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大組織病にはまず企業風土の改革を、GEは企業文化変革に取り組んで成功

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グローバル展開するリーディングカンパニーは、さすがに取り組み姿勢が違う。学ぶことが多い。前回コラムで取り上げた「今や日本の大企業が壊れつつある」という問題提起について、うれしいことに反響があったので、アングルを変えて再度、取り上げてみたいと思った矢先、そのグローバルなリーディング企業の1つ、米ゼネラルエレクトロニクス(GE)に出会った。時代先取りする取り組みがあった上、大組織病に苦しむ日本企業にとっての参考事例があった。そこで今回は、それを紹介しながら、製造業現場で不祥事が続く日本企業がそれら企業から何を学ぶべきか、そのヒントが何かを考えてみよう。

 

イノベーション研究を続ける企業経営者や大学教授らによる新経営研究会(松尾隆代表)の興味深い会合にチャンスがあり参加した時のこと。GEジャパン社長兼CEO(当時)の熊谷昭彦さんの講演「次世代製造業に向けたGEの革新」を聞けた。内容は刺激的で、ロジックもしっかりしており、私は思わずリーディングカンパニーは違うな、と感じた。

 

IOT活用の「製造業サービス化」はじめリーディング企業らしくGEは時代先取り変革

熊谷さんによると、GEが現在、取り組む企業変革は3つ。まず第1が「インダストリアル・インターネット」という、インターネットとモノやモノづくり現場をつなぐIoT(INTERNET OF  THINGS)を活用した事業展開だ。端的には主力製品の航空機ジェットエンジンをこれまでのようなメーカー売り切りにとどめず、エンジンにセンサーをつけて保守管理チェックサービス、エンジンの蓄積データをもとに燃費削減の運航システムを提案、そしてユーザーの航空会社向けにエンジン活用の最適化を盛り込んだトータルソリューションの提供やそのサービスを事業化したのだ。まさに製造業のサービス化だ。

 

熊谷さんは「日本の製造業は生産性向上への関心が強いので、ピッタリのテーマだが、GEはいち早く、このサービス化がビジネスチャンスと考えた」という。日本では、コマツがKOMTRAX(コムトラックス)というグローバルベースの機械稼働管理システムで成果を挙げているし、日立製作所も高層エレベーターでGEと同じ保守管理サービスを事業化している。しかしGEのIoTを積極活用したイノベーションへのチャレンジは学ぶ点だ。

 

「完璧なものをつくり世に問う」自前主義に決別、クラウド・ソーシング活用は見事

2つめが、GEの世界450か所のさまざまな機器の工場をデジタルで切れ目なくつないでサプライチェーン化し、リアルタイムでグローバルレベルの生産効率化をはかったこと。それだけでない。熊谷さんによると、GEはクラウド・ソーシングというシステムを導入し、ジェットエンジンの開発部品を全世界にネットでオープンに公募した。当初、GE内部では「時間をかけて完ぺきなものをつくって世に出すのがGEの企業文化のはず」と反発が強かった。ところがインドネシアの若いエンジニアの応募アイディアが素晴らしく、採用に踏み切ったら大成功だった、という。それもクラウド・ソーシングの1つなのだ。

大企業の枠組みにとらわれず、外部、それも世界中に技術の源泉を求めてオープンにしたところがポイントだ。日本企業はまだ何でも自社で、という自前主義を捨てきれていないが、GEはインターネットを活用して埋もれる外部資源活用の時代という判断なのだ。

 

リスクとりたくない若手に「私が全責任とる」と表明、トップ自らのアクションは面白い

しかし、私が組織問題を抱える日本企業にとってヒントがある、と思ったのは3つ目だ。熊谷さんによると、製造業のサービス化を含めGEにとって重要課題ばかりだが、これらの課題実現には企業文化の変革が必要。端的には長年のモノづくり発想から補修サービスを含めたトータルのソリューションを売る、という大胆な切り替えに全世界共通の行動指針、変革行動に向けたパフォーマンス評価制度づくりが重要だと判断した。このため新しい働き方指針の「FASTWORKS」などのマインドセット対策に取り組んだ、という。

 

これだけではわかりにくい。興味深かったのは熊谷さんのGEジャパンでの取り組みだ。「私の周辺で中間管理職が、事業リスクのある問題を部下の若者に指示する際、『キミにまかせるからしっかりやってくれ』だけでは若者は喜ばない。若者はリスクをとって問題が生じた場合、責任をとるには負担が大きいと敬遠しかねない。そこで、私は『私が全部、最終責任をとるからな』と意識的に言うようにした。すると、若者たちはそれならばやろう、と動き出すようになった」という。トップの一声で組織がどこまで変わるのか見極めが必要だが、熊谷さんはリスクに逡巡する若手社員を動かすにはトップ自らが責任明示し企業文化を変えるべきだ、というわけだ。

 

GEへの市場評価がいま1つ、見極め必要だが、企業文化変革意欲や行動はヒント

そのからみで、さらに興味深かった話がある。熊谷さんによると、GEはテクノロジー企業に今後、ソフトウェアが重要になるとビッグデータ時代を見越して米シリコンバレーにソフト開発センターを立ち上げ世界中から2、30代のエンジニア1000人強を集めた。博士号などの肩書を持つ優秀な若者ばかりだが、ポロシャツ、Gパンスタイルで自由気ままな行動をとるので、本社で「これがGEか」と驚きの声が上がった。しかし彼らが新たなGEの担い手たちになる、と企業文化変革に取り組むきっかけになったという。

GEは発明王のトーマス・エジソンが創業し、ジャック・ウエルチという優れもの経営者らによって140年に及ぶ「100年長寿企業」だが、運悪く株価が下落を続けチャレンジ中の企業変革が金融市場から評価を得ていないため、手放しで「すごい取り組み企業」と判断するのはまだ早計かもしれない。

 

ただ、大組織病を抱える日本の大企業群は、不祥事を引き起こした最近のいくつかの企業事例を見ていて、外部委託の調査委員会報告などをもとに、極めて形式的なおわびに終始し、仮に再発防止策を出しても本当に企業体質を変える大胆な取り組みに踏み出したとは見えない。どちらかと言えば、企業の横並び体質がそのまま出ている。GEとはバックグラウンドが違うにしても、GEのように企業文化の変革、企業の組織風土を変える、という点は学んでもいいのでないか、と考える。

 

大組織病を根治出来ない根深い問題が多すぎる、優秀な人材の流動化先送りなど

神戸製鋼のデータ不正が表面化したあと、三菱マテリアルや東レなどの子会社で似たような不祥事が相次ぎ、誰もが「エッ、この大企業もか」と驚いた。考えようによっては、神戸製鋼の問題をきっかけに、「みんなで渡ればこわくない」式に、早めに「実はわが社も」」と公表に踏み切った可能性もある。やはり、企業の横並び体質が見えて、がっかりだ。

 

ただ、私はいまの企業にはもっと根深い問題がある、と見る。つまり大組織病を根治できないのは、企業組織に問題が数多くあるからだ。具体的には年功序列制度がまだ企業社会に根強く残っていて優秀な人材の流動化が進まず、嫌気をさした若手や中堅社員が転職すること、また、リスクをとっても、それに報いる、あるいは評価する仕組みになっていないこと、とくにGEジャパンのケースのように、中堅幹部があいまいな指示をすると、若手は、たとえば中堅幹部がヒラメ志向で上の役員の顔色ばかり見ていて最終責任を自分たちに押し付ける可能性が高いと、企業組織を冷めて判断することだ。それらの結果、状況に流して適当な行動をとった方が無難、という事なかれ主義がまん延してしまう。

 

正規・非正規社員の二重構造や使い捨てに陥りがちの人材派遣制度の抜本手直しを

さらに、正規社員と非正規社員の二重構造を作り出していることも、一段と組織問題化しつつある。そうしたカベをつくって差別状態を作り出している上に、非正規社員がそれなりの活躍をしても「使い捨て」のような形で切り捨てられかねないこと、とくに人材派遣制度で企業に送り込まれた人たちも正規社員とは別扱いの処遇・待遇のため、派遣先の企業への忠誠心などが生まれないことだ。これも企業組織の活力を喪失させている。早い話が、大企業を中心に経営サイドが、コスト優先で人材の切り捨てを行ってきた結果、それらが製品の品質、あるいは企業自体の品質が問われる事態になってきたとも言える。

 

米IBMなどでの技術経営を踏まえコンサルティング企業UWiNを経営する中根滋社長はこの現実に鋭い指摘をされている。「人を大切にすることだ。従順で盲従する人ではなく、才能があり、夢があり、革新や世界を語れる積極的な人を。もう過去の栄光『神戸製鋼、東芝』を創ったような人たちには日本の明日は創れない。私はJAPAN AS NO.1の時代は終わったと思っている。挑戦すべきは、JAPANESE AS NO.1というゴールだ」と。

 

久保利弁護士はバブル経済の後遺症を指摘、「この30年で企業倫理が緩む」

また、企業ガバナンス問題の論客、久保利英明弁護士も最近、あるメディアインタビューで大企業不祥事問題に鋭い発言をされているので、ちょっと紹介させていただこう。

「30年前のバブル経済が原因だ。当時は、土地を転がせばもうかった。大蔵省(現・財務省)の役人も接待漬けになっていた。額に汗して働けと言われても、給料は上がらないし面白くない。ちょっとぐらい手抜きしたっていいんじゃないの、という風潮が生まれた。企業内の倫理はだんだん緩み、勤勉さや律義さ、矜持が、この30年で失われた」

さらに「昔は、一生懸命いいモノづくりをすれば、顧客が喜んでくれる、消費者がハッピーになる、これがいい会社だと、みんなが思っていた。それが行き詰まり、みんなが緩んだ。本当は品質基準に合っていないのに、代金はちゃんと入ってくる、これは楽でいいじゃないかという風潮がメインストリームになると、現場で(反発の)声は上がらない」

 

日本の製造業企業を中心に大企業、中堅企業は、時代の変化を鋭敏に嗅ぎ取って、大胆な組織改革、企業風土の改革、さらには企業文化の改革に取り組まないと、日本の製造業が強みに、あるいは誇りにしていた製品安全とか、高品質などはメッキがはげたようなものになるリスクがある。下手をすると、新興国が後発のメリットを生かして、デジタルでコモディティ(汎用品)化した製品群でシェアを奪う、という事態も十分に想定される。

 

真田愛知淑徳大教授は中国モノづくり技術向上で日本が比較競争優位喪失を懸念

私の長年の友人で数々の現場を歩いて、自身で「草の根の辻説法師をめざす」と公言している愛知淑徳大学教授の真田幸光さんが、私の危惧する中国など新興国の追い上げに関して、日本と中国の製造業の比較レポートで取り上げておられるので、ご紹介しよう。

レポートの結論を先に申し上げれば、中国モノづくり技術の実力は上がってきた。日本が、日本のモノづくり技術はまだまだ先進的で、比較競争優位を持っている、と思っていると足を踏み外すリスクが出てきた、という。競争優位の喪失を懸念されているのだ。

「中国のモノづくり技術は間違いなく上がってきており、日本としては中国を侮ってはいけない。中国のモノづくり企業が顧客の視点に立って製品の商用化開発を進めている。日本など外国顧客に製品納入する際、顧客のクレームを受けて自主的に改良品をつくる改善努力を実践し始めた。さらに、納入した製品のどこかに故障が出ると、すぐに出張してきて修理、次の改良品へのヒントとして商品開発するケースも見受けられる」と。

 

日本の製造業が、かつて米国など先進国市場を意識して追いつき追い越せ精神でチャレンジした時と同じ光景だ。日本は今こそ大組織病対策に手をつける時期だと実感する。

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