商品市況
年末でも有り今年の商品市況を眺めてみよう。今年も商品市況は中国政府の施策によって左右された。中国政府が景気下支え策の手を緩めれば世界の商品市況に悪影響を及ぼしかねない。
6月に中国の設備過剰産業の代表例として中国の鉄鋼は世界中に漂い続けるのかと言う記事を書いたが,連日中国発の商品市況への影響が紙面を賑わせている。全ての商品が中国発の影響を受けているとは思えないが市況の元をたどってゆくと中国の過剰生産問題に突き当たるケースが殆どだ。今回は過剰生産とは別の消費の側面からも見てみよう。
#段ボール原紙の値上げ
ECが急速に伸びている中国で宅配用の段ボール不足という事態がEC業界を襲っている。中国の段ボール原紙メーカー最大手のキュウリュウ紙業は8月から4度目の段ボール原紙の値上げを発表した。昨年7月にトン3千元程度であった原紙の価格は9月には5千元を超えた。アリババに代表されるようにネット通販が急速に伸び昨年の宅配された小包数は313億箇と4年前の6倍で日本の8倍と言われている。一方中国政府は大気汚染など環境問題対策として製紙会社への規制を強化し(紙パルプ製造の際特に環境汚染が顕著で、中小メーカーはこれを種に外国系の紙パルプ会社を誘致していた)排ガス基準を満たさない中小工場を生産停止に追い込んだ。前述のような価格の高騰は段ボール需要が増える中で供給が旨く行かなかった事が原因だ。更に追い打ちをかけたのが中央政府の古紙輸入規制だ。主に欧州から輸入される廃plasticや鉄くずに粗悪品が混入しており世界のゴミ捨て場になっているとの指摘があり政府は2017年夏から古紙も含め一部の廃棄物の輸入停止を発表した。(所謂資源ゴミは古紙の他に廃plastic,鉄屑、家電・電子機器などを指すが全世界の半分を中国が輸入していたといわれている。)この件は最近の政府内の混乱ぶりをよく表しているように思える。秋の党大会を前に政府内には当分何もしないで静観する派とこの際点数稼ぎをしてなんとか地位の保全を狙う派とある。このケースでは後者が次々と輸入停止などの措置を執った事が響いている。
古紙がなければダンボールは作れない。中国の昨年の段ボール原紙消費量は4,600万トンで全世界の1/3を占める。中国の価格急騰は当然日本など海外の段ボール市場にも影響するので製紙業界は警戒している。段ボール用のみならず製紙原料となる北米産パルプの対日輸出価格が4ヶ月ぶりの値上げで決着と報じられている。テイッシュ、トイレットペイパー等の原料に使われるクラフトパルプの9月積み価格は前月比30ドル高で決まったとも報じられた。何れも対日価格だが中国向けの紙需要が堅調なため中国向け輸出価格上昇に引っ張られた形だ。カナダのパルプ業界は元々強気でパルプ用の森林を次々と山奥に広げ,そこに林道を作りパルプ用材が自然に高くなるように設計してきたが紙需要の増大と共にパルプ価格も極めて高価となっている。
#中国で素材増産を狙う王子や北越紀州
製紙産業は環境汚染産業と見られているが、中国政府も環境規制を強化しつつある。現地企業はむしろ生産を減らす方向に行っているが王子とか北越は環境対応に優れた強みを生かし製紙原料のパルプや包装用の厚紙の増産に走っている。但しこの両社とも日本などで環境規制が厳しくなったあとでの中国市場への参入で現在までの損失も多大で業界内での宣伝もあるように思われる。何れにしても中国内での過剰生産は深刻で環境規制を過剰生産の整理に使おうとする政府の思惑とは逆行しているようにも見える。10月18日からの党大会を控え基準値を満たさない製紙会社に対し操業停止や古紙の輸入制限が政府から命じられ日本の古紙価格も下落している。環境規制に対応する投資が重荷となるセメントでは三菱マテリアルが山東省のセメント工場を現地の大手建材メーカーに売却し中国のセメント事業から撤退するなど中国市場の供給過剰の影響を直接受けている。
#鉄冷えは解消できるのか
粗鋼生産量で世界の半分を占める中国は日本の1年分に当たる1億トンの設備をここ2年で廃棄、輸出も3割減らしたと中国政府は宣伝する。中国製品が市場から消えたことで国際市況は上向いたが、中国はまだ2億トンの過剰設備がある。
秋の党大会の前に経済の安定策としてインフラ投資を急増させた為鉄鋼の需要も急増し鉄冷えも解消かと思われたが需要増は一過性であった。何れにしても残りの2億トン以上の過剰設備の解消ができるのか注目すべきと思う。日本の鉄鋼大手の業績は上記の中国のインフラ投資の増大も有り市況安定を受け回復しつつある。但し、中国が生産する粗鋼は日本の8倍、日本メーカーの価格交渉力は原料面でも製品販売面でも弱い。鉄鉱石でこの辺の動きを見ると今年後半に入り鉄鉱石や原料炭等製鉄原料の価格が下落している。
鉄鉱石は8月下旬の最近の高値に比べ20%強安い。製品が値下がりした中国の鉄鋼メーカーが高くなった原料の調達を手控えていると見て良い。また、中国政府の環境対策で冬場でもあり鉄鋼生産が抑制されると判断しているようだ。豪州産のスポット価格はトン62ドル程度で8月下旬から下がり3ヶ月ぶりの安値圏にある。原料炭も豪州産のスポット価格がトン188ドルと9月から10%以上安値をつけた。中国ではインフラ投資のため需要増大で夏以降原料価格の高騰となったが政府の過剰生産設備の排除に続く環境汚染対策が原料価格を押し下げた。冬になると暖房用石炭を燃やす機会が増えるので政府は鉄鋼の生産を減らす措置をとる。エコノミストの間では共産党大会後の内需に慎重な見方が多いが政府の粗悪な違法鋼材排除によって正規品の需要が引き締まり鋼材価格が上昇し原料価格も上昇していたが、価格の上昇を見込んだ投機資金が先物市場にはいり8月には80ドル近くまで高騰した。その後過熱気味であった鋼材価格が下落に転じると原料価格も下落、投機筋の売りも重なり10月に入ると57ドルと3~4ヶ月ぶりの安値となった。その後需要の堅調さもあり鉄鉱石価格は下げ止まったように見えたが10月の鉄鉱石輸入は2016年2月以来の低水準となった。今年10月の輸入量は7,949万トンで過去最高を記録した前月から23%も減少した。政府の汚染対策としての製鋼所の生産削減によるもの見られている。年間で見ると9月は1億283万トン、1-10月は8億9,600万トンで前年同期比6.3%も増え港湾在庫も過剰とみられ大幅な輸入増となった一年だ。投機筋の売りも終わり、鉄鉱石価格は下げ止まりとなった。政府の政策の変更に加え投機筋の動きは活発だ、元々中国人は投機が好きだが金融引締め下でも投機の材料を創り売買を行っている。その結果、地方政府、国有企業中心に過剰債務が問題となっている。
#銅など非鉄の動きと投機
日本建設機械工業会の発表では今年1~6月の建機出荷額は前年同期比15.3%増とのこと。中国でのインフラ投資拡大によるものと資源価格の持ち直しで中国以外の新興国向け輸出の伸びによるものだが、中国の共産党大会後のインフラ投資の鈍化などを見据えての対策にも懸念がある。インドネシア等新興国での鉱山機械の需要が何時まで続くかも懸念材料だ。
#中国需要によって乱高下する非鉄金属
今年9月まで銅やアルミ等の非鉄金属の高騰は続き一旦落ち着いたものの未だ底堅い値動きとなっている。過剰な精錬設備の停止命令やスクラップ輸入の規制に加え環境に配慮した政策の転換が高騰に拍車をかけている。アルミは世界生産の半分を占める中国で北京政府は冬場の環境保全のため河北省、山東省などのアルミ生産能力を11月までに30%削減するとの発表を受け、買いが集りLME(ロンドン金属取引所)3ヶ月先物価格は9月末にトン2,170ドル迄上がっている。銅についても投機筋は強気だ。LMEの3ヶ月先物価格を年内はトン5500~6100ドルと見ている。中国向け需要増とアジアのインフラ需要増を見越しているためだが銅鉱山の新規開発が見込まれないことにより2020年頃にはトン7000ドルとの見方もある。
#用船料3年ぶりの高値に、国内大手船会社も黒字に
世界の粗鋼生産の半分を占める中国が旺盛な鉄鉱石輸入を続けておりケープサイズの用船料は1日あたり2万2500ドルと3年ぶりの高値をつけた。中国でのインフラ整備や建築需要が活発で粗鋼生産も最高ベースで伸びていると当局は説明するが10月の国慶節前の駆け込みの成約とか、大気汚染対策として冬場の鋼材の減産も予想して海運ブローカーも強気だ。彼らは今の活況は輸送需要を先食いしていると見ている。但し老朽船の廃船も減り稼働船が増えれば用船料も上昇余地は限られる。一方、アジアから北米に向かうコンテナ船運賃は中国から北米に向かうクリスマス商戦が一段落すると共に大幅な値下げとなっている。
商品市況の中でも特に非鉄関連は昔から乱高下が激しい。Dealerも理由付けに中国需要を上げるが、米国のトランプ大統領もこれに絡んでいる。非鉄価格はトランプ大統領就任から上昇を続けていたが4月に入ると下落に転じた。LME3ヶ月先物の銅地金価格はトン5,700ドルで年初に比べ8%も安くなっている。亜鉛も1割程度安い。銅も亜鉛も鉄道や道路などインフラ投資に欠かせない材料だが銅価格が6,000ドルを超える展開は異常だとの見方がある。最大消費国の中国でも住宅投資は規制されており2月につけた6,200ドルがピークとの見方が多くなっている。トランプ政権への期待と失望で非鉄価格は激しく動いている。
今回は商品市況の中でも中国要因が大きな分野を取り上げたが又機会を見て他の分野についても取り上げて見たい。