自主管理運営の八戸岸壁朝市が面白い、民間創意での地域起こしは先進モデル!
逆境を跳ね返して、アイディアをめぐらし、人や組織を見事に動かしている地方などの現場を見ると、総じて勢いがあるので、生き生きしていることが多い。思わず「素晴らしい」「すごい」と叫びたくなる。今回、「時代刺激人」コラムでご紹介したいのは、その1つ、青森県八戸市の館鼻(たてはな)岸壁朝市の勢いのある現場の事例だ。
実は、この朝市を見ることができたのは、里山資本主義などの著作で常に現場ウオッチを欠かさない私の友人、藻谷浩介さんが主宰する3.11フォローアップツアーのプロジェクトに参加したおかげだ。
私は、3.11のフォローアップに強い興味があって、過去3回、ツアーに参加した。今回は、これまでの福島県飯館村や南相馬市など原発事故被災地域へのツアーと違って、津波で壊滅的な被害を受けた岩手県宮古市そばの田老町などの復興状況を、三陸鉄道北リアス線に乗って見て回るのが目的で、最後の目的地が八戸漁港だった。私自身にとって八戸市訪問は初めてだったが、地元で地域起こしプロジェクトにかかわるナビゲーターの町田直子さんの案内で、この朝市を現場見学して大当たりだった。
漁港のある八戸市の人口が23万人で、しかも朝市が9つあって活況なのは驚き
朝市は長い歴史がある。日本だけでなく、世界中さまざまな地域で、人が集まる場所には近隣の農業者や漁業者などが早朝に生産物を持ち寄って売買取引するための市場(いちば)が立つ。市場機能が整っていない所では自然発生的に生まれるが、成熟した日本国内では函館朝市のように常設の朝市として一種の観光スポットになっている。地域起こしの拠点としても朝市は広がりを見せている。岐阜県高山市の宮川朝市などが有名だと聞く。
私は全国の朝市めぐりをしているわけではないが、今回、八戸市で館鼻岸壁朝市を見て、その活況ぶりに目を見張ると同時に朝市の地域起こし効果を再認識した。漁港の町として有名な八戸市が人口23万人を擁して、県庁所在地の青森市に匹敵する人口規模であるうえに、市内中心部には何と9つの朝市がある、と聞いて驚いた。中でも今回ご紹介する館鼻岸壁朝市は、毎週日曜日だけの開催にもかかわらず際立っている。活況ぶりには実は成功の秘密があり、全国に数ある朝市の中でも先進モデル事例に入る、と言っていい。
八戸の館鼻岸壁朝市は360店が出店し早朝から大賑わいで活気度がすごい
成功の秘密の前に、まずは現場のすごさを申し上げよう。館鼻岸壁朝市は、イカやサバなど全国有数の漁獲水揚げを誇る八戸市の太平洋岸にある八戸港の中で、館鼻岸壁という青森県の広大な県有地を使って雪解けの3月から12月までの毎週日曜日限定で、夜明けから午前9時まで開催されている。現場で圧倒されたのは、会場の端から端まで800メートルに及ぶ朝市ストリートという通りが2列になっていること、しかも2つのストリートの両側にぎっしりとおしゃれなテントを張った店から露店の店まで、約360のさまざまな店が軒を連ねているのだ。まるで小さな町がそこにある、というイメージだ。
私がその朝市に着いたのは午前6時過ぎだったが、まだ時間的に早朝だというのに買い物客がぎっしりで、ちょっと先が見えないほどなのだ。どのお客も立ち止まってほしいものを物色したり、朝のくつろぎを楽しむ形でぶらぶら見て回るなど、さまざまだが、早朝の漁港岸壁が人、また人で大賑わいなのが驚きだった。しかも朝市に出店した地元の人たちが面白い。声を張り上げて楽しそうに呼び込みを行うので、思わずのぞいてみたくなるほどだ。モーニングコーヒーなどを味わい食事もできるEAT-INコーナーもある。
行政にお上頼みせず、商工関係者らが見事に自主運営管理した点が成功モデル
朝市がこんなに活気あるのを見て、誰もが、いったい何が成功の秘密なのだろうか、と思うだろう。結論から先に申し上げよう。館鼻岸壁朝市の成功モデルは、八戸市内で商売している農漁業、商工業の関係者が自主的につくった「協同組合湊日曜朝市会」(上村隆雄理事長)による自主管理運営にある、と私は思っている。
ジャーナリストの好奇心で、協同組合理事長の上村さんにいろいろ話を聞いたところ、やはり、自主運営管理がポイントだった。上村さんによると、県や市など行政へのお上頼みをせず、農業者、漁業者ら生産者から商工業関係者まで、さまざまな人たちが互いに連携して民間の発想で、いい意味での創意工夫を重ねながら朝市を自主運営管理していることが活力の源泉でないか、という。
上村さんの話では、この館鼻岸壁朝市の母体は、同じ八戸市内の湊町山手通り沿いに展開していた湊日曜朝市だ。その朝市も、上村さんらが自主管理運営していたが、町の中心部の商店街での日曜朝市だったため、お客を含めて参加者が増えるにしたがって歩道部分を占拠する形になり、危険だと苦情が出た。そこで、移転先を探すうちに県が保有管理する館鼻岸壁が候補地として浮上した。その岸壁は、主として平日に青森県外の遠洋漁業の漁船などが修理で使っている場所で、広大な敷地が魅力。問題は、県が日曜日限定とはいえ、使用を認めてくれるかどうかだった。
県には朝市経済効果をアピール、口出し不要で民間がやると頼み込んで許可得る
そこで、上村さんらは、朝市の経済効果を全面に押し出し、行政が地域起こしのためにバックアップすることの重要性を指摘、その上で運営費用などを極力、民間でまかない、管理もトラブルを起こさないように徹底して行うので、広大な県有地を毎週日曜日の午前3時ごろから午前9時まで、という使用時間限定で借り受けられないだろうか、と提案した。その際、衛生管理などルールはしっかり守るので、規制を加えず、口出しもご無用と頼み込んで合意をとりつけた、という。
問題は、その自主運営管理の仕方だ。上村さんの話では、広大な駐車場管理から10か所にのぼる仮設トイレ、大量に出る場内のごみの分別管理、迷い子連絡の場内放送などをすべて自主管理で、整然と行っている。しかも行政から後ろ指を指されないようにするため、撤収も終了予定の午前9時から10分以内に見事に元の岸壁広場に戻す、という。
ヨコ3メートル、タテ6メートルの店舗1区画を1人1万円、中には2区画2万円で出店したい人たちに割り当てる。それ以外の出店者の費用負担はなし。努力次第で収益をあげるのが最大メリットだ。出店料収入は電気代を含めた運営管理費用に充てられる。協同組合は上村さんが理事長になっているが、役員、専従従業員をおかないので、経費もほとんどかからない。何か問題があった時に幹部が合議制で問題解決にあたるだけ、という。
360店が出店、まだ80店が待機中というからすごい、観光客が泊まり込みで来訪
この館鼻岸壁朝市の出店者は360で、全国の朝市でも突出しているが、何と現在80店が申し込んできて待機中というからすごい。協同組合では、それらの人たちの出店を認めるにあたって面接を行う。朝市にプラスになるように経営計画も聞く。また夜店などで見かける香具師(やし)、テキヤといったやくざまがいの人間を排除するためで、怪しいなという場合、地元警察に照会する。自主運営管理の責任を心得ているところがすばらしい。
上村さんの話では、館鼻岸壁朝市への参加者はケタ外れで、午前6時前から終了間際の午前9時前までのわずか3時間ほどで売上高が平均して1億円、という。お客は70%が地元、残りが観光客だが、朝市の経済効果は間違いなく大きい。
上村さんは「2004年に現在地に移転してから13年目ですが、評判が評判を呼んで、私たちの朝市を見にいこうという観光客の人たちが増えました。前夜から八戸市内に宿泊していただくので市内中心部も活気ある繁華街に変わり、飲食店や商店が潤うプラス効果が出ています。今後はインバウンドの外国人旅行客も視野に入れたいです」と意欲的だ。
農業、漁業者も朝市参加、売れ筋商品を探り付加価値つけて独自に利益あげ自信
ナビゲーターの町田さんによると、館鼻岸壁朝市に出店する人たちは、八戸市内にも店を出す商店の人たちだけでなく、農業者や漁業者の人たちが意外に多い。この人たちは、川にたとえれば川上で生産だけに携わっていたのが川中の加工、その商品化したものを川下の流通現場の館鼻岸壁朝市で売る六次産業化に目覚めた、という。現に、理事長の上村さんは農園経営者で、「卸売市場流通にだけ頼らず、朝市ではお客のニーズを探って売れ筋商品づくりにこだわり値決めも独自判断です」という。また、町田さんの話では漁業者も目の色が変わってきたそうで、「朝市では、出漁するご主人たちよりも奥さんたちが主役です。水揚げして卸売市場でセリにかけにくい、しかし新鮮な魚を独自に工夫して調理、朝市の現場で売り出したら大当たりで、自信を深めているのです」という。
焼き立てパン屋さんには行列、おいしさなどがSNS効果で全国に伝わり話題に
町田さんは、ナビゲーターらしく朝市の現場をよく見ていて、目線がいい。館鼻岸壁朝市に出店する店の中で、アンジェリーナというかわいい名前の焼き立てのパン屋さんは大人気で、行列ができるほどだが、この店のビジネスモデルは、本格的なパン焼きセットを装備したトラックを店の裏側に置き、その場でお客のニーズに対応して味にこだわりのあるパンを焼く。鮮度に加え、味のよさが評価を得ている。クロワッサンが大人気で、地方区から一気に全国区に行くほどの味のよさだ。
この評判がプラスに働き、スマホでフェースブックなどを通じて「おいしかった」と全国に流されたおかげで、アンジェリーナはいろいろな場所に出店する人気だ。まさにソーシャルネットワークサービス(SNS)と館鼻岸壁朝市の行列のできる店の二重効果だが、このSNS効果は、このパン屋に限らず朝市の他の店も同じ恩恵を受けている、という。
この町田さんは大阪出身で、米国留学先で現在のご主人と結婚、帰国後にご主人の実家がある八戸市に来て20年になる。生来の好奇心の強さ、フットワークのよさ、ネアカコミュニケーション力で「大阪のおばちゃん」式に歩き回って地域の経営資源を掘り起し、今では地域プロデューサーとして自然体験ツアー企画などの会社を立ち上げ、観光の産業化に動き回っている。こういった人や組織を動かす人材も地域起こしのポイントだ。
協同組合リーダーの上村さん「自主運営管理による地域起こしが重要」
上村さんは自主運営管理による朝市効果について、「行政のお上頼みで、しかも補助金などを当てにしたりする地域起こしではうまくいきません。行政がかかわると責任をとりたくないためか、規制が先行します。その意味で、私たちのような自主運営管理手法で行けば、衛生管理などはもちろん、自己責任で厳しくやります。出店した人たちがみんな、朝市に集まるお客との会話で売れ筋商品のヒントを得るし、また他の店の売り方を見て、刺激を受けて、自分たちで創意工夫する効果も大きいです」とメリットを上げた。
そして上村さんは「海に囲まれた日本には、館鼻岸壁のような岸壁はいっぱいあります。私たちのような成功事例を参考に、全国の自治体が岸壁に限らず有効活用可能な土地の限定使用許可を与えて、民間に地域起こしの場を提供してくれるだけでいいのです。あとは、私たち民間が自主管理運営して成果を上げるのです」と語っていたのが印象的だ。先進モデル事例は民間主導でどんどんつくり、腰の重い行政をいい意味で巻き込めばいいのだ。