銅が映す中国景気
2018年後半から急に減速した中国経済だが日本の経済界では回復感を宣伝する人も多い、一般的には景気の先行きに不安が多く、景気見通しを聞くと中国経済の先行き不安を根拠に先行きは不安定との回答が多い。
中国国家統計局が3月末に発表した3月のPMI(製造業購買担当者景気指数)は50.5と前月比1.3point 上昇、50を5ヶ月ぶりに上回った。昨年末の中央経済工作会議ではインフラ投資の促進とか大規模な減税策を打ち出し、その後工事を担う業者が建材、送電線の調達をはじめ、それに使用する銅価格が上昇というのが従来のパターンだ。要するに銅価格が景気の指標になっている。銅とともに天然ゴムが景気の動向を見守っているという図式だ。今回は従来の方式に変え大手商社が銅取引で失敗する例が多いが銅取引の特殊社会を筆者の目で眺めてみたい。世界の消費量でみると中国の消費量は銅が世界の約半分、天然ゴムが世界の約4割だ。今のところ銅相場は動いていないので(2月末が最高値、LMEの3ヶ月先物は21日トン5996ドルと1月下旬以来の安値をつけた、4月中旬より8%安い。)今回の景気対策はあまり期待できないとの観測も広がっている。いずれにしても世界消費の半分を占める銅の相場が中国景気の先行指標になっている。市場ではもはや中国に世界経済の下支えは期待できないと言った不安が有力となっている。話は飛ぶが、中国側も米中貿易論争で神経質になっているようでカナダ産のキャノーラ〔菜種〕の輸入を停止した。ファーウエイの孟副会長(中国政府のスパイの証拠が明らかになっている)の身柄を米国に引き渡し手続きの許可を出したばかりだが、カナダ側の決定に不満の中国が菜種の輸入を停止したが、大豆でも中国が最大の輸入国でありながら停止したので大豆価格も低迷している。さらに問題は銅と同じく半分は中国が消費する豚肉も今年は値上がりやむなしの状態だ。習政権はこれらの問題を抱えさらに景気の浮揚も必要だが、どのように采配を振るうつもりなのか、これからが見ものだ。
#中国の豚肉危機
中国国内でアフリカ豚コレラの蔓延が深刻な状態となっている。中国本土の31の省・自治区・直轄市のすべてで感染している。此による飼育頭数減に周期的な上昇もあり今年の冬は豚肉価格が過去最高値と予想されている。世界最大の消費国でもあり、中国が米国・南米欧州などから輸入を拡大すると世界の豚肉相場も急騰するとみられている。既に百万頭以上を殺処分したが地方の養豚所の衛生水準の低さが感染を拡大させている。国家統計局による豚肉価格は急上昇しており豚1キロの価格は2月末11.9元であったが4月には15.1元まで上昇、政府関係者も今年末には2016年の過去最高値(キロ21元を超える)とみている。中国で豚肉は必需品で価格の高騰は当局への市民の不満の原因となることは必至だ。従来政府は豚肉を国家備蓄し値上がりを防いできた。ところが備蓄は実際に実行されているとは言い難く、従来から問題となっていた。消費者物価指数(CPI)に占める豚肉の比重が約1割に達するとの見方もありこの値動きがCPIを左右する。そこでChina Pig Indexとも呼ばれている。中国内での価格高騰も問題だが、中国の消費量が世界の半分なので国際的に豚肉の需給がひっ迫し豚肉の高騰は避けられないであろう。いずれにしても豚肉の高騰は習政権としても頭痛の種でこれから豚肉価格の動向を注意深く見守る必要がある。
#銅を巡る特殊社会
銅価格の趨勢によっては大損を被ることもあるが、成功例はあまり聞いたことがない。此は銅取引をする商社〔主として大手商社〕が仲間内でcircleを作り外部と隔絶した社会を作っていることにもよる。サークル外の人は彼らを確信犯と呼んでいるが、彼らだけでSpecial Dinnerの会を持ったり(蝶ネクタイ、タキシードを着て食事会をして、仲間内であることを知らしめる)、婦人も同伴したりして親睦を深める。場所も世界的に有名な場所でこのような仲間の会合を持ち、仲間での連携を深める。と言った形式で仲間であることがこの特殊取引の原点であることを周知させる。但し外部の連中は彼らを相場で手痛い目に合っているので傷のなめあいといっている。いずれにしてもどの相場商品でも同じような親睦会があり、お互い傷のなめ合いと言われても仕方がない。若い頃にこのような場所で相場商品に痛い目に遭いながらその後うまく社内で出世して退任後はあちこちで調子の良いことをしゃべっている人もいるが、現役時代は商品相場でたたかれ意気消沈していた人も筆者は知っている。いずれにしてもこのような特殊社会の中での取引が銅取引の主流であった時代もあった。
さて銅の国際相場は5月21日にトン6,000ドルを下回り4ヶ月ぶりの安値となった。最大消費国の中国の景気減速懸念が拡大し、銅製品輸入が減少、アルミも需要減ということからLMEの3ヶ月先物も5月中旬から下落し2年4ヶ月ぶりの安値となっている。銅取引覚醒のため再び特殊社会が動き出すのだろうか。