東芝粉飾決算とコーポレートガバナンス
門多 丈 2016-03-25
東芝は指名委員会等設置会社で積極的に社外取締役を置きながらこのような企業不正を防げなかったとの批判がある。社外取締役の責任は「不正を発見する」ことではなく、「不正を発生させない」仕組を作ることにあると思う。東芝の企業不正の第一の問題は、監査委員会の委員長に粉飾操作の中心にいた元CFOが就いていたことにある。会計監査人である新日本有限責任監査法人がプロフェッショナルとして然るべき監査を行い、不正を発見したりその兆候を感じた時には監査委員(取締役)に通告するべきであった。監査計画についてリスク・アプローチの観点から工事進捗基準や赤字受注のビジネスの状況について重点的に会計監査すべきことについて、会計監査人と監査委員が方針を打ち合せるべきでもあった。同様に監査委員と内部監査部門の緊密にな提携も重要であり、いわゆる三様監査(会計監査、監査員監査、内部監査)での連携によるコーポレートガバナンスが機能していなかったと言える。
東芝の内情に詳しい人によると取締役会では投資やM&Aについての審議はしたが、不採算部門・事業の見直しなどの議論は持ち出されなかったという。連結ベースでの事業の収益性や事業の統廃合の課題、今回のような工事進捗基準の対象になる巨額な取引、赤字受注のようなイレギュラー取引についてもしっかり討議する場を取締役会で設けることが将来のための教訓となる。
東芝の経営主導の粉飾事件は、日本の大企業病の象徴と言うべきである。心ある中堅企業の経営などが環境の激変の中で「どう生き残り、競争力のあるビジネスモデルを構築するか、イノベーションをどう行っていくか,顧客との密接な関係を構築し、どのような満足を得るべきか」などで頭を悩ませ奮闘している」のに対し、大企業の中で惰性に流されぬるま湯(牛島辰夫慶応義塾大学教授のおっしゃる「企業社会主義」)に浸っていたと言うことではないか。社外取締役も含めた取締役会がしっかり経営執行を監督するというコーポレートガバナンスの重要性が明確になった事件である。
(一般社団法人 実践コーポレートガバナンス研究会より転載)
The Author
門多 丈
株式会社カドタ・アンド・カンパニー 代表取締役社長
一般社団法人 実践コーポレートガバナンス研究会 代表理事
1971年、東京大学法学部卒業後、三菱商事に入社。財務部等を経て、1981年スタンフォード大学でMBA取得。三菱商事の英国金融子会社社長に就任。帰国後、三菱商事 企業投資部部長、三菱商事証券社長、三菱商事 理事・金融事業本部長を歴任。その他、東京工業大学大学院特任教授(元)、米Pacific Pension Institute アドヴァイザリー・カウンシル・メンバー(現)、一般社団法人 実践コーポレートガバナンス研究会 代表理事(現)を務める。
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