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過当競争による外資食品企業の撤退

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過当競争による外資食品企業の撤退

2012年1月15日

昨年末にフランスのダノン社が上海のヨーグルト工場の操業を停止し、スイスのネスレ社も上海のアイスクリーム工場の操業停止を相次いで発表した。ダノンもネスレも世界最大級の食品企業ではあるが、一地方の工場の操業停止は大きなnews にはならなかった。だが筆者には外資系の食品企業の将来が見えたように思えた。

日本ではマスコミが国内市場の縮小もあり海外展開を盛んに煽るが他の産業とちがい、日本の食品企業は小型で(アルコール飲料を主体とする食品企業数社以外は利益面でも極めて小さい)相手先を調査もせずにうっかり海外進出して痛い目に合うケースが多く、欧州の大企業が中国市場で苦闘している状況は大いに参考になるだろう。

一般論としては、中国ではすべての業界に共通する過当競争によって企業利益が全くなくなりつつあることが考えられる。食品産業は他のハイテクなどと違って、技術流出が早い(広州市乳業協会理事長は中国内の食品企業は資金規模、コストの抑制、販売ルートつくり、果ては技術面でも外資系食品企業に追いつき、追い越していると公言している)。すでに合弁相手側の中国企業が外資の技術を必要としない状況にある。経済分野でのナショナリズムによって外資系が不利益を蒙りつつある。更には外資系に対する優遇策がなくなってしまったなどの理由もあるが、ブランドによって売りぬく大手外資系にとって最大の問題は原料の確保にある。海海外から自由に原料が調達できるならともかく(食品原料の輸入は中央政府が握っている)、まずは現地での原料確保しか道はない。ところが、中国産ミルクにメラミンの混入とか、ここにきて中国食品の添加物、農薬使用量などの規制を無視したものが、次々とやり玉に挙がっている。

ブランドを守ろうとすると現地での原材料調達は極めて困難となる。あくまで価格競争に勝ち抜こうとすれば経営が危うくなる。最後は撤退せざるを得ない。これが外資系食品企業の行く末だ。

 

#既に華東地区からの撤退が相次いでいる

外資系食品企業の中国参入は1980年台に入って盛んとなった。アメリカがコカコーラ、ケンタッキー、マクドナルドなどボトラーまたはフランチャイジーに海外有力華僑を起用して全国展開を図ったのに対し、世界最強の食品企業としてダノン、ネスレは飲料水、乳製品などを軸に現地の大手メーカーの販売網を利用しようと、彼らと合弁を結んで行った。その結果、大手スーパーには両社の製品が棚に数多く並んでいる。ここにきて華東で挫折が起きたもとをたどってみよう。ダノンのケースが参考になる。

 

#ダノンと杭州娃哈哈集団の抗争(合弁相手と争っても勝てない)

5・6年前のことだが、ダノンと中国の合弁相手であった杭州娃哈哈集団(Hangzhou Wahaha Group=以下ワハハと記す)との抗争がエスカレートしていた。ダノンはエヴィアン、ヴォルヴィックなどのミネラルウオーターとか乳製品を主体とする世界最大の食品メーカーの一つだが、一方のワハハは中国の飲料業界では最大手だ。両社は中国での水・飲料事業で1996年合弁会社を設立した。

中国では水道水はそのまま飲めないし、水を沸かしてお茶を飲むのが普通だが、水不足と水質汚染が慢性化し、水・飲料ビジネスは急成長した。(ミネラルウオーターか天然水を煮沸したものかは、一般にはあまり認識されていないので中国産の安い水が急速に出回っていることも事実だ)

水ビジネスの急速な拡大期にはお互いにメリットがあったが、ブランド志向が高まり、ダノンのミネラルウオーターとワハハブランドが競合するようになった。2007年にはワハハはもはやダノンを必要としないまでに成長した。ダノンもその間に乳製品最大手の蒙牛集団とヨーグルトの合弁会社とか数多くの食品メーカーに資本参加した。

中国側の狙いはまず外資系の資金・技術と経営ノウハウ、これらを得ればすぐに手を切りたいとなる。ワハハの創業者の宋慶後会長は現在66歳だが、学歴があるわけでもなく、10代から国営工場で働き、その後企業の再建などを手掛けて経営を学んだらしい。天才的経営者とも言われ飲料業界のリーダーにまで上り詰めた。全国人民代表大会の浙江省代表にもなり、中国長者番付けで2010年には総資産800億元[約1兆円]で一位となった。

合弁発足時1996年度は23位であったので、いかにこの飲料事業が成功したかがわかる。一般に長者番付けの上位陣は後に汚職等で逮捕されることが多いが、彼の場合、その後脱税の噂がでたが特に問題とはならなかったようだ。それより、日本の乳業会社を買収したいとの発言で日本の新聞でも報道されたことがある。2000年には合弁企業のWahaha Group Ltd.を改組し杭州市政府が46%出資する(公営企業化、権力者同士で富の分けあい)という離れ業までみせたが、どの派閥にもうまく立ち回る政治力はたいしたものだ。

問題の合弁契約だが、商標移転契約でワハハブランドを合弁会社にすべて移転することとなっていたが、(非競合契約、守秘契約も結んだ)商標移転を中央政府が認可しなかったとワハハ側が言い出した為に抗争に発展した。まさか商標移転が中央政府の認可事項とは思えないが、商標移転契約が発効しなくとも競合禁止条項は生きているので、別会社でワハハは売れないはずなのだが、ワハハ側は次々と別会社を作りワハハブランドの販売を伸ばした。いかに契約無視の社会でも割り切れない話ではあった。

一方ワハハの宋会長は猛然とダノン攻撃をはじめた。あらゆる機会をとらえ自らの正当性を謳い、揚句の果てには自社工場の労働者もダノンとは協力できないとストに入るなど争いは深刻化した。

ダノンは契約に基きストックホルム商工会議所に仲裁を、ワハハは杭州市に仲裁をと訴訟合戦となったが、中国内で外資企業が訴訟に勝てるわけもなく、2009年9月両社は友好的に和解したと突然発表があった。ダノンはワハハとの合弁会社の51%の権利をワハハに売却(金額は公表されず)となった。ダノンの完敗であった。

 

#狙い撃ちにされる外資企業

ネスレも中国系メーカーへの出資を次々と行ってきた。同社中国法人の牛乳にもメラミン混入と騒がれたこともあったが、まだメラミン騒動の初期段階でありメラミンで牛乳のタンパク量をごまかすことが全土で流行していたせいか、合弁相手がそれほど政治力のあるところでなかったためか、あまり騒ぎにはならなかった。ところが2011年7月ケンタッキーフライドチキンの豆乳は粉末を湯で溶いたもの、味千ラーメンの豚骨スープは店で煮込んだものでなく粉末調味料(両社とも事実関係を認めている)等が相次ぎ判明、また2011年11月コカコーラ飲料に殺虫剤が入り(実際は何者かが故意に混入させたものらしい)児童が死亡した。報道やネットの過熱ぶりは凄まじく、外資系を標的とした攻撃が一斉に始まった。また同年10月重慶市当局はスーパーのウォルマートが重慶で通常の豚肉を農薬使用量が少ない高級品として売ったとして、37人もの従業員を拘束、うち2人を逮捕、市内13店舗の15日間の営業停止と269万元(約3240万円)の罰金を言い渡した。司法は政府とつながっているので厳しすぎる措置に対して裁判沙汰にもできず泣き寝入りの状態だ。(外資系たたきとは別に2009年にはコカコーラによる中国最大の果汁メーカーChina Huiyuan Juice Group の買収が中国で施行されたばかりの独禁法によって初めての不認可となっている)

以上は食品の例だが、今年の1月末から施行される外資系企業投資ガイドラインでは過剰生産能力を抱える自動車製造を奨励品目から外している。外資にとってますます難しい市場になりつつある。今後の大手外資系の動きを見守る必要がある。

 

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