次代の‘グローバリゼーション’に向けて
目次
はじめに G20とWTO改革合意 ————- P. 2
・並立する「成長と保護主義」
・G20首脳宣言が映す瀬戸際の国際協調
・WTO改革への合意と、その行方
第1章 グローバリゼーションの行方 ———— P.5
― グローバリゼーションとグローバリズム
(1)How to Save Globalization
-次代のグローバリゼーションに向けて
・グローバリゼーション実証
・A lifelong ladder of opportunity- 生涯‘機会’
(2)今、Brexitの行方を思う
―Brexitはいま`Bregret’から`Breturn’ ?
第2章 Compensated Free Trade (CFT) と米中関係の実際 —– P.8
(1)スキデルスキー氏の示唆
・CFTの仕組みー貿易戦争回避を狙って/・CFTの利点と問題
(2)米中貿易戦争を巡る現実 ― The Phony US-China Truce
おわりに イカロスの翼 ———— P.11
・ゴーン日産元会長逮捕
・イカロスの翼を着けたゴーン
・自動車メーカーとしての今後を思う
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はじめに G20とWTO改革合意
・並立する「成長と保護主義」
2018年はまさに「トランプの1年」でした。矛盾だらけの論理を返り見ることなく、米国第一主義の下、あらゆる旧来秩序を一人でかき回わす一方、好況下で実施した減税の恩恵もあって瞬間風速で年率4%超の経済成長を記録し、まさに世界経済にあって独り勝ちを誇示するが如きです。これまでの常識では、成長が続いていれば保護主義の出る幕はない筈の処、トランプ大統領の誕生でこの「成長と保護主義の並立」というパラドックスが生まれたと云うものです。 本来保護主義は、低成長につながるのは歴史の語る処、低成長経済の下では相手を犠牲にしないと豊かにはなれず、ゼロサムゲームでは保護主義が更に保護主義を呼ぶ事になるというものです。そして今、その兆候が出始めてきており、米経済、そして世界経済への先行き不安が浮かぶ処です。
・G20首脳宣言が映す瀬戸際の国際協調
処で、11月30日-12月1日、アルゼンチンのブエノスアイレスで行われた世界20か国の首脳合同会議、G20は仄かな光明を感じさせるものでした。G20首脳会議とは2008年のリーマンショックで不振に陥った世界経済の再生の為には各国の連携が必要と、中ロを含む世界が一致協力する為の合意形成の場としてスタートしたもので、そうした国際的協力の下、世界経済は再生に向かってきたと云うものです。それから10年、世界は今、そうした協調、協力はさておき自国の利害を優先する状況を呈する処、今次G20がそうした動きをチェックし、持続的成長に向けた方向を確認する事ができるのかと、懸念の消えることはなかったのです。
と云うのも、その2週間前に行われたAPEC首脳会議では経済・安全保障の両面で覇権争いを演じる米中の対立が深まり、首脳宣言の採択を見ることなく終わってしまった事情があったためでした。が、果せるかな、今次G20会議では首脳宣言が採択され、なんとか事を終えたと云う次第でした。が、これまで定番となっていた自由貿易の堅持を目指す「保護主義と闘う」と云う文言は、トランプ大統領の反対にあって、削除された由で、いま国際協調は瀬戸際にありとの印象を強くする処、まさに世界の協調関係の現状を痛感させられると云うものです。
・WTO改革への合意と、その行方
それでもその宣言内容(要旨:日経12月3日)では「国際的な貿易や投資は、成長、生産性、イノベーション、雇用創出および開発のための重要なエンジン」とした上で、その目的を達するには現状体制では及ばず、改善の余地があるとして、具体的には「WTOの機能の改善が必要」とし、「次回のサミットで進捗をレビューする」との文言を以って確認された事は、大いに評価されるべきと、思料される処です。
予てトランプ大統領は貿易の構造問題に踏み込めないWTOの現状に不満を募らせ、米国を不公平に扱い続ければ、脱退も辞さない姿勢を示してきました。つまり、米国が抱える貿易赤字はそうした事の結果と云い、本来WTOが監視していくべきが、これが出来ていない、WTOが機能していないと注文を付け、その改善が期待できなければWTO(95年米主導で設立)からの脱退をも示唆するのでした。 そうしたトランプ批判に応え、9月25日にはニューヨークでは日米欧の通商閣僚会合がもたれ、一応当該共同声明(注)が出されており、それが今回の合意を促したものと思料する処ですが、貿易環境の急速な変化に照らし、むしろトランプ旋風を奇貨としてWTOの改革然るべしとの合意を見たものと思料される処です…