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The Social Media とDigital Democracyの交点

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はじめに:Facebookの個人情報流用

世界の経済は今、革命的とも言える情報技術の進歩を受け、大きな変化の中にあります。つまり経済のdigitalizationです。それが産業の革新を進め、それが又、新しい産業を生み出し、同時に人口減少の中にあって生産活動の在り方をも変えていく、等々新しい変化を多くが確信する処となってきています。 昨年の暮れ、日経(12月7日)コラムでも、新しいグローバリゼ―ションが始まりだした、その主役は国ではなく、巨大デジタル企業だとし、具体的には米国のアップル、アマゾン、グーグル、フェースブック、中国のアリババ、テンセントを挙げていました。彼らは普通云う処のIT企業ですが、今やdigitalizationを軸にした資本主義、Digital Capitalismの到来を象徴する存在となるものですが, かかる変化は、前回の論考でもリファーしたボールドウインの「世界経済 大いなる収斂」が示唆していたITが齎す新次元のグローバリゼーションの文脈に、まさにぴったりはまると云うものです。

然し、そのデジタル経済に大きな落とし穴があった?という事なのでしょうか。3月17日のNew York Timesと英紙Guardianが、英コンサル企業、「ケンブリッジ・アナリティカ社」(以下CA)の元社員による内部告発を基に、報じた情報メディア企業Facebook(以下FB)での顧客情報の流出、無断流用問題は世界を駆け巡り、プラットフォーマーと呼ばれる巨大IT企業によるデータ独占の在り様の如何が、一挙に浮上してきました。それはプラットフォーマーのビジネス・モデルに関わる基本問題であり、同時にそれは情報を基軸とした新たな民主主義、つまりDigital Democracyへの脅威と映ると云うものです。

その報道によるとFBを通じてユーザー調査をした英ケンブリッジ大学の心理学教授が、そこで得た約27万人の個人的嗜好や行動にまつわるデータを不正に英コンサル企業、CAに渡したと云うのが事の始まりでした。当教授が調査を通じてユーザーデータを取得するのはFBとの契約に基づき合法とされるものでしたが、それを許可なく第三者に渡す事は禁じられているのです。データはユーザーの友人情報も含まれている由で結果的には8700万人の情報がCAに流れたとされています。つまりCAへの情報の不正流出、彼らの不正取得という問題ですが、その核心は、同社はそうした情報をベースに個人の行動データをAIで分析し、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を使って選挙時の投票行動に影響を与えるビジネスを運営するコンサル企業ですが、2016年の米大統領選ではトランプ陣営に有利になる様に「情報戦」を仕掛けたとされる点でした。つまり、膨大な個人情報の政治活動への利用、それも無断で、と言う点です。米議会は事の重大さに照らし、4月10~11日、FBのザッカーバーグCEOに対して米下院議会の公聴会での証言を求めるに至り、米国はもとより世界の関心は一挙に高まる処となったのです。

序でながら、英国では3月27日、アナリティカ社の内部告発者が英下院の委員会で、2016年の英国のEU離脱を問う国民投票にも関与した事を証言したのですが、これが大きな議論を呼んだのは云うまでもありません。因みに「もしその関与がなければ?」との委員会での質問に対して「国民投票の結果は違っていたかもしれない」と応えています。

これまでもIT企業による情報の独占という事態、それが齎す問題について、折に触れ云々されてきていましたが、今次のFB事件をきっかけとしてGAFA(Google ,Apple, Facebook, Amazon)と呼ばれる巨大IT企業を巡る環境は急速に厳しくなってきています。 その様相は、革命的ともされる情報技術の進歩を背に進む経済の高度情報化、つまりDigital capitalismの健全な進化を担保していく、まさにDigital democracy の在り方を問う処になったと云うものです。

(注)GAFA:様々のプラットフォームで個人データーの収集と活用で成功している巨大米Digital 企業4社、Google, Apple, Facebook, Amazon を、その頭文字を以ってGAFAと呼ぶ処、いずれも元々はIT企業で、近時自動車、金融、物流、リテール等、IT業界以外の事業領域への展開を押し進めててきており、このため競合企業だけではなく、ヨーロッパ、アジア各国でも大きな脅威を感じ始めている。尚、これまで4社の時価総額は3兆ドル超を記録するほどに在りましたが、今次のFB流用問題で時価総額は全体の1割ほど急落し、上位独占の姿は崩れだしています。

そこで今回発覚したFBでの個人情報流用問題の実状と同社ザッカーバーグCEOの議会証言、そして、プラットフォーマーと言われる巨大デジタル企業に象徴されるDigital経済社会の今後について考察することとしたいと思います。
処で今、手許に世界的に著名な投資家、ジョージ・ソロス氏が米論壇に寄稿した論考があります。それは今次のFBの情報流出問題が明るみとなる前の2月に寄稿された、やはりソーシャル・メディア企業の行動、つまり個人情報の独占について警鐘を鳴らし、規制することの必要性を訴えるものでした。 そこで手順としては、まずソロス論考をレビューする事から始めることとしたいと思います。そして今次のFBによる情報流用問題に潜むDigital Democracyの脅威と、それへの対応について、日本の実状とも併せ、考察することとしたいと思います。(2018/4/26)

― 目 次 ―

第1章 デジタル・デモクラシーの脅威      ・・・P.3

(1)George Soros氏の警鐘
[世界の政治の生業 ]
[デジタル企業の業態 ]
[高度デジタル社会に潜む脅威]

(2) デジタル・デモクラシーの基本

第2章 Facebook ,Mark Zuckerberg CEOの議会証言とIT企業
・・・P.6
(1)Facebook の個人情報流用問題
・FBのビジネス・モデルと成長神話
・デジタル経済における競争の確保

(2)EUの個人情報規制と日本の対応
・日・EU間の個人情報の保護

‘終章’ にかえて:いま超情報化時代の入り口にあって・・・P.9

(1)デジタル経済の深耕
・21世紀はデータの世紀

(2)Joseph Stiglitz氏の見立て

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佐藤雅俊 株式会社ラック サイバー・グリッド・ジャパン ナショナル・セキュリティ研究所長、元自衛隊指揮通信システム隊サイバー防衛隊長(初代)