Home»オピニオン»日本の電機産業は今や生き残りの分岐点、強み・弱み見極め完全自前主義と決別を

日本の電機産業は今や生き残りの分岐点、強み・弱み見極め完全自前主義と決別を

1
Shares
Pinterest Google+

日本の産業群で今、地殻変動が起こりつつある。技術力に裏打ちされた国際競争力を武器に、外貨稼ぎができる業種は自動車と電機と言われた時期が長く続いたが、このうち白物家電産業が韓国、台湾、中国の追い上げ攻勢に太刀打ちできず、シェアを大きく奪われて凋落の一途と言っていい厳しい事態にある。グローバル競争に敗れ、今や生き残りの分岐点にあるといえる。そこで「失敗の研究」の格好テーマなので、取り上げてみたい。

 

厳しい現実はこうだ。液晶テレビで先行した家電大手シャープが経営不振から台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入った。また、三洋電機も経営不振で中国ハイアールに家電の冷蔵庫部門などを身売りし、本体部分は家電大手パナソニック傘下に入って完全子会社化した。さらに、粉飾経理で経営悪化に陥った東芝は冷蔵庫・洗濯機など白物家電事業部門を中国の美的集団に売却したことなどだ。しかしこれは、日本に限ったことでない。米ゼネラル・エレクトリック(GM)は、日本とは対照的に、大胆な事業部門整理の一環で今年1月、家電事業部門を中国ハイアールに売却した。白物家電産業分野で一時代を画した国々の主力企業が相次ぎ、後発参入国の追い上げで地殻変動に見舞われたのだ。

 

1億人成熟消費市場へのこだわりやデジタル化対応後れ、スピード経営欠如が敗因

シャープや三洋電機のケースは、理由がはっきりしている。1億人レベルの成熟消費者がいる日本国内市場向けの高品質の製品づくりにこだわり過ぎて、アジア新興市場などローエンドと呼ばれる低価格品主体の市場を軽視するなど、機敏なグローバル化対応ができなかったこと、デジタル化やICT(情報通信技術)時代の製品対応に後れをとったこと、さらに決定的なのは、設備投資判断を素早く行うスピード経営で差がつき、企業合併&買収(M&A)の資金調達力も素早いことなどで競争に敗退していった、と断言できる。

 

中でも、韓国サムソン・エレクトロニクスは強烈個性のトップリーダーのもとで、日本をターゲットに追いつき・追い越せの猛ダッシュ作戦で日本の電機産業を凌駕した。今はその企業経営の勢いは中国に移りつつある。ハイアールや美的集団は、技術開発力の弱さを補うため、資本力にモノを言わせたM&A作戦で、技術力のある日本や米国の企業買収に踏み出した。これに人件費など生産コストの差がついて太刀打ちができなくなっている。

 

富士フイルムや米GEは成功モデル、不採算部門を大胆に捨て事業転換図った

今後、日本の電機産業はどういった道を歩むべきなのだろうか。結論から先に申し上げれば、厳しいグローバル競争の現実を冷静に見極め、競争に勝つために大胆かつ新たな巻き返し策をとる必要があるが、その場合、重要なことは、かつてのようなあらゆる製品を誇示するフルセット主義、端的に言えば完全品ぞろえ主義、すべて自前主義へのこだわりを止め、シェアをとれる製品に特化すること、また異業種の優れもの企業などと大胆連携してネットワーク力を広げることだ。そして企業の強みと弱みを見極め、捨てるものは捨て、逆に強みに磨きをかけて付加価値生産力を高め、国際競争力を強化していくしかない。

その点で、需要が激減したカメラ用フイルムを大胆に見限り、バイオ技術など活用して医薬品や化粧品に事業転換して見事に成功した富士フイルムは好例だ。米GEも過去の成功体験にこだわらず素早い事業転換を行って成功した。大事なことは何を捨てるかだ。

 

アナリスト泉田さん分析「グローバル競争のルール変わったことに気づかず」は鋭い

経済学の教科書にあるリカード比較生産費論にあるとおり、日本は人件費や部品など資材調達費のコスト競争に関して、ライバル国の物価水準だけでなく為替換算しても歯が立たなくなっているのは間違いない現実だ。ただ、かつて、日本企業は急激な円高に対応して、生産拠点を中国などに移し現地生産化で競争力確保を図ったこともあったが、生産移転に伴うおびただしいコストアップ要因を克服してもプラスなのか見極めがつかない。それどころか国内の生産空洞化を招くうえ雇用の大幅削減リスクの問題もある。

 

しかし今は、そのレベルを越えて地殻変動が起きている。その現実に対し日本企業が対応できているかどうかが重要だ。あるセミナーで出会って鋭い問題意識に共感し、それ以後、交流しているアナリストの泉田良輔さんの分析が参考になるので、ご紹介させていただこう。泉田さんは著書「日本の電機産業」(日本経済出版社刊)で、なぜ日本企業の強みが弱みに転じたのか、という点に関して、競争のルールが変わったこと、早い話、地殻変動が起きていることに気づこうとしなかったことに問題があった、と指摘している。

 

「競争優位見極めろ」「総合優勝よりも種目優勝」「プラットフォーム獲得を」など5つ

泉田さんによると、日本の電機メーカーはデバイスの強み、その強みを享受した最終製品へのこだわりを捨てきれなかった。ところが通信やネットワークのインフラが大きく変化し、電機メーカーが強みにしていた最終製品の機能がスマートフォンやタブレットパソコンにどんどん取り込まれ、ネットワークを通じて不特定多数の人たちが「見る楽しみ」を共有するようになった。コンピューターやネットワークとつながらない最終製品では競争に勝てず、消費者に見向きもされなくなっている現実をまだわかっていない、という。

 

電機メーカーの経営の強み、弱みを見抜くアナリストらしい分析力は、私自身にとっても目から鱗だった。その泉田さんは「負け戦から学びグローバル競争に勝ち進む5つのパターン」として、「外部を使う」「競争優位を見極める」「総合優勝よりも種目優勝を目指す」「そらす戦いをする」「プラットフォームを獲得する」の5つを挙げている。

 

国際標準ルールづくりに積極関与が必要、中国もルールづくり関与でTPPに関心

私が申し上げた事業分野で競争力を失ったものは捨て、逆に強み部分に磨きをかけるなどいくつかの点については同じ指摘だ。それ以外の「そらす戦い」「プラットフォーム獲得」のポイント部分のうち「プラットフォーム」の話は興味深い。要は、グローバル競争に勝ち抜く場合、国際標準のルールづくりに主導的にかかわっていることが重要で、ことルールづくりでは欧米諸国が圧倒的に強いため、日本企業は、国際標準化している外国企業をM&Aなどで傘下に収め巻き返しを図るなどの対応策をとれ、という考えだ。

同時に、泉田さんは、日本企業が今後、グローバル市場で大きなシェアを確保する電機製品などを持ち続けるにあたって、その企業が国際標準ルールづくりのルールメーカーの役割を果たすこと、さらに、欧米の有力企業を巻き込んで一緒にルールをつくることが必要だ、という。要は、グローバル世界での競争はルールづくりを制しろ、という発想だ。

 

今、中国は日米主導のTPP(環太平洋経済連携協定)に後発でも参加することをひそかに検討している、と中国関係者から聞いたことがある。ひたすらTPPを敵対視していた中国がなぜ、と思われるかもしれないが、中国は日米主導で国際標準ルールを作られてグローバル市場から取り残されるよりも、TPPに参加して国際標準ルールづくりに中国も参加することで競争力を維持すべきかどうか悩んでいる、というのだ。今後のグローバル競争でのポイントは国際標準ルールをめぐる争いであることを浮き彫りにする話だ。

 

シャープOB中田さんは鴻海精密と「すり合わせ国際経営2.0モデル」連携を主張

次に、申し上げたいことがある。今回、シャープが台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入ったこと、三洋電機が中国ハイアールに冷蔵庫事業部門などを売却したことなど経営不振のあおりで、その選択肢をとらざるを得なかった点をどう教訓にするかだ。

すでに申し上げたように、あらゆる事業部門を装備してフルセット主義で強み保持という発想はもはや無理があり、コスト競争力で決定的に勝てなくなった事業部門を事業譲渡などで見限るしかない。しかしその場合、今後のグローバル競争時代の電機産業のビジネスモデルとして、日本のものづくり企業が持つ「すり合わせ」機能をグローバル化にうまくつなぎ合わせ、逆に強みにする戦略的な発想が重要になる。つまり逆転の発想だ。

 

この点について、シャープ問題の取材過程で私が関心を持ち、その後交流を続けるシャープOBの中田行彦立命館アジア太平洋大学教授の話が参考になる。中田さんはシャープで液晶技術本部技師長などを務めたあと、外からシャープ経営を分析しているが、著書「シャープ『企業敗戦』の深層」(イースト・プレス刊)で、ポイントをつく指摘を行っている。

中田さんのキーワードは「すり合わせ国際経営2.0モデル」だ。具体的には、シャープが今後、鴻海精密工業の傘下に入って生き残りを図る際、シャープの「すり合わせ」による研究・開発力とブランド力を使い、鴻海精密工業の生産技術と中国などにある生産工場や世界に広がる顧客のネットワークを活用することが必要だという。言ってみれば「国際水平分業」ネットワーク形成で攻勢に出ろ、というもので、確かに重要ポイントだ。

 

シャープにとっては外国企業との互いの強み部分の補完で行くことが生き残り策

「すり合わせ」というキーワードをちょっと説明しておこう。日本のものづくりの世界では重要な手法で、独自設計にもとづき複数の部品をうまく組み合わせて品質のよさ、使いやすさなどの付加価値部分を巧みに生み出す手法だ。日本のものづくり企業が世界に誇る生産手法だが、今やデジタル化が進んでコンピューターによる設計や製造、とくにコンピューター上でつくった3Dという3次元データを設計図にして立体物つくっていく対極の新生産方法にプレッシャーをかけられている。

 

しかし中田さんは、インターネットが発達すれば、グローバルの遠距離の世界でも日本のものづくり産業の強み部分の「すり合わせ」をうまくマッチングさせることが可能だ、日本企業はそういったことが得意なので、うまくすれば強みが倍加する。端的には、シャープの生き残り戦略は、鴻海精密工業の傘下に入ったとはいえ、互いの持つ強み部分を補完しあうようにすればいい、鴻海精密工業の中国を含めグローバルに広がる生産力、それにテリー・ゴウ会長のスピード経営判断力をうまく活用すればいい、というのだ。

私も、この考えには同意見で、日本の電機産業は攻めの経営として、今後、成長が見込める新興国市場で、勢いある有力企業と積極連携経営してシェアをとればいいのだ。

 

日本の電機産業は強み生かし、グローバル競争に勝つ戦略的経営思考で攻勢に!

中国ハイアールが旧三洋電機から事業買収した冷蔵庫、洗濯機の白物家電事業部門は現在、旧三洋電機の技術者が中心になって新機種開発に力を注ぎ、「ハイアール」、それに「アクア」の2つのブランド名で日本市場でも一定のシェアを確保する健闘ぶりだ。現に旧三洋電機の「アクア」ブランドがそのまま活用されている。これら企業にとっては1億人の成熟消費人口がいる日本市場に参入してシェア確保は厳しいため、旧三洋電機やシャープのブランド力、技術開発力をうまく生かして実績をつくること、日本市場で評価を得れば、他のアジア市場、欧米の先進国市場に輸出しても市場浸透を図れる、という考えなのだ。

 

そこで重ねて申し上げたい。日本の電機産業にとって、地殻変動が起き大きな試練を味わっているが、競争力を失った事業分野は捨てて、逆に強みを誇れる事業分野は磨きをかけて、新たな付加価値で対応すること、さらにシャープOB中田さんが指摘するように、事業分野によっては中国や韓国、台湾企業と提携し「すり合わせ国際経営2.0モデル」で生き残りを図ればいい。日本の電機産業にとっては今こそ戦略的経営思考が重要だ。

Previous post

丸山眞男先生が亡くなられて20年 ―激変する世界政治に思うことー

Next post

ネットの根源