南北五輪閣僚級会談の行方
情報メモ22
2018.1.9
今日10時から、板門店で北朝鮮の平昌五輪参加などについて、南北会談が開かれるが、その行方について考えてみたい。
この会談は、米国の軍事的な圧力と厳しい経済制裁の中で行われるものであり、北朝鮮にとっては金正恩自身と独裁体制の生き残り賭けた戦いの一環と位置付けていることだろう。
これまで、核ミサイル実験などで米国を挑発するなど「ハード路線」を続けていた北朝鮮が、本会談を契機に「ソフト路線」に転じ、南北会談のみならず、米朝対話にも応ずるようになるのか注目されるところである。
○ 注目ポイント
- 会談の期限
2月9日から開始する平昌五輪に間に合わせるためには、少なくとも今月末までには北朝鮮の五輪参加についての合意が得られなければならないだろう。
すなわち、今日の開始から20日以内には何としても合意しなければならない。
しかし、南北双方互いに譲れないものがあり、会談は期限ギリギリまで紛糾することが予想される。
- 北朝鮮の熱意――制裁効果確認の場
北朝鮮が韓国の国威発揚の場である平昌五輪に参加することは、70年近い体制競争――韓国の民主・資本主義と北朝鮮の独裁・共産主義――の結果を明らかにすることであり、北朝鮮・金正恩は事実上韓国に対する「敗北」を認めることになる。
格別金王朝のプライドに拘る北朝鮮が、このことを容認して五輪に参加することになれば、それは余程の事態で、米国による軍事的圧力と国際的な制裁が効き始めた証左かもしれない。
○ 北朝鮮の思惑
北朝鮮は、以下のような思惑をもって会談に臨むものと思われる。
- 反米感情を醸成し、米韓分断を図る
北朝鮮の張雄国際オリンピック委員会(IOC)委員は6日、平昌冬季五輪への代表団派遣を巡り、出場枠を獲得しながら出場意思を示していなかったフィギュアスケートのペアで北朝鮮選手が「参加するだろう」との見通しを示した。
張氏は五輪について「民族の祭典だから、うまくいくべきだ」と期待を表明。北朝鮮が米韓の離反を狙っているとの見方については「北と南が仲良くなるのを嫌がる勢力もあるだろうが、民族内部の問題はわが民族同士で解決すべきだ」と述べた。
北朝鮮が会談に応じる主目的は、究極的には①米国の軍事攻撃に対する安全保障、②経済的実利の獲得、であろう。
北朝鮮は、その布石として、平昌五輪の場で、「同一民族・民族愛」をアピールすることにより、反米感情を醸成し、米韓分断を図ろうとするだろう。このためには、かねてから組織してきた韓国内の「親北朝鮮グループ」を動かし、「親北・反米」を演出することになろう。フィギュアスケートのペアが、競技で使用する音楽は、アリランなどの朝鮮民謡をアレンジしたものもしれない。
- 米国の軍事攻撃に対する安全保障
金正恩は、米国による奇襲的斬首作戦に怯えているはずだ。それを逃れるためには、フォールイーグルを含む全ての米韓合同演習の中止を求めるだろう。
それどころか、北朝鮮は、平昌五輪・パラリンピックの間の安全を確保するための米軍の展開――米国本土から、韓国や日本の米軍基地への空軍の前方展開及び空母機動部隊の派遣など――さえも強く反対するだろう。
- 経済的実利の獲得
北朝鮮は、米国主導の制裁により食料や石油製品の不足をきたし始めていることだろう。北朝鮮は、人道支援などを名目に、韓国に対して経済的実利を求めてくることだろう。米国が制裁を主導している中で、韓国としては北朝鮮の要求に応ずる選択肢は極めて限られるだろう。
- 経済制裁に対する耐久力をアピール
北朝鮮は、これまでにない世界規模の制裁を受けている最中である。北朝鮮は、「制裁なんかヘッチャラだよ。我々は金正恩体制の中で、何不自由なくやっている」、と強がって見せるほかないだろう。
○ 韓国の思惑
韓国としては、五輪の安全を確保するために、北朝鮮の五輪参加を何としても達成したいところだろう。また、この会談が契機となり南北対話・関係改善につながることを望んでいることだろう。
一方で、北朝鮮の要求――今後一切の米韓合同演習の中止や経済援助――は、米国が許容できないものが大部分であろう。それ故、韓国は米国と北朝鮮の狭間で窮することだろう。
韓国としては、水面下で、中国に仲介を意期待したいところであろうが、中朝関係が良好でない現状においては、左程のアシストは望めないだろう。
○ 米国の思惑
超大国の米国・トランプも北朝鮮が五輪参加の会談に応じたのを見て、「窮鳥懐に入れば猟師も殺さず」などという余裕などないはずだ。“四面楚歌”に苦しむトランプとしては、北朝鮮問題にうんざりしており、「一息つきたい」というのが本音かもしれない。
米国としては、五輪成功を米軍の力により支えたうえ、その後も、先送りした米韓合同演習を実施するなど、切れ目無く北朝鮮に圧力をかけ続けることを最優先に考えていることだろう。
米韓は、北朝鮮が求める通り、フォールイーグルは先送りするものの、五輪期間中はデブコンとウォッチコンを上げるなどして、万全の即応態勢を維持するはずだ。
○ 若干のコメント
まえ、21号で、朝鮮民族のことを「食言の民」と書いた。奇しくも今日、韓国政府は、慰安婦問題をめぐる日韓政府間合意への対応方針を発表する。これは、まさしく韓国政府の「食言」に違いない。
韓国も北朝鮮も約束を反故にするのは「得意中の得意」なのだ。板門店でいかなる合意が生まれようとも、世界は朝鮮民族が「食言の民」であることを忘れてはなるまい。
本日行われる南北会談はけだし「キツネとタヌキの化かしあい」の様相を呈することだろう。
筆者はもう一つ、平昌五輪に対する不安を持っている。トランプは、愛娘のイバンカを平昌五輪に派遣することを検討させている由。イバンカの夫クシュナーは、ユダヤ教徒であり、イバンカも改修したといわれる。
もしもイバンカが平昌五輪に参加することになれば、その父トランプがエルサレムを首都に認定したことと相まって、イスラム原理主義グループなどの反発が、オリンピックに向けられる可能性が高まるだろう。