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日本は消滅、再生は?

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フクシマ問題が脳裏を離れず、当初意図してきたブログテーマから次第に疎遠になってきた。ブログの当初の目的は、薄れ行く記憶を飛び石のようにつなぐためなので、この際時間を巻き戻して、少し記しておきたい。
閉じられる扉
ヨーロッパ、アメリカ、日本などのかつての先進国、移民受け入れ国の間で、移民政策の方向が、急速に保守的・閉鎖的な政策へと転換している。これらの地域へ仕事を求めて入国を目指す道はきわめて厳しくなった。歴史家としてのジャック・アタリが、ドイツ、ロシア、日本は「機械的な消滅」の最中にあると予言している。そのひとつの要因は人口減少、移民への対応にあるとされる(アタリの母国フランスはどうなのかと聞きたいのだが、それには言及していない)。とりわけ、日本は意識的にそうした方向を選択しているという。アタリの説明は十分でないが、言わんとすることは伝わってくる。日本は真の意味での決断ができない国なのだ(下段 YouTube)。

大波が繰り返し押し寄せるように、再び移民への反発・反対が高まっている。その要因は従来から存在するのだが、受け入れ国における移民の増加とともに、国民からの反対が強くなってきた。反対の理由としてあげられているのは、主として、1)多くの不法移民への給付が国民の負担で行われている、2)移民は低い賃金で働き、国民の仕事を奪っている、3)イスラム教徒は受け入れ国の文化に同化できない、などである。

これらの点については、多分に誤解に基づき作り出された面もある。たとえば、メキシコ側から越境してきた労働者に頼るほかない南部の農業経営は、アメリカ人国内労働者がもはやや就労をしない分野になっている。すでにかなり以前から、越境労働者に依存しないかぎり、アメリカ農業は立ちゆかなくなっている。

他方、ドイツのように、多文化主義の失敗を首相が公に認め、思い切り良く方向転換を図っている国もある。日本のように移民問題をことさら国民的議論に浮上させることを避け、なし崩し的に移民政策を決定し、出生率改善にも有効な手を打つことなく、高齢者層が政治的圧力で若い世代への負担を増すことで、生き延びようとしている国もある。またしても、ブログ管理人の考えることではないが、この国はアタリが言うようにひとたびは消滅し、50年後に再生するのだろうか。恐らく国として年老い、活力はなく、ただ死を待つような国にならないといえるだろうか。

母国へ戻れない人々
最近のジャーナリズムの流れは、受け入れ国の門扉が閉ざされたことによって、母国へ戻れなくなった移民(ディアスポーラ)、家族離散の意義と役割を積極的に評価する方向へと移行している。受け入れ国の壁が高くなれば、なんとかそれを乗り越えたいとの思いも強まる。壁が低い時には明らかでなかった合法・不法の差もはっきりする。閉鎖的な移民政策の導入を前提とすれば、ディアスポーラの存在もよりはっきりと是認しなければならなくなる。

雇用の機会がどうしても国内にないなどの理由で、国外に仕事を求めねばなならない人々は仕方がないが、最も望ましい方向は、自分たちが家族とともに居住する地域に、望む仕事の機会が存在することだ。そのためには先進地域は協力して、アジア・アフリカなどへ投資も行い、雇用の機会を創出する支援をしければ問題の解決へつながらない。移民はあくまで「例外的な人々」 exceptional people なのだ。このことはOECD、EUなどの場で以前から論じられてきたが、ほとんど実効ある策は導入されないできた。同じことは、被災地にも当てはまる。被災地に人が集まらないかぎり、再生は困難なのだ。

移民のもたらす得失を限られたスペースで論じることはとてもできない。ディアスポーラについても、これまで記してきた通り、とりたてて新しい現象ではない。最近浮上してきた側面は、祖国の外に住む人たちが、さまざまなネットワークを拡大して、活発に活動している点を評価しようというのだ。ディアスポラが避けがたいからには、従来軽視されてきたプラスの面に着目しようとしている。

世界史的に見ても、ユグノー、スコッチ、アイリッシュ、ユダヤ人あるいは日本との関係では日系ブラジル人など、海外移住者が果たした役割はきわめて大きい。世界には約2億1500万人の第一世代移民がいると推定されている。世界の人口のおよそ3%にあたる。彼らをひとつの国としてみたら、ブラジルより少し大きいくらいの規模になる。そして、特定の国、たとえばインドをとれば、2200万人近いインド人が国外に移住・生活している。

移民大国アメリカでは、移民は人口の8分の1に相当し、技術・エンジニアリング産業の4分の1を創設したと推定されている。経済を牽引するITなど先端技術産業における移民の貢献に注目が集まっている。インドのコンピューター産業の発展におけるバンガローとシリコンヴァレーのつながり、中国へ戻る海外留学生(「海亀族」)の寄与などが度々話題となってきた。海外留学生は激減し、国内の産業へも優れた外国の頭脳を誘引できない日本のIT産業は、瞬く間に韓国や中国に追い抜かれている。

このところアメリカは多くの若者を受け入れ、教育した後は、仕事の機会を与えずに母国へ帰らざるを得ないような政策へと傾斜しつつある。不法越境者を含めて、潜在的移民希望者には居心地の悪い環境が生まれている。共和党政権になれば、さらに保守化の程度が強まるだろう。ニューヨーク市長が「国家的自殺行為」という方向である。

欧米諸国、そして日本などが閉鎖的政策をとれば、送り出し国側は頭脳流出がなくなるという効果が強まるかもしれない。他方、彼らが目指す先進技術の習得によって、自国発展を目指すという役割、効果は削がれることになる。

ふたつの地域を結ぶ
注目すべきは、ディアスポーラは急速に拡大する新興国市場とかつての先進国を取り結ぶ媒介者の役割を果たしていることだ。彼らはふたつの地域の間で、情報、技術、資金を流通させるに大きな活動をしている。

受け入れ国側の立場からすると、経済停滞に苦しみ、自国民の雇用を維持することが難しい状況で、国境を閉ざしたいという願いは理解できるが、それを上回る大きな危険も含んでいる。

移民労働者は、受け入れ国に新しい考えや力をもたらす。これは入国してくる人々、受け入れ国側双方に良い効果をもたらす。移民を受け入れず、活性化の源を断つことは、自らの衰退の速度を速めることでもある。

* “The magic of diasporas” The Economist November 19th 2011.

 

 

 

 

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