Home»連 載»時代刺激人コラム»ドローン活用してぜひインフラ総点検を

ドローン活用してぜひインフラ総点検を

0
Shares
Pinterest Google+

老朽化する橋りょうやトンネル、道路、森林などのインフラのうち、立地条件の難しさからチェックの手が及ばない、あるいは目に入りにくい部分で老朽度が大きく進み、結果として、崩壊あるいは災害リスクを生むというケースがある。

その解決策として、ドローン(無人飛行機)に赤外線カメラなどを取り付け、空中からのインフラ総点検を強くアピールしたい。ドローンは急速に技術レベルを上げている。人手不足が深刻化し、老朽インフラへの目が届かない状況下の今こそ積極活用すべきだ。

千葉県の台風災害も事前点検していれば、、、

老朽インフラで思い当たるのが今秋、強風を伴った台風15号が首都圏の千葉県に襲い掛かって災害をもたらした事例だ。強風が特定の地域に集中、数多くの民家の屋根を吹き飛ばしたうえに、千葉特産の山武杉をなぎ倒した。その杉の倒木が電柱の倒壊、道路の寸断を引き起こしたため、被害を大きくした。それだけでない。現場の復旧判断に甘さが加わって手間取り、長期間の停電、断水に及び、都市複合災害のこわさを見せつけた。

私は災害後、この山武杉の倒木現場を車で通る機会があった。関係者の話では、林業衰退で所有者の間伐などの維持管理が不十分となり、「非赤枯れ(ひあかがれ)性の溝腐病」が蔓延、木の幹が腐ってきて倒れやすくなっていた。老朽化も影響している、という。

もしドローンを活用して事前に山武杉の状況をデータベース化、また倒木に至った場合の電柱倒壊などへの影響をシミュレーションしておき、台風到来に合わせて、何らかの対策を早めにとれば、災害を最小限に抑えることも可能だったのでないか、と考える。

中山間地域で生活物資輸送の社会実装

ドローンに強い関心を持ったきっかけは昨年、中国のイノベーションセンター、深圳で、ドローンの開発・生産・販売に取り組むDJIの企業現場を見た際の驚きだ。ホビー用のドローン生産が中心だが、平均社員年齢26歳の若い開発力でさまざまな機種開発を行い、2006年創業からわずか13年で世界市場の販売シェア70%を握り、時価総額で10億ドル(円換算1000億円)を超すユニコーン企業に急成長しているたくましさを感じた。

そんな矢先、中山間地域の岡山県和気郡和気町でコンサルティング大手レイヤーズ傘下の企業が和気町と連携して過疎地域の買物難民の高齢者への生活物資輸送をドローンに肩代わりさせる実証実験を行う、というので、現場見学させてもらった。楽天、日本郵便なども同じような取り組みを行っており、社会実装の段階に入ってきた、と言っていい。

ドローンの空撮でスマート林業化も

実験は、安全確保のため吉井川という横幅のある大きな川の上空を、物資を積んだ大きめのドローンが町の中心部から8キロ近く離れた中山間地域へ空輸する形で行われた。担当者がリモートコントロールで飛行チェックするやり方だが、問題なく無事に、現地の指定の着地場所に運ばれた。住民の方々には会えなかったが、週3回、買い物注文を受けた物資を運ぶ計画で、これら実験を踏まえて定着すれば、過疎地域での社会インフラとなる。

興味深かったのは、建設機械大手コマツがかかわる、ドローンを使って森林資源量調査や間伐、下刈りの見える化、データベース化を行いスマート林業の実現をめざす森林空撮の実験プロジェクトだった。ドローンで空中から奥深い森林の写真をさまざまな角度から撮影し3次元の測量、端的には木の直径、長さ、本数、樹種などをデータベース化するものだが、人間が気の遠くなる時間をかけて行う作業を短時間に行い、画像分析なども行うというのだ。千葉県山武杉の調査もこれと同じように行なっていればなあ、と思った。

サウジ石油施設爆撃の軍事ドローンと一線画す

話題を変えよう。今年9月、サウジアラビアの石油生産プラントが周辺国イエメンからのドローンを使った軍事的な爆撃奇襲攻撃で大被害を受けた、という話は世界中を驚かせた。武装組織フーシが犯行声明を出したが、防空網を潜り抜けたドローンが軍事的な攻撃を行った点が衝撃で、ドローンの軍事的用途という、別な顔を見てしまった形だ。

平和国家の日本としては、米国や中国などで軍事目的に開発されることとは厳しく一線を画し、ドローンの平和的な用途開発に努めること、それを活用した社会システムづくりに徹することが何よりも重要だ。

ドローンで収集の画像・数値データは公共財に

時代刺激人を公言している私の問題意識は、ドローンで収集したさまざまな画像データ、数値データ、その分析・解析結果に関しては、可能な限りオープンにして多くの人たちが活用できるように公共財として位置づけることが必要と考える。

たとえばドローンを活用しての老朽インフラのチェック、整備、その補修、さらにはインフラの再構築づくりなどのミッションを抱える国や地方自治体には膨大なデータが集まる。また、関係自治体からのさまざまな業務の受委託にかかわる企業、とくにコンサルティング企業、エンジニアリング企業、建設関係企業にも同様のデータ、それにリンクする知見などが蓄積される。

それらデータを研究対象にする大学やシンクタンク、個人の研究者、NPOにはデータ活用ニーズがある。そこで、これらの人たち向けに情報やデータをオープンにすると同時に、分析・解析結果や研究成果を新たなイノベーションにつなげるようにすればいい。

AI活用しビッグデータを価値創造につなげよ

大事なことは、たとえば、老朽インフラに関係するビッグデータをAI(人工知能)のディープラーニング(深層学習)の対象にして、そこから新たなイノベーションを生みだすようにすることだ。中国のIT先端企業のアリババグループは、くやしいことながらデジタル社会化を先取りし、電子商取引(Eコマース)やスマホ決済で集めた膨大な個人取引情報データ、信用データなどを積極活用し新たなビジネスモデル構築にしている。

ドローン問題に深くかかわる長年の友人、日立コンサルティング元社長の芦邊洋司さんは、ドローンで収集したデータに限らず、さまざまな機関、企業などのビッグデータの活用に関して、こう述べている。「いまはデータ収集のレベルを終えて、それらデータを価値創造にどうつなげていくかだ。AIの活用もそこから始まる」と。そのとおりだ。

規制よりも「小さな政府」で常識破りを

最近出会った経済産業省幹部が、とても興味深いことを言っていた。「デジタル化の新たな流れを引き出すためには小さな政府にしないとダメだ、と痛感する。ドローン1つとっても安全確保、安全保障がらみの観点などもあって、われわれ官僚はタテ割り行政の守りの意識から、すぐに規制にこだわってしまう。でも、変化の激しいスピードの時代に、規制で民間などの新たな動きをしばり、問題が起きればまた規制に走るようだと、イノベーションは生まれない。われわれも考え直す時期かもしれない」と。 こういった経済官僚が輩出してくれば、日本は規制で縛られずに、常識破り、イノベーション起こしの面白い時代になる。官僚が時代をすべて画するわけではないが、失敗を恐れず、リスクを大胆にとる官僚の登場を今こそ、期待したい。

Previous post

Olympic Year、2020年を前に日本のこれからを考える

Next post

海上自衛隊“水陸両用戦艦隊”への道