情報参謀,地政学そしてインテリジェンス Information Staff, Geopolitical and Intelligence
はじめに
第二次大戦は無謀との言える情報軽視の戦いであったように考える。戦後,アメリカ軍により,暗号解読能力が高く評価されたとの事実もあるようであるが,アメリカ軍は日本軍の情報収集能力に長けていたと言っても過言ではない。我が国は,戦前より情報参謀を軽視してきた結果,「希望的観測にもとづいた判断性」とも言える楽観的な戦略に終始してきたことが,現代の企業・組織にも浸透してしまったような感じさえ受ける。
米国で生まれ育ってきたインテリジェンスに係る研究と実践が,欧米を中心にスパイ活動との関係があるのではとの批判を受けてから半世紀以上になるであろう。特に,米国企業では,今では「インテリジェンスとマーケティング」という2つの領域を組み合わせた部署が一般的になってきているとも言えるのではないかと思われる。米国で毎年開催されるSCIP(Strategic Competitive Intelligence Professionals)総会に出席した際に,多くの米国の企業人と名刺交換をすると,彼らの名刺の多くは「Intelligence & Marketing」と記されていることからも理解できる。もちろん出席者名簿を概観しても「Marketing」とだけ記載された者は数少ないことが分かる。他には,「Strategic」と「Intelligence」とを組み合わせた名刺も目に付くが,数は少ないであろう。世界最大規模で開催されるSCIP総会の参加者の名刺から伺い知ることは,インテリジェンスは手段的であり目的としての独自性を有する専門領域としての基盤は弱いものと考える。しかし,マーケティングとインエリジェンスとは大きく異なる利活用の場としての違いがある。マーケティングは製品・技術が市場の出てからの動向あるいは市場性を知りたいとするのに対して,インテリジェンスは製品・技術が市場に出る前にその優位性あるいはライバル企業との競争などを事前に知りたいとの「リスクの早期感知と対応」が重視されている。
参謀に求められる能力として,松平[1]は,第一に「人間力」,第二に「企画発想力」,第三には「状況認識力」そして第四に「組織活用力」を挙げている。参謀は,国家は勿論,あらゆる組織にとり極めて重要なポジションであることは言うまでもない。
ヨーロッパにおいては,特にナポレオンの時代より明らかに情報参謀が重視され,その地位も極めて高いものであった。我が国は幕末の頃には情報参謀とも言える者がフランス式の教育を受けていたようであるが,明治政府になってからはドイツ式の軍組織を編成したために,むしろ情報軽視の風潮が根付いたようである。第二次大戦において,ドイツ軍が情報軽視であったとされることからも理解できる。
本稿では,情報参謀,地政学そしてインテリジェンスとの係りを俯瞰することで,インテリジェンスがどのような状況で利活用されるべきかについて論述するものである・・・・