問われる欧州の統合と陸海勢力の角逐 矢野義昭
ギリシアの国民投票結果は、大きなニュースになっている。予期されたとはいえ、反対派が勝利したことで、やはりEU統合の将来に疑念が広がるのではないだろうか。ウクライナ問題をめぐり、古い欧州と新しい欧州の対立が深まっているが、今回の動きで、豊かな欧州と貧しい欧州と言う対立軸もますます強まり、欧州の分裂が進むであろう。
ギリシアに中国の資本が入り、中国は、今後ギリシアの港湾利権その他の取り込みだけではなく、ギリシアを突破口とする欧州、特にドイツへの接近を強めると思われる。中国の「一帯一路」の陸海路の終着点はドイツである。ドイツも援助疲れで、重荷になっている国を中国が支援するとすれば、中国との関係を改善せざるを得なくなるであろう。
ギリシアの左派政権は、欧州との統合よりもロシアと中国への接近を強め、中国が提唱する「一帯一路」の地中海の入り口として地位を固めることを対外戦略の中心に据える方向に舵を切るかもしれない。
米国には、中国の欧州への浸透を単独で食い止める財政力はない。フランスは米英とドイツの中間的な立場だが、まとめ切れないと思われる。中心国を失った欧州は、しだいに求心力を失っていくのではないだろうか。
全般的には、欧州は大陸勢力の浸透とそれを阻止しようとする海洋勢力の角逐の場となり、分裂方向に向かい、各国内では、移民問題の深刻化も相まって、ナショナリズムが強まる方向に向かうであろう。
これからは、欧州内部の統合が維持されるかどうかのみではなく、中露など大陸勢力が、巨大な半島に多数の国家がひしめき合う欧州に、その支配力をどこまで浸透させられるかも重大な着目点になる。
それに対して、海洋勢力の覇者である米国とその同盟国の英国がどう対応するのか、また、独仏を中心とする欧州諸国が大陸国家群と海洋国家群のいずれに接近を図るかが、欧州全体の今後の方向性を決めることになるであろう。
平成27年7月6日 矢野義昭