団の指揮官はヒョンニムの“元カノ”の玄松月だったわね。15日の実務者会談では、実に堂々として立派だったわね。

「正」:お前それを言うなよ。さすが、玄松月は俺が見込んだだけある。女性によるプロパガンダ効果は強力だね。今月9日の南北高官級会議に続いて、イレギュラーに15日の南北実務者会談で「三池淵管弦楽団」の参加を協議した狙いはそこにある。三池淵管弦楽団のソウルと江陵(カンヌン)の公演では、飛び切りの美女に歌わせる予定だ。しかも、民族音楽をね。その次が、美女軍団だ。これの人気は、2002年の釜山アジア大会などですでに実証済みだ。日本でも、昔はおニャン子クラブとか、今もAKB48の人気を見れば分かる。これは理屈じゃないよ。

  • 平昌五輪戦争に不可欠な韓国の左翼「従北」勢力

「正」:ヨジョンに言っておくが、今回の“平昌五輪大作戦”では、韓国で力量を増した左翼「従北」勢力がプロパガンダ作戦の大きな力になるよ。祖父と父の代に鋭意培ってきた「従北」勢力は、今では、普通の行政機関ではなく,国家の物理的権力を司る中枢機関にまで奥深くしっかりと根を下ろし国家的反逆体制が完成している状態だ。

軍について見てみれば,金大中・盧武鉉大統領は軍事的専門性や自由民主主義の国家観よりも、左翼政権に迎合する使いやすい軍人らを昇進させた。将官だけでなく佐官クラスまで政権に忠誠を誓う人物を昇進させた。もちろん,軍幹部の中には「ゴリゴリ反共主義者」もいるが、これまでの努力で、軍内にまで容共思想・親北思想が浸透しているのは確かだ。

軍と密接に関連した組織に「大韓民国在郷軍人会」――1952年創設,63年に法律に基づき法人化された――があるが、従北勢力はこれに対抗する「平和在郷軍人会」という任意団体を作って、北朝鮮が主張する「連邦制」を支持する運動など反国家的な活動を展開している。俺が、「国家的反逆体制が完成」したと言ったのは,このように民間組織まで左翼勢力が支配しているからである。

まだある。韓国では大統領が任期を終えて辞める時に,在任中のあらゆる公的記録を国家記録院に移管することになっている。しかし盧武鉉は,移管すべき資料の十分の一ほどしか移管せず、残りは破棄したか自分に家に持って行ってしまった。これは、父・金正日の指導によるものだ。父は、盧武鉉政府の大統領府がコピーした資料の大半を手に入れることができた。あの政権の中枢には我が対南工作が潜入させた従北勢力が多数いたわけだ。

裁判所に申請した検察の捜査令状もそのまま我が方に流れてくる。13年9月に蔡東旭検察総長が辞任したが、彼は、「隠し子」疑惑で民主党に弱みを握られ、民主党に有利に検察組織を指揮した。つまり、彼は朴槿恵大統領によって任命されたのに、任命者に反抗する行動をとったのである。今も蔡検察総長の残党が検察の「正常化」に抵抗している。南朝鮮を「正常化」するための最大の障碍要素が法曹であるわけだが、法曹界にとどまらず、選挙管理委員会なども北朝鮮の息のかかったものが押さえているよ。

国会議員の場合は、13年9月に李石基議員が国会の同意により、内乱陰謀容疑で逮捕された時、逮捕動議案に反対票を投じた議員が31人もいた。韓国国会議員の定員は300人だから、少なくとも1割以上の議員が李石基議員に与する立場にあったと言える。野党にとどまらず、与党のセヌリ党議員の大半も、従北勢力の反逆や暴力行為を見ても立ち上がらなかった。彼らは、臆病なうえ、信念も薄弱で、体を張って戦わなかった。そのような議員が少なくとも3分の2を占めていたのだ。

また、メディアについては、言うまでもない。全体を見れば、90%が左翼「従北」勢力にコントロールされているといっても過言でない。

李明博政権初期に,李明博大統領を“レームダック”にしてしまった狂牛病問題に伴う米国産牛肉輸入反対デモやロウソク集も、父の金正日が、南朝鮮のテレビや新聞などマスコミを使って捏造し扇動した成果だったな。朝鮮民族は、科学的根拠など無くても、直ぐに扇動に乗せられ易い性向がある。

朴槿恵を獄門に追い込んだのも、メディアがそそのかし、左翼「従北」勢力を中心に南朝鮮人民を大動員し、大きな力を発揮したからだ。

「与」:南朝鮮は、“熟柿”状態で、半分は北朝鮮の支配下にあるというわけね。

「正」:その功績は、金大中と盧武鉉のお蔭だ。彼らを北のエージェントと呼ぶ向きもあるが、大統領をエージェントにする程我々の諜報能力は凄いということか。文在寅もその後継者として期待できる。

  • ピンチとチャンス

「与」:“平昌五輪作戦”にも、心配の種――ピンチと――とチャンスはあるわね。

「正」:俺が心配しているのは、五輪に派遣する選手団、応援団、芸術団、観戦団、テコンドー団などの中から造反者(脱北者)が出ることだ。このために、派遣団の監視役として、人民保安省や人民武力部の保衛司令部などから要員を派遣する。また、文在寅の国家情報院KCIAなどにも脱北防止の協力を求めている。「脱北者を出せば北朝鮮の面目丸つぶれだ。さすれば、平昌五輪そのものが失敗となる。最大限協力せよ」と伝えてある。ヨジョンも承知の通り、南朝鮮に派遣する奴等は身辺を厳重にチェックし、親兄弟の人質まで取っている。それでも安心できない。アメリカのCIAは要注意だな。

もう一つの心配の種は、イスラム原理主義者系統のテロリストによる事件だ。彼らが、自分の犯行を北朝鮮の反抗にでっちあげる恐れがある。

「与」:チャンスとは何なの。

「正」:平昌五輪直前に、在韓米軍の兵士が事故――レイプなど民族としての心を刺激するもの――を起こすことだ。ヨジョンも知っている通り2002年6月、楊州市で米軍装甲車が女子中学生2名を轢き殺す事件が起こった。それにより、米軍を糾弾する世論が広がり、多くの市民団体がデモ行進を行ったわけだ。

「与」今度も、そんな陰謀は仕組めないの。

「正」万一失敗したら、トランプが北爆・先制攻撃を仕掛ける口実にする恐れがあるなあ。

「与」それもそうだわね。

  • チキンゲームの感想

「与」:今回の平昌五輪参加で一番ホッとしているのはヒョンニムじゃないの。

「正」:勿論そうだ。あの凶暴なトランプが、何時斬「首作戦」を仕掛けてくるかもしれないと思えば、夜な夜な安眠できなかったよ。居場所を変え、枕を変えると、寝付けないんだ。ストレスが溜まって、血圧や血糖値が上がる一方だったよ。

「与」:健康に良い面もあるんじゃない。喜び組との連夜のムツミアイがなくなるし、お酒も控えるでしょう。

「正」:ヨジョンよ、兄をからかうな。

「与」:父の金正日もアメリカと“瀬戸際外交”を展開したが、ヒョンニムもトランプ政権誕生以来、あの超大国に核ミサイル実験で挑発して、チキンゲームをやったわね。ご感想は?

「正」:馬鹿、俺をからかうやつがあるか。粛清するぞ!お前には本音を言うが、実は恐ろしさが9割、世界の警察官を自負するアメリカに対し、「してやったり」という爽快感が1割というところかな。俺がアメリカを挑発する本音は、政権基盤の強化だ。俺がアメリカに挑戦すれば、軍が俺に従う。軍さえコントロールできれば、人民の反乱などは叩き潰してやる。それ故、トランプが本気で対話を求めてくれば、俺は内政を締め付けるツールをなくすことになり、不安だ。

  • 平昌五輪終了後の対米政策

「与」:それって、ヒョンニムは平昌パラリンピック終了後もアメリカを挑発し続けるってこと。

「正」:今熟考しているところだ。核ミサイル開発は、プロパガンダ(情報戦)としては、「アメリカに届くICBM一応完成した」ということになっている。従って、アメリカに対して更なる性能アップのための「開発中断」という交渉カードは、俺の手の中にある。俺の念頭にあるのは、11月のアメリカの中間選挙間近までは、あの単細胞のトランプに、先制攻撃の口実を与えないことである。そのために、南北種の会談の余韻を利用し、トランプとの交渉に応ずる気配を見せつつ、時間稼ぎをするのが良いのでは、と考えている。

「与」:アメリカが延期に応じた米韓合同軍事演習には「キーリゾルブ」と「フォールイーグル」への対応は。

「正」:今言ったように、対話に応ずるそぶりで煙に巻くつもりだ。また、文在寅にもこの路線で掩護射撃してもらうよ。韓国の左翼「従北」勢力も最大限動員する。従軍慰安婦問題を巡る日韓の軋轢も、大いに利用するよ。また、このタイミングには、米兵によるレイプ事件などを仕組むこともできるだろう。

「与」:制裁は続くわね。

「正」:北朝鮮に、軍事圧力をかけ、制裁を声高に叫ぶのはアメリカと日本くらいだ。中国は、南シナ海問題や貿易不均衡の問題を躱すために、アメリカの制裁に応じているが、真剣ではないよ。だって、北朝鮮が崩壊することは、絶対に容認しないから。

「与」:ヒョンニムの言うとおりだわね。金王朝は安泰ということね。

  • 日本対応

「正」:日本は、戦後実に劣化した。昔の「日本狼」が、今ではポチどころかハムスター程度だ。御しやすい。今、ノーベル平和省を受賞したICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)のフィン事務局長が来日して、「日本は国際社会の仲間外れになり得る」と核兵器禁止条約の批准をしなかった日本政府を脅している。これ以上の滑稽な話はないではないか。「建前や綺麗ごと」でしか考え・語れない哀れな日本人は、ズバリ本音を言えないんだ。だから、フィンおばさんにやられっぱなしだ。日本の後にフィンおばさんが北朝鮮に来たら、大いに歓待してやるのになあ。

「与」:そんなことはあり得ないわよ。いずれにせよ、日本に対しては、切り札があるわよね。

「正」:日本が、アメリカに追従し、北朝鮮に対する軍事圧力や制裁を続ける場合、日本を揺さぶるのは、簡単だ。拉致問題・人質の解決をちらつかせればよい。

「与」:日本はここに来て、急速に戦後レジームを克服しつつあるわね。ほかならぬ、北朝鮮のお蔭で、憲法改正までも視野に置けるようになったわね。ヒョンニムに感謝すべきよ。

「正」:ヘーゲルによって定式化された弁証法論理の三段階正・反・合の通りだな。わが北朝鮮が「反という矛盾」を突きつけたことで、あの日本を国家として当たり前、健全な状態――「合」――に引き戻してやっているのだな。

「与」:アメリカが先制攻撃をすれば、日本にも報復するの。

「正」:当然だな。アメリカの戦力発揮を支えるのは日本の基地だ。在日米軍基地は在韓米軍基地と同様にターゲットになる。また、日本の対米協力を止めさせるために日本が“痛い”と思うターゲットにも準中距離弾道ミサイルのノドンと短距離弾道ミサイルのスカッドERで飽和攻撃する計画だ。

「与」:平昌五輪では、日本選手に対する韓国国民の対応はどうかしら。

「正」:初めから終わりまで、「ブーイング」だろうね。当然、韓国の左翼「従北」勢力にそうするように指示を出すよ。そうしなくても、いいだろうが。歴史が続く限り、朝鮮人が日本を目の敵にするだろう。

「与」:なぜそうなのだろう。

「正」:小中華思想のせいだ。中国が「大親分」、韓国は「中親分」、日本は「下っ端」というイデオロギーだ。朝鮮が中国に頭を下げる「屈辱の穴埋め」として朝鮮は日本を見下すという図式だよ。儒教思想が身に沁み込んでいる朝鮮民族は、未来永劫日本と「平等」にはなれないだろう。憎み続け、蔑み続けなければならない宿命にある。

  • 中国対応

「与」:その「大親分」にあたる中国の習おじさんはヒョンニムのことをどう思っているのかしら。

「正」:俺が挨拶に行かないからご機嫌斜めらしい。そもそも、中国エージェントの張成沢叔父を粛清したのが関係悪化の始まりだ。一方で、トランプ登場後、アメリカが北朝鮮を軍事攻撃できない最大の理由は、中国との戦争にエスカレートする恐れがあるからだ。その意味で、中国は我々の“生命線”でもあることは間違いない。

「与」:ヒョンニムがこれからもトランプと対抗するのなら、習おじさんとも上手くやる必要があるわね。

「正」:当然だよ。アメリカにはわからないように、水面下では、緊密にコミュニケーションを維持しているよ。

「与」:平昌五輪では中国はどう振る舞うのかしら。

「正」:五輪成功を最大限アシストして、文在寅の韓国を取り込む努力をするだろうな。ただ、中国があまりはしゃぎ過ぎると、北朝鮮が霞むかもしれない。ほどほどにやってもらいたいものだ。

「与」:五輪終了後はどうかしら。

「正」:アメリカの米韓合同軍事演習には「キーリゾルブ」と「フォールイーグル」には,中国は反対の立場だ。いずれにせよ、俺は、五輪後の戦略について、秘密裡に中国と協議して、朝中連合戦略を構築しようと思う。

むすび

 軍で作戦計画を立案する際は、その前提となる「敵の可能行動(敵はどのように作戦出来

るか)」を正確に読み切ることである。藤井聡太四段(15)が対局で、相手の手を先々ま

で読み切るのと同じだ。また、「敵の可能行動」を読む際は、“相手の指揮官”に完全になり

きらなければならない。相手が中国軍人なら中国軍人になりきらなければ、その手の内は見

えてこない。

今回は、そのような考えから、「北朝鮮が五輪に賭ける思いや、五輪終了後の対米戦略」などについて、金正恩になったつもりで考えて見た。金正恩の考えをどれ程忖度できているか自信はないが、このようなアプローチにより、北朝鮮の今後の動きを占い、それに対処する方策が策定できるのである。そうでない場合は、後手・後手となり、受け身に回ることになる。

我が国政府・防衛省・外務省なども情報収集と、北朝鮮の今後の動きについての「敵の可能行動」を分析しているものと信じたい。

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