平昌五輪を巡る中国の動向――尖閣侵攻の可能性を探る?
2018.1.12
○ 中韓首脳が電話会談
11日付時事通信電は「習主席、南北改善を支持=中韓首脳が電話会談」と題し、以下のように報じている。
新華社電によると、中国の習近平国家主席は11日、韓国の文在寅大統領と電話会談し、韓国と北朝鮮の閣僚級会談を受け、中国が南北関係の改善を支持する考えを示した。習氏は「中国は双方が南北対話と交流を推進し、徐々に朝鮮半島問題の解決を進めることを支持する」と表明した。
文氏は閣僚級会談の成果を説明し、「朝鮮半島の平和と安定維持のための中国の努力」に謝意を伝えた。習氏は、2月の平昌冬季五輪について「(南北)対話の契機だけでなく、朝鮮半島情勢が好転する起点となるよう望む」と強調した。
○ 中国の朝鮮半島戦略
中国の朝鮮半島戦略は、究極的には、「米国(在韓米軍)を半島から追い出して、南北朝鮮を支配下に入れること」であろう。習近平はこのような朝鮮半島戦略を念頭に、今回の電話会談を行ったはずだ。中国が南北関係の改善を支持した理由としては、次のようなことが考えられる。
第一は、米国の北朝鮮に対する先制攻撃を回避できることが挙げられよう。北朝鮮と国境を接する中国としては、戦火が中国に及ぶ可能性があることや、大量な難民問題を回避するためには、何としても米国の北朝鮮に対する先制攻撃を阻止したいことだろう。
第二は、平昌五輪の舞台を活用し、南北朝鮮で「反米」の雰囲気を盛り上げることだろう。習近平は、朴槿恵(パク・クネ)前大統領時代に一時的とはいえ「親中路線」に舵を切らせるのに成功した。朴槿恵は、その後、北朝鮮の狂ったような核ミサイル開発を中国が抑えることができないことなどを考慮し、従来の米韓同盟重視路線に復し、中国が嫌がるTHAAD配備までアメリカに許容した経緯がある。
保守(反北朝鮮)勢力を支持基盤とする朴槿恵政権までも取り込むことに成功した習近平は、今後、革新(親北朝鮮)勢力を支持基盤とする文在寅政権の取り込みに注力していくだろう。
因みに、文在寅政権は、朴槿恵政権による慰安婦問題の日韓合意を蒸し返しにしたことで、これを「新たな対日カード・政権維持カード」にしようとする意図が見え隠れしている。
これについては、中国が早速「合いの手」を入れた。昨年12月29日付北京発時事通信電は、「慰安婦、日本が対応を」と題し、次のように報じている。
中国外務省の華春瑩・副報道局長は29日の記者会見で、慰安婦問題をめぐる日韓両国の対立について「アジアの隣国と国際社会の懸念を日本が正視し、責任ある態度で問題を妥当に処理することを希望する」と述べ、日本側が対応すべき課題だという認識を強調した。
華春瑩・副報道局長の発言は、中国が文在寅政権を取り込むための「言葉による掩護射撃」に相当するものだろう。
第三は、朝鮮半島問題の「調停者」は、アメリカではなく中国であることをアメリカ・トランプはもとよりロシア・プーチン、南北朝鮮、国連や世界に印象付けることだろう。文在寅にとってアメリカは、北朝鮮の挑発を軍事力で抑止する(ねじ伏せる)ことができる頼りになる国だが、反面、その「副作用」も懸念される。すなわち、トランプが先制攻撃に踏み切れば、北朝鮮の報復攻撃が直ちに韓国に及び、政経中枢のソウルが文字通り「火の海」になりかねない。
こ文在寅にとって、のような絶対に受け入れられないリスクを回避するためには、中国は唯一の頼れる国なのだ。超大国アメリカに曲がりなりにも対抗できる国は、現在では中国を置いて他にはない。中国の意志に反して、アメリカが先制攻撃を仕掛ける「敷居」は高いはずだ。
第四は、北朝鮮に対する影響・支配力の強化だろう。現在中朝関係は良好とはいえないが、金正恩が生き残りを賭けて最終的に頼れる国は中国の他にはない。習近平は、食糧・燃料などの供給を支配できる立場にあり、北朝鮮に対する生殺与奪の権限を握っているのは事実だ。中朝関係が良好とはいえない現在でも、習近平は金正恩に対する強い影響力を持っていることは間違いない。
今回の電話会談で、習近平が文在寅の南北関係の改善を支持する意図の一部には、中韓関係を良好にすることを梃に、北朝鮮・金正恩に圧力を加えているのかもしれない。習近平としては、中韓関係を強化することにより、今後、「南北朝鮮に中国に対する忠誠競争をさせる」ことを目論んでいるのだろう。
○ 気になる北朝鮮問題と尖閣問題のリンケージ――尖閣侵攻の可能性を探る?
11日、沖縄県・尖閣諸島の大正島北東の接続水域内に潜った状態の潜水艦と中国軍艦が航行しているのを確認した。防衛省は潜水艦の国籍を明らかにしていないが、中国軍の所属とみられる。
以下述べることは、筆者の取り越し苦労かも知れない。南シナ海と同様に、東シナ海を自国の支配下に置きたい中国は、虎視眈々と尖閣への上陸侵攻のタイミングを測っている様子だ。
今回のタイミングは、平昌五輪で南北融和ひいては米朝対話への兆しがほのぼのと見え始めた時期だ。中国が反応を注視するのは日本ではなくアメリカだろう。アメリカは待ちに待った「対話」の兆しをブチコワシにしたくないから、中国にクレームを付けるなど、何の反応も見せていない。あるいは、「尖閣にまで気が回らない」と言う方が適切かもしれない。
そこが中国の付け目であろう。中国は、緒に就き始めた日中関係改善努力をフイにしてまで、「尖閣にちょっかいを出してもアメリカが反応しない環境・条件」を、試行錯誤しながら、尖閣侵攻の可能性を探っているのかもしれない。
そして、「アメリカが朝鮮半島に注意を奪われている時は、中国が尖閣(南西諸島)に手を出しても反応が鈍い」ことが分かれば、その隙を見逃さないだろう。
中国が、そのように学習・判断すれば、中国が尖閣を含む南西諸島に侵攻してくるのは、「アメリカが北朝鮮を先制攻撃する前後」ということになる。