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寄附講座中毒 浜通りの医療の置かれた状況3/3

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IV  東北大学、福島県立医大は復興予算に群がった 火事場泥棒に等しい

東北メディカル・メガバンク構想の倫理的欠陥 (MRIC by 医療ガバナンス学会. メールマガジン;Vol.268, 2011年9月13日)
東北大学は莫大な費用を要するメディカル・メガバンク構想を打ち出した。
1 ヒトの遺伝子情報を集積する研究センター:利益を受けるのは大企業である。被災者にメリットはない。
2 医療情報の電子化とネットワーク化:利益を受けるのはIT企業である。被災者にメリットはない。
3 メディカル・メガバンクの医師を被災地域の病院に派遣:逆に地域から医師を奪う。

私は、復興予算の使用を正当化するための4条件を提示した。復興予算を使うことを正当化するには、いずれかを満たす必要がある。

(1)地元の被災者の生活の維持と再建に直結すること
(2)被災者の雇用に直結すること
(3)被災者を多数雇用する地元企業にお金が落ちること
(4)被災地を後にした被災者の再就職と生活再建に直結すること

東北メディカル・メガバンク構想は上記のいずれにも該当していない。

福島県の横暴、福島県立医大の悲劇(MRIC by 医療ガバナンス学会. メールマガジン;Vol.277, 2011年9月27日)
福島県立医大も復興と無関係な計画に莫大な費用を要求した。

1 医療施設の拡充 放射線医学研究センター:復興予算で病院施設の拡充を図った。
2 抗がん剤の創薬センター:創薬の下地なし。抗がん剤の開発は難しい。大学だけでは無理である。世界のメガファーマが福島県立医大と協力関係を結ぶとは思えない。

計画は、正当化4条件のいずれにも該当していない。文章を以下の文言で締めくくった。
「国は、復興予算を、増税でまかなおうとしています。すべての国民が、自らを犠牲にして、被災者を助けようとするものです。福島県・福島県立医大の計画には、復興予算の基本である被災者への同情と奉仕の精神が欠如しています。税金を使うことについて、公共心と自制心が欠如しています。実施されれば、福島県立医大の将来を奪います。赤字で病院運営に支障が出ることが問題なのではありません。誇りを捨ててしまうことが問題なのです。大学も人間同様、誇りがないと未来を切り開けません。」

V  今後の浜通りの医療を考える

東北地方のある病院長の話
「大学医局は、他から1人採ると、派遣を1人切ってくる。あるいは、他から採用しようとすると、派遣をすべて切ると言ってくる。教授が強いリーダーシップを持っているところは、派遣が継続されるが、医局員の意見を聞くところは、派遣が継続されない。震災を機に、東北大学、福島県立医大には、東北メディカル・メガバンク、福島県立医大放射線研究所が設立された。このため、多額の予算が入り、大学のポストが増えた。中堅が大学に留められて、派遣されなくなった。派遣されるにしても大学の講座に所属したまま派遣されてくる。医師が、地域のために頑張ろうという意識を持ちにくくなった。国による強制配置で医師を派遣してほしい。」

医師の強制配置について
そもそも憲法上、強制配置は不可能である。東北メディカル・メガバンク、寄附講座からの派遣と同様、強制配置だと医師は地域を大切にしなくなる。強制配置になれば努力しない病院がそのまま残る。自助努力の足りない病院は、いずれ、赤字が膨らむ。朝日新聞の報道によると、393床の市立病院が破綻した銚子市は、2017年に財政再建団体になると予想されている。国が、日本中の病院に医師を強制配置するようなことになれば、医療提供体制は今よりはるかにひどいものにしかならない。国に医療提供を適切に調整する能力はない。それぞれの病院が努力をする必要がある。旧共産圏の失敗は、人間が一国の需要と供給をコントロールする能力がないことを示している。

磐城共立病院の医師確保策はどうなるか
外部支配から自立しようという意志が見て取れない。行政の姿勢もあり、今後も特定大学に医師派遣を要請し続けるだろう。特定大学との関係を強くすると、これが医師参入障壁となり、全国的に医師募集をしても医師を集められない。大学に頼っても、大学自体に医師が不足しているので、派遣医師は減少し続ける。派遣されるとしても寄附講座からの派遣が増える。新病院建設を機に病院を支えてきた医師の離職が増える可能性がある。これは関東地方のある大病院で実際に起きたことである。このままでは、一旦、病院が破綻する可能性が高い。ただし、医療は一般人が思っているほど役に立っていないので、大げさに考える必要はない。救急医療で助けられる命は多いものではない。ましてや、救急車で搬送可能な病院なら助けられ、ヘリ搬送だと手遅れになるという状況は、めったにあることではない。磐城共立病院の現在の医師数で、本格的3次救急を運用するのは無理である。助けられるかどうかギリギリの患者を医師不足の病院に運ぶぐらいなら、専門家の揃った施設にヘリで運ぶ方がよい。当面、ドクターヘリを拡充することに徹して、中長期的対策として、医師、看護師の養成を考える方が効果的である。病院の破綻を利用するぐらいの覚悟と戦略が必要である。

浜通りの住民が心得ておくべき認識
この地域は、外部からは、自立した個人を基本とする近代合理主義が定着していると思われていない。これが、本格派の人たちに、この地域に関与するのを躊躇させている可能性がある。いわき市の人口と財政規模でも単独でフル装備の基幹病院を維持するのは難しい。自治体は、病院を経営できる能力を原理的に持てない。日本全体で財政赤字が膨れ上がっている。自助努力の足りない自治体病院はいずれ存続できなくなる。自治体は倒産できないし、民事再生もできない。財政再建団体になると立ち直れない。病院民営化の可能性を常に考えて行動しなければならない。将来の民営化の障害になるような行動をとってはならない。

少子化と財政赤字
少子化で多くの自治体の消滅が危惧されている。生き残る自治体を決めるのは政府ではない。個々の自治体の努力である。お上頼み、横並びの時代は終わらざるを得ない。自治体間の競争が必然的に生じる。今後、自治体が独自の戦略を持てるかどうかが重要になる。このシンポジウムでも、外部にいわき市への支援を求める姿勢が目につく。いわき市は同じ福島県の金山町や昭和村、亀田総合病院のある安房地域よりはるかに恵まれていることを自覚すべきである。

浜通りの医療問題の解決策:大学卒業生を対象とした4年制メディカル・スクールの創設
既存の病院を教育病院とする。日本医師会は、医学部附属病院が医療従事者を周囲から奪うという理由で、医学部新設に反対しているが、メディカル・スクールは附属病院を新設しない。教育病院は全国から教授として医師を集める。卒業生の輩出を待たずに強化される。
メディカル・スクールの創設により、医学教育が変革される。従来の医学部は不祥事続きで世界の信用を失った。医学教育プログラムを複線にして競争的環境に置くことが、日本の医学教育のしなやかさ、強靭さ、有用性を高めることにつながる。
新たに附属病院を建設する必要がない。体育館、グラウンド、一般教養のための教員のいずれも不要である。50億円程度で設立できるのではないか。臨床系の教授の給与は病院が支払うので、膨大な経常経費を必要としない。

国家戦略特区における新たな措置に係る提案募集(平成26年7月18日~8月29日内閣官房地域活性化統合事務局)
今回は民間からも提案可能だった。学校法人鉄蕉館、医療法人鉄蕉会は、メディカル・スクールの創設を提案した。当面は議論の段階である。千葉県、茨城県、福島県の太平洋側は日本最悪の医療崩壊地帯である。この地域の大病院を教育病院にして強化したい。いわき市とも協力したい。メディカル・スクールは実現しやすいところ優先で進めればよい。

2014年9月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会

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