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NEO(邦人退避作戦)迫る?

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2018.1.18

はじめに

16日付の読売新聞は、「半島有事の場合、邦人・米国人ら対馬に一時退避」と題し以下のように報じている。

日本政府は、朝鮮半島有事で韓国の空港が閉鎖された場合、在韓邦人・米国人らを釜山プサン港から海上自衛隊艦船と米軍艦が協力して対馬(長崎県)に運び、一時退避させた後、九州に順次ピストン輸送する方向で検討に入った。

韓国政府は自衛隊の派遣に同意していないが、釜山港に接岸した米軍艦の隣に海自艦を「横付け」し、邦人らを乗せる案が浮上している。

複数の日本政府関係者によると、有事の際は、日本国内への脱出を最優先し、釜山から最短距離にある対馬で1~2泊ほど滞在させることを想定している。民間の在韓米国人にとっても日本が退避場所になるため、釜山港からは米軍艦と海自艦で対馬に輸送し、順次、福岡県の門司港など、九州に船舶でピストン輸送する方針だ。すでに日本政府関係者が水面下で、対馬の現地視察を行い、ホテルなど宿泊施設の収容可能な人数や必要な水・食料の検討を始めている。北朝鮮による攻撃が間近に迫れば、関係自治体との協議に乗り出す考えだ。

○ 若干のコメント

  • アメリカの「本気度」を測る一要素――NEO

アメリカが北朝鮮を軍事攻撃するとすれば、その分かり易い予兆として①陸・海・空・海兵隊戦力の在日・在韓米軍基地や北東アジア海域への前方展開(既配置の戦力以外に)、②在韓米軍の家族の出国、③在日米軍の家族の出国、④韓国(場合によっては日本も)への渡航自粛・制限などが考えられる。それに加え、NEOの具体化・準備も米軍が北朝鮮攻撃を行う予兆の一つと考えられる。

上記報道が事実なら、アメリカは北朝鮮に対する攻撃を真剣に考え、準備を行いつつある証左と考えられる。北朝鮮への対応について、「全ての選択肢がテーブルの上にある」というトランプ大統領――米軍の最高司令官――公言を裏付けるものであろう。

  • 対馬の防衛警備は大丈夫なのか?

 西に朝鮮半島、東に九州を臨む国際海峡の真ん中に位置する対馬にあり、地政学上チョークポイントとされる国家防衛の要衝である。

対馬に配備された自衛隊部隊としては、陸上自衛隊は対馬警備隊等がある。対馬警備隊は、普通科中隊1個を基幹とする小規模な部隊であるが、有事には応援部隊を受けてこれを指揮するために全国の離島警備隊でも類を見ない特別な扱いがなされている。すなわち、対馬警備隊は第4師団長直轄の独立部隊であり、指揮官は連隊長クラスの1等陸佐が充てられているなど、連隊格の扱いとされている。また、同部隊は相浦駐屯地の西部方面普通科連隊と同様、レンジャー資格者の割合を高めており、レンジャー資格者だけで同部隊の約半数を占めるといわれる。

海上自衛隊は、対馬防備隊(上対馬警備所・下対馬警備所)が設置されており、対岸の壱岐警備所と協同して対馬海峡の通航監視を行っている。

航空自衛隊は、第19警戒隊が対馬の最北端にある海栗島にレーダーサイトを設置して朝鮮半島方面の空を警戒している。

警察は、長崎県警察が警察署を島内に2ヵ所設置している。海上保安庁は島内に対馬海上保安部・比田勝海上保安署を設置し、かがゆき型巡視艇6隻とモーターボート2隻の計8隻を配備している。そのほか、水産庁が漁業取締船で対馬沖を監視することがある。

上記報道によれば、日米両国は対馬をNEOの中継地――一時退避地――と考えている由。朝鮮半島有事、邦人がソウル方向から命からがら逃げてきて、釜山から海自艦船で対馬に退避する様相――特に、北朝鮮系武装難民によるゲリラ攻撃など――を的確に評価し、上記の防衛警備能力を増強する必要があるだろう。

  • 韓国・北朝鮮からの難民など対処――対馬が最大の受け皿に?

韓国・北朝鮮からの難民は、対馬のみならず、多少に関わらず言えば、日本海正面にはあらゆる海岸に来着が予想される。その中で、対馬には韓国からの難民が極めて多数来ることだろう。NEOのための海上自衛隊艦艇の接岸さえも拒む韓国の国民をどう遇すべきか、という問題もあろうが、歪な民族意識を持たない日本は、人道上の観点から、韓国からの難民に対しては、できる限りの支援を惜しまないだろう。

対馬は、韓国からの難民の当初の避難場所として最大の受け皿になることが予期される。日本政府は、釜山から退避する邦人・アメリカ人に加え、主として韓国からの難民への対処も準備することになろう。

  • 対馬には、政府代表――総合指揮機能――の存在が必要

 このような事態では、上記の防衛警備の他、医療・防疫、出入国管理及び難民認定などの機能も不可欠となろう。また、アメリカ・米軍との調整・交渉も必要となろう。縦割り行政の弊害が強い日本の行政機構では、それらを総合的に指揮・調整する強力な機能が不可欠となる。いわば、「ミニ政府(対馬出先政府)」が必要となろう。今の内から研究し準備すべきと考える。

  • 防衛出動を下令する時期は?

 対馬を上記のような体制・準備かに入れる時期と、法的根拠の準備が必要となる。武装ゲリラが出てからでは遅い。立憲民主党・共産党や左翼メディアが如何に騒ごうとも、政府は国民の命を守るために、断固として、先行的に防衛出動を命ずるべきだ。

  • NEO以前に打つべき手

 歴史問題を盾に、邦人保護にさえも協力を渋る韓国に対応するためには、朝鮮半島の危機を絶えず評価し、危機の兆候を看取したならば、日本政府はためらうことなく、「渡航自粛」や「渡航禁止」を発令すべきである。

筆者が防衛駐在官当時(1990~93)、本件について外務省幹部と議論すると「日本が『渡航自粛』を出せば、韓国へのダメージは計り知れない」などと、韓国政府を忖度するする姿勢が強かった。今は、どうかは知らないが、今後は冷徹に、しかも断固として早めに『渡航自粛』を発令し、NEOのリスクを最小限にする工夫が必要であろう。

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