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南北五輪閣僚級会談の注目ポイント・所見

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2018.1.10

昨日、世界の耳目が集まる中、板門店で北朝鮮の平昌五輪参加などについて、南北閣僚会談が開かれた。以下簡単にその注目ポイントについて所見を述べる。

 

注目ポイントについての所見

  • 今次会談はアメリカを仮想敵とした南北合作ではないか?

今次会談は、アメリカを仮想敵とした南北合作のような気がしてならない。今次会談は、水面下で南北が練り上げた筋書きに従ったものだろう。だから、11時間かけたといえ、あの似ても焼いても食えない北朝鮮がすんなりと共同発表文――合意文書――に同意したのであろう。

南北は、共同発表文の他に「機密の」非公開合意文書を作ったはずだ。この文書は、アメリカには絶対に知られたくない合意内容を含んでいることだろう。その内容は、「制裁を無効化すること」や「軍事的には、アメリカの先制攻撃を南北共同で掣肘すること」などが含まれるものと思われる。

  • 予め出来上がっていた筋書き?

南北は、昨年末から、①新年の辞で「平昌五輪に北朝鮮代表団を派遣する用意がある。当局同士の協議も可能だ」というメッセージを発し、②それを受けて文在寅がそれに応じて板門店での当局者会談を行う、③会談を実施して(あらかじめ合意した)共同発表文を公表する、と言う筋書きが合意されていたのではないか。

南北はさらに水面下で、共同発表文を具体化する作業を進めていることだろう。南北は、念入りに、大みそかが迫る頃、ICBM発射の兆候をわざと見せるなどの手の込んだ演出までしてのけた。

  • 文在寅は北朝鮮のエージェントではないか?

 南北閣僚会談がかくもスムーズに運ぶ最大の理由は、「文在寅が北朝鮮のエージェントである」からではないのか――との、疑念が湧く。

スパイ・謀略の世界は想像を絶している。かつて、西ドイツのブラント首相の秘書ギュンター・ギョームがマルクス・ヴォルフ率いる東ドイツの情報機関シュタージのスパイだったことを想起してもらいたい。文在寅のキャリアを見れば、限りなく疑わしい。

文在寅は、北朝鮮に呼応して、反日カードも忘れてはいない。日本との従軍慰安婦合意を反故にし、日本を挑発し、それを自らの政権基盤の肥やしにして、南北合作の便宜に供しようとしているのではないだろうか。

  • 遊泳外交の名人――北朝鮮

北朝鮮は遊泳外交の名人だ。「止まり木」は三本ある。一本目は中国、二本目はロシア(中国に比べれば弱いが)、三本目は何と同民族の韓国。アメリカの圧力が強くなるたびに、三本の枝を渡り歩く。トランプに気兼ねする習近平の中国との関係が良くない現状の中、北朝鮮は迷わず三本目の枝――韓国――にまんまと縋り付いたわけだ。

昔、「fox is a cunning animal(狐は狡猾な動物である)」という英文を覚えたが、北朝鮮の巧みな生き残りの策を見るに、まさしく「North Korea is the cunning country」という思いを強くする。

こんな小型モータボートのような柔軟自在な外交決心ができるのは、独裁国家の強みだ。四面楚歌でメディアなどの非難に晒されるトランプ――メディアや議会などに足を引っ張られてタンカーのように政策決定が遅い――を同情しているに違いない。

  • またしてもやられた――アメリカのショック

これまでも、北朝鮮は、リングのコーナーに追い詰められるたびに、「ウルトラC」級の外交・謀略で、その圧力・難問をクリアーしてきた。

北朝鮮の無法な振る舞いに対し、韓国がアメリカを出し抜いて多額の援助で報いるのはほぼ確実だ。かくして、国連安保理がようやく合意した制裁強化は効力を失う。一方の北朝鮮は、核弾頭を搭載した移動発射式の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を複数配備するという目標――アメリカの喉元に刃を突きつける――に向けて着実に歩みを進めていくだろう。

トランプは、「折角リングのコーナーに追い詰めてノックアウトする寸前に逃げられた」と悔しがっていることだろう。さすがのトランプも、南北問題の主役の一方の韓国・文在寅の「言い分」をにべに拒否するわけにはいかないだろう。そうなれば、トランプは世界の祭典・平昌五輪をぶち壊す下手人になるからだ。

  • 北朝鮮は余程米国の軍事圧力と制裁が効いているのか?

北朝鮮が韓国の国威発揚の場である平昌五輪に参加することは、70年近い体制競争――韓国の民主・資本主義と北朝鮮の独裁・共産主義――の結果を明らかにすることであり、北朝鮮・金正恩は事実上韓国に対する「敗北」を認めることになる。

格別金王朝のプライドに拘る北朝鮮が、このことを容認して五輪に参加を決定したことは、余程の事態と言わざるを得ない。米国による軍事的圧力と国際的な制裁が効き始めた証左かもしれない。

これまでアメリカの斬首作戦に怯え、居場所を頻繁に移し眠ら佞夜を過ごしていた金正恩は、強度のストレスで精神耗弱が進み、肉体も蝕まれ、限界に達していたことだろう。当分枕を高くして眠れる夜が来るのだ。

  • 北朝鮮は、核ミサイル開発を止めるのか?

北朝鮮が南北会談を受け容れ共同発表文に合意したのは、当面の危機――米国による軍事的圧力(特に米韓合同訓練)と国際的な制裁――を回避するための「一時しのぎの戦術」に過ぎない。

北朝鮮は、核ミサイル開発は、「アメリカを脅せる段階まで進んだ」として、一定の満足をしていることだろう。五輪開催間は、核ミサイルの実験は中止するものの、サイバー攻撃などによりアメリカ、英国、フランスなどから関連技術の窃盗をするなど、実験を伴わない開発に静かに邁進していることだろう。

  • 「死中に活を求める」北朝鮮のプロパガンダ大作戦――美女軍団襲来

南北高位級会談の共同報道文に、「北側は平昌冬季オリンピック大会に高位級代表団と共に、民族オリンピック委員会代表団、選手団、応援団、芸術団、参観団、テコンドー師範団、記者団を派遣することにし、南側は必要な便宜を保障することにした」という、一文がある。

これを読めば、北朝鮮は「死中に活を求める」プロパガンダ大作戦を行おうとしている意図が窺える。

北朝鮮は、五輪参加を体制競争敗北の「屈辱」とはとらえず、「死中に活を求める」積極戦略――プロパガンダ大作戦――をとるつもりだろう。平昌五輪の場で、「同一民族・民族愛」をアピールすることにより、韓国民の反米感情を高揚させ、米韓分断を企図しているのだろう。このためには、かねてから組織してきた韓国内の「親北朝鮮グループ」を総動員し、「親北・反米」を演出することになろう。フィギュアスケートのペアが、競技で使用する音楽は、アリランなどの朝鮮民謡をアレンジしたものもしれない。

共産主義国家は、プロパガンダが得意だ。中でも北朝鮮は格別優れている。平昌五輪という「戦場」に派遣した、①民族オリンピック委員会代表団、②選手団、③応援団、④芸術団、参観団、⑤テコンドー師範団、⑥記者団という編成で、平昌五輪を上回る『世界の耳目を引く』演出を展開することだろう。

③応援団については、2002年釜山(プサン)アジア競技大会や2005年の仁川アジア陸上競技選手権大会に“襲来”した「美女軍団」がそのイメージだろう。仁川アジア陸上競技選手権大会では、金正恩夫人の李雪主(リ・ソルジュ)が、美女軍団の一員として訪韓し選手団を応援した経緯がある。

  • アメリカ・トランプは北朝鮮空爆を――戦略家のエドワード・ルトワック

現代の著名な戦略家のエドワード・ルトワック (米CSIS戦略国際問題研究所シニア・アドバイザー)は、1月9日付シカゴ・トリビューン紙などに「南北会談で油断するな「アメリカは手遅れになる前に北を空爆せよ(It’s Time to Bomb North Korea)」 (http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/01/post-9271.php)という記事を寄稿し、北朝鮮に対する先制攻撃をトランプ政権に慫慂している。

 

「北朝鮮の過去6回の核実験はいずれも、アメリカにとって攻撃に踏み切る絶好のチャンスだった。イスラエルが1981年にイラク、2007年にシリアの核関連施設を爆撃した時のように。いかなる兵器も持たせるべきでない危険な政権が、よりによって核兵器を保有するのを阻止するために、断固として攻撃すべきだった。幸い、北朝鮮の核兵器を破壊する時間的余裕はまだある。米政府は先制攻撃をはなから否定するのではなく、真剣に考慮すべきだ。」

 

その際、韓国に類が及ぶことについては、「ソウルが火の海になっても」やるべきだ――としている。なぜなら、「ソウルが無防備なのは韓国の自業自得である面が大きいからだ。」という。約40年前、当時のジミー・カーター大統領が韓国から駐留米軍を全面撤退すると決めた際(最終的には1師団が残った)、アドバイザーとして招かれた国防専門家たち(ルトワック自身を含む)は韓国政府に対し、中央官庁を北朝鮮との国境から十分に離れた地域に移転させ、民間企業に対しても移転のインセンティブを与えるよう要請した他、避難シェルター設置の義務化も促した。

  • トランプが北朝鮮空爆を敢行する可能性は高まる?

文在寅が、アメリカの意向に反し、「米国による軍事的圧力と国際的な制裁」を無効化する方向に進めば、トランプは韓国を見捨てて、フリーハンドを持ち、自主的な判断で北朝鮮に対する先制攻撃に踏み切る可能性が高まるのではないだろうか。

○ 若干のコメント

 今次の南北の合意は、これまで積み重ねてきた「米国による軍事的圧力と国際的な制裁」により、北朝鮮に核ミサイル破棄を迫る方策が台無しになる可能性がある。その点では、誠に残念という他ない。

しかし、反面、わが国・国民、特に家族・子供・孫などのことを考えれば、ホッと安心する、と言うのが正直なところである。数千キロも離れたアメリカは、海外基地などの他は戦禍を免れるが、日本は直接類が及ぶ位置にある。第三、第四・・・の被爆さえも覚悟せねばなるまい。また、百万以上に及ぶかもしれない避難民を受け容れなければならない。

今回の事態を、ガン治療にたとえれば、こんな話になるのではないか。すなわち、ガンを手術すれば死亡するかもしれない。しかし、手術をしなくても、死ぬことを免れる場合がある。癌が縮小して症状が改善された状態を「部分寛解」、癌の症状がなくなり検査の数値も正常を示す状態を「完全寛解」という。今回の会談は、手術を回避し「寛解」を手に入れた――と言えないだろうか。

北朝鮮・祖国平和統一委員会 李善権委員長が「新年はじめての“贈り物”がお渡しできた会談だったと言える」と言ったが、皮肉かも知れないが、日本国民は年初から「被爆を免れる」という“贈り物”を金正恩から貰ったことになる。

ただ、今回の「寛解」は、一時しのぎのもので、危機が必ず再来することを覚悟すべきだ。

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