ポスト核時代のレーザー兵器の現状と展望 ―高出力レーザーの新技術とその戦略的影響―
エネルギーをミサイル弾頭などの一点に集中して破壊するための兵器は、総称して指向性エネルギー兵器と呼ばれている。レーザー以外に電磁パルス、レールガンなどを利用した兵器が研究開発され、一部は実用化されている。
高出力レーザーは工業用では溶接、切断、低出力のものは通信などに使われている。軍用の場合は大気中の減衰を抑えて遠距離まで高エネルギーを届けなければならない。現在は100kW級が試験中で、数km以内の無人機、小型のボートなどを無力化できる段階に達している。
電磁パルス兵器は現在のレーダの出力を倍加し、かつそのエネルギーを電子的に走査して突入してくる弾道ミサイルの弾頭部に集中することにより、その内部の電子部品等の性能を破壊し機能マヒさせるというものである。電子的なレーダ・ビームの走査はフェイズド・アレイ・レーダと同じ原理であり、この点では日本は先進的な技術力を持っている。
レールガンは、リニアモーターカーと同じ原理で、電磁誘導により砲弾を加速し、従来の数倍以上のエネルギーで打ち出し、直接敵のミサイル弾頭に命中させ破壊する兵器である。米軍ではすでに従来の戦車砲の3倍程度のエネルギーを持つレールガンが開発され、近距離防御用の兵器として艦艇に搭載し試験されている。
これらの指向性エネルギー兵器が実用化されれば、飛来する弾道ミサイルのほぼ完全な空中撃破が可能になると予想される。現在のMD(ミサイル防衛システム)では、迎撃ミサイルにより、超高速で飛来する弾道ミサイルを直撃して撃破するため、目標の未来の位置を算定し、その方向にミサイルを誘導しなければならない。しかも核弾頭を確実に破壊するためには、弾頭部に直接命中させる必要がある。
そのためには、内蔵するコンビューターも誘導装置もより高度になり、ミサイルもより大型化せざるを得なくなる。その結果、単価も上がり予算の制約から保有数は少なくなり、大型化するため艦艇等への搭載数も限定されることになる。そのため、多数のICBM(大陸間弾道ミサイル)の撃墜能力には、限界が生じてくる。
指向性エネルギー兵器により、大気圏内に突入した弾道ミサイルの核弾頭を数百kmの距離から照射し、そのエネルギーで破壊できるようになれば、最も速い秒速7km程度のICBMの弾頭でもほぼ確実に着弾、起爆以前に破壊することが可能になる。
地上のレーダに発見されにくいように地表面すれすれを飛ぶ巡航ミサイルについても、上空からの監視により発見され照射を受ければ、確実に破壊されることになる。このことは、弾道ミサイルも巡航ミサイルも、核はじめ各種の弾頭の運搬手段として無力化されることを意味している。航空機、無人機の撃墜も同様に容易になり、防御側が有利になる。
指向性エネルギー兵器により、100%に近いミサイル撃墜能力が可能になれば、その及ぼす影響は、革命的なものとなるであろう。
第一に核抑止機能に重大な影響を与える。各種の核ミサイルがほぼ100%撃墜可能になれば、現在は核大国だけが持っている「防ぎようのない核攻撃の破壊力への恐怖により相手国の我が方にとり好ましくない行動を思いとどまらせる」という、核兵器による抑止機能は大きく低下することになる。
ただし、都市攻撃などによる大規模な耐え難い損害を与える能力は核戦力以外にはなく、大量集中攻撃に対し指向性エネルギー兵器が飽和状態になるおそれもないとは言えない。また、ミサイルに防御機能を持たせることも不可能ではない。そのため、指向性エネルギー兵器が配備されるようになっても、核抑止が完全に無効になるとは言えない。
作戦戦略にも革命的影響を与える。中国が追求しているとみられている、沿岸から4~5千キロ以内の洋上を狙える各種のミサイルを何段にも配置し、米空母などの接近を遅くらせあるいは阻止しようとする「接近阻止・領域拒否戦略」もその威力を失うことになる。日本など東アジアの米同盟国は、自立的に中国の核脅威に対し対処できる能力を持てる可能性が出てくる。
国際政治構造も大きく変化する。核大国の核兵器を背景とする圧倒的な軍事的優位は、大きく削がれることになる。核を保有する5大国が常任理事国を務める国連の安全保障理事会の体制も、核保有国をこれら5カ国に固定した現在の核不拡散条約の体制も、抜本的な変革を迫られることになるであろう。
また、大国の圧倒的な抑止力が機能しにくくなり、かつ防御側がより強力になることから、全般的に戦争が起こりやすくなり、かつ長期化するかもしれない。核時代には抑止されてきた大国間の直接の紛争や戦争も起こるようになるであろう。逆に、核を持たない国でも、指向性エネルギー兵器や無人兵器を開発し運用できる高度の技術的水準とそれを駆使できる兵員をもつ国は、軍事的にもかなり優位に立てるようになる。
指向性エネルギー兵器についての現在の技術予測では、弾道ミサイル撃墜が可能な指向性エネルギー兵器が実戦配備されるのは、電磁パルス兵器で5~10年、レールガンで10年程度先になるとみられている。
高出力レーザー兵器については、大気中の減衰が避けられず、近距離迎撃用に限定され、音速の20倍程度の速度になる大陸間弾道ミサイルの迎撃には電磁パルスとレールガンが有望とみられている。
日本が指向性エネルギー兵器の開発配備に成功すれば、核ミサイル保有国の核脅威、核恫喝に対し、独力で効果的に対処し排除できる可能性が高まる。その結果日本は、米国の核の傘に依存する度合いが減り、自主独立の国家として行動する余地が大きくなる。
ただし、それでも核兵器は、例え1発であっても数十万人以上の損害を与えることができ、ミサイル以外にもテロリスト、特殊部隊、偽装した民間機や民船など密かに敵国内に持ち込む方法はある。ひとたび持ち込まれた場合の核の破壊力に対する恐怖はなくならず、その意味で核兵器は依然として決定的な抑止力であり続けるであろう。
指向性エネルギー兵器の発達は、日本のような島国には、二重の意味で有利に作用する。まず、防御ゾーンとして広大な海域を利用でき、直接国土に達するかなり前方からミサイル等を迎撃できる。そのため、奇襲を受ける恐れが減少し、国土戦の不利が緩和される。
また、海の障壁により、特殊部隊やテロリストによる核などの持込に対し、水際で防ぐことが、地続きの国境を持つ国よりも容易である。ただし、そのためには国境管理、離島も含めた周辺海域、領域に対する警備能力を高めなければならない。
これらの利点を生かすために、指向性エネルギーを配備した洋上メガフロートのネットワークを領海内に建設することも検討すべきだろう。
指向性エネルギー兵器による防衛システムと一体となった国土を覆う警戒監視システムとして、レーザー通信網でネットワーク化した、成層圏から宇宙空間に至る無人機と静止衛星からなるシステムを展開することも必要であろう。
このような情報・警戒監視・偵察(ISR)システムと指向性エネルギー兵器の防衛システムを連動させることによって、初めて効果的な国土防衛が可能になる。また、ISRシステムとしては、そのほかに、海上の脅威、海中からの浸透に備えるため無人と有人の潜水艦システムの展開、及び宇宙空間での警戒監視システムの展開も必要である。
また、大半の先進国では国が責任をもって国民に避難用の核シェルターを整備しているが、日本では、唯一の被爆国と言いながら全く整備されていない。日本でも、核攻撃や核恫喝を受けた場合に国民を守ることができ、隣国の原発事故などにより放射能汚染が流れてきた場合にも3日程度は安全に避難できる核シェルターの整備が必要である。
参考: インタビュー記事(2017年11月1日)