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アベノミクス新成長戦略とナナロク世代

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― 目次 ―

はじめに:ダボス会議のスターはいま
第1部 アベノミクス新成長戦略

1.アベノミクス第4弾:新成長戦略発表
2.シャングリラ・ダイアログと中ロが見る‘西側’
(1)シャングリラ・ダイアログの示唆
(2)習近平氏とプーチン氏がみる‘西側’とは
(3)変化を読み、戦略的外交への備えを
第2部「ナナロク世代」が日本を変革する?
1.「ナナロク世代」と改革のポテンシヤル
2.‘ナナロク’プロジェクトの現場を行く
おわりに:新成長戦略と都議会セクハラやじ

はじめに ダボス会議のスターはいま

今年1月、スイスで開かれていたダボス会議では安倍晋三首相は‘スター’となったのでした。2012年12月、再登板なった安倍晋三首相は、爾来アベノミクスと云う名の政策を推進し、20年来のデフレ停滞を託っていた日本経済を覚醒させた政治家として、大歓迎を受け、同会議では基調演説をしたのでした。

当時の英紙Financial Times(Jan,25/26,2014)は、同会議に出席した米政権との融和を目指すイランの大統領(ロハニ氏)と共に`Abe and Rouhani emerge as star attractions’ とし、併せて・potentially transformative figures’ と極めて高い評価を与えるのでした。

しかし、その後のメデイアは、安倍晋三首相の政治姿勢の変化に、些かの懸念を集める処となっていったのです。そこで、しばし、海外メデイアが映す安倍首相の政治行動の推移を見ておきたいと思います。

オバマ米大統領の訪日を控えた4月には、米誌‘タイム’(April 28,2014) は‘THE PATRIOT , SHINZO ABE’(愛国主義者、安倍晋三)と題する特集を組み、安倍首相の目指す政策目標は日本再生だが、その再生を規定するキーワードを彼の言動から、Patriot(愛国)、国家救済、自主防衛、憲法改正、集団的自衛権、` renaissance of Shinto’(神道復興)を挙げ、これらは、彼の国家主義に向かう姿勢を示唆するとし、その行動に極めて強い懸念を伝えたのです。

更に5月には、安倍首相の諮問機関である安保に関する有識者会議「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」が、5月15日、憲法が認める「必要最小限」において自衛権(集団的自衛権)の行使容認を求める報告書を公としましたが、これを受けて、16日付のNew York Times紙は`Japan moves to scale back postwar restrictions on the use of military power’ (日本は戦後一貫し守ってきた‘軍事力行使’禁止の殻を脱ぎ捨てる)との論説を、安倍晋三首相が拳をあげてスピーチする写真付きで掲げ、積極的平和主義の将来をいぶかっていたのです。

そして、6月には、英経済誌 The Economics( Jun.7the) は‘Moment of reckoning’(いま選択の時)と題して、安倍首相の野望は二つ、一つは経済の再生。もう一つは戦後憲法の改正だが、いま何としても日本、そして世界的にとって重要なことは、経済再生問題であり、彼はそれに優先順位を置くべし、とアドバイスを受けるに至ったのです。

海外メデイアが映す安倍首相の姿は‘国の前に国民あり’とされる主権在民の民主主義とは対極にある‘国民の前に国家あり’とする国家主義の政治へと変遷する姿を見せつけると言うもので、その状況は極めて気がかりと映るのです。

第1部 アベノミクス新成長戦略

1.アベノミクス第4弾:新成長戦略発表

果たせるかな、昨24日アベノミクス第4弾とも言える「新成長戦略」と、「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)そして規制改革の実行手順を盛り込んだ「規制改革実施計画」とも併せて、閣議決定を経て発表されました。

新成長戦略は昨年纏めた「日本再興戦略」の改訂版ともいえ、積み残した課題に対してそれなりの前進を示してはいます。ただ、日本経済はグローバル化と少子高齢化という大きな構造変化に直面しており、という事はこれまでとは次元を異にするような大きな改革が必要になっているという事なのです。

さて、今回の成長戦略の中で特筆される事は、アジアや欧州の主要国より高い現在の法人実効税率を2015年から数年間で20%台に引き下げる方向性を明記されたことです。これは国際競争の広がる現状からは、日本企業の競争力強化と言う視点、更には、外国企業の対日進出の促進と言う視点から実行されんとするものですが、これを裏返せば、法人税収の減少を賄うためにも新たなビジネスの創造を、というアクションに繋がると言うものです。その点では、関係省庁、業界団体の抵抗が強い「岩盤規制」と呼ばれてきた雇用制度(労働時間、女性の雇用促進、等)、農業(農業組合の改革、等)、そして医療(混合診療の拡大、等)の分野での改革について、実施計画が示されたことは評価できる処です。
が、改革を進める姿勢を打ち出したということですが実に、てんこ盛り、といった様相です。

直後に行われた記者会見では、安倍首相は、法人税の構造を成長志向に変え、雇用を確保して行くとし、また「成長戦略にタブーも聖域もない。日本経済の可能性を開花させる為、いかなる壁も打ち破る」と断言し、同時に、政府が提出した成長戦略関連法案は約30本に及び、経済の好循環に向けた着実な取り組みを強調していましたが、問題は、それらが、如何にスピード感を持って具体化実施されていく事になるか、にかかってくる処です。その点では、もはやノー・イクスキューズなのです。勿論、これで全て解決と言うよりはこれからがスタートであり、その結果が、日本国の経営にとっての本質的な問題、例えば原発問題への解決にどうリンクしていく事になるのか、更なる検証が求められる処です。これらについては、別途の機会に分析、論評することとしたいと思います。

さて、新成長戦略が閣議決定されたこの後に続くのが、集団的自衛権の解釈変更についての閣議決定という事になるのでしょうか。それは安倍首相の宿願といわれる憲法改正への大きなステップとなる処です。その点では、アベノミクスはいまや、そうした政治課題をかたづけるための政権固めとしての存在とも映る処です。仮に政治課題の処理の為のアベノミクスであっても世論の支持を確かなものとしていくには、これにしっかりと取り組んで行かねばならない筈です。つまり、経済の回復、国力を取り戻すという事は政治の安定に繋がるからです。いまや安倍政権は経済と政治の二つに正面切って戦いを始めるという新たな次元にシフトしていく様相とも映る処ですが、それでも前出、エコノミスト誌のアドバイスは真、気になる処です。

つまり右傾化を強める安倍政権にあっては、首相自身、安保政策とりわけ集団的自衛権行使容認問題にのめり込んでしまっている状況にある事、周知の処です。もはや解釈改憲と言う憲政の常道からは外れた手法で、集団的自衛権の行使を容認することが、連立の公明党も自民党の言う方向にまわりつつあることで、それは既定路線となってきています。集団的自衛権行使とは、他国に出向き、他国の為に軍事行動(参戦)するという事、であり、ありていに言えば、国(政府)が国民に血を流すことを命ずる、という事になるのです。

行使容認に賛同する人たちの多くは、それは国のためなら仕方のない事と、言うのですが、瞬時、一昔前の軍国主義日本を想起させられる処です。平和を積極的に求めていくことを旨とする政権であるならば、まずは、そのための、つまり平和を担保するためのあらゆる政策、戦略を駆使した外交を展開していくべきと思料するのです。
従って、その為には関係諸国の事情を常に把握、理解していく事、同時に、常に我が国の思考様式、行動様式の実情について関係諸国の理解を得るよう努力していく事が不可欠となる処ですが、さて、軍事的安保を語る前に安倍政権はこうした対応努力をしてきたのでしょうか。中国が、そして韓国が日本に対して威嚇している現実を捉え、その対応として、容認論がよく出されますが、もっと、とるべき方法はある筈を、銘記されるべきと思料するのです。

では、日本の今を世界はどう見ているのでしょうか。‘敵を知り、己を知る’アクセスとして直近のメデイア(The Economist &、 Financial Times)が伝えるロシアや中国が今、西側諸国について、また日米について、どういった‘オブザベーション’を持っているのか、以下に見ておくこととします。

2.シャングリラ・ダイアログ と 中ロの見る‘西側’

(1)シャングリラ・ダイアログでの示唆

先にシンガポールで行われたシャングリラ・ダイアログ(注)での日米中の出席者の発言をリファーしながら、東アジアでの緊張の高まりはもはや明確な現実として、6月10日付Financial Times 紙は、‘Keep the lid on Pandora’s box or Asia will pay dearly’(アジアのパンドラの箱を開けるな)と題して、この地域で紛争が勃発すれば歴史上最も意味のない紛争の一つとなることになる、従って、こうした‘パンドラの箱を開けるような事態は絶対に避けるべきであること、そして、激化する領有権争いは、関係国は国際仲裁に委ねるべき’と主張するのです。と同時に、日本に向け、こうアドバイスするのです。

(注)シャングリラ・ダイアログ:シンガポールのシャングリラ・ホテルで毎年「アジア安全保障
会議」が開かれています。この会議はアジア各国の防衛担当の高官が年に一度、アジア地域の安全保障上の問題について話し合う場で、シャングリラ・ダイアログともよばれるもので、今回は13年目となるもので、5月30日・31日に行われました。

 つまり、日本が中国との争いに於いて一方的に譲歩するようなことには慎重なのは無理もないが、アジアにおける領有権問題を、‘国際仲裁を通じて文明的な方法で解決しようとする、これまでよりはるかに明確な努力をすることが、日本の利益、そして地域全体の利益に適う’ことになる、と。そして、その原則を確立することが、パンドラの箱を閉じる唯一の方法ではと、主張しているのです。が、今の安倍政権はどこまで貸す耳を持っているか。日本は領有権保有に対して自己否定につながるとか、相手が応じてこないから、と言って結果はノーアクションとなっていますが、同紙は、仮に裁判所が受理しなくても、訴えを起こすことで、明確な意思表示となり、世界は日本の立場を理解してくれる筈と言うもので、筆者も同意とするものです。

尚、このダイアログを通して‘中国が描く将来の自国の役割’と‘西側が中国に望む大国としての在り方’との間に決定的な違いが鮮明となったとし、この点、The Economist(June 7th)は、下記、日米の発言、そしてこれに応える中国の発言、に照らし、`Accommodating a rising China gets harder and harder’(台頭する中国を世界に順応させることはますます難しくなっている) と分析するのです。

・安倍首相とヘーゲル米国防長官
基調演説に立った安倍首相は、中国による防空識別圏の設定や南シナ海での衝突を念頭に「既成事実を積み重ね、現状の変化を固定しようとする動きは強い非難の対象にならざるを得ない」と批判する一方、日本は地域の為にこれまで以上の役割、支援強化を果たす、と約束をしたのでした。(同誌は、こうしたコンテクストは、中国に対し、地域的な集団的自衛権体制をほのめかしているように見えた、と云います。)

安倍首相の次に立った、米国のヘーゲル国防長官は安倍首相の考え方を支持したうえで、
中国による南シナ海の‘不安定化と一方的な行動’を非難。またアジアへの戦略的な‘pivot旋回’或いは‘リバランス’の重要性を強調したのですが、これは5月28日のオバマ大統領の外交演説、これは中国の経済的な滞等と軍事力は近隣諸国の懸念と指摘したものでしだが、これがアジアの一部の同盟国を失望させたとの声もあり、言うなればリカバリーショットを狙ったものと言われています。というのも、オバマ大統領はリバランスに触れることなく、米国の安全保障上の最も大きな脅威は今なおテロだと言っていただけで、米国の戦略は本当に‘旋回(pivot)」したのかと、疑問が向けられていたのです。

・中国側の反論 ― 人民解放軍参謀部 王冠中中将
さて、王中将は演壇に立つと用意していた原稿から離れ、勢いよく反撃に出たのです。(このシ-ンは日本のTVでも報じられています)
まずヘーゲル長官の演説に対して、「覇権に満ち、脅迫と威嚇の言葉ばかり」と切り捨て、「建設的でない」と断じた。そして明らかに安倍首相を指して「冷酷で、フアシズム的で、軍国主義的な攻撃性の復活」を中国は決して許さぬと断じたのです。

(2)習近平氏とプーチン氏 がみる‘西側’とは
―` What Xi and Putin really think about the west ’ Financial Times June 6,2014

[ 序でながら、6月6日付のフアイナンシャル・タイムズ紙は近時の習近平氏とプーチン氏の行動から、彼らが、いま西側世界をどう見ているか? 次のような分析をしています。極めて興味深く、後学の為に紹介しておきたいと思います ]

まず、3月に起こったロシアによるクリミア併合とウクライナの不安定は、自分が予て思っていた通りだとプーチン氏が豪語したと言うが、それは米国と欧州は「軟弱」という事を示唆するものだと。そして欧州に関して、大陸の心理を理解するには、軍事支出の急減を見るだけで十分と言うのです。つまりはロシアのウクライナ侵攻はEU諸国の政府に短期的な産業界の利益と冷戦後の秩序の維持の二者択一を迫ったが、シーメンスのケーサーCEO、BPのダドリーCEOなどの著名経済人がロシアに忠誠を誓った時点で、勝負はついていたと云うのです。

そして、ロシアの諜報機関、ロシア連邦保安庁のプーチン氏の旧友たちは、いま重要なのは西側の2人の指導者、つまりオバマ大統領とドイツのメルケル首相だ、とプーチン氏に話していると言うのです。そして残る国、つまりフランス、英国ですが、前者については強襲揚陸艦の売却問題でオランド大統領と話をしなければならないし、英国キャメロン首相には、大量のロシアマネーを抱えるという点で中国と話しあわねばならない事情があると言うのです。(注)

(注)6月16日から3日間、中国の李首相は訪英しましたが、訪英に当たっては英国女王への拝謁の機会を求めていたのです。そして、これが受け入れられねば訪英を取り止めると、強引な申し入れ方で英政府に迫ったことが報じられました。英国側は異例にも、中国側の申し入れを受け入れ、その見返りとも見えるような、英中間での2兆4千億円超の商談が成立したのですが、エリザベス女王が何か人質にされたかの感を強めたと言うものでした。 )

 更に興味深いのは、日米関係についてのコメントです。つまり、2011年、イラクとアフガニスタンから米軍を撤退したオバマ大統領は、アジアでの争いに引き込まれるのを避ける為なら何でもするだろうが、中国政府の目からすると、オバマ大統領は時として、中国の意図よりも、同盟相手の頑固な安倍首相の方を心配しているように映ると言うのです。

そして、同紙は次のように仕切ります。つまり、少し前まで、西側の政策立案者は中国とロシアはいずれも「我々」のようになりたいと、― つまり、中国は、既存の国際秩序の責任あるステークホルダーとして成長し、ロシアは躓きはあるものの、欧州との統合に自国の未来を見出すだろうと、考えていたが、習氏とプーチン氏は別の決意を固めた、というのです。つまり、世界は今、グローバルガバナンスというポストモダンの夢から醒め、great power competition, 大国の競争と言う別の時代に目覚めつつある、というのです。なにか、示唆的と映る処です。

(3)変化を読み、戦略的外交への備えを

さて、上述世界の地政学的変化、つまり3月のクリミア・ショック以降、リベラル・デモクラシを標榜する民主国家G7と覇権を狙うロシアとは相入れることなく、そのロシアはやはりアジアでの減権を狙う中国へ接近し、中ロの戦略的連携軸が先進国との対立軸となって進む新たな様相を呈してきています。とは言え現実の姿は、G7のパワーの低下、就中米国の劣化で、世界に対するガバナビリティは希薄となり、一方の中ロ基軸も牽制気味に推移することが予想され、逆説的には、それだけに国際関係は緊密化せざるを得ないことになっていくと言うものですし、その分、各国の事情、国際関係の変化を読みとる力をつけていく事が、改めて痛感されると言うものです。

なお、ここに至って新たな国際政治上の事件が起きてきています。つまり「イラク・シリアのイスラム国」(ISIS:: Islamic State of Iraq and Greater Syria,スンニ派過激武装組織)によるイラク進攻問題です。彼らの狙いは、スンニ派国家を打ち立て、中東の地図を描き直すことにあると伝えられています。従って、その行動の持つ意味は重く、その推移如何ではイラク(現在シーイ派政権)という国の分裂もあり得べく、これがまた宗教戦争の様相を呈してきたことで、中東全域が再び混迷の中に置かれ、それが、国際石油市場の混乱、金融機能の混乱等、世界大のリスクに変質していく可能性が極めて高いと言うものです。現時点では詳しくは伝えきれませんが、日本としてもこうした新たな環境に、如何に対応していくか、益々、外交力が問われて行く処ですが、さて、いまの安倍政権にはそうした準備はできているものか、疑問は尽きません

第2部 「ナナロク世代」が日本を変革する?

1.「ナナロク世代」と改革のポテンシャル

処で、これまで何かにつけて変革を、と主張してきた筆者ですが、実は、今や伝統的な思考様式に陥っているのではと自らを叱咤し、とにかくその変化要因を何に求めるべきか、日頃、逡巡するばかりでした。

そんな折、目にしたフォーリン・アフェアーズ・リポート、2014 No 6 (Foreign Affairs ,JAPAN)に掲載されたデビン・スチユワート氏(Devin Stewart:カーネギー国際問題倫理評議会シニアー・フェロー)の寄稿論文 [「変われない日本」の変化を読む ] は、日本の将来を展望していく上で極めて示唆に富むもと映るものでした。そこで、まずその冒頭に記された当該論文の主旨を紹介しておきたいと思います。

「ここにきて、日本人の多くが‘停滞し「変われない日本」も、もはや変わるしかないと考えるようになった。こうした変化を象徴するのがナナロク世代だ。親の世代よりずっとグローバルな感覚を持ち、リベラルで個人主義的、しかも起業に前向きな現在30~40歳代の彼らは、いまや社会的な影響力を持つまでに成功している。彼らは政治システムを通じて変革を実現しようとは考えていない。社会問題に自分たちの力で取り組むスタイルを取っている。右派のナショナリストではなく、この新しいエリート達が状況を制すれば、日本の政治も永久に変わるかも知れない。日本の政治は、新しい人材と思想を必要としており、ナナロク世代(76年世代)は双方に於いて大きな貢献ができる立場にある。」

この論文はスチユワート氏が3か月間にわたって、日本の社会変革の最前線で活躍している40人近くにインタビューした結果をベースに、日本における「ナナクロ世代の」台頭とその台頭の要因を分析し、かれらの行動が齎している日本社会に起こりだしている変化に着目し、こうした新しいエリートが成功すれば、最終的に日本の政治は永続的に変わるかもしれないと言うのです。今少し同氏の問題意識をフォローすることとします。

ナナロク世代の特徴

まず、インタビューした40人の多くは、1976年前後に生まれたテクノロジー系の起業家で、ナナクロ世代のエリート達と言える人たちだというのです。彼らは第2次大戦の重荷や、バブル時代の消費主義をそれほど意識することもない世代で、その彼らはジャパン・プラットフォームやネットエイジと言った日本のビジネス・ネットワーク、或いはスイスのダボスで開かれる国際的なフォーラムを通じて人脈を築き、互いに支え合う傾向があると言うのです。そして、政府による支援も受けてはいるが、彼らは政治システムを通じて、変革を実現しようとは考えていないと言うのです。つまり、現状では、少なくとも社会問題に自分たちの力で取り組むスタイルを取っていると言うのです。

そして、ナナロク世代が日本社会を変えようとする、その取組方法には次の三つのパターンがあると言うのです。
一つは、政府の対策が十分でない分野(例えば、保育、災害救援、等)で独自に行動を起こす、と言うパターン。
二つ目は、日本の再活性化に繋がる政策(例えば、留学プログラムや学校での英語教育の促進、など)を支持していくパターン、
三つ目としては‘よりリベラルで開放的な公共空間の創造’(多様性、女性のエンパワーメント、そして個人主義の重視、など)を模索していく、と言うパターン、と言うのです。

ナナロク世代、台頭の背景

さて、スチユワート氏はこうしたナナロク世代の台頭要因について下記の5つの事情を掲げるのです。

 第1は、何としても2011年3月の地震、津波、原発事故の影響を指摘します。つまり、従来、そこにあるものにしがみつく、と言うメンタリティーにあった日本人が、政府も社会保障もあてにできないことを誰もが知ったことで、保障がないなら、自分でどうにかするしかない、と思い立ったこと。そしてすべてを失うかもしれないリスクがあることに多くの人たちが気付いたこと。
 第2は、台頭する韓国と中国に対する不信感・警戒感の高まりだと言うのです。つまり、日本は、韓国をビジネス・ライバルとみなし、一方、中国には、2011年に世界第2位の経済大国の地位を奪われた事、しかも少子高齢化問題も抱えていることを挙げるのです。
 第3は、日本の家庭そのもの変化を挙げるのです。日本の全世帯の3分の一は、いまや単身世帯。この比率が2035年には40%に達すると予想されています。実際、親と同居している35歳から44歳までの独身者の数はいまや300万人、全人口の16%。2000年当時はこの割合が10%、1980年には僅か2%であったことを思えば独身者の数は大幅に増加しているが、いまや中年にさしかかりつつあるこれら人々は、現状に不満を募らせ、選択肢がないことにいら立ちを感じているという事です。
 第4は、世代交代によって市民社会の参加に向けた新しい姿勢が生まれつつあることを挙げます。このムードは1947~49年に生まれた団塊世代への反発ともみなせると言うのですが、このベビーブーマー世代は、政治(と政府)を信頼し、きらびやかなバブル時代を謳歌したが、結局、経済停滞と言う失われた時代を後に残してしまったのです。
 第5、最後は、意外にも安倍政権の公的な政策レトリックが、新しいアイデアに関する市民の論争を促していることに負うと言うものです。安倍政権のこれまでの成果の如何は別として、インタビューに応えた人の多くは、経済に占める女性の役割を重視した首相演説によって多様性とジェンダーについてより率直に論議する環境が出来た為というのです。

日本の改革主義勢力

以上の考察を経て、スチユワート氏はこう締めていくのです。つまり、新たな、影響力を持ち始めた日本の改革主義勢力は、男女平等、教育、市民社会と言う三つの領域で大きな進展を手にするようになったと。女性の社会(職場)進出は高齢化と労働人口の縮小に派生する問題に対する解決策の一つであり、実際、女性労働者を増やす方が、大量の移民を受け入れたり、出生率を上げたりするよりも、はるかに現実的な選択肢だ、と言うのです。
加えて、日本の教育制度が開放化に向かい出した‘実際’を紹介しつつ、これがいずれ日本の経済競争力強化に繋がっていくと期待するのです。

一方、日本の市民社会もより強くなっていること、次第に非営利部門で働く若者が増えている点を挙げるのですが、日本国際交流センターの渋沢健理事長のコメントを紹介しつつ、
特に「リベラルな思想と持続性を取り入れた」社会的企業(ソーシャル・ビジネス)に引き付けられてきていること、そして、この世代は現状に甘んじようとはせず、社会変革への関心が高く、起業家精神に富んでいるとするのです。
そして、日本の政治は、新しい人材と思想を必要としており、ナナロク世代はこの双方で大きな貢献ができる立場にあると、彼らへのエールを送るのです。

―‘新しい人材、新しい思想’今まさに求められるとは、疑う余地のない処です。

2.‘ナナロク’プロジェクトの現場を行く

実は、5月の最後の週末、筆者が主宰する研究会のメンバーと共に、宮城県の石巻市雄勝に出かけてきました。その主たる目的は、現地復興の目玉と目される雄勝学校再生プロジェクトの現場視察でした。

当該プロジェクトは震災直後に石巻に復興ボランティアとして現地で活動していた油井元太郎氏(現公益社団法人「sweet treat 311」理事)が、2012年、偶々、人口減少で廃校となった旧桑浜小学校の校舎が、廃屋状態のままにあることに気付き、とにかく校舎を復元させ、そこを舞台に、石巻市の小中学生にたくましく生きる力を育む体験と基礎学力向上の機会提供の場とすること、そして、そこを人の交流の場、情報交流の場、とすることで現地の復興を図らんと、現在のパートナー3名と組み、北大と慶大を出たばかりの若者二人の参画を得てスタートした事業で、言うならば、教育を通じて震災復興や少子高齢化、地方の過疎への解決を図っていかんとするプロジェクトなのです。

ただ問題は資金です。多くの被災事業を抱える行政の現状からは、正直、こうしたプロジェクトに対する復興支援の優先順位は低く、なかなか行政からの支援は得られないと言うものです。そこで油井氏がアメリカ留学時の仲間を頼って資金を集めるなど世界中の企業や団体と繋がり、雄勝の現地では、復興ボランテイアの支援を得て、言うなれば民間ベースでの復興活動、町おこしを進めているというものです。
その油井氏は、まさにナナロク世代の人間であり、上述スチユワート氏が挙げる‘よりリベラルで開放的な公共空間の創造’に情熱をささげるニュータイプの起業家とも言うもので、現在、2016年のグランド・オープンを目指して努力中ですが、その推移に期待するばかりです。

さて、これまで、アベノミクスの落とし穴の一つが地方の市町村の衰退、といいわれてきました。とすれば、その流れを止めるのは、ナナロク世代という事になるのでしょうか。

おわりに 新成長戦略と都議会セクハラやじ

前述したように24日、アベノミクス第4弾とも云うべき新経済成長戦略が発表されました。当日行われた記者会見で、安倍首相は企業が稼ぐ力を取り戻し、経済の担い手を生み出すことが欠かせないとし、今回の成長戦略では、とくに‘女性の活躍’を後押しし、働き方を改める改革をおこなうと謳いあげていました。
しかし、例の都議会での‘セクハラやじ’事件におもいを致すとき、もはやエスタブリッシュのオジサン達ではなく、いまや、色々な意味において‘ナナロク世代’に期待するほかないのでは、と思いは巡るという処です。

以上

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