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アジアの時代というが市場をめぐって中国勢との闘いが続く

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ここ数年中国に次いでアジアがブームとなっている。China plus oneから更にアジア各国に手を伸ばそうとの動きだ。元々数年置きにアジアブームが発生していたが中国同様にいろいろな問題があり一筋縄では行かない。アジアに安定はなしというのが筆者の見方だが政治の前に賃金の上昇とか人材確保に日系企業も悩んでいる。今回はこれらを中心に取り上げてみたい。

 

#日系企業は東南アジアをどのように見ているのか

China plus oneの時代からすでに中国への期待は大幅に減じ、むしろ積極的に東南アジアに進出しようとの動きがここ数年顕著になっている。いわゆる中国通は中国の消費市場の拡大を説くが一部商品の成功例は別として一般には中国市場を見る目は厳しい。今まで中国当局の政策の朝礼暮改などで散々苦しめられたこともある。中国ブームに付け込んだ国内の所謂中国ビジネスコンサルタントが跋扈していたが、中国経済の減速とともに日系企業も冷静に中国を見るようになった。マスコミの調査などによると消費市場としてインドネシア、タイ、ベトナムを、生産拠点として同じくインドネシア、タイ、ベトナムを挙げる例が多い。しかしフィリピンとかアジア最後のフロンティアと言われるミャンマー、更にインド、パキスタンなど(すでに繊維産業などは進出しているが)東南アジア以外の地域にも目を向ける必要がある。

フィリピンの場合、先日来日した女性大臣がテレビで力説していたが2014年に人口は1億を超え平均年齢は23歳とアジアでも極めて若く更に英語が公用語である点等々、日本企業も注目すべきと思う。但し、アキノ前大統領時代の奇跡ともいえる繁栄が次のロドリゴ・ドゥテルテ大統領となるとどうなるのか、タイのように軍部のクーデターによる政権交代とか(ミャンマーも似たようなものだが)しばらく様子を見たい。(いずれにしてもより安い賃金を求めて発展途上国を次々開拓するというビジネスモデルも限界となり新たなビジネスモデルを模索している段階かもしれない)

 

#香港工業総会(日本では商業と工業を合わせ商工会議所としているが諸外国では商業と工業の会議所は分かれている)の見方

香港工業総会のスタンレー・ラウ会長は香港の製造業者が広東省から生産コストの低い東南アジアに生産拠点を移転するにはリスクが多いと1年ほど前に見解を発表していた。移転先のバングラディシュ、ベトナム、インドネシアなどで安定したsupplierや顧客を確保できないことや、現地労働者の育成に時間が掛かり過ぎることを指摘していた。但し広東省だけでも60~80万人の労働力が不足し、従業員が要求する賃上げ幅が2015年には12~22%に上ると予測、それでも人材不測の改善は見られないと言っていた。実際にこの状況は改善しないのみならず、全国的な賃上げに対し広東省は賃上げ凍結の動き(共産党内部の動き)まであり先行きは混とんとしている。

 

#現地トップの見方も分かれる

所謂中国に特化して活動している人は相変わらず楽観論を唱える。何年か前までは労働者はより高い賃金を求め2年で80%が離職したが最近では景気が悪くなり新規採用も簡単になった。中間層も増えており現在の4億人から20年には11億人になるという。消費者のし好も多様化して通販もさらに増えるとしている。これらの人は素材産業の過剰が景気に影響したと説くが、中国人の経営者はむしろ悲観的だ。大量供給を続けているスマホの受託産業が中国製造業の典型だが、これは台湾企業の創意工夫によったものだ。

深センでは急激な賃金上昇によって企業が次々と倒産している。もちろん中国特有の或る産業が良いとなれば全員参加型の過剰によるものが多いが、深センから同じ広東省の恵州に移った企業の経営者は世界のスマホ生産の20%が恵州で生産されていると言われていたが賃金はどんどん上がり恵州もいずれ深センと同じ運命となるとみてインドまたはインドネシアに工場移転を考えているという。東ガン市に進出して20年になる自動車部品メーカーの総経理など現状はバブルだとみている。新車販売店で実際に車が売れているのか否かは疑わしい、在庫を販売店が抱えているのではないかとも言っている。

 

#人件費の高騰

人件費の高騰については既に中国でこれ以上の賃上げは無理という段階まで来た。中国政府は製造業から今後はサービス産業への転換を謳うが事情はサービス業も製造業も同じだ。アジアへの展開にしてもアジア全域で賃上げと従業員の転職が問題となっている。最低賃金制度は新人も恩恵を受けるがすでにいる従業員の賃金も上昇しこれが世界の工場と言われた中国からの撤退につながる。但し撤退も簡単ではない。

最低賃金は地方政府の裁量に任されている。地方政府としては2年に1回見直しの規定があるのでその地方に労働者を集めるべく継続的に賃上げを発表している。最低賃金の月額上位は深セン、上海、広東省、天津、北京が常連だ。経済の停滞が続いているが地方政府としては工業団地の再開発とか賃上げとか人気取りの政策をとらざるを得ないのが現状だ。一方広東省は今年の全人代の後の記者会見で賃上げ凍結を発表したが、今後どのように調整してゆくのか見ものだ。

 

#人材確保

海外で働く日本人が最初に驚くことが現地社員の離職問題だ。日本の雇用制度が寧ろ異常で海外ではjob-hoppingは通常の形だ。そこで優秀な人材をいかに確保するかが問題となる。勿論アジアでも人件費は上昇し続けているが、いつまでも賃上げをするわけにもゆかない。中国でもそうであったがまず自転車が町中に溢れ、それからバイク、バス、自動車の洪水となる。インドネシアの首都ジャカルタではここ数十年バイクと乗用車であふれかえっている。過去には一つの車に4人以上乗らなければ通行許可が取れず日本人駐在員は毎朝、メイドも載せて出勤するなど苦労したが、道路網、その他の交通手段のインフラが追い付かず相変わらず乗用車とバイクが主役となっている。そこに目を付けた日系金融会社がある。優秀な人材確保のためバイクの購入資金の何割かを会社が負担することで少なくとも返済完了まで会社に勤務する可能性が高い。同じことを自家用車でもやっているところもある。いずれにしても福利厚生面でのインセンテイブを与えることで従業員の引き留めを図っているようだ。更に社員食堂のメニューの改善とかそれぞれ知恵を絞っている。

 

#中国での賃金上昇 これ以上は無理

中国の昨年の賃上げは中国新聞の発表では深セン2,030元、上海2,020元と最低賃金が2,000元を初めて超えた。広東省、天津、北京がこれに続き大半の地域が賃上げに走っている。但し、地域によっては賃上げしても人が集まらないという状況もある。景気の後退もあるが地域によっては農民工の追い出しに取り組んでいるところもある。(現状は不動産バブルなので上海などでは低額の住居から農民工は追い出されつつある)経済成長も限界に至ったのでまず農民工の追い出しにかかったと思われる。この動きに拍車をかけているのが仕事も見つからなくなっているという現実だ。上海地区には日本から靴メーカーとか繊維メーカーが安い人件費を頼りにかなり前から進出していたが、10年ほどで賃金は3倍となり利益率の低下が経営を圧迫している。ただこれらの企業は最新の設備を持ち込んでおり東南アジアへの移転には膨大なカネがかかり経営者も頭を抱えている。同じ悩みは広東省でも同様で既にロボットなどを導入した自動車部品メーカーも多いが最低人数の労働力の確保は必要だ。

 

#アジア各地の昇給率

昨年前半に発表されたNNAの日系企業対象の昇給率予測調査結果ではインドが10.8%,インドネシア10.7%,タイ5%,フィリピン5.5%,ベトナム9.3%,ミャンマー9.2%などとなっている。中国の場合と同様に更に賃上げが続けば拠点のある地域からの撤退、その他の地域への移転といった経過が今後も繰り返されることとなろう。但し生産面での自動化などによりさらに競争は激化すると思われる。中国の場合人為的な賃金引上げによって企業の収益力を悪化させたがアジアの各国とも国の主導によって賃上げが行われるわけでもないのでこの点では中国以上に長期戦となろう。

 

#東南アジアを狙う中国企業

中国経済の過去30年に及ぶ成長は安い労働力に着眼した欧米日企業が消費財中心に中国で生産し販売網に乗せたわけだが(例えば米Walmartなど)その間に中国企業も先進技術を少しずつ体内に取り込んでいた。それらの技術と資本を元手に中国企業はアジアでも着々と勢力を伸ばしている。*シンガポールでは再生水プラントの入札で中国の水処理事業会社と現地企業の企業連合が落札*タイの中国系企業による工業団地の第2期開発*食品関係ではすでにタイ、シンガポールなどで中国国営企業が次々と投資している。*インドネシアでは中国企業が経済特区への投資を検討中とされている。マレーシアでも港湾開発とかゴム製品の事業に投資している。

このほか中国国営大企業がベトナムで発電所の建設とか国営大銀行も投資に動き出している。アジアの場合中国系がすでに各国に根を張っているので中国内の事業も取り組むなど相互に活用しているがこれらとの競争は熾烈なものとなるであろう。

また、従来の低賃金を軸とした中国内でのビジネスモデルもここにきて曲がり角を迎えている。次回はこの点に焦点を当てたい。

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