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財政の統合化へギアチェンジした欧州

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目次

はじめに  欧州政治 大転換        ————– P.2

第1章 コロナ禍の欧州経済 再建策           ————- P.3

1.欧州の競争政策

【注】メルケル・ドイツのEU議長国就任 

2.欧州経済復興基金創設と、欧州の統合
(1)EUサミット(7月17~21日)と欧州復興基金
  ・基金構想を巡る争点
(2)メルケル首相の翻意の真相
(3)Europe’s Hamiltonian Moment (欧州のハミルトン的瞬間)

第2章 コロナ後の財政を考える              ————- P.8
   ・経済の実状認識
   ・国債の安定消化
   ・明確な時間軸をもって

おわりに 「狂騒の20年代」の再来?          ———— P.10
    ・世界の第2四半期GDP
   ・ざわつく米ウオール街

———————————————————–

はじめに 欧州政治 大転換

7月31日、EU統計局が発表した2020年4~6月期のユーロ圏の域内GDP速報値は、実質年率換算で40.3%の減と、1~3月期に続き過去最悪を更新、25年振りの落ち込みを示すものでした。(Financial Times, Aug.1-2)

欧州各国は新型コロナの感染拡大を受けて、3月頃から厳しい規制を導入した結果、店舗の営業停止や移動の制限の影響が統計の数値に現れたと云うものです。国別ではスペインやイタリア等、南欧の落ち込みが大きく、それは新型コロナの打撃が製造業よりも、観光等サービス業の方が大きい事情を映す処です。各国は外出等の制限を5月から徐々に緩和し、経済は再び動き始めており、7~9月期には前期4~6月期の反動で大きく改善見込みとされてはいますが、それでも景気の先行きには以下の不安材料、つまり感染の再拡大であり、雇用の確保の如何です。

感染の再拡大については、スペインやドイツでは感染者数が増えつつあり、第2波への警戒感は強く、イタリアでは拡大の懸念ありとして非常事態宣言を10月まで延長しています。もう一つは雇用ですが、6月のユーロ圏の失業率は7.8%. 米国と比べて低いのは雇用支援の政策効果に負うものとされていますが、この支援策は時限措置である点で問題であり、更に、中長期的に財政悪化が懸念材料とされる処です。欧州委員会によると、20年通年でのユーロ圏の公的債務の対GDP比は、102.7%に膨らむ見通しで、特に南欧は財政状況がもともと悪い処に新型コロナの感染が広がったことが追い打ちをかける処です。

さてそうした環境下、ブラッセルでは、7 月17日、メルケル独首相を議長としてEU首脳会議が開かれ(議長は6か月の輪番制で、2020年7月からはドイツが担当)、新型コロナウイルスで打撃を受けた経済の再生に向けたEU中期予算(2021~27)が、5日間と云う長時間審議を経て21日、合意されたのですが、high lightは、その一部を成す新型コロナ対策の復興基金(7500億ユーロ)の創設でした。と云うのも、基金の運営はEU一体として債券を発行し、資金調達を図るとするものでまさに`A big fiscal deal’(The Economist, July 25)とされる処、この決定は欧州政治の大転換と、世界の注目を呼ぶ処です。

これまでドイツは、統一通貨 「ユーロ」をベースに全EUベースの金融政策を支持する一方で、財政については、各国の主権に係る問題として、反対の立場を堅持してきました。が、今次の復興基金の導入はこれまでのそうした姿勢を翻し、財政統合への道筋をつけることになったという事で、これがEU統合への流れを本格化するものとして、つまり、新たな欧州の誕生に繋がるものと、世界はこの新しい変化に注目する処です。

そこで、今次、復興基金の創設にフォーカスし、メルケル氏の云うならば翻意に至った事情を時系列でフォローしながら、今後の行方について考察する事とします。つまり新たな欧州の可能性検証です。尚、周知の通り、メルケル氏は来秋、政界から引退予定と伝えられています。とすると彼女のコロナとの闘い、EU統合強化の推進は、まさに彼女のレガシーとなる処ではと思料する処です…

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