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「訳あり米国知日派」の近未来日本論

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米国専門家の2050年日本復活シナリオが面白い、人口減少に強い危機感

 近未来の日本はどうなるか、といった予測のレポートや小説に遭遇すると、4、5年先でも大きく変動することが多いうえに先がなかなか読めない現代世界で、よく大胆に推論を踏まえた見通しを書けるものだな、と思うことが多い。

ところが今回取り上げてみたい、と思ったクライド・プレストウイッツ氏の著書「近未来シミュレーション 2050日本復活」(東洋経済新報社刊)はこれまでの近未来ものとはちょっと違う。日本の再生や復活に関して何がポイントか、意外に問題の所在をよくつかんでいて、ヒントになる問題提起もあり参考になること、しかも筆者自身が日本を戦略的に見る「訳ありの米国人知日派」という興味深い点があることだ。

 

かつての「日本たたき」の「訳あり米国知日派」がなぜ今、日本復活論なのかに興味

「訳ありの米国人知日派」というのは、著者のプレストウイッツ氏が、かつて米レーガン政権時代に対日貿易赤字是正のため、日本に市場開放を求める米側のタフな交渉官として有名で、米ワシントンポスト紙記者が当時「ジャパン・バッシャー」(日本たたき)と命名するほど厳しい対日市場開放要求を行い、日本側を震え上がらせた過去があるからだ。

日本での生活経験を踏まえ、貿易交渉を有利に導くため日本研究を徹底して行った、という意味での知日派で、親日派とは一線を画すが、米国中心に世の中が動くべきだとの思い込みの発想の米国至上主義者ではない。しかも別の著書「東西逆転」(日本放送協会刊)では米国の慢心にブレーキをかけ、今後、経済成長を背景に台頭する中国、インド、ブラジルなどBRICS諸国に対してしっかりとした戦略軸を持たないと、米国が新興経済地域でリーダーシップを失う、と鋭い指摘を行っている。

しかし、私が興味を持ったのは過去の対日貿易交渉にあたって日本の強み、弱みの徹底研究を行い、交渉を有利に導くためとはいえ、日本を追い詰めるかのように弱み部分にグサッと攻め込んだ人物が、なぜ今、日本復活シナリオを書こうとしたのか、という点だ。

 

日本の近未来を予測「イノベーション力でロボットや無人自動車、交通事故はゼロ」

まず、プレストウイッツ氏がどんな2050年時点の日本を描いたか紹介しよう。冒頭の「2050年東京」部分がなかなか面白い。米国から東京へ35年ぶりに出張した人が東京羽田空港に全日空機で降り立つところから話が始まる。

搭乗したミツビシ808型超音速ジェット機は1970年代に英仏共同開発のコンコルドとは比べものにならない機材で、巡航速度が2倍、航続距離も3倍近い、カーボンファイバーや最先端電子機器を搭載している。開発した三菱重工は2020年に、事故などで倒産した米ボーイング社を買収した、との設定で、スーパー飛行機の製造と輸出を世界で独占し、日本の貿易収支を大幅黒字にさせる貢献度だ、という。現在、三菱重工子会社の国産初のジェット旅客機MRJの立ち上がりが遅れ、苦戦しているのとは対照的だ。

2050年日本の話はさらに続く。「羽田空港に降り立つと、入国審査も通関手続きもない。パスポートは(何と)機上でスキャンされ、フライト中に、そのデータが審査されている。(到着後)彼の荷物を積んだロボットが出迎えてくれる。ロボットに案内され、予約しておいた鉄道かインテリジェント自動車の発着ターミナルへと向かう」

「ここで目にするのが、本当の先進日本だ。都心だけでなくどこへ行くにも、運転手がハンドルを握るリムジンバスやタクシーはいない。ロボットが操縦する高速鉄道や無人自動車を利用する。もはや、日本では誰も運転などしない。道路も建物も乗り物も、すべてがスマート化されている。こうしたイノベーションのおかげで、日本では交通事故がほぼなくなり、当然ながら交通事故による死傷者もいなくなった」と。

何ともすごい日本の近未来を想定している。しかも日本には技術革新力があるため、2050年時点の姿を描くと、こんなシミュレーションが可能とし、今後の社会システムづくりに関して、日本は世界の先進モデルを作り出せる国になり得る、と評価している。

 

「失われた20年」経て活力失った日本の行く末が心配で、2017年危機を主張

しかしプレストウイッツ氏の本当の問題意識は別にある。日本は、バブル崩壊後のデフレの長いトンネル「失われた20年」を経て、以前の政官財一体の日本株式会社主導で目標に向かって動いたアクティブな姿が2015年から2017年にかけて消えている。「仕方ない」という諦めムードが政治、経済リーダーのみならず社会に漂い、活力に欠ける日本に変貌、今後の行く末が心配、というのだ。そして、先延ばしで来たさまざまな課題解決に取り組み、構造改革を進めないと、2017年に一気に問題噴出するという設定だ。

シミュレーションによると、2016年半ばに安倍首相が掲げた経済政策「アベノミクス」の限界が見え、日本経済の復活困難がはっきりするという。興味深いのは、日本が国際通貨基金(IMF)借り入れに頼らざるを得ず、事実上のIMF管理下に入るという点だ。膨らみ続ける国債にリスクが急浮上し、国債暴落の恐怖から年金信託や投資信託が日本国債はじめ円建て資産売却に走るが、政府や日銀は資金流出を食い止める利上げに消極的で、資産逃避に拍車がかかりIMF借り入れに走る、というのだ。この推論はやや乱暴だが、異常金融緩和で日銀が国債を買い上げ過ぎ出口が見えないだけに現実味を帯びる。

 

「特命日本再生委員会」で数多く改革策、女性活かし移民に門戸開放など主張

そればかりでない。ソニーの経営が内向き志向になってヒット商品を出せず、追い上げる韓国サムソン電子の揺さぶりでやむなく2017年に事実上の吸収合併を余儀なくされる、という話もある。プレストウイッツ氏は、これら最悪の事態に陥りかねない日本に歯止めをかけるためには、日本のさまざまな分野の専門家からなる「特命日本再生委員会」という委員会の組織化が必要とし、そして自身で日本復活シナリオづくりに入っていく。

日本研究を続けた知日派米国人がこの委員会を通じて、まず手掛けるべきだと打ち出したのは人口減少策だ。2050年までに人口が8800万人まで落ち込む日本政府予測の先には何も手を打たなければ絶滅する可能性があり、日本社会は全く機能しなくなるという。委員会は、働き手であり同時に母親の女性の就業率を大胆に高めることを最重要策にあげ、女性を活かすさまざまな対策を提案する。ポイント指摘が多く参考になる。それでも人口減少に歯止めがかからず、タブーの移民受け入れに踏み込む決断が必要、という。

 

生産性の大幅引き上げで新・日本経営モデル、高齢社会システムづくりも提案

また、委員会は日本経済復活のために新・日本的経営モデルを打ち出した。生産性を大幅に引き上げることが軸になっていて、たとえば高度先端技術や製品開発力で世界のリーダー的な力を持つ中堅・中小企業をドイツの同種の「ミッテルシュタンド」企業向け対策に合わせて、世界市場進出や起業支援のために政策金融を充実強化する策、また税制改革に関しても法人税率をシンガポール並みの15%、消費税率を6%に逆引き下げる代わりに累進税率を所得に応じて高くする個人所得税の導入なども打ち出した。スペースの関係で、多くは紹介できないのは残念だが、日本の強み・弱みを知る知日派の問題提起はそれなりに参考になる。ぜひ、読まれたらいい。

そんな矢先、プレストウイッツ氏が日本記者クラブで講演するというので積極参加した。質問は1問と制限されたので、私は、日本が人口の減少と同時に高齢化にいや応なしに向き合わなくてはならない問題にしぼった。「日本には世界で未踏の高齢社会システムづくりにチャレンジできるチャンスがある。そこで、新たな制度設計を作り上げて、中国など後発の人口高齢予備軍を抱える国々に問題提起すれば、存在感をアピールできると思うが、どう考えるか」と聞いた。プレストウイッツ氏は、「同感だ。日本は、人口の高齢化という弱み部分を強みに変えて、先進事例として、各国に示して行けばいい」と答えた。

 

本音は米国にとって同盟国日本の弱体化がリスク、米国の力低下で支え切れず?

さてここで、「訳ありの米国人知日派」が「なぜ今、日本復活シナリオを書こうとしたのか」という冒頭の疑問について申し上げよう。私は、経済的に低迷を続け、しかも人口減少など構造的な課題の解決を忌避して弱体化する日本の存在は、同盟関係にある米国にとってリスクとの判断が出てきた。そこで今回、復活シナリオを提案して日本を補強し、過度の米国頼み、米国の足を引っ張らないようにすることを狙った、と。

そのヒントが本の中にいくつかあった。たとえば、プレストウイッツ氏はパックス・アメリカーナ(米国の力で成り立つ平和)が弱まってきた問題を述べ、その際「米国が直面したのはコストの問題だ。通常、覇権を握る国は、自分の庇護下にある国の安全を保障する代わりに(その国に)負担を求めるものだ。しかし、米国の場合、安全を提供するという『特権』に自分で代価を支払っていた。直接的には同盟国を守るために米軍を投入したこと、間接的には莫大な貿易赤字という形での負担がそれだ」と述べている。

また、「日本は、1945年以来続いてきた米国による安全保障の傘が今後、小さくなる状況と向き合わねばならない。それが、日本の抱える最大の課題だと理解することが重要だ」と述べている。そして「長年にわたり、日本は米国主導による安全保障同盟の庇護の下で安穏としていることに慣れてしまい、そうした状況が変わることなど、想像もできない。しかし(これからは)間違いなく変わる」とも述べている。この言い方は、トランプ氏の大統領予備選時の同盟国に全額負担を求める発言につながる。

 

日本は独自シナリオで世界が未踏の高齢社会対応の社会システムづくりめざせ

プレストウイッツ氏は、弱体化する日本に危機感を持ち、2050年日本復活シナリオを提示したかったのは間違いない事実。しかし、米国自身の経済力低下に対する危機意識も事実で、日本の弱体化で負担増を余儀なくされリスクが高まる、と懸念したのだろう。

複数の友人の専門家によると、米国の一部には、日本が「イスラエル化」、端的には米国の歯止めやコントロールが効かない現状のイスラエルと同じ動きが今後、日本に現実化することを懸念する見方がある一方で、強大国化をめざす中国が太平洋やユーラシア大陸への政治的、軍事的、経済的な進出のうち、太平洋やASEAN(東南アジア諸国連合)への進出に日本が歯止めをかける役割への期待感がある、という。

そうした背景を想定しながら、プレストウイッツ氏の本を重ね合わせると中国がアジアで地域覇権を求めて攻勢をかけてきたりした場合、米国が単独で中国に相対峙するのは難しい。その時こそ、同盟国日本にサポートを求める必要がある。その意味で日本をアジアでニラミをきかす強い存在にしておくことが重要、と判断し始めたと言えないだろうか。

しかし、ここで私は申し上げたい。米国の専門家らの対日観を別にして、日本は今後、独自のシナリオで日本の存在感をアピールする政策展開を進めるべきだ。プレストウイッツ氏の講演での質問で私が問題提起したように、日本は、世界が未踏の高齢社会に突入し始めており、この際、それに対応する社会システムづくりをめざせと言いたい。制度設計に磨きをかけることで、日本の強みを作り出せばいいのだ。

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