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中国もマハンの門下生

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 中国が依拠する三人の「M」
今日中国が依拠する三人の「M」がいる。毛沢東、マルクス、そしてマハンである。毛沢東とマルクスが中国と如何に関わっているかについては説明の必要も無いだろう。意外に思われるのがマハンであろう。実は、中国もマハンの門下生であり、現在の軍事戦略・政策はマハンのシー・パワー理論を忠実に実践しつつある、と筆者は見ている。万一、中国がそうは自覚していない場合でも、中国がマハンのシー・パワー理論を正しくトレースしているのは事実だと思う。
とはいえ、誇り高い中国は、マハンはアメリカ人であることから「中国がマハンの門下生であることを意図的に喧伝すべきではない」と考えているものと思われる。
因みに、中国は、マハンの門下生であるだけではなく、ユダヤ人のカール・マルクスの門徒でもある。中国は、誇りとする4000年の歴史の中から生まれた孔孟思想や孫子の兵法が主流ではなく、「紅毛人」のマルクスやマハンの理論で今日台頭しているわけで、なんとも皮肉と言う他ない。
 中国人民解放軍総参謀部の参謀が書いた「中国はマハンの門下生」という題の小論
中国の指導部、特に総参謀部などの高級軍人は、本音では中国はマハンの門下生であると自認しているに違いない。以下は、筆者が中国の総参謀部の海軍士官に身を擬えて書いた「中国はマハンの門下生」という題の小論である。

「マハンこそは、仮想敵国アメリカを今日の世界の超大国に発展せしめた『指南役』なのだ。そして、我が中国がアメリカと覇権を争い、将来『世界の覇者』になるためには、マハンの海シー・パワー理論を活用するしか道はない。
我が中国は、ユーラシア大陸の大陸正面と黄海、東シナ海、南シナ海を経由して太平洋正面側に対面している。しかし、以下のような理由で、中国はアメリカ同様に『海洋国家』と呼ぶのがふさわしく、その発展のためにはマハンのシー・パワー理論が『道標』となるのは間違いない事実である。
我が国は、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)、 ロシアや外蒙古(モンゴル)など全部で 14 の国家と国境を接している。冷戦時代は、ソ連と対立関係にあり、81万余の巨大な陸軍兵力を国境沿いに展開していたが、国境問題解決され、大陸正面の圧力が大幅に緩和され、中国の力を海洋正面に向けることができる。
大陸正面はタクラマカン砂漠、ゴビ砂漠やヒマラヤ山脈などの地形障害により陸上経由の通商は著しく制限される。このように大陸正面の地勢により陸上交易が著しく制限されることから、中国は海洋正面に糧を求めて発展せざるを得ない。中国が将来も『世界の工場』――加工貿易立国――としての地位を維持発展させ、13億人以上の人口を養うためには、石油・天然ガス・食料などの資源を安定的に手に入れ、工業製品などに加工して輸出するためには東シナ海や南シナ海などを突破して、太平洋やインド洋にシーレーンを確保しなければならない。中国の輸出入の約90%は海上経由で行われている。1993年までは石油の純輸出国であった中国は、第12 次5 カ年計画の初年度である2011 年の時点で、海外依存度は56.5%にまで拡大した。また、輸入する石油の80パーセント以上は、いわば中国の『大動脈』を梗塞させうるチョークポイントとして有名なマラッカ海峡と南シナ海を経由している。このような脆弱性を克服するためには海軍の近代化が不可欠だ。
中国の周辺海域には石油や天然ガスなどの海洋資源があるほか、係争中の領土問題もある。
マハンのシー・パワー理論を最も簡潔に要約すれば『海軍は商船によって生じ、商船の消滅によって消えるものである』と表現できる。これをもう少し補足すれば、海洋国家として発展するためには『生産』、『海運』、『植民地』という『循環する三要素』がその発展のための政策のカギである。
この三要素について少し詳しく見てみよう。先ず、『生産』について言えば、中国は加工貿易立国である。加工貿易が成り立つためには、資源を輸入し、製品を輸出する必要がある。これら資源・製品の輸送手段は一部に航空機もあるが大部分は①『商船隊』すなわち『海運』である。また、マハンの時代には製品輸出先のマーケットや資源産出国は『植民地』と位置づけたが、今日では②海の彼方の市場や資源を供給する『諸外国』と表現するほうが正確である。商船の航行するシーレーンの安全確保のためには、③『海軍力』とシーレーン沿いに展開する④『基地・根拠地』が不可欠である。これら①~④をシー・パワーと総称する。即ち、『シー・パワーとは、海軍力の優越によって制海権を確立し、その下で海上貿易を行い、海外市場を獲得して国家に富と偉大さをもたらす力である。』――とも表現できる。
鄧小平同士は、1992年の春節の頃の南巡講話により、天安門事件後に起きた党内の路線対立を収束し、改革開放路線を推進する体制を確立した。以後、中国は急速な経済発展を持続し始めた。まさに、中国海軍が主役となって、上記マハンのシー・パワー理論を実現・推進する段階が到来したのだ。」
 今後の執筆テーマ――マハンで読み解く中国の海洋戦略
昨年の9月から、本紙上でアメリカがマハンの海軍戦略を採用して、今日の隆盛の基盤を作った経緯などについて書いてきた。今後は、今日台頭著しい中国の海洋戦略について、マハンのシー・パワー理論で読み解いて見たいと思う。これまで書いてきた、マハンのシー・パワー理論やそれを実現したルーズベルトの事跡を念頭において読んでいただければ、一層理解しやすいものと思う。

 

(おやばと掲載記事)

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