「データ利用権限に関する契約ガイドライン」は、データ流通の実験には使用できても、ビジネスとしてのデータ流通には使えない。
IoT産業革命の推進のためには、データ流通市場(特に、センシングデータ流通市場)が必須であることは、明らかになっており、日本国政府も多くの企業・団体もデータ流通市場創設に向けた努力を開始している。(参考サイト1、2)
しかし残念ながら、「データは有体物ではないので所有権の対象とはならない」という固定観念を維持することを大前提にして考えてしまっているために、「IoT産業革命において、日本がリアルデータとエッジデバイス を中心にした産業で世界をリードしたい。そのためには、データに関する法制度はどのようにすることが最適なのか?」という発想には全くなっていない。(参考サイト3、4)
すなわち、ヨーロッパなどのデータ流通規制の動向を見ながら、「データ利用権限に関する契約ガイドライン」を整備しつつ、不正競争防止法にてデータの不正取得行為に法規制をするということを実行しようとしている。(参考サイト3、4、5)
しかし、「データ利用権限に関する契約ガイドライン」(参考サイト4)は、データ利用権限の取り決めの対象とするデータが利用される前段階までに関与した者の全員で、多種類の考慮要素を参照し、各当事者の利活用権原の 有無を検討するとしている。
ガイドラインには強制力がないので、ガイドラインの使用に反対する当事者も存在し得るし、ガイドラインを使用して検討したとしても、結論に至ることができるとも限らない。
例えば、ガイドラインに基づいた検討において、そもそも検討対象のデータ本体の全情報を保有している者は、検討の結果として利活用権原が無いと判定される他の当事者もあり得るので、他の当事者に対してできるだけ、 データ本体の情報を与えないようにしようとすると考えられる。
このような状況では、データ本体の全情報を持たない当事者としては、各当事者の寄与度も判らないし、対価も、コスト負担も、データに関する責任の所在も、議論できない。
データの利活用権原の有無を検討する当事者が検討に必要な全情報を持ったとしても、そのデータが利用される前段階までに関与した者のそれぞれの寄与度の算出は、何を重視するかで全く変わることになるので、結論はなかなか出ない。
そうなると、「データ利用権限に関する契約ガイドライン」が想定しているような「データの利用権限の決定」は実行できない場合が多いし、実行できたとしても大変に時間と費用がかかることになると考える。
すなわち、「データ利用権限に関する契約ガイドライン」は、データ流通の実験には使用できても、時間とコストがかかりすぎる事と、契約成立が大変に不確定になるので、ビジネスとしてのデータ流通には使えない。
また、不正競争防止法にてデータの不正取得行為に法規制をするということを実行しようとしている。(参考サイト3、5~9)
しかし、前記の事情でデータの利用権限の有無が当事者の間でなかなか決められないということになると、不正取得行為の範囲を決めることもなかなかできない。
もしも、「データ利用権限に関する契約ガイドライン」に基づいて、データの利用権限の有無などを、各当事者ごとに決めることができたとしても、不正取得行為を探知することは大変に困難である。
データを保有している事やデータを利用していることの探知の方が、データ取得行為の探知よりもはるかに容易である。なぜならば、データ取得行為は一瞬で終わるが、データ保有やデータ利用は継続性があるからである。
しかし、そもそも「データは有体物ではないので所有権の対象とはならない」という固定観念は、維持すべき正しい内容のものなのであろうか?
この固定観念は間違いであることは、次のことから明らかである。
所有権の客体としての土地は「ものに占められた空間の一部」であって、「空間の一部を占めるもの(有形的存在)」ではないので、これまでの有体物の解釈である「空間の一部を占めるもの(有形的存在)」は、間違いである。(参考サイト10)
そこで、「IoT産業革命において、日本がリアルデータとエッジデバイスを中心にした産業で世界をリードしたい。そのためには、データに関する法制度はどのようにすることが最適なのか?」(参考サイト11)という発想を実現する方策を、 戦略として実現するということが重要となる。(参考サイト12)
以上に述べた理由から、IoT産業革命の推進に必須である「データ流通市場」の創設のためには、「データは有体物ではないので所有権の対象とはならない」という固定観念を打破して、「データ所有権」の法制化をすることが必要である。
データ所有権法の骨子としては下記のものが考えられる。データ所有権法を日本が世界に先駆けて法制化するならば、世界の多くの企業などは日本にデータセンタを置いてデータの保管や分析を行なう。
そして、日本法に基づいてデータ所有権を確保した上で、日本のデータ流通市場を通じて、データの売買をするようになる。
その結果、日本に多くの価値あるデータが集積し、人工知能における機械学習も活発化し、人工知能が生成した知識情報の蓄積や利用も日本で活発化する。
これによって、「IoT産業革命において、日本がリアルデータとエッジデバイスを中心にした産業で世界をリードしたい。」という日本国の戦略も達成できる。
記
(1) 内容保護主義:
データ所有権は、マシン生成情報の表現を保護するのではなく、内容を保護する。
(2) 非創作性主義:
マシン生成情報の創作性はデータ所有権の発生要件としない。
(3) 一意特定主義:
マシン生成情報にデータ所有権が発生するためには、その情報を一意に特定するための識別情報,データ所有権者,データ所有権発生時刻を特定するための情報と一体的に管理されていることが必要。
(4) マシン所有者主義:
マシン生成情報のデータ所有権は、その情報を生成したマシンの所有者に原始的に帰属する。
(5) 相対権主義:
マシン生成情報のデータ所有権は、独立に生成された他のデータには及ばない。
【参考サイト】
1. データ流通推進協議会
2. IoT推進コンソーシアム データ流通促進WG
3. Connected Industries実現のためのデータ関連制度の整備検討
http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/chitekizaisan/fuseikyousou/pdf/006_03_00.pdf
4. データの利用権限に関する契約ガイドライン 平成 29 年 5 月 ver1.0
http://www.meti.go.jp/press/2017/05/20170530003/20170530003-1.pdf
5. データ利活用の法務に関する最近の議論の整理
http://www.yglpc.com/column/201712_1080/
6. データ・オーナーシップがビジネスに与えるインパクト 第1回 IoT・ビッグデータ・AIビジネスに対する法的保護の「今」と「これから」
https://business.bengo4.com/category3/article224
7. データ・オーナーシップがビジネスに与えるインパクト 第2回 IoT・ビッグデータ・AIビジネスにおける契約実務はどう変わるのか
https://business.bengo4.com/category3/article235
8. データ・オーナーシップがビジネスに与えるインパクト 第3回 IoT・ビッグデータ・AIビジネスにおける、データの不正な利活用に対する規制
https://business.bengo4.com/category3/article254
9. データ・オーナーシップがビジネスに与えるインパクト 第4回 IoT・ビッグデータ・AIビジネスにおける、個人データの利活用に対する規制
https://business.bengo4.com/category3/article255
10. 所有権の本質と所有権の客体である有体物の概念を明確化して、データ所有権をブロックチェイン技術を用いて現実化する方法
http://www.patentisland.co.jp/memo370.pdf
11. 「新産業構造ビジョン」 ひとりの、世界の課題を解決する日本の未来 平成29年5月30日 産業構造審議会 新産業構造部会 事務局
http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/shin_sangyoukouzou/pdf/017_05_00.pdf
12. 新産業構造ビジョンでのリアルデータ・プラットフォーム戦略実現のために追加する「戦略その3」
http://www.patentisland.co.jp/memo390.pdf