Home»オピニオン»北朝鮮の核ミサイルはアメリカにとって脅威か?

北朝鮮の核ミサイルはアメリカにとって脅威か?

0
Shares
Pinterest Google+

2018.1.16

はじめに

焦点:消えぬ米朝戦争懸念、トランプ政権にくすぶる先制攻撃論」と題する13日付ロイター記事がある。これによれば、北朝鮮に兵器プログラム放棄を迫るトランプ政権内部で、「主戦派」と「外交交渉派」に意見が割れているという。それによれば、 マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)は大統領側近の中で最も声高に、より積極的な軍事的アプローチを主張。一方、ティラーソン国務長官やマティス国防長官、米軍指導部は、慎重に外交選択肢を尽くすべきだとの立場をとっているという。

 今回は、「外交交渉派」のマティス国防長官とトランプ大統領の仮想対話を通じて、「北朝鮮の核ミサイルはアメリカにとって脅威か?」というテーマについて考えてみたい。

○ 米トランプ大統領とマティス国防長官の仮想対話

 以下、トランプ大統領の発言を「ト」と、マティス国防長官の応答を「マ」と表記する。

  • 北朝鮮の核開発の進展状況は?

ト:ジェネラル、北朝鮮の核ミサイル開発の進展状況を国防情報局(DIA)は同評価しているのか。

マ:昨年11月に行われた実験を分析する限り、北朝鮮の ICBM(火星15)は、射程が1万3000㎞で、アメリカ東海岸まで届くと見られます。ただ、再突入時、弾頭は燃え尽きた可能性があります。また、弾頭に核弾頭を搭載した場合と同じ重量のものを乗せていたのかどうかも疑問です。金正恩は、アメリカに対する心理戦として、弾頭を軽量化して射距離を伸ばした可能性があります。

ト:DIAの分析が正しいとしても、北朝鮮がアメリカに直接脅威を与えるICBMの開発が予断を許さないレベルに迫っているのは確かだね。北朝鮮の核ミサイル開発をガンの進行度に例えれば、ステージ3くらいで極めて厄介なところまで来ているのは事実だね。

マ:イエス・サー。おっしゃる通りだと思います。

  • 北朝鮮の核ミサイル開発阻止のための米国の選択肢

ト:アメリカにとって、北朝鮮の核ミサイルを廃棄させるためには、大まかに言えば次の二つの選択肢がある。

オプション1:軍事攻撃

オプション2:外交交渉

ジェネラルを始めペンタゴンの軍人たちは以外にも、「オプション1:軍事攻撃」には慎重で、「オプション2:外交交渉」を望む者が多い。なぜだろう。簡単に説明してくれたまえ。

マ:第一の問題は、犠牲が多いということです。軍の被害見積もりでは、最悪の場合、南北朝鮮で1000万から2000万の死傷者が出ます。これは、前の朝鮮戦争の比ではありません。アメリカ国民が注視するアメリカ人の犠牲者も少なくありません。在韓米軍、在日米軍などの軍人・軍属とその家族などにも何万という数の犠牲者が出ます。先のアメリカ同時多発テロ事件では、約3000名の犠牲者を出しましたが、北朝鮮を軍事攻撃した際には、それどころではありません。そうなれば、トランプ政権にとってのダメージは計り知れません。

外交的に言えば、高々北朝鮮の核ミサイルを廃棄させるために、韓国を焦土と化し、日本の特にその経済を瀕死の状態に陥れれば、両国民の恨みは計り知れません。そうなれば、日本と韓国のアメリカに対する信頼をブチ壊し、同盟は反故になる可能性があります。

アメリカが日本を失えば、北東アジア戦略・アジア戦略のみならず世界戦略にまで重大な影響が出ること必定です。

第二の問題、それは「出口戦略が見えないこと」です。アメリカは、日本占領を例外として、ステイト・ビルディング(ネーション・ビルディング)には失敗しています。最近では、アフガンやイラクで依然手を焼いているではありませんか。

マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)などの主戦派は、「今こそ北朝鮮の核ミサイルを除去する最後のチャンスだ。外科手術的攻撃(サージカル・ストライク)で、北朝鮮の核ミサイルを粉砕しよう」と言うが、その後は「野となれ山となれ」では困ります。北朝鮮の新たな国づくりまで、責任を持って考える必要があります。これは、アメリカにとっては、難事業、否不可能と言わざるを得ません。相手は、手ごわい朝鮮民族ですから。

第三は、北朝鮮に対する外科手術的攻撃が中国との全面戦争に発展するリスクがあることです。このことは、大統領閣下に説明する必要もないと思いますが。(マティス国防長官は、そうは言ったものの、大統領の安全保障や外交について知識があまりにもお粗末であることに不安を感じた。)

中国との戦争を避けるべきだとの理由は、ベトナム戦争時代、米軍が北ベトナムに地上侵攻しなかった例を見れば分かり易いと思います。当時、アメリカと中国の核戦力の格差は圧倒的でした。それにもかかわらず、ベトナムには北爆するに留めたのは、中国との戦争を忌避したからです。当時に比べ、中国の戦力がアメリカに相当近づいているのは確かです。中国と戦争をすれば、核戦争にまでエスカレートし、米中が犠牲を出すばかりではなく、経済的に見れば人類最悪の世界恐慌になる恐れがあります。

  • 北朝鮮との交渉に成算はあるのか?

ト:然らば、ジェネラルに聞くが、北朝鮮との交渉で成算はあるのか。

マ:ノー、ありません。この点は、ティラーソン国務長官も同意見です。

ト:それじゃあまりにも無責任ではないか。

マ:そうではありません。大統領閣下の国防長官として、粉骨砕身この問題に取り組んでおります。

ト:じゃ、ジェネラルはどうすればよいと思うのかね。

マ:北朝鮮の核ミサイル開発を黙認することです。外交交渉を通じて、「問題児」のカウンセリングをし、暴発を抑え、国際社会で生きていけるような、常識とマナーを教える必要があります。北朝鮮を落ち着かせて、現状をよく理解させることが大事です。

金正恩は、アメリカが核保有国と承認しても、体制を維持できる保証はありません。北朝鮮が改革開放路線を選べば、金王朝は崩壊する可能性が高いと思います。今のように、アメリカを挑発して、国内を締め付けるほかに、体制維持するのは困難ではないかと思います。

かつて、金大中が「太陽政策」を採りました。北朝鮮に北風を付加せるのではなく、太陽の光・温かみを送れば、北朝鮮自体が変化をせざるを得ないという考え方です。これに倣い、今度は、アメリカが「太陽政策」を採ればいいのではないかと思います。

  • アメリカにとって、北朝鮮の核ミサイルは脅威ではないのか?

ト:ジェネラル、無責任なことを言わないでくれ。アメリカにとって、北朝鮮の核ミサイルは脅威ではないのか?

マ:北朝鮮の核ミサイルが脅威であることは事実です。しかし、大統領考えて見てください。北朝鮮以上に、ロシアや中国の核の方は圧倒的に強力だけど、アメリカはその脅威の中で過ごしているではありませんか。

そう考えれば、北朝鮮の核ミサイルは「些末な脅威」と言わざるを得ません。アメリカのミサイル防衛システムは、世界の中で圧倒的に優れています。長短二系統の槍(弾道ミサイル防衛用のミサイル)が用意されております。一つ目の長井槍の系統は、弾道ミサイルの弾頭が最も高い高度を飛翔する中間(Midcourse)段階での迎撃任務を担うためのもので、射程の長い二種類のミサイルが配備されています。一つはイージス艦が積むSM-3ブロック1B艦対空ミサイル(射程1200㎞)。もう一つが、米本土基地に配備された三段式大型地対空ミサイルのGBI(地上配備迎撃体:射程数千km)であります。

二つ目の短い槍の系統は、弾頭が大気圏内(高度100キロメートル以下)から地上に落下する終末(Terminal)段階での迎撃担当を担うもの。それは、陸上配備のTHAADミサイル(週末高高度地域防衛:射程200㎞)と、パトリオット防空ミサイル(射程20~30㎞)の二つであります。

現状では、中間(Midcourse)段階と終末(Terminal)段階の対処のみですが、今後は敵ミサイルが発射された直後のブースト段階にも対応できるように、研究開発を進めております。それが、小型高出力レーザー砲を装備する高高度滞空(HALE: High Altitude Long Endurance)無人機の開発を進めております。

これらは、ロシア中国の脅威を念頭に置いたもんですが、北朝鮮の核ミサイルにも十二分に対応できます。

  • 北朝鮮の核ミサイル開発を容認・放置することは何が問題なのか?

ト:ジェネラルやペンタゴンの考えでは、北朝鮮の核ミサイル開発は、左程心配することではないということか。北朝鮮の核ミサイル開発を容認・放置することは何が問題なのか?

マ:三つあります。第一は、日本、第二は、韓国、第三は、世界の動向です。

ト:日本は何が問題なのか。

マ:日本にとっては、あの凶暴・不安定な北朝鮮――○○に刃物という表現がピッタリ――が核ミサイルを持てば、恐ろしいに決まっています。「これまで核の傘をさしかけてくれたアメリカが、万一の時に自国が核攻撃を受ける覚悟で日本を守ってくれるのか?」という疑念が湧き、日米同盟が揺らぐ可能性があります。

ト:日本にも核武装させ、自らの安全は自らせよと突き放せばよいではないか。

マ:もし日本がまともな国であれば、そうするでしょう。しかし、大戦中二度も被爆したトラウマ・核アレルギーが今も深刻で、核武装については世論が分裂し、政治が大混乱するでしょう。日本は、まだ、マッカーサーが付与した憲法さえも改正できずにいる状況なのです。国内が混乱すれば、日米同盟も揺らぎ、最悪の場合は中国に取り込まれる恐れさえあります。アメリカの世界戦略にとって、日本は不可欠の国なのです。

ト:韓国はどうだろう。

マ:韓国は、日本と異なり、今すぐにでも核武装を目指すと思います。そして、自前の核を持てば、アメリカの核の傘など不必要だと考えるかもしれません。

ト:北朝鮮が核武装することにより、世界規模の問題が生ずるとすればそれは何だろうか。

マ:核不拡散条約(Treaty on the Non‐proliferation)体制が崩壊し、アジアであれば韓国以外に台湾、ベトナム、フィリピン、タイなどが核武装に走ることです。核が世界に流通し、テロリストの手に渡る恐れもあります。

ト:それは、許せないな。

マ:大統領、私はこう思います。原罪を負う、アダムとイブの末裔の人類・国家は、いずれ核不拡散条約を反故にし、核兵器が世界に流通することになるのではないでしょうか。時間の問題です。北朝鮮の核ミサイル問題を解決するためには、それほどの覚悟を持って臨まねばならないと思います。

  • 日韓に対する拡大抑止の提供が急務

ト:「オプション1:軍事攻撃」ではなく「オプション2:外交交渉」の立場を採るジェネラルの考えに立てば、アメリカが北朝鮮の核武装容認する上で、早急に手を打たなければならないことは、日本と韓国に対するアメリカの防衛約束、特に核の傘に対する信頼を回復することだな。

マ:イエス・サー。アメリカによる拡大抑止をしっかりと説明し、納得させることが重要だと思います。大統領に説明する必要もないとは思いますが、拡大抑止とは、「同盟国が敵国から核攻撃の脅威を受ける場合、アメリカが『核の傘』やミサイル防衛、陸海空の通常兵器・戦力を動員して米本土と同水準の抑止力を提供し、同盟国を守ること」を指します。

ト:そのことに関しては、ジェネラルとティラーソン国務長官から報告を受けたところだな。韓国外交部イム・ソンナム第1次官とソ・ジュソク国防部次官がアメリカに来て、17日に、第2回高官級韓米外交・国防(2+2)拡大抑止戦略協議体(EDSCG)会議に出席、北朝鮮の核問題の外交的・平和的な解決を裏付けられる包括的な対北抑止方策について議論する計画だそうだな。

マ:イエス・サー。今後は、日米の要路に両国に対するアメリカの拡大抑止について、繰り返し誠意をもって説明して参ります。

  • アメリカによる中朝離間策の推進

ト:習近平は、結局は失敗したが、前の朴槿恵(パク・クネ)大統領を口説いて、二股外交にまで漕ぎ着けた。今また、文在寅に秋波を送り再び取り込もうとしている。ジェネラル、「オプション2:外交交渉」の立場に立つのであれば、アメリカは中国の向こうを張って、中ロが韓国を承認している現状で、北朝鮮をクロス承認すればどうだろう。

マ:「オプション2:外交交渉」を採用すれば、閣下が言われる通り、我々は中朝関係を揺さぶることができます。中朝関係が負のスパイラルに陥れば、中国としては北朝鮮を締め上げざるを得なくなるでしょう。中国による対韓国・日本工作を、指を咥えて見ているだけでは情けない。我々も対北朝鮮工作をやりましょう。

○ むすび

以上のように、トランプ大統領とマティス国防長官の仮想対話(ブレーンストーミング)を通じて、「オプション2:外交交渉」の立場からアメリカの対北朝鮮・東アジア政策を眺めて(分析して)みた。

本稿の命題「北朝鮮の核ミサイルはアメリカにとって脅威か?」の答えは、筆者は「ノー」と考えている。中国とロシアの核ミサイルに対抗するアメリカにとって、北朝鮮の核ミサイルは左程の今日にはならないと思う。

改めて、「オプション2:外交交渉」の利点・不利点を要約すれば次のようになる。

  • 利点
    • 生命・財産の犠牲が少ない。
  • 不利点
    • 北朝鮮に核ミサイルを保有させる。
    • 日韓のアメリカ離れが懸念される。
    • 核不拡散条約(Treaty on the Non‐proliferation)体制が崩壊する恐れ。

これらの不利点をカバーするためには、「日韓に対する拡大抑止の提供が急務」であると考える。

Previous post

金正恩はアメリカが体制保障をすれば安泰か? ――徳川幕府開国の先例

Next post

“平昌五輪作戦”――金正恩と実妹・与正の内話