トランプ米大統領アジア歴訪に関する感懐
(17.11.14)
感懐その1
トランプのアジア歴訪の成果を見るに、「米国を脅かす北朝鮮の核を無力化するためには『武力攻撃』さえも厭わないトランプ・アメリカ」と「国境を接するので、武力紛争は絶対避けたい中国」との溝は埋まらなかったもの、と認識しております。
また、北朝鮮どころではない不可避的な米中の熾烈な争い――「自由で開かれたインド太平洋戦略」VS「一路一帯戦略」――が本格化する兆しの方が気になります。
日本は、比率をどうするかは別として、「米中双方に保険を掛けなければならない地政学上の立ち位置」にあります。
今後、米中の覇権争いという(本)文脈の中で、北朝鮮問題(支文脈)についても水面下の駆け引きがあると思いますが、「戦争(①米が北を攻撃するシナリオ、or ②①が米中軍事対決に拡大するシナリオ)か平和」かは、依然予断を許さない状況が相当期間続くと思います。その期間は、先の米ソ冷戦が参考になると思います。米中冷戦の場合も、熱戦に至らなければ、いずれかが崩壊(たぶん中国が崩壊)するまで継続するでしょう。
感懐その2
我が国にとっての半島処理の戦略目標は、これまで「非核化」でしたが、北がアメリカに到達する核ミサイルを保有するに至っては、「『半島暴発(第二次朝鮮戦争)』により日本人の生命財産を損傷しないこと」に変わったと思います。
トランプは「アメリカファースト」で、「自国を脅かす北朝鮮の核ミサイルを除去することを“ファースト”と考え、日韓が北の核ミサイルの標的になることは厭わない」という考えを許容する可能性があると思われます。
日本としては、何としても「朝鮮半島で“火の手が上がる”ことだけは阻止しなければ、第三、第四・・・の被爆を覚悟」しなければなりません。邦人保護や、難民問題なども含め日本は憲法9条下で「泥棒をとらえて縄を綯う」状態です。
少し、極端な見方かもしれませんが、メフィスト(悪魔)中国が米国のサージカル・ストライク(外科手術的攻撃)に端を発する、朝鮮動乱――日本被爆の可能性――を阻止することが、わが国の国益にかなうことだと思います。最早、朝鮮半島の非核化という戦略目標追求は無理だと思います。従って、メフィストのような中国でさえも、日本人の生命財産を守るのであれば上手く使わない手はないと確信しています。
いずれにせよ、私が「中国の核ドミノ戦略」の論考で書いたように、北朝鮮の核ミサイル開発を阻止できなければ、日韓・アジアはいずれ米国の傘下を離脱して、中国の軍門に下らざるを得ないと思います。かつて、ソ連のSS-20中距離核ミサイル配備時に、欧州諸国がアメリカを疑ったのと同じ理屈です。
感懐その3
北朝鮮問題の本質は、米中の覇権争いです。北朝鮮問題はその「具」に過ぎません。(拙著「米中は朝鮮半島で激突する――日本はこの国難にどう対処すべきか」参照)
北朝鮮の問題は、米中冷戦前の米ソ冷戦と比較すれば面白いと思います。米ソは、ベルリンと朝鮮半島という火種を抱えて、対峙しました。米中冷戦では、「ベルリンと朝鮮半島」の代わりに、「朝鮮半島と南・東シナ海」という火種です。
最悪、米ソの核応酬に対して、米中冷戦では、中ソの核応酬です。それに加え、北の核ミサイルですが、脅威には違いありませんが、米国のミサイル迎撃態勢をもってすれば、致命的なものではありません。米国は、中国に対するカードとして活用しているのかもしれません。また、中国も然りでしょう。これらを深読みすれば、米国は「核を持った北朝鮮」を容認できないことはないと思います。ただ、米国が恐れるのは、北の核を利用して、中国が日韓を米国から奪い取ることだと思います。
日本としては、方便かも知れないが、中国が“二人の独裁者・狂人”を押さえ、半島で火の手が上がらないように八方手を尽くし、わが国に火の粉(核爆弾)が及ばないようにしてくれることを祈るばかりです。
北の核開発をこれまで放置してきた米国は、そのツケとして、日韓台を含むアジアを中国の「シマ(暴力団における縄張りを示す隠語)」に譲渡せざるを得ないのは、理論上当然です。安倍総理が、プーチンと習近平に接近してバランスを取ろうとしているのは、けだし賢明と言えるでしょう。
当面は、二つのシナリオ――①米国の北攻撃による半島動乱(規模は様々、日本は被爆の可能性)、②米ソ冷戦に似た20年程度の米中冷戦(きわどい局面もあろうが戦火起こらず)が考えられます。厄介な事態になったものです。
ご参考までにハーバード時代に書いた「中国の核ドミノ戦略」(2006年12月執筆)を添付します。現下の情勢は、この論考通りに推移していると思います。