Home»連 載»時代刺激人コラム»コロナ感染長期化の「新常態」にどう対応すべきか

コロナ感染長期化の「新常態」にどう対応すべきか

0
Shares
Pinterest Google+

世界中を不安に陥れた新型コロナウイルス感染は、今年に入ってついに10カ月に及ぶ。ここまで来ると、誰もが、この異常事態を「新常態」と受け止め、コロナ以前に戻ることはない、と思い始めた。そして、それに見合ったライフスタイル、経済社会システムをどう構築すればいいのだろうか、と模索も始めた。だが、現実は、誰もがこれまでの枠組みを大胆に壊して新たなシステムをなかなか作り出すに至らず、もがき苦しんでいる。

次世代の若者に託せ、「高専DCON2020」で実感

そんな中で「若者たちに、ポストコロナという不透明な次の時代を託せるぞ」と、思わず実感する出来事に出会った。日本ディープラーニング協会(理事長・松尾豊東大大学院人工物工学研究センター教授)が、次世代テクノロジーの人工知能(AI)をモノづくり現場に生かそうと必死で取り組む、全国の高等専門学校生を対象に開催したプロジェクトがそれだ。名付けて「高専DCON(ディープラーニングコンテスト)2020」全国大会。

モンゴル高専3校の合同チーム、それに日本国内の東京高専、長岡高専など、予選を勝ち抜いた11チームが日ごろの研究成果を競ったが、研究レベルはどれも高かった。中でも最優秀賞を獲得した東京高専の7人チームの自動点字相互翻訳システムは、とくに素晴らしかった。視覚障害者のニーズを見極め、新発想でモノを生み出すイノベーションが凄い。

東京高専の自動点字翻訳システムは凄いと高評価

彼らの取り組みは、スマホで撮影した点字印刷物をコンピューターに接続し、深層学習済みの点訳エンジンがサーバー上で自動的に見やすい墨(すみ)字に翻訳する。逆ケースも行う相互翻訳システムが特徴だ。しかもスマホの点字ディスプレーで文字を読み取れる機能や長い文章をAI機能活用で簡略化し要点だけ読める機能の開発にもチャレンジした。

審査委員の専門家は「世界共通語の点字の領域で、視覚障害者の誰もが望む自動翻訳のシステムにチャレンジしたのは見事。グローバル評価につながる可能性がある」と述べた。参加した投資家もこの取り組みに事業評価額5億円、投資額1億円の価値ありと評価、そして起業資金として100万円を授与した。プロも十分に市場価値あり、と認めたのだ。

イスラエルは組織的に若手技術エリートを育成

プロジェクト実行委員長で、AI問題の第一人者の松尾東大教授が、「高専生の研究レベルは高く今後に期待が膨らむ。教育現場で5年間、AIなど専門技術を学ぶ間に、さまざまな技術を組み合わせて新たな価値を創出しつつある。今回のDCONは、研究成果発表の場だが、今後は技術ベンチャーを生み出す場にしていきたい」と述べた。とてもいい話だ。

そういえば、中東のイノベーション大国イスラエルの若手技術エリートづくりがずば抜けている。毎年、高校生1万人から成績優秀な男女50人を選び「タルピオット」という、3年間の技術エリート育成プログラムを展開している。物理、数学、コンピューターサイエンスに特化、イノベーションを生み出す技術力を早くから学ばせる。国家のミッションも担うが、修了後はサイバー技術など数多くの技術を活用、自ら起業し世界で羽ばたいている。

日本も高専制度を活用して若手イノベーター養成を

日本では、イスラエルに匹敵する技術エリート養成プログラムが全く見当たらない。強いて言えば、高等専門学校制度がその1つだ。中学卒業後、高校、大学に進む一般進学ルートとは別ルートの高専に入学し5年間、専門技術教育を受ける。今は全国57校、6万人の学生数がいる、という。今回の「高専DCON2020」を見る限り、大きな期待が持てる。

日本は、モノづくりを競う世界の技能五輪でのメダル獲得数に関して、かつては先端を走っていたが、2017年9位、19年7位と低迷している。今回の大会で、技術人材発掘に関心のある企業サイドからは「卒業後は優先的に高専生を採用したい」との声が出たが、私は大学や企業、研究機関が連携し若手イノベーター養成支援の仕組みをつくればと思う。

政府の「選択する未来」委は「今が変革の時だ」と主張

さて、冒頭のコロナ危機の「新常態」に、どう対応するかが当面の最重要課題だ。そんな矢先、政府の経済財政諮問会議の中にある「選択する未来2.0」委員会(座長・翁百合日本総研理事長)がまとめた中間報告を見た。提言はなかなか刺激的で、興味深い。なぜかメディアが取り上げておらず、あまりオープンになっていないので、ぜひ紹介しよう。

中間報告は「この数年の取り組みが、日本の未来を左右するだろう。今が選択の時だ」と問題意識が鋭い。それだけでない。「この機会を活かせなければ、日本は変わることが出来ず、付加価値生産性の低迷が続き、世界の中で埋没しかねない。強い危機意識が国民各層で広く共有され、後戻りしないことを期待したい」。さらに「新たな変化に即応した変革を進めることが不可欠だ。もはや一刻の猶予も許されない」と述べている。極めて的確だ。

松尾教授ら民間委員の問題意識・提言は新鮮

「選択する未来2.0」委員会は民間委員12人で構成されている。すでに紹介したAI研究の松尾教授も参画している。委員の危機意識は強い。ここまで踏み込んだ提言は極めて新鮮だ。ぜひご一読を勧める。問題は、政府がこの提言を受け止め、どう実行に移すかだ。

提言は「選択すべき未来の実現に向けた主な方策」の中で、米国や中国に比べて大きく後れをとったデジタル化を、今からでも遅くないと踏み込んでいる。官民ともデジタル化をツールに社会を変革すべきこと、阻害要因となる規制を早期かつ大胆に見直すこと、テレワークを活用し柔軟で多様な働き方をさらに広げるなどを強く求めている。いずれも急務だ。

「若者に安心と自信を」提言にさまざまなヒント

しかし私がそれとは別に、強い関心を持ったのは、次世代の若者たちに関する部分だ。「若者に安心と自信を」という形で、ポストコロナの時代を担う若者に焦点を当てている。

端的には「これからの経済社会を担う若者に、より光を当て、自信と安心を持って活躍できる社会をめざしていく必要がある」「意欲と能力のある若者が、多様な働き方の選択肢の下で活躍できる環境を整備し、若者の所得を引き上げていくべきだ。とくに非正規雇用労働者の年収300万円の壁を打破し引き上げるべきだ」と。全く異存がない。

さらに、若者のイノベーションにも言及している。「若者の挑戦と起業を当たり前とする社会にしていくため、大学などがアントレプレナー教育の一環として、『1学生1起業』の機会を、また企業が、社内外のコンテストにより『若者の副業・起業』を支援するなど、社会的な運動として展開して行くことを提案したい」と。これも重要な改革ポイントだ。

また、提言は「企業においてICT(情報通信技術)やAIの社会実装の専門性を有する若者が柔軟な働き方ができるようにジョブ型正社員など多様な働き方の選択肢を提供していくべきだ」、「年功序列型の人材活用の在り方を見直し、能力のある若者の力を最大限に活かすことが必要だ」と。全く同感だ。改革によって、若者だけでなくミドルクラスの中間層の「厚み」も増し意欲が引き出されれば、日本を変えるきっかけになる。いかがだろうか。

Previous post

「我が国の歴史を振り返る」(57) 「日米戦争」攻勢から防勢、そして終焉へ

Next post

「我が国の歴史を振り返る」(58)