規制改革会議での意見陳述 2013年10月9日
●意見の主体
私は2013年10月9日、規制改革会議で意見を陳述する機会を得た。病床規制、既存医学部の劣化とメディカル・スクールの必要性について個人的意見を述 べた。意見陳述に先立って、委員の一人より、個人的意見ではなく、亀田総合病院としての意見を述べるよう注文をつけられて戸惑った。私は亀田総合病院を代 表する立場にはない。それにもかかわらず、事務局が名指しで私に陳述を求めた。私は、虎の門病院在職中より、医療倫理や医療政策について多くの文章を発表 してきた。病院を代表しての意見ではなく、医師としての個人的意見である。医療事故調問題では、当時の虎の門病院院長が設立に動いていたのに対し、私は反 対意見をいくつか発表した。
病院としての意見を述べるよう要求した委員は学者である。学問の担い手は基本的に個人である。自分の専門領域について、同様の要求をされると困るのではないかと想像する。
学者以上に、医師の活動は個人で責任を負うべきものとされる。第二次大戦中、国家の命令に従った医師が大量殺人に関与したことに対する反省から、戦後、医師の活動は、命令ではなく、個人の良心と知識に基づくとする考えが繰り返し世界医師会で確認されてきた。
病院では、業務を遂行するために、担当者が自らの責任において、合理的理由に基づきさまざまな決定を下す。経営者・管理者が、正当な理由なしに、この決定 を覆すと大問題になる可能性がある。そもそも、国の政策について個々の病院で意見を統一する必然性がない。多様性が保障されるべきことについて、病院が、 無理に考え方を統一しようとすると問題になりかねない。
規制改革会議は国民のためにある。私は、病院の利害とは無関係に、一医師として、日本の医療をよくするために、個人的意見を述べた。
規制改革会議の性質上、問題のある具体的事例に触れざるを得ない。中味のある議論をするとなれば、当然、非難を含む表現が使われる。事務局からは、意見の網掛け部分の表現について、以下の連絡があった。
「特定の組織・団体に対する誹謗中傷につながりかねない表現は、大臣が参加される政府の公式な会議体の資料として慎重な対応が必要と考えております。事務局にて該当の箇所を網掛けで表示しておりますが、表現の取り扱いなどについて御相談させていただければと存じます。」
固有名詞を挙げて非難してはいけないとの取り決めがあるとのことだった。
表現については、一義的に筆者がその責任を負うべきであって、事務局には何ら責任はない。行政は、憲法上の制約があり、公的な場での私人の発言に対し、表 現の変更を強いることはできない。相談を受け入れること自体、後日、事務局に迷惑がかかりかねない。相談せずに、補足説明を加えることで、筆者の責任にお いて対応すべきだと判断した。
表現が明らかに不適切だとすれば、事務局には配布したことについて責任が生じる。しかし、不適切であるとの判断自体が不適切だと指摘されるかもしれない。判断そのもので、会議の本気度が問われる。
事務局には、事務局の責任で、筆者の関与しない責任回避の方法を採ることを求めた。
事務局が、事務局発表資料中の固有名詞を隠すなどの対応をとることに対し、私が抗議することはない。事務局は、規制改革会議外での言論活動については、関 知しないとのことだった。提出資料の多くは、既に私が個人として発表している。私は、個人の言論活動として、陳述した意見と提出した資料を公開する。
事務局には適切な対応をしていただいたことに感謝するのみである。
【陳述意見】医療計画制度、ならびに、メディカル・スクールについて
(以下、病床規制については、議論の対象を一般病床に限定する。)
○認識
1.医療計画制度による病床規制(資料2、3、4)は1985年に導入された。二次医療圏ごとに算出した基準病床数を基に、許可病床を病院に配分。許可病 床数を超えた増床を禁止した。医療費抑制が目的だった。「医療供給過剰な地域を含めて全国に病床規制をかけておけば、医療の供給が不足している地域の状況 が間接的にせよ改善される」という建前だった。しかし、既存病床数を尊重する現状追認型の制度として設計された。すなわち、基準病床数の計算の基礎となる 平均在院日数、年齢階級別退院率について、地域ブロックごとに異なる係数を用いた(資料5)。このため、既存病床数が多かった地域、すなわち、新設医大創 設以前の医学部が多かった西日本では、東日本に比べて、基準病床数が多く算出された。この分布は看護師、リハビリ専門職などの医療人材の養成数の分布とも 重なっていた。このため、病床数の地域差だけでなく、医療人材養成数の地域差も継承された。中国、四国、九州の各県は、関東基準で見れば、埼玉、千葉の2 倍近い一般病床を有している(資料6)。人口当たりの看護師数やリハビリ職員数も、九州、四国は、埼玉県、千葉県よりはるかに多い。
ところが埼玉県、千葉県、茨城県など医療人材が少なく、養成数が少ない地域で、団塊世代の高齢化と共に、高齢者が急増し、医療・介護需要が急増しつつあ る。医療格差がさらに拡大しつつある。日本の少子化は、都市では高齢者の急増、地方では高齢者を含めた人口の急減が問題となっている。当然、地域ごとに問 題への対応は異なる。医療計画制度は時代から乖離している。
2.病床規制は、新規参入を不合理に抑制している。許可病床が既得権益化し、使っていなくても手放さない非稼働病床になって、他の医療機関による有効活用の妨げとなっている。医療提供体制を固定化し、病院の集約化、近代化を阻害している。
現代の基幹病院は高価な装備と多様な専門家を必要とする。基幹病院の予算規模は小さな地方都市をはるかにしのぐ。これを支えるのに、最低50万人、望まし くは100万人の人口が必要である。しかし、日本の二次医療圏は小さい。日本の心臓外科医や脳外科医一人当たりの手術件数が少ないのも、二次医療圏が影響 している。
3.医療計画制度が、西高東低と言われる医療サービスの地域格差、医療費の地域差の一因となっている。市町村国保、後期高齢者医療制度に投入されている国 費と被用者保険の保険者からの拠出金は、本来平等でなければならないはずだが、大きな地域差がある(資料7)。千葉県の医療費が全国平均と同じだとすれ ば、千葉県には国費と拠出金が毎年720億円今より多く投入される。福岡県と同じだとすれば、毎年1890億円今より多く投入される。
地域ごとに高医療費特性、低医療費特性が観察されるという論文(文献1)はあるが、日本の医療費の地域差が疾病構造の地域差に起因するという論文を知らな い。少なくとも、厚労省は医療費の地域差を合理的に説明する努力をしていない。厚労省は国民を不平等に扱い、それを漫然と継続していると非難されても仕方 がない。
4.医療サービス不足の地域では、看護師不足(資料8-1、8-2)、医師不足が顕著である。このため、千葉県、埼玉県、茨城県などでは、診療科の閉鎖、 病床の縮小など医療提供体制の崩壊が目立っている(資料2、9)。医療サービス不足地域では、多くの許可病床が稼働していない。
銚子市立総合病院393床は2008年9月30日、運営を休止した。2012年3月精神科病床の一部43床が返還されたが、現在も350床(一般200、 療養23、精神107、結核20)の許可病床を保持している。2013年9月1日現在の稼働病床数は一般105、療養23の128床にすぎない。
平成24年8月1日現在、千葉県では許可病床のうち、一般病床2189床(6.4%)、療養傷病122床(1.3%)、精神病床514床(4.0%)が稼 働していない。病院は稼働していない許可病床の返還を求められることを恐れる。私は千葉県の太平洋沿岸では、30%程度の許可病床が稼働していないと想像 している。
問題は、病床数が少ないことではなく、医療人材が不足していることと、集約されていないことである。十分な医療人材が集約されれば、平均在院日数を短くでき、現在より少ない病床数でも十分な急性期医療を提供できる。
5.千葉県は2012年3月と10月に3800床の病床を配分した。結果として看護師争奪合戦が生じた(資料4、8-1、8-2)。病床配分に対し、稼働 可能な病床を作れるかどうかに関わらず、手あげするのが合理的行動である。ところが、手あげした病院の多くは看護師を養成していない。千葉県では、どうに か病床を稼働させてきた病院の経営が脅かされる状況になった。
6.本格的な急性期医療を提供していない病院が7:1看護基準で病床を運営し、看護師不足を助長している。しかも、多額の収入を得ている。
7.2013年9月29日、日本長期急性期病床研究会第1回研究会の席上、原徳壽医政局長は筆者の「医療格差をどう考えるのか、病床規制を今後も続けるの か」との質問に対し、「医療の地域格差は医療計画制度とは関係ない。医療格差については、都道府県に責任がある」と答えた。
8.バルサルタン事件によって、日本の医学は世界の信頼を失った。日本国内と異なり、沈黙して時間が過ぎるのを待っても、合理的な対策が講じられない限り 信頼を回復できない。この事件で、日本の医学部の劣化が広範囲に及んでいること、日本の学会に自浄能力が期待できないことが明らかになりつつある。医学部 の指導者の集団である全国医学部長病院長会議は、利益団体としてふるまい、競争相手の登場を排除しようとしてきた(注1)。日本医師会が、開業医の経済的 利益を最終目標として活動しているのと似ている。(注2)
個々の医学部とその医局は、さまざまな問題を引き起こしている。2013年4月23日の茨城新聞によると、鹿嶋労災病院では、「関連大学からの医師派遣が 見込めなくなり、3月末までに22人いた常勤医のうち外科5人、整形外科5人、神経内科3人、内科1人の計14人が退職。その多くが派遣元の千葉大医局へ 戻った。新たな医師確保は難航し、4月から眼科と皮膚科の2人を新たに加えた常勤医10人体制で診療を続けている」。
責任は個々の医師にある。医師が個人として人格的に自立し、医局の排他性を客観的に評価する視点を持っていれば、たとえ大物OBの指示があったとしても、一斉退職で社会に迷惑をかけることはない。
東北大学は、シビック・フォースと気仙沼市の協定による民間の緊急搬送用ヘリ事業に対し、三陸の被災地からの患者受け入れに当初前向きな姿勢を示してい た。しかし、8カ月間の交渉の後、最終的に、村井宮城県知事からの要請に対し、下瀬川徹院長名で、「特定機能病院として当院が果たすべき責務や国立大学附 属病院として本院が進むべき将来像に沿わない」との理由で、被災地からのヘリ搬送の受け入れを断った(資料10)。送り出し側で、当初からの計画の中心メ ンバーだった気仙沼市立病院も協力に躊躇しはじめた。東北大学から医師の派遣を受けていることが影響していると想像される。
2013年10月21日ごろ、正式運航開始が予定されている。気仙沼市立病院が優柔不断な態度を続けたため、送り出し側は、はるかに小規模の気仙沼市立元 吉病院でスタートすることになった。石巻赤十字病院が受け入れ病院になったが、近い将来、岩手医大が参加することになっている。
東北大学病院長の最終的な回答からみれば、当初より参加する意思があったかどうか疑わしい。さまざまな手続きを要求して交渉を引き延ばしたことには、それなりの意図があったかもしれない。悪意がなかったとしても、誠実とは言い難い。(注3)
東日本大震災に関連して、被災地の大学病院には、さまざまな問題があった(資料11、12、13)。資料12の福島県立医大の問題(注4)については、被 災者と無関係の復興計画が立案されているので止めて欲しいと、筆者に内部から情報がもたらされた。福島県立医大は福島県の支配下にあり、個々の医師が個別 意見を表明できる状況にない。学問の成立条件を欠く。(注4)福島県立医大の不特定多数の医師向けに、あるいは、個別に、改革に立ち上がるよう呼び掛けた が、反応は一切なかった。
亀田総合病院は東日本大震災で、DMATの派遣に続き、透析患者600名の搬送作戦を立案・支援した。透析患者61名の受け入れ、老健疎開作戦の立案と、 利用者120名と職員50名の受け入れ、磐城共立病院からの人工呼吸器装着患者8名の受け入れ、知的障害者施設の利用者300名と職員100名の受け入れ を行った。受け入れ活動は鴨川市と市民総力を挙げてのものになった。加えて、個別職員がそれぞれの意思に基づき、さまざまな支援活動を行った(石巻ロー ラー作戦など)。南相馬市立総合病院では、亀田総合病院から出向した若手医師が、様々な障害を乗り越えて仮設住宅での診療を定着させた。出向したリハビリ 職員もリハビリ業務を一変させた。この間に南相馬市立総合病院は、臨床研修病院の指定を受け、常勤医師数は震災前の2倍になった。病院管理者の一人から は、大学の呪縛が解かれ、さまざまな活動ができるようになり、楽しくなったと感謝された。
筆者の勤務する亀田総合病院の活動について触れたのは、日本には、志が高く元気のよい医療人材がいることを示すためである
医学部の機能不全は、不祥事を起こした医師、あるいは、指導層だけが原因ではない。日本の大学でリベラル・アーツが軽視されてきたため、若い医師の中に、 世界を俯瞰する知識と立場を持てるリーダーが出現しなくなった。若い医師が、狭い世界の因習をすべてだと思いこみ、変革を主張する勇気を持たない。
○改革案
1.7:1看護基準の病院の活動を複数の指標で評価し、一定以上の活動と社会への貢献を義務付ける。指標として、平均在院日数、全身麻酔件数、救急車搬送数。救急車搬送からの入院数などを設定する。定められた条件がクリアできなければ、7:1看護基準を認めない。
2.市町村国保、後期高齢者医療制度に投入される国費と被用者保険の保険者からの拠出金の総額を都道府県ごとに平準化する。診療報酬1点あたりの値段で調整する。平準化するまでに、時間をかけてよいが、かけるべき年数は最初に決めておく。
3.DPC病院については病床規制を廃止する。
4.DPCの包括部分の点数について、在院日数による傾斜を強める。平均在院日数7日程度を目指すように設定する。
5.看護師、医師の不足している地域での養成数を増やす。多い地域での養成数を減らす。補助金はすべて養成に使う。教育界だけではなく、医療界、あるいは、福祉界も養成する(資料8-1、8-2)。
6.現状の医学部が自力で立ち直れる見込みはない。メディカル・スクールを創設し、従来と異なる主体が、世界基準の医学教育プログラムに基づいて、多様な 背景の学生を教育する。社会の変化を動的にとらえ、不特定多数のために、みずから改革にコミットする勇気を持つ医師を養成する(資料9、14,15)。
○補足説明
注1)神奈川、埼玉、千葉、茨城、静岡、新潟、福島、東北の三陸一帯では医師不足のために、医療サービスが大幅に不足している。しかし、全国医学部長病院 長会議は、「医学部定員の増員があったので医師は足りている」「医学部が新設されて附属病院が建設されると医療人材が引き抜かれるため地域の医療が破壊さ れる」と主張し、競争相手となる医育機関の新設に反対してきた。
医師が足りているかどうかについては、サービスを受ける立場の住民の実情を詳細に認識しなければならない。実情の詳細な認識なしに、医育機関の創設に反対するのは、認識以前に判断があったこと、判断が利害に基づいていることを示すものと理解される。
全国医学部長病院長会議のホームページによると、全国医学部長病院長会議は2013年3月11日、緊急記者会見を開いた。会見で、医学部新設に反対する全 国医学部長病院長会議の声明、国立大学医学部長会議の見解、岩手医大・東北大学・福島県立医大による東北での医学部新設反対の要望書、全国医学部長病院長 会議による被災地支援を示す文書、無題の要望書(資料16)が配布された。全国医学部長病院長会議による被災地支援は、多額の報酬を病院に請求したこと、 医師ごとの派遣期間が短すぎて役立たたなかったこと、自主的な取り組みが見られなかったことなど問題があった。
無題の要望書の内容は以下の5点だった。
1.高度先進医療を開発するための研究環境の充実
2.大学附属病院の機能を強化するための更なる支援
3.医学教育環境の充実と教員数の確保
4.医療安全充実のための支援
5.患者負担や病院負担を増やさない消費税の課税制度
端的にいうと、医学部と附属病院に金を寄こせという要望書である。この文書には全国の医学部長、大学病院院長総勢160名の氏名がつけられており、「緊急 記者会見」が政治的示威行動であることを示している。医育機関新設への反対意見も、大学の利益を主張する示威行動の一環とみなすべきであろう。
メディカル・スクールを設立する場合は、既存の病院を実習病院とする。附属病院を新設しないので、地域の医療機関を破壊することにはならない。逆に、全国から、指導的医師を補強できるという利点がある。
注2)日本医師会の行動については、以下の文書が示すように、開業医の経済的利害がすべての行動の根源にあるとしてよい。(資料17、18)
注3)筆者は、ヘリ搬送事業について、当初より相談を受けており、経緯を知る立場にあった。当事者に近い立場でこの文章を書いた。筆者自身、シビック・ フォースの依頼でいくつかの医療機関に協力を打診した。気仙沼で事業を展開しようということになったのは2012年7月だった。この日、シビック・フォー スが気仙沼市長と小野寺五典議員に事業説明を行い、市の協力を取り付けた。2012年11月、気仙沼市立病院の医師を通じ、東北大学病院救命救急センター 部長と医局長に説明。前向きに検討するとの回答を得た。関係機関との実施に向けての交渉に加えて、気仙沼市の自治会長や仮設住宅住民への事業説明、ヘリの 展示飛行などを行った。2013年6月14日、国土交通省広域地域連携事業に選出され、調査事業として825万円の助成が決定した。東北大学からの要請 で、2013年7月10日、宮城県知事からの要請書を東北大学に提出した。これに対し、7月16日、県知事宛てに受け入れできない旨の回答があった。ヘリ 搬送による被災地からの患者受け入れが、「本院(東北大学病院)が進むべき将来像に沿わない」とすれば、宮城県には、患者の立場に立つ医育機関が必要にな る。既存の医学部のモラルを考慮すると、宮城県で新設が検討されている医学部は、従来の医学部ではなく、メディカル・スクールが適している。
注4)福島県立医大、東北大学では、復興財源の「火事場泥棒的獲得」(資料11、12)にみられるように、被災住民の支援より、予算獲得が優先された。
東北地方のある基幹病院の幹部は、2013年4月、筆者に対し以下のように語った。「震災を機に、東北大学、福島県立医大には、東北メディカル・メガバン ク、福島県立医大放射線研究所が設立された。このため、多額の予算が入り、大学のポストが増えた。中堅が大学に留められて、派遣されなくなった。派遣され るにしても大学の講座に所属したまま派遣されてくる。医師が、地域のために頑張ろうという意識を持ちにくくなった。」
福島県立医大の行動には資料12、13に示すように多くの問題があった。
福島県による被ばく調査ついては、福島県自体が対応に関わる当事者であることから、被害を過小に評価するのではないかとして、応じない県民が多かった。震災後の山下俊一福島県立医大副学長兼放射線健康リスク管理アドバイザーの言動(資料19)も福島県民の反感を招いた。
福島県立医大は、2011年5月26日、学長名で、被災者を対象とした調査・研究を個別に実施してはならないという文書を学内の各所属長宛てに出した。行 政主導で行うからそれに従えとの指示だった。福島県の指示による文書だと推測された。本来なら大議論が始まるはずだが、県立医大内部に、個人の自由闊達な 意見のやり取りが生じた気配がなかった。自ら考える個人の存在が見えなかった。学問は、方法を含めて、何が正しいのか、学問の担い手が自分で考えて提示す る。担い手は、所属施設はあるにしても、基本的に個人である。多様な意見を許容することが、学問の進歩の前提条件である。行政は学問の担い手ではない。別 の論理で動くので、行政が学問を支配すると、行政の都合でデータの隠蔽や歪曲が生じかねない。
筆者は、福島県立医大のある医局が医師を引き上げるが他から採用をしてはならないと病院に圧力をかけ、病院が採用をあきらめざるを得なかった事例(資料 13)について福島県立医大関係者と議論した。この関係者は「こうした事実があったとは思えない、あったとすれば、院内で議論し、謝罪と再発防止、場合に よっては処分が必要だ」と語った。そこで、筆者は、当事者の証言による経緯(資料13)を発表した。病院名と臨床科名も明記した。以後、議論相手は沈黙し たままである。福島県立医大からの反論もなかった。この後、現時点に至るまで、問題が学内で議論されたという形跡はない。
規制改革会議 第10回健康・医療ワーキング・グループ 小松秀樹提出資料(2013年10月9日)の全体を下記においた。
https://docs.google.com/file/d/0BwHE56Q8mRhsdlhQY0JCVUhPSkE/
<資料>
1.規制改革会議 意見陳述
2.病床規制の問題1:千葉県の病床配分と医療危機. http://medg.jp/mt/2012/07/vol5391.html#more
3.病床規制の問題2:厚労省の矛盾. http://medg.jp/mt/2012/07/vol5402.html
4.病床規制の問題3 誘発された看護師引き抜き合戦. http://medg.jp/mt/2012/08/vol5663.html#more
5.医療計画係数 平均在院日数、年齢階級別一般病床退院率.
6.医療計画における基準病床数の算定式と都道府県別将来推計人口を用いた入院需要の推移. 厚生の指標, 59, 7-13, 2012.
7.医療格差. 厚生福祉, 2013年8月27日. http://medg.jp/mt/2013/09/vol222-1.html#more
8-1.看護師養成の背景、意義および主体 千葉県の状況から考える(上). 厚生福祉, 2012年12月21日. http://medg.jp/mt/2013/02/vol32-1.html#more
8-2.看護師養成の背景、意義および主体 千葉県の状況から考える(下). 厚生福祉, 2012年12月28日. http://medg.jp/mt/2013/02/vol33-1.html
9.埼玉県、千葉県、茨城県にメディカル・スクールを. 厚生福祉, 2013年3月15日. http://medg.jp/mt/2013/04/vol84-1.html
10.東北病総第182号 ヘリコプターを用いた搬送患者の受入について(回答) http://expres.umin.jp/mric/mric.vol245.doc
11.東北メディカル・メガバンク構想の倫理的欠陥. http://medg.jp/mt/2011/09/vol268.html#more
12.福島県の横暴、福島県立医大の悲劇. http://medg.jp/mt/2011/09/vol277.html
13.医師参入障壁としての医局 医師を引き揚げるが、他から採用することは許さない. http://medg.jp/mt/2012/01/vol368.html
14.メディカル・スクールの認証基準について1、2 http://medg.jp/mt/2013/03/vol56-12.html http://medg.jp/mt/2013/03/vol57-22.html#more
15.成長戦略としてのメディカル・スクール
16-1:無題の要望書 http://www.ajmc.umin.jp/25.3.11seiken2-1.pdf
16-2:会員名 http://www.ajmc.umin.jp/25.3.11%20seiken-2.pdf
17:悪役としての日本医師会 http://medg.jp/mt/2013/01/vol28-12.html http://medg.jp/mt/2013/01/vol29-22.html#more
18:だいじょうぶか安房医師会:、無料低額診療に反対する理由がひどい
http://medg.jp/mt/2012/10/vol63312.html#more http://medg.jp/mt/2012/10/vol63422.html#more
19:無理です山下さん、やめてください福島県 http://medg.jp/mt/2011/11/vol318-12.html http://medg.jp/mt/2011/11/vol319-22.html
<文献>
1.細谷圭、林之成、今野広紀、鴇田忠彦:ミクロデータに基づく特定疾病に関する分析.文部科学省科学研究費補助金特定領域研究B世代間利害調整プロジェクト. 2001.
(2013年10月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会)