Home»連 載»中国ビジネスの行方 香港からの視点»過剰生産の太陽光発電 日本を狙う

過剰生産の太陽光発電 日本を狙う

0
Shares
Pinterest Google+

中国では殆どすべての産業で過剰生産が問題となっている。中央政府は毎年生産設備の廃棄とか、同一産業内での統合を命じるが効果が現れたという話は聞いたことがない。一般的には過剰の代表産業である鉄鋼業界を見ても、地方政府にとっては雇用の維持が最重要項目なので今更整理統合は不可能と言われている。そこで過剰な生産設備、過剰人員、過剰製品在庫がそのままとなり中国経済の最大の問題点となっている。しかし良く考えてみると、この問題の根底には国営企業温存による国営企業の拡大策と、政府も生産調整などに大鉈を振るえず、結局は支援策となってしまうという矛盾が有る。

1. 過剰産業界は異業種に進出、金融業も狙われる

江西省南昌市の方大特鋼科技は上海で飲食店経営に乗り出すと発表した。本業不振の折から外食に進出して新たな利益源を確保したいというものだが、経営の多角化と上海自由貿易区への進出を狙うとしている。鉄鋼最大手の一つ宝山鋼鉄はソフトウェアー商品の開発事業に投資すると発表した。また、大手の武漢鋼鉄も既に養豚業に投資している(拙稿、2012年9月1日 中国企業 養豚・豚肉加工業に一斉に参入)。更に最近の傾向は25社以上が金融業への参加を表明している。エアコン最大手の珠海格力電器は広東省珠海市の横琴銀行と協議を行っているという。格力の傘下の格力集団財務が協議の主体だが、同社は格力のエアコン事業の拡大と共に財務内容も健全で、一方の横琴銀行は2011年に農村、中小・零細企業、自営業などへのサービスが目的で設立されたようだが格力の資金力には魅力があるとのことだ。更に、金融業への参入を表明している企業には家電量販最大手の蘇寧雲商集団、アパレルの紅豆、ハイテク素材事業や不動産事業を展開する湖北凱楽科技、機能性プラステイック大手の金発科技、深センの物流業者など25社以上あると香港紙は伝えている。
ただし、専門人材がそれほどいるとも思えず、結果的に不良債権リスクが更に増大するのではとの見方がある。この問題の背景には国務院が昨年7月に出した“民間資本による金融業参入を拡大する”という奨励策だ。更に上海自由貿易試験区でも民営資本と外資系金融業との合弁を奨励している。
中国では数行の国営巨大銀行が金融業界を独占しており、政府が預金金利を低く抑え、貸出金利が高いのでこれら巨大銀行は自然に儲かる仕組みになっているが、貸し付けも国が保証する国営企業に集中し、民間には回らない。いずれにしても、自由な資本移動、独立した金融政策(金利)、為替の自由化といった金融改革に一切手を付けなかった政府もどこから手を付けるべきか今後政府内での大きな議論となるであろう。更に、影の銀行、理財商品などの問題も噴出しており、民間の金融業参入で影の銀行を表に出そうとしているのかも知れない。いずれにしてもこれから金融問題が大きく表面化するであろう。

2. 太陽光発電製品

さて、本題に戻って太陽光発電製品だが、2013年1~6月の太陽電池チップとモジュールの輸出額は65億2,200万ドルとなり前年同期から31%減少した(中国機電産品協会調べ)。欧州、北米、豪州向けが減少、特にEU向けは58.3%減、一方、アジア、アフリカ向けは大幅に増加、特に日本向は12億9,200万ドルであった。(大生産地を抱える上海税関の発表では2013年1~9月の対日輸出で最も伸びた品目は太陽電池で前年同期の5.3倍9億2千万ドルであった)もともと、欧州勢がこの分野ではパイオニアであったが中国の太陽電池モジュールの生産能力と実際生産量は世界の60%、多結晶シリコンの場合は世界の40%を占め、低価格で市場を獲得してきたが欧米における反ダンピング課税のため、ここにきて行き詰まってしまった。通常、中国はあちこちで起こるダンピング提訴に対し強硬に抗議するが、本件は中国内でもあまりに多数のメーカーがあり、むしろメーカー保護のためにEUとこの問題に対して和解案を作成した。即ちEU向け中国製パネルの最低価格を1ロットあたり0.56ユーロ、年間輸入枠を7ギガワット(GW)とすることで合意していたが、EUの輸入元は依然として価格が高いとして契約キャンセルが続いていた。さらに、合意案では中国で輸出枠を獲得した企業は94社のみで500社以上の関連企業はEU向け輸出から締め出され製品をアジア・アフリカ向けに回さざるを得なくなった。

*そこで中央政府も対策に乗り出す
中国工業情報省は昨年9月末に太陽光発電製品業界への参入条件を厳格化すると発表。本来は工場の新設や生産増強事業を厳格にコントロールすることを目的としたのであろうが、業界の猛反対もあり結果は産業保護となってしまった。いかにも中国らしい。

*サンテックパワーの経営破たん
太陽電池製品世界最大手の尚徳電力(無錫市サンテックパワー)は昨年3月EUでの販売不振と需要の激減のため資金繰りに窮し、経営破綻した。債務が107億元と巨額で再建のめどが立っていない。
ところがその後色々な情報が流れ、香港紙の情報では投資ファンドにまで手を伸ばしていたという。2008年ころ欧州事業拡大のため投資ファンドのGSF社をルクセンブルグに設立、同社が所有するイタリア内の太陽光発電所37ヶ所がイタリアで差し押さえとなった。この背景はイタリアで太陽光発電所を建設しイタリア政府の補助金を騙し取ったとして起訴された。(一説には37ヶ所の総資産は1億2千万米ドルとも言われている)いずれにせよ本業拡大のためとは言え専門外の投資ファンドに手を出し、補助金を騙しとる等、いかにも中国企業らしい。

*太陽光発電 日本市場を狙う
既に新聞などで色々論じられているので簡単に記すと、欧米市場を失った太陽光発電事業会社が次々と日本市場を狙っている。総投資額は今後5年で7千億円規模とも言われている。2013年の1キロワット当たりの買い取り価格が37.8円とドイツの倍以上で世界最高水準となる。海外勢は電力・太陽電池関連の他にゴールドマンサックス等投資銀行も名乗りを上げており今や太陽光ブームからバブルの様相を呈している。

*2015年問題 ブームもあと1~2年
日本での太陽光発電の問題点は土地確保にある。狭い国土に余っている平らな土地は殆どない、従って傾斜地を利用せざるを得ない。スペース争奪戦は既に起こっている。屋根の活用も台風、地震に配慮が必要で設置に莫大な費用がかかる。買い取り価格も投資を呼び込むため高めに設定したので年々引き下げざるを得ないが3年間のプレミアム期間、即ち2015年3月から実態に合わせた価格となる。更に投資促進のため「即時一括償却」制も導入したがこれも2015年3月で終了する。元々経産省はドイツの方式を導入し深い配慮もなしに太陽光買い取り制度を作ってしまったが、ここにきて風力・地熱を優先すべしとの意見も出てきた。バブルを見越して高めの買い取り価格を狙い認定だけを取り未稼働のものは70%にも上るという。

*それでも日本進出以外の選択肢のないメーカー
太陽光発電世界第2位のファーストソーラー(米・アリゾナ州)は住宅用パネルをJX日鉱日石エネルギーと販売面で提携し、日本市場に参入を表明している。(JXは米太陽光パネルベンチャーのテトラサンの筆頭株主であったが、ファーストソーラーが同社を買収)
中国太陽光パネル最大手のサンテックパワーは前述の通り経営破綻したが最終的に順風光電が買収し、日本法人サンテックパワー・ジャパンも同社の傘下に入り日本市場開拓は継続となった。
問題は中国が低価格競争を仕掛け、米・欧州企業も破綻したが、仕掛けたサンテックも破産した。
2015年を目指し更にメーカーの淘汰が続くのであろうか、またはアフリカなどに更なる市場を求めるのだろうか。一方、北京政府も生産規模、技術水準など一定基準を満たした134社(上述の順風光電などは入っていない)のみが金融機関からの融資が受けられる制度を発表したが、問題は其れが実際に実行されるのか、次々と認定会社が増えることも予想され、過剰生産問題が解決の方向に進むとは考えにくい。

以上

Previous post

右脳インタビュー ニコラス・E・ベネシュ

Next post

鯖の生き腐れ?:アメリカ移民法改革の行方