香港の先行きに暗雲

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今年に入ってアジアでNo.1の香港の富豪・李嘉誠(Forbes世界長者番付け17位)が傘下のHutchison Whampoa社とCheung Kong社の再編を機に本社機能をCayman Islandに移すと発表した。1997年の香港返還直前に巨大コングロマリットで香港開発に多大の貢献をしたジャーディンが登記上の本社をバミューダ諸島のハミルトンに移したときと同様、香港経済界は香港の先行きを警戒して大きな反響を呼んだ。具体的な再編案はHutchisonに港湾関係、電信、E-commerce, Media,生命科学などを集約Cheung Kongは不動産、ホテル、インフラ建設、エネルギー、小売等先行きの余り良くない、または先行きに問題のある業種を集中するとしている。
更に同社の説明によると不動産市場の先行きは楽観すべきものではないとし、実際に2013年以降同社は本土の不動産を次々と売却しており、一部では李嘉誠も中国経済に見切りをつけたとか、香港経済の将来への不安があるなど色々な説が飛び交っている。今回はこの背景を探ってみたい。

#中国経済の先行き
不安要因としては幾つでも挙げられるが、誰でも指摘する不安要因は不動産市況、地方政府の過剰債務、過剰投資が挙げられる。問題は力をつけてきた習近平政権への不安がある。習近平は鄧小平を称える改革開放派と言われているが、独占的な国営大企業には不都合な「法治経済」を強く押し出している。簡単に言えば「政府による管理強化」だ。
香港で李嘉誠はParknShop(百華超市)等スーパーも手掛けているが小売業の将来性には悲観的で自由経済の微妙な変化をかぎつけているのかも知れないなどと香港紙はうがった見方をしているが後述の習政権に対する不安が背景にあることは事実であろう。又現香港行政長官の政策とは全く相容れないこともある。

#香港の政治リスク
現在の香港の行政長官C.Y.リョンは前回の選挙で北京政府の支援を受け当選し共産党色の強い行政長官と言われている。この選挙の際李嘉誠等香港財界は官界出身(元政務長官)の唐英年候補を支持した。現長官のC.Y.リョンは普通選挙に対する学生運動(Occupy Central)を排除したり、独禁法を準備するなど北京政府の方針に歩調を合わせている。一般的には今回のHutchisonとCheung Kongとの再編は香港の政治リスク拡大に関係していると見る向きが多い。

#先行きのあまり良くない業種
本土の不動産からの撤退は2013年ころから始まっていたが、その間、主に欧州での携帯電話事業で英国、イタリアなどで大型買収を行っており、その資金手当てと見られている。従来から世界各地の港湾事業を行っていたHutchison Port Holdings(26ヶ国で52港のcontainer port operator)をChina Merchants Holdings, COSCO, China Shipping Terminal Development, State Development & Investment Corp.(何れも中国の国営企業)に売り渡すべく交渉中と伝えられている。(推定value 1500億HK$~1600HK$=約2兆3000億円~2兆4000億円)。コンテナ船の大型化によりコンテナ船不況が既に始まっており、大型船の寄港地も限定され、その他の港湾は中小コンテナ船しか寄港しないとなれば港湾事業も限界が見えてくる。小売業のParknShopは本土、香港、マカオで345のスーパーを運営しているが、ネット通販に押され先行きに不安があるのかタイのCP Groupなどと売却交渉中とも伝えられている。

#興味ある事業
Hutchison傘下の水処理を手掛けるHutchison-waterは海水淡水化技術をイスラエルに技術輸出を目論んでいるが、中国でも水質汚染・水不足が深刻なので中国市場にも引き続き注力すると言っている。
一方小売りではHutchison傘下のWatsons( アジア最大のDrug Store Chain)はオランダのDrug Store ChainのDIRXを買収するなど欧州での投資は活発化している。
李嘉誠傘下の投資ファンド ホライゾン・ベンチャーズはバイオ等色々な分野に投資しているが、香港紙によると最近は特殊なLED電球を開発したカナダの企業にも投資しているという。

#習政権の大企業バッシング(政府による大企業の管理強化)
世界の銀行業界は金融業の不正取引に対する厳しい糾弾に合っている。香港を代表する金融業も例外ではない。HSBCはスイスの子会社が富裕層の脱税をほう助していたとて当局が捜査に乗り出したり、為替の不正操作とかCEOのガリバー氏の不透明な銀行口座使用問題も話題に上っている。実際に利益の70%を稼ぐアジア地域で苦戦し2014年12月期の税引き前利益は17%減益となっている。香港紙の報道ではHSBCの本社移転の話が再び出ているという。(同社は香港からロンドンに本社機能を移転しているが再び香港に戻るとは思えない)一方Standard Chartered 銀行もアジアが収益基盤だが中国高官の子弟を香港支店で雇用するなど各方面から非難されている。香港の地場銀行では東亜銀行が好調だが同行に出資する三井住友銀行への株主割り当て増資に対し米ヘッジファンドが提訴するなど銀行界に対する風当たりは強い。銀行業界に対する逆風は習政権の政策とは直接の関係はないがこれ等に刺激されたのか海外の動きに呼応して中国の官僚組織が大企業・外資叩きをやっている。自動車業界では中国国有の自動車業界最大手の中国第一汽車集団の幹部が汚職で調査されていたが遂に徐董事長にまで追求の手が及んだ。同社は独VW, トヨタなども合弁を組んでおりいかなる影響が及ぶか注目される。一方、日産とかVWの修理対応に問題ありと国営メデイアを通じて批判キャンペーンが開始された。国営メデイアはこのところ「外資叩き」を行っておりニコンのデジカメが問題ありと中国の品質当局が当該製品の販売停止を命じ、ニコンは大規模な修理対応が必要となった。従来から外資叩きはあったが米アップルの保証サービスが不足とか、米ヒューレッド・パッカードのノートパソコンの品質問題を指摘するなど外資の有名企業は今や批判の対象となっている。習政権の汚職退治により官僚も積極的に動かなくなりこのような大衆受けする問題にのみ手を付けると言った妙な事態となっている。

#独禁法の乱用
中国は従来外国の多国籍企業に対し、招致,奨励、保護を強調し中国内での起業に有利になるように計らってきた。ところが今年の2月になってスマホ向け技術で(優越的地位の乱用)があったとして米クアルコム社に罰金60億8800万元(約1150億円)の制裁金支払いを命じた。勿論中国内メーカーからの苦情によるものであろうが、中国が独禁法を施行したのは2008年からで2013年頃から外資に対し次々と調査に入った。習政権は「中国は法治国家」だとする政府の意向に沿ったものであろう。自動車ではベンツが2億5千万元、VW/クライスラーに合計3億1千万元の独禁法違反として罰金を課している。「技術の国産化」を標榜する産業振興策によって外資企業が標的にされている。中国中心に物事が進むわけもなく2013年以降欧米・日本企業(日本の自動車部品メーカー、海運大手、米マイクロソフトなど)は突然の政策変更に如何ともし難い状況となっている。米国や欧州の中国内の商工会議所は「外資叩き」であり「公平性に欠ける」と声明を発表している。

#外資系医薬品メーカーに過剰な値下げ要求
医薬品については医薬メーカーと医療機関の間で入札制度が導入されている。妙な制度だが患者の医療費負担を軽減させるのが目的であろうが、地方政府が値下げ交渉をする形となっている。其の為、30%、40%、55%など大幅な値下げ交渉が起こり、極端な値下げに応ずることもできず、外資系医薬メーカーは落札しても権利を放棄し成約に至らないケースが続出しているようだ。これにより外資系メーカーのシェアーは下落し中国の地場系医薬メーカーにとっては確かに大チャンスだ。ところが特許関係も複雑で、元々技術もないところで開発費用がかかっていない分だけ安値で販売できるであろうが、商品は限られている。
汚職退治という大衆受けする政策で権力の集中を図ることは理解できるが汚職が全ての許認可権限を握る官僚組織にこれほどまでに蔓延していたとは習近平のみならず全ての人も驚いているのかも知れない。N.Y. Timesは温家宝一族が27億ドル以上の資産を蓄えているとか戴・元中国銀行総裁が31億ドルの資産を保有しているなど元高官とか子弟の海外蓄財、更には習近平一族の資産情報をすっぱ抜いている。一方中央政治局常務委員の周永康の裁判を天津で行うこととなりその罪状の一つに国家機密漏洩なるものがあり、Voice of Americaなどは其れを揶揄してこれらの海外蓄財は周のリークによるものかと疑問を投げかけている。
何れにしても透明性のない権力闘争の中で香港の財閥もリスクの分散を図っていることは事実であろう。
以上

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